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ヤスパー・ドゥースト氏が撮影したこの写真には、ルーマニアの森で、ヒグマの母子がくつろいでいる様子が写っている。一見すると可愛らしさを感じさせるが、背後には複雑な事情が隠れている。後ろ脚を失った母グマは狩りができず、通りかかる車から餌をもらおうとする。その結果、この家族は危険なほど道路に近づいてしまう。(2024年11月号「野生を取り戻すヨーロッパ」より)(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)

ナショナル ジオグラフィックが掲載したベスト動物写真 2024年版

2024.12.07

 オオカバマダラのような渡りをする生き物の本質を捉えるには、写真家も移動しなければならない。

 写真家であり、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探究者)でもあるハイメ・ロホ氏は、北米大陸を縦断するオオカバマダラの数世代にわたる壮大な旅を20年近く追い続けている。

 ロホ氏は、メキシコのミチョアカン州にあるオオカバマダラ生物圏保護区で、オヤメルモミの木に群がるオオカバマダラと共に寒さに震え、オオカバマダラが米テキサス州やオクラホマ州、カンザス州、アイオワ州、ミネソタ州を北上するときには、共に太陽の暑さにやられた。

メキシコ中部ミチョアカン州のオオカバマダラ生物圏保護区内にあるエル・ロサリオ保護区で、木々の間を飛び回るオオカバマダラ。(2024年1月号「<u><a href="/atcl/news/23/121800638/" target="_blank">旅するチョウを守る</a></u>」より)(PHOTOGRAPH BY JAIME ROJO)
メキシコ中部ミチョアカン州のオオカバマダラ生物圏保護区内にあるエル・ロサリオ保護区で、木々の間を飛び回るオオカバマダラ。(2024年1月号「旅するチョウを守る」より)(PHOTOGRAPH BY JAIME ROJO)

 青空を背景に木々の間を飛び回るオオカバマダラを捉えたロホ氏の写真は、見る者に畏敬の念を起こさせる。見事な眺めに目をそらせず、空を見上げ続けたときに首が痛くなる感覚を呼び起こすほどだ。この写真は、2024年1月号の特集「旅するチョウを守る」に掲載された。

 2024年のべスト動物写真を選んだ写真編集長のアレクサ・キーフは、写真家たちがベストショットを撮るためにかけた時間と献身の大きさに何度も感銘を受けた。

 例えば、マイケル・フォースバーグ氏が、米ネブラスカ州の湿地で夜を明かすアメリカシロヅルを撮影した写真について、「フォースバーグ氏は何時間も、時には何日も、撮影の瞬間を待ちながら隠れる場所で観察を続けました」と、キーフは指摘する。

 同様に、2024年10月のまるごと一冊「アマゾン」号のすべての特集を制作するために、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるトマス・ペシャック氏は、396日もの時間をアマゾンで費やし、水生生態系の壮大さを撮影した。

 ジェニファー・ヘイズ氏のタテゴトアザラシや、アケーシャ・ジョンソン氏のヒグマなど、エントリーした写真の多くは何年もの膨大な積み重ねがあってこその作品だ。

 季節が移り変わり、北半球が冬に向かう中、それぞれの写真はちょっとした暖かさと驚きを感じさせてくれる。そして、いかに多くの野生動物が生きていて、それらを守るためにさまざまな活動が行われていることを思い出させてくれる。

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