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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、海に行く
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96 クマさん、クリフに会いに行く

 領主の館に着くと、顔見知りの門番にクリフに会いたいことを伝える。

 すぐに部屋に通され、クリフと会うことができた。

 暇なのかな?


「ノアじゃなくて、俺に用とは珍しいな」

「頼まれごとがあってね」


 わたしはお爺さんから預かった手紙を渡す。

 受け取ったクリフはその場で手紙に目を通す。

 そして、手紙を読み終わると、ため息を吐く。


「おまえは何をやっているんだ。クラーケンを一人で倒すとか、有り得ないだろ」

「わたしが倒したことが書かれているの?」


 アトラさんに口止めしたのに。


「書かれていないが、一人の冒険者によって倒されたって書かれていれば、おまえのことを知ってるなら、誰だっておまえだと思うわ!」


 呆れたように言われる。

 確かに、1万の魔物を倒し、ワームを倒したことを知っているクリフなら気づかれても仕方ない。

 でも、お爺さんも、もう少し隠した書き方はなかったのかな?


「わたしだって好きで討伐したわけじゃないよ。わたしの進む道にクラーケンがいて、邪魔をしたのよ」


 進む道=お米を手に入れる。


「我が道を進むって、おまえは、どこの覇王だよ。世界征服でもするのか?」

「そんな面倒なことしないよ」

「できないとは言わないんだな」

「できないわよ」


 するつもりもない。

 世界征服したって何が楽しいんだか。

 そんな面倒なことするなら、昼寝でもしてた方がいい。


「まあ、今はユナの事よりも、手紙の内容だな」

「手紙には、なんて書いてあったの?」


 ある程度は知らされているが、手紙にどのようなことが書かれているかは聞いていない。


「要約すれば、この1ヶ月ほどの出来事と、税を払うから国の傘下に入れてほしいってことだな。お前さんがこの町で何をしたのかが目に浮かんでくるよ」


 遠い目をしながらそんなことを言い始める。


「そんなに、わたしのことが書かれているの?」

「1人の冒険者が食料を寄付をしてくれたので助かったとか、1人の冒険者と4人の冒険者が盗賊団を倒して、捕まっていた人を救い出したとか。1人の冒険者がクラーケンを倒して、食糧難から抜け出したとかだな。一応、おまえさんの名前は一切出ていないから大丈夫だ」


 それのどこが大丈夫なの?

 でも、わたしのことを知らない人が手紙を読んでもわたしとは思わないけど。クリフぐらい、わたしのことを知っていれば、気づかれるよね?


「まあ、おまえさんのことは、横に置いて、問題はどうやって話し合いを持つかだな。話すには会わないといけないだろう。でも、町には町長もいない。現在、町を纏めているのは老人が三人と補佐役で冒険者ギルドのギルマス。年寄りをここに呼び寄せるのも酷なことだろ」

「クリフ、暇なんでしょう。町まで行ってあげればいいじゃない」

「おまえな、俺はこれでも、領主なんだぞ。仕事だってある。街を何日も離れるわけにはいかない」

「町まで、半日で行けるよ」


 その、わたしの言葉にクリフは、


「……医者を呼ばないといけないな」


 と真面目な顔で言う。


「熱ならないよ」

「行けるわけ無いだろう。どうやったら、半日で山脈の反対側にある町に行けるんだ。空でも飛ぶのか?」


 クリフは人を小馬鹿にするように、鳥が羽ばたきする真似をする。


「空は飛ばないけど、トンネルを作ったから」

「……………………はぁ?」


 鳥の動作を止めるクリフ。


「すまない。もう一度、言ってくれないか」

「トンネルを掘ったから、くまゆるなら半日で行けるよ」


 こめかみを押さえるクリフ。


「嘘を言っているわけじゃ、ないんだよな? …………おまえさんなら、有り得るのか? あの、山脈にトンネルを作った。しかも、この数日の間に…………」

 

 正確には1日だけど。


「本当に作ったのか」

「作ったよ。魚介類の流通路を作りたかったから」

「お前さんの存在が非常識だと思っていたが、ここまで非常識だと思わなかった」

「だから、くまゆるなら町まで半日で行けるよ。でも、お爺さんたちを連れてくるなら、その場合、馬車を使うから、時間はかかるけど」

「いや、町を見たいから俺が行く」


 決断が早い。

 ウジウジと悩まれるよりもいいけど。


「それにおまえさんが作ったトンネルも確認しないといけないしな」


 確認って、テストの採点をされるようで嫌なんだけど。


「それじゃ、いつ、出発する?」

「明日中に急ぎの仕事は終わらせる。それと、商業ギルドにも連絡をしないといけないからな。出発は明後日だな」

「商業ギルド?」

「手紙によると商業ギルドのギルマスが犯罪を起こしたみたいだからな。話を通さないと駄目だろう。できればギルマスも連れていきたいが、おまえさんのクマは何人まで乗れるんだ」

「普通の大人なら2人かな。冒険者ギルドのマスターなら一人だけど」


 筋肉の塊は一人でも、くまゆるたちに乗せるのは可哀想だ。


「なら、大丈夫だ。商業ギルドのギルマスは女だからな。悪いが、もし、ギルマスが連れていってほしいと言ったら頼めるか?」

「いいよ」


 いつまでも、商業ギルドをあの状態にしておくわけにはいかないだろうし。ギルマスの処罰も決まっていない。そうなると、来てもらうのはミリーラの町としても助かるはず。


「なら、明後日、お前さんの家に行く」


 クリフと約束をして、廊下に出るとノアが駆け寄ってくるところだった。


「ユナさん。来たのなら、わたしを呼んでください」

「今日はクリフに用があったからね」

「その用は終わったのですか?」

「今日のところはね」

「なら、時間はありますよね」


 可愛らしい笑顔でわたしを誘うが、ノアの後ろにいる人が笑顔でこちらを見ている。でも、なぜか、その笑顔に恐怖心を感じる。


「いいの? さっきから、笑顔でこっちを見ている執事さんがいるけど」


 後ろを見て、青ざめるノア。

 やっぱり、ノアもあの笑顔の下の顔に気付いたようだ。


「ノアール様、まだ、勉強の途中ですよ」

「もう、疲れた。休憩が欲しい。クマ成分を補充したい」


 なによ。そのクマ成分って、初めて聞く成分よ。

 もし、そんな成分があるなら、地球の学会で発表すれば、ノーベル賞ものだ。

 駄々をこねるノアを見て執事さんは、小さく溜め息を吐く。


「わかりました。少しだけですよ。ユナ様、少しだけノアール様のお相手をお願いできますか?」

「いいけど」

「では、お願いします。わたしは飲み物の用意をしてきますので」


 執事さんは頭を下げて、この場から離れる。


「それじゃ、ユナさん。わたしの部屋に行きましょう」


 クマさんパペットの手を引っ張っていく。


「それで、ユナさんはどこに行っていたのですか?」

「エレゼント山脈を越えた先にある海だけど」

「あの山を越えたんですか?」

「くまゆるたちがいるからね」

「くまさんたち、凄いです。それにしても、海ですか。いいな。わたしも行ってみたいです」

「それじゃ、暖かくなったら行こうか」

「行きたいですが、遠出はお父様が許してくれません」

「大丈夫よ。近くなるから」

「…………?」


 ノアは首を小さく傾げる。

 トンネルのことはまだ話せないので言葉を濁しておく。


「そのときは、わたしが説得してあげるから」

「本当ですか? 約束ですよ。それで、ユナさん。お願いがあるんですが」


 恥ずかしそうに上目遣いで見てくる。

 女のわたしから見ても可愛い仕草だ。

 もし、ロリコン男子だったら、お願いを聞くんだろうな。

 まあ、お願いの内容が予想出来るわたしは、お願いを聞くんだけど。


「くまさんをお願いしていいですか?」


 予想通りのお願い。さっきもクマ成分とか言っていたし。

 せっかくなので、こぐま化したくまゆるたちを、お披露目することにした。


「な、な、な、なんですか! このくまさんは!」

「くまゆるとくまきゅうよ。この大きさなら、部屋でも大丈夫でしょう」


 ノアはくまゆるたちにゆっくりと近づく。

 別に逃げたりしないのに。

 そして、二匹を抱きしめる。


「ユナさん、この子たちを下さい!」

「あげないわよ」


 そのあと、休憩が終わっても、くまゆるたちを離さないノアが執事さんに怒られたのは言うまでもない。


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