動物たちを守りたい! 写真家である自分にできることは何か? そんな思いから18年前、一人の写真家がささやかな一歩を踏み出した。ナショナル ジオグラフィックで長く活躍する写真家ジョエル・サートレイが2006年に立ち上げた、絶滅から動物を守る撮影プロジェクト「PHOTO ARK(フォト・アーク)」だ。
それは、人間の飼育下にある生き物約2万種すべてを1人で撮影するという壮大な計画。2023年12月には、1万5000種目となるマイアミタイガービートルを撮り終えた。
2024年1月に日経ナショナル ジオグラフィックより発売された写真集『PHOTO ARK 生命の賛歌』は、その成果の一つだ。『動物の箱舟』『鳥の箱舟』『消えゆく動物』に続く4冊目の著作となる。 世界中の動物園や保護施設で精力的に撮影を続け、久しぶりに米国ネブラスカ州の自宅に戻ったサートレイにインタビューを行い、PHOTO ARKプロジェクトにかける思いや、昨年、初来日して訪れた動物園や水族館について話を聞いた(書籍編集部)。
――PHOTO ARKがスタートして18年目になりますが、撮影する種の数がプロジェクト開始当初の1万2000種から2万種に大きく増えています。これはなぜでしょうか? これからも増えていきそうですか?
現時点で、1万5750種の撮影を終えていますが、まだ道半ばです。私たちが活動を開始した当初は、世界の動物園や水族館に生息している種を数えて1万2000種になると考えていましたが、今では動物園の数も増えており、世界各地にプロデューサーやスカウトがいて、ネットワークも充実してきました。
おそらく今後10年から15年の間に、2万5000種から3万種まで増えると予想しています。
――撮影する種の数が増える=絶滅の恐れがある種が増えている、というわけではないのですね?
必ずしも、絶滅危惧種が増えているということではありません。PHOTO ARKでは絶滅の危機にある生き物や珍しい生き物だけでなく一般的な種も撮影しているので、数が増えます。
とはいえ、動物園で飼育する種を野生から連れてくることや、飼育下での繁殖が難しくなっているという状況があり、今後10年から15年の間に、世界の動物園は減少していくとも考えています。ですから、正確な数はわかりません。最終的な種の数を特定するのは難しいのです。
――PHOTO ARKは、当初プロジェクトの期間を25年と設定していました。あと7年では終わらなさそうです。このプロジェクトに「終わり」はあるのでしょうか?
はっきりとした「終わり」はないかもしれないですね。私たちは、生物多様性が今どのような状況にあるのかを世界に示し、絶滅や種の保存、彼らの生息地について、一般の人たちに関心を持ってもらいたいと思っており、そのために撮影に赴く先はどんどん広がっています。動物園や水族館はもちろんのこと、野生動物保護区や野生動物のリハビリ病院、個人のブリーダー……というように。研究者のフィールドワークに同行することもあります。
――優秀な撮影チームが支えてくれているのでしょうか?
『生命の賛歌』の冒頭にも書きましたが、撮影チームに加え、私の子どもたちも手伝ってくれています。末息子のスペンサーは渋々ですが(笑)。ヨーロッパで撮影の合間に様々な名所を訪れたのに、スペンサーは「毎晩くたくたになってベッドに潜り込んだ瞬間がいちばんの思い出だ」と言います……(笑)上の息子コールは私の海外の撮影すべてに同行し、照明や動画撮影などを請け負ってくれており、今後も大きな助けになってくれるでしょう。
ナショナル ジオグラフィック協会をはじめ、世界中の勤勉なスタッフや動物園関係者、本を購入してくれる読者のサポートも大きいです。
おすすめ関連書籍
絶滅から動物を守る撮影プロジェクト
写真の力で動物たちを救うため、世界の動物園・保護施設で飼育されている生物をすべて一人で撮影する「フォト・アーク」プロジェクト、写真集第4弾。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:3,960円(税込)