映画『モアナと伝説の海2』の劇場公開により、美しいポリネシアの島々を舞台に繰り広げられる新たな冒険への期待感が高まっている。楽しいアニメを通してオセアニアの文化を見事に描き出したことで評判となった前作『モアナと伝説の海』は2部門でアカデミー賞候補となり、世界興行収入は5億ドル(約750億円)を超えた。
物語の鍵となるのは、心優しくユーモアにあふれ、印象的な声の持ち主でもある半神半人の「マウイ」だ。フィジー、タヒチ、サモアなど太平洋諸島の専門家たちの意見を取り入れて作り出されたこのキャラクターのルーツは、ポリネシアの神話と民間伝承に伝わる同名の英雄にある。
マウイ自慢のタトゥーからは、それが太平洋諸島のどこで彫られたものなのか、デザインの意味、リーダーと共同体との結び付きなどについて分かるという。(参考記事:「人類は石器時代からタトゥーを入れていた、ミイラで知るその歴史」)
マウイとは?
マウイに関してはさまざまな伝承があるが、共通しているのはデミゴッド(半神半人)であることと、島を釣り上げたなどといった武勇伝だ。とはいえ「各々の島には少しずつ違う話が伝わっています」と、ハワイのオアフ島でタトゥーイスト(刺青師)として活動するトンガ人のスア・スルアペ・トエトゥウさんは言う。
最も有名なマウイの武勇伝の1つは、太陽の動きを遅くしたという話だろう。魔法の縄で太陽を捕まえ、人々が働けるよう昼の時間を長くさせたのだ。『モアナと伝説の海』の中でマウイが歌う「俺のおかげさ」にも、この伝説が含まれている。
トンガの文化では、マウイは人々の不運や問題を解決してくれると信じられている。「トンガの人々にとってマウイは民衆に寄り添う労働者階級の英雄です」とトエトゥウ氏は言う。
さらにニュージーランドの先住民マオリに伝わる伝説によると、マウイは兄弟と一緒に、現在のニュージーランドの南島(マオリ語でテ・ワヒポウナム)にあたる場所でカヌーに乗り、釣りをしていた。祖母のあごの骨から作った釣り針でマウイは大魚を釣り上げ、それが現在の北島(マオリ語でテ・イカ・ア・マウイ)だという。(参考記事:「ニュージーランドが川に「法的な人格」を認めた理由」)
ハワイでは、兄弟と釣りに出かけたマウイは、魔法の釣り針でハワイ諸島を釣り上げたと伝わっている。「トンガ、サモア、ハワイ、タヒチと住む島は違っていても、私たちは1つの民族なのです」と、トエトゥウ氏は言う。「子どもたちには繰り返しマウイの話をします。私たちにとってマウイは実在するのです」
マウイのタトゥー
2011年、米ウォルト・ディズニー・カンパニーの監督であるジョン・マスカー氏とロン・クレメンツ氏は、『モアナと伝説の海』のためにポリネシアを旅し、調査した。そのときの調査旅行は歴史家、人類学者、言語学者、文化的実践に携わる人々からなる「オセアニック・トラスト」の設立へとつながり、彼らは映画の詳細を決める上で多くの助言をした。
メンバーだったタトゥー・アーティストの巨匠スア・ピーター・スルアペ氏と人類学者のディオンヌ・フォノティ氏は、映画に登場するタタウ(サモア語でタトゥーという意味)を正しくデザインするのに中心的な役割を果たしている。
サモアには先祖代々タトゥーの彫り師を生業とする家が2軒残っているが、スア氏はその1軒の出身だ。「その技法はベールに包まれ、決して明かされることはありません」と、フォノティ氏は言う。タタウは神聖なものであり、ほんの一握りの者だけに知識が伝えられるのだ。
「サモア人が見た時にサモアのものだと分かる特徴を入れたいと思いました」とフォノティ氏は言う。「今日のタトゥーがどのようなものかは分かっていますが、何千年も前はどうだったのでしょうか?」
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