誘いを受けて
本日2話同時更新。
この話は1話目です。
~Side 竜馬~
集中しすぎて時間を忘れていた……セバスさんの声で気がつき、セバスさんにワープでお嬢様達の居る場所に連れて行ってもらう。着いてから気づいたが、ワープの練習で結構遠くまで行っていたようだ。
「お帰りなさい、リョウマさん」
「お帰り。遅かったわね、どこまで行っていたの?」
「新しい魔法は覚えられたかい?」
転移してきた俺たちに気づくと、すぐにお嬢様達が駆け寄ってきた。
「はい、カミルさんとセバスさんのおかげです」
「それは良かったのぅ。どれ、まだ魔力に余裕があれば何か見せてくれんか?」
そう言われたので、俺はまずカミルさんに習った魔法を一通り放った。そして次はディメンションホーム……入口開けるのに10秒くらいタメが要るな……要訓練だ。
「『ディメンションホーム』」
無事成功。入口を開けてふりかえるとセバスさん以外が固まっていた。…………そういや、俺の年齢ならアイテムボックスが使えれば上出来なんだっけ。テンション上がって忘れてた……まぁいいか。セバスさんは知ってるんだし、どうせ隠しても耳に入るだろう。というか既に4人がセバスさんに詰め寄っている。
だが、すぐに俺の所にも来て褒めてくれた。
凄いのは分かるが、頭を撫でられるのはさすがにちょっと恥ずかしい……
その後
もうじき日が暮れるので宿に帰る話になったが、空間魔法の修行はひたすら反復練習が一番良いということで、俺は練習がてらワープで帰る事にした。万が一の場合に備えてセバスさんが付き添ってくれている。
そんな道中、ふと思い出したようにセバスさんが話しかけてきた。
「リョウマ様、明日我々はお嬢様に魔獣と戦う経験を積ませるため、廃鉱山に行く予定です。もしよろしければリョウマ様もいかがですか?」
「いいですね、一緒に行かせて頂いてもよろしいですか?」
「勿論です、お嬢様も喜ばれますよ。リョウマ様は弓以外の武器はお持ちですか? 廃坑内は狭いので弓はお勧めできません。それに防具も必要になります」
「短剣でどうでしょうか? あと魔法と格闘もできますが、防具はありませんね」
「武器は問題ないでしょう。魔物と言っても弱いですし、護衛も付きますから。あくまでお嬢様の経験のため、考えて相手に当たる事をさせるためですので」
「では短剣で行きます。防具に関しては……」
武器は土魔法でもある程度作れるけど、下手な防具は動きを阻害するだけだ。
……そういや、ギルドマスターから紹介状を貰ったな。この際ちゃんとした物を買いに行こうか。
「街に戻ったら買いに行ってみようと思います。丁度冒険者ギルドのギルドマスターから貰った紹介状がありますから」
「そうですか、それは良かった」
その後街に到着した俺達は門の前で別れ、セバスさんは先に宿へ、俺は武器屋を探した。そして紹介された武器屋を見つけて中に入ると、俺はゴツイ男に不気味な満面の笑みで迎えられる。
「いらっしゃいませー、何がご所望ですか?」
「え、ええ……廃坑などの狭い場所で使える武器を探しています。例えば短剣、それと防具を」
「短剣ならこちらの棚にございますのでご覧くだせーい」
「……あの、失礼ですが、無理されてませんか?」
「………………わかるか?」
「……とても簡単に分かります」
笑顔が数秒で崩れておかしな顔になっている……俺がそう言うとその男性はとたんに無愛想な顔になった。
「あぁもうヤメだヤメ! 悪いな、ちっと知り合いにお前は無愛想すぎるって言われたもんだから、愛想良くしてみたんだ。性に合わなかったがな」
「そうでしたか。ところで、ここはディガー武具店ですよね?」
「ああ、そうだ。それがどうした?」
「冒険者ギルドのギルドマスターから紹介状を頂きました。ここに行ってこれを見せろと」
俺は紹介状を出してさし出す。
「ウォーガンが? 珍しい事もあったもんだな……お前新人だろ? うちは高いぞ、その分品質は保証するが。金はあんのか?」
「はい、武器の相場は分かりませんが、小金貨30枚は払えます」
「そんだけ払えりゃ十分だ。今までは何を使っていた?」
「普段は弓を使っていますが、廃坑内では取り回しが」
「なるほどな……ならさっきも言った短剣、それか短槍や片手剣あたりが妥当だろう」
「では短剣を2本、それから投擲用のナイフはありますか?」
投擲術のスキルを持っているのに、今まで石しか投げた事が無い。この際買ってみよう。
「10本で小金貨1枚だ。高いが質はいい、使った後にちゃんと回収して手入れをすれば長く使える」
「では武器は投擲用ナイフ10本と短剣2本でお願いします」
「短剣1本小金貨2枚、2本とナイフ10本で計小金貨5枚だ。あとは防具も要るんだったな」
「はい、出来るだけ動きやすい物が良いのですが、どんな物がありますか?」
「動きやすさなら革鎧だな。魔獣の革で作られた物なら下手な金属鎧より頑丈な物も多い。魔法が付与された防具なら全身甲冑でも革鎧並みに動ける物もあるが……そんな物はまず流通しねぇし、うちには置いてねぇ」
「では魔獣の革鎧でお願いします」
「分かった。だが、お前の体格に合う物は2種類しか無い。それ以外だと調整に1日は見てもらうがどうする? 全部見るか?」
明日使うから今日買える物にしよう。
「廃鉱に行くのは明日なもので、今日買える防具だけでお願いします」
「そうか、分かった」
男性は奥に入って2つの鎧を持ってきた。
「この2つが魔獣の革製の鎧だ。1つはグレルフロッグって魔物の革で作られた防具でよく曲がり、動きやすく、それなりに強度がある。値段は中銀貨4枚」
ゴムみたいな質感だな。フロッグ……カエルの革か?
「もう1つはハードリザードの革で作られた鎧だ。こっちは高くて小金貨5枚になる」
「随分値段が違いますね?」
「素材の問題だな。ハードリザードは荒野に住む魔獣で滅多に見つからない。おまけに無属性魔法の肉体硬化に似た能力を使うから狩るのが難しい。武器では生半可な腕じゃ切れねぇし、魔法を使えば皮がダメになる事が多い。これでも値段はだいぶ下がっているぞ」
肉体硬化は皮膚を魔力で覆い、体を傷つきにくくして防御力を上げる魔法だ。それを使う魔獣なら狩りにくいだろう。
「上手く倒すには運と実力が必要だが革は軽く、魔力を通せば硬化する性質を持っている。革のしなやかさのままで強度だけが上がるから軽くて動きやすく、普段から頑丈な革が魔力で更に頑丈になる。だから体力の無い奴が多い魔法使い用の装備として人気なんだよ。
ただ……コイツはかなり前に持ち込まれた革で鎧を作った余りの革で作ったんだが、材料が微妙な量しか無くてな。お前みたいな子供用のサイズしか作れなかった。だから大人の冒険者にはサイズが合わねぇし、かといって子供の冒険者はこれを買える金を持ってねぇ。材料がないから継ぎ足してサイズを変える事もできねぇ。で、もう2年も売れ残ったままなんだ。金があるならこっちを買ってくれるとありがたい。品は格段にこっちの方が良い」
確かに聞いた感じはこっちの方が断然良さそうだ。ギルドマスターの薦めた店だし、品質やぼったくりの店ではないだろう……
「分かりました、ハードリザードの革鎧でお願いします」
「助かるぜ。武器と鎧、合わせて丁度小金貨10枚だ」
俺はアイテムボックスから小金貨の袋を出して支払い、代金を確認して男が差し出した短剣、ナイフ、鎧をアイテムボックスにしまう。
「ありがとうございました。挨拶が遅れましたが、私はリョウマ・タケバヤシと申します。また何かあったらここに来ますので、よろしくお願いします」
「おう。店主のダルソン・ディガーだ、無茶をせず手入れをしっかりすれば長くその鎧でやっていける。お前の体が成長して合わなくなるまで使っていたら、また鎧を買いに来い。その時は多少サービスしてやる」
その言葉に礼を言い、俺は店を出て宿に帰った。
翌日
今日は朝から馬車に揺られ、廃鉱山へと向かっている。道は徐々に悪くなってきているが天気は快晴、街から3時間ほどの距離にあるとのことなのでもうじき着くとは思うけど……
「……」
なんだろうか、隣に座るお嬢様の様子がおかしい。朝食のときから口数が少なく、何かを考え込んでいるようだ。
「お嬢様? 大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
少なくとも体調は悪くなさそうだけど、緊張しているのか?
「そういえば、お嬢様は魔獣と戦った経験は……もしかして初めてですか?」
「そんなことはありませんわ。経験豊富とは言えませんが……」
「ならばもう少し肩の力を抜かんとな、エリア」
「お爺様」
「そうよ、もう少し落ち着かないと説得力が無いわ」
「お母様まで……」
「ははは、前回から少し日が開いてしまったからね。もうすぐ着くし、今日やることをおさらいしておこうか?」
何もしないよりは気が紛れるだろうとラインハルトさんが話を始めた。
「まず、今我々が向かっているのは“ギムル北鉱山”名前の通りギムルの町の北に位置する鉱山で、以前から廃坑状態だった所だ。では、ここでの我々の目的は?」
「鉱山の調査ですわ。冒険者ギルドに鉱山に住み着いた魔獣を掃討する依頼を出すため、事前情報を集めます。私の実戦訓練を兼ねて」
「その通り。本来なら役所の管理記録から定期的な見回りの報告などを参考にするところだが……先日の件で役所を調べると、どうも北鉱山の管理費にも手をつけていた可能性が高く信憑性がいまひとつだ。
だから今日はいくつかの坑道に入り、坑道内の様子や見かけた魔獣についての情報を集め、それを元に冒険者ギルドに出す依頼内容を決める」
北鉱山全体に魔獣がどれだけいるかは不明だけど、殲滅するとなるとどうしても数日がかりの大仕事になることが予想される。だから今日は訓練を兼ねた簡単な調査というわけだ。
役所の報告に信憑性がないが、高ランクの魔獣やその痕跡が発見されたという報告もない。きっと子供の練習には手ごろなんだろう。
緊張しているお嬢様と馬車の窓から覗く青空を見ながら、俺は気楽に馬車に揺られていた。