出陣
身支度をして、王宮にむかう。この前の演説の時と同様、華美にならないような服を選んで着た。
さて、今日は王宮にてお父様へ今回の事態を問う査問会が開催される。…貴族社会に大きな影響を齎す重大案件だからこそ、当人ではなく当主であり私の監督責任を持つお父様に説明を求めるのだ。要するに、部下がやらかして、その上司に“何をしているんだ!説明をしろ”とボスが言っているというような場面。
私の進退が決まる場…良くて勘当からの幽閉…最悪投獄や極刑すら下手を打てばありえる今回の査問会では、関係者は勿論、聴者として参加できる貴族からもかなりの人数が見にくるだろうというのが大方の予想。
私は僅かな護衛…いつもの通りライルとディダなのだが…2人を連れて登城した。
既に人々は集まっている。…というのも今回、実は私は正式には招待されていない。謹慎している私を堂々とは呼べないので、私は王太后様から内々的に了承をいただいたのだ。
そのため、人の目を避けるように予め王太后様から指定されたルートを通って歩く。気分は不法侵入者だ。…強ち間違いではないけれども。
「……アルメニア公爵。娘の監督もできぬような身で、我が王国の監督なんて荷が重いのではないかしら?」
声が聞こえてきた。…この声は、第ニ妃のエルリア様だ。宰相職を辞めるべきだと示唆する言葉…ここぞとばかりに、お父様を責めているということかしら。
「そうですな。此度の事は、我が国にとっても恥ずべき大事。その責を、令嬢一人で賄えるものなのでしょうか」
「宰相職はもとより、家の断絶というのも…」
エルリア様側の貴族から、そんな言葉が彼方此方から噴出し始める。やがて、その空気に飲まれるように他の貴族からも“確かに”というような言葉が漏れ始めていた。
「……私は、アレを監督したことなどありません」
お父様の低い声が、その騒めく場を切る。
「監督をしていないから、罪を負わないと?とんだ責任逃れではありませんか?」
けれども、その内容にエルリア様は鼻で笑った。
「お聞きになったでしょう?宰相職はもとより、アルメニア家が公爵家として存続し、あの領地を治めることすら、問うべきであるという意見があることを。それ程の大事、そのような言で責任から逃れられると思うのですか」
エルリア様が高らかに宣言された。…つまり、ウチからあの領地を取り上げたい…と。貴族の方々も、成長を続けるあの領地を合法的に手に入れる事ができるのであれば、それ程美味しいことはないものねえ。特に隣の領地を治める人なんかは、エルリア様側に付けば立地からして貰える可能性が高いと舞い上がっても仕方ないかも。現に一生懸命、今もそうだそうだと言っているし。
再び騒がしくなった場で、お父様はジロリと周りを一瞥した。その冷たい視線に、周りは一瞬呑まれて静かになる。
「……責任逃れなどでは、ありません。私は、アレを監督をしたことなどない…それはつまり、監督なんぞしなくても、アレは必要な事を…貴族として正しい事をすると信用していたからだ。そして宰相職についてこの方、私はその手の事で見誤った事はない」
「……ありがとうございます、お父様」
言い切ったお父様に、私は思わずその場で小声で呟く。今の言葉が、私に勇気をくれた。この場に入っていく勇気を。
緊張で震える手を抑え、出る…とは言え、さっきまでいたところは謁見室を見る事ができる所謂隠し部屋なので、直通では出られない。
再びその場から少し複雑な道を通って、謁見室の扉の前まで来た。
私に気づいた謁見室の扉を守る衛兵達が、“お待ちください”と慌てたが、王太后様からの手紙を見せて黙らせる。
そして、そのまま扉を開けさせた。
本当に申し訳ないです。ご指摘にありました通り、投稿ミスをして途中で切れていました…!!投稿し直しましたので、一回見られた方は此方からご覧ください。