避難時に「同調バイアス」はプラスに働く?
近年、豪雨や台風、地震などの災害時に、自治体が避難指示を出しても住民の避難行動につながらず、逃げ遅れて被害が拡大するケースが数多く報告されています。
こうした逃げ遅れについては、災害の深刻さや避難にかかる時間や労力の見通しに、先入観によって合理的な判断を誤る「認知バイアス」が関与している可能性が指摘されていました。
特に、日本人によく見られるのが「同調バイアス」です。
同調バイアスとは、集団の中にいると知らず知らずのうちに他人と同じ行動を取ってしまう心理状態のことを指します。
同調バイアスは、日常生活では他者との協調性につながる良い面もありますが、災害時には周囲の人の様子を窺っているうちに逃げ遅れる原因にもなってしまいます。
しかし反対に、周囲に率先して避難行動を取る人がいれば、より多くの人を速やかに避難させられる可能性もあるのです。
そこで研究チームは、自然災害時に同調バイアス(他者の避難状況についての情報)を用いることで、避難行動を促進できるかどうかを調査しました。
「もうみんな逃げてますよ!」で避難意識が高まる
実験では20名の参加者を対象に、災害時に自治体などから発信されるエリアメールに模した文章をスクリーン上で提示します。
たとえば、「土砂災害境界情報が発令されました。土砂災害の恐れがある地域にお住まいの方は避難を開始してください」といったものです。
そのメールに続いて、土砂崩れや洪水など災害状況を示す景観画像を提示します。
このとき画像は、3段階の危険度(高・中・低)それぞれ30枚、計90枚の中から1枚を選んで見せています。
参加者には「画像の危険度」とその状況を目にした場合の「避難の必要性」について7段階で評価してもらいました。
さらに、実験において提示する文章には「他者の避難の状況についての情報」を加えています。
たとえば、同調バイアスの高いものでは「対象地域のほとんどがすでに避難をしています」という一文を、同調バイアスが少し下がるものでは「対象地域の方がすでに避難をしています」という一文を、そして同調バイアスのないものでは「避難所がすでに開設されています」という一文を追加しました。
参加者はこれを踏まえた上で、画像状況の危険度やそこから避難する必要性を評価します。
その結果、災害状況の危険度が低いか中程度の場合、「ほとんどの人がすでに避難している」という同調バイアスが高いと、参加者は景観画像の危険度と避難の必要性をより高く評価することが判明しました。
要するに、目の前の状況がそれほど危険でなくても、他の多くの人が避難を開始していると、「ヤバい、自分も早く避難しなきゃ!」という心理が働いていたのです。
それから、個人の防災意識に関する項目ならびに被災経験も併せて分析してみました。
すると、参加者の「災害への関心」「被災状況に対する想像力」「他者指向性(他者のために積極的に行動すること)」が強いほど、同調バイアスによる影響を受けて避難の必要性を高く判断しやすくなることが分かっています。
以上の結果から、災害時に発信されるエリアメールに「他者の避難に関する情報」を含めることで、避難の必要性の判断を促進できる可能性が示されました。
まさにジョークから出た真、と呼ぶべき話ですが実際日本の災害時に多くの人の命を守るには「もうみんな避難してますよ!」と呼びかけることがいいのかもしれません。