古代の水辺には「死体」がつきもの?
これまで、川や湖といった水域から人骨が発見される例は世界各地で知られていました。
特にヨーロッパでは、泥炭地で発見される「湿地遺体(Bog body)」と呼ばれるミイラ化した遺体が有名です。
これらは遺体が湿地の泥に包まれて密閉されることで、微生物による分解が防がれ、皮膚や内臓が驚くほど良好な状態で保存されます。
一方で、湿地遺体の中にはその保存状態の良さから、首を絞められたり、刃物で刺されたり、頭部を強打されたりといった暴力の証拠をはっきりと留めているものがあります。
これらは古代の人々が何らかの理由で人間を犠牲にし、それを湿地に沈めていた可能性を示唆するものと指摘されてきました。
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そしてロンドンを流れるテムズ川でも人間の遺骨が多数見つかってきた歴史があります。
最初は19世紀頃に川の浚渫(しゅんせつ:水底の土砂やヘドロを取り除く土木工事)や建設作業の際に人骨が見つかるようになりました。
さらに20世紀も後半になると、考古学者たちが川底の遺物の調査を進める中で、大量の人骨が回収されるようになったのです。
なぜこれほど多くの人骨がテムズ川にあるのかはいまだによくわかっていません。
初期の研究では、これらの骨は戦争の犠牲者や水難事故によるものと考えられていました。
例えば、古代のローマ人とケルト人の戦闘で死亡した戦士が川に投げ込まれた可能性が指摘されています。
また近世に至るまで、ロンドンの人口密度の高さや疫病によって亡くなった人々の遺体が川に流されたという説もありました。
しかし人骨の年代がよくわかっていなかったため、これらの仮説も詳しく検討できずにいました。
そこで研究チームは今回、テムズ川で回収された人骨の年代測定をし、いつ頃の遺体なのかを調査したのです。