掘り出し物
本日、5話同時投稿。
この話は5話目です。
翌日
「う、うう……い、痛い……頭が……」
昨夜会えなかったお嬢様達の様子を見るために部屋を訪ねたら、ラインハルトさんが二日酔いでダウンしていた。
「あら、リョウマ君おはよう」
「おはようございます、皆さん」
「リョウマ君……」
「辛そうですね、薬でも調合しましょうか?」
「……せっかくだし、頼めるかい……?」
俺はワープで街の店をめぐり、二日酔いに効く薬の材料や一緒に食べても問題のない果物を購入して宿へ戻った。
「はい、これを飲んでください。あと水分を摂った方が良いですよ」
柿が売っていたら良かったんだが……それかしじみの味噌汁な。この世界転移者多いんだから何処かに無いか? 今度探してみるか。
「あ……ありがとう……いただくよ……」
「飲みすぎは控えるようにした方が良いですよ」
「面目ない……昨日は……うう……痛っ……」
苦しむラインハルトさんから聞いたのは……溺れる者はなんとやら。昨日の宴会で役所の人間は何とか機嫌を取ろうとラインバッハ様とラインハルトさんには勿論、奥様やお嬢様にまで酒や豪華な食事をどんどん勧めて媚びへつらっていたらしい。
奥様は良いが、お嬢様はまだあまり場馴れしておらず、相手を引き受けているうちにラインハルトさんが多めに飲んでしまったのだと言う。
話を聞いてちょっと不安になった。お嬢様、そんな事で大丈夫なのか? 大人になったらそういう機会が増えていくんじゃないか? 俺はテクン様の加護のおかげで二日酔いも泥酔もしないから少しは安心だが……この体が何処まで飲めるかまだ分からないけど、一応前世での経験もあるし。
俺も一度どれだけ飲めるか確かめておくべきか?
そんなことを考えつつ、ラインハルトさんが薬とジュースを飲んだのを見届けてから宿を出た。
今日は少し遅れたが店に行く。そして、簡単な確認だけで店を出る。
問題がないようで何よりですね。
気持ちを切り替え、次は廃坑へ。試したい事もあるので、道中でスライムも捕獲したい。
どうせなら一緒に薬草採取でもするか。
「こんにちは、メイリーンさん」
「あらリョウマ君、今日はギルドの仕事?」
「はい、もう店の方は完全に従業員に任せられるようになったんで」
「自分のお店を持って人を雇えるなんてその歳で大出世ね」
「運が良かったんですよ」
「そうかしら? あ、依頼じゃないんだけど、リョウマ君には良い話があるかもしれないわ」
良い話?
「実は他の街から来た5人組の冒険者が居るんだけど、そのパーティーが上位種のスライムを捕獲して持ってきたのよ」
何ですと!?
「その話、詳しくお願いします」
「希少な魔獣を捕まえたり、出没した情報を得た場合、テイマーギルドに売ると結構いいお金になるわ。それでそのパーティーは、偶然見つけたそのスライムをテイマーギルドで売ろうとしたのね。スライムでも上位種は少ないから。でも、実際は買取を拒否されたの。
たとえばリョウマ君のヒールスライムみたいに、魔法が使える種類なら上位種の中でも貴重で使い道もあるから高値で買い取ってくれるんだけど……彼らのは違ったんでしょうね。まだ若手だったし、事前の情報収集にミスがあったみたい。スライムでも上位種なら高値で売れるんじゃないのか? って、かなり落胆していたらしいわ」
「つまり、お金次第ではそのパーティーから希少なスライムを買える?」
「その通りよ。で、欲しい?」
「欲しいですね、とても。そのパーティーの居場所は分かりますか?」
「街の東にある穴熊亭って安宿に居るはずよ。パーティーの名前はシクムの桟橋、そう言えばたぶん会えるわ」
「ありがとうございます、早速行ってきます」
俺はすぐさまギルドを飛び出し、穴熊亭へと急ぐ。
予定? 変更!
「…………ここ?」
穴熊亭は簡単に見つかったが…………外観が物凄くボロい。なにこれ、廃墟?
とりあえず店に入ると、カウンターにいかにもなおっさんがいる。
「らっしゃい、客か?」
「ここに泊まっているシクムの桟橋という冒険者パーティーに用があるのですが、今いますか?」
「いるぜ」
そう言って右にある扉を指差した。
「あの向こうは食堂兼酒場になっててな、向こうで飯食ってる。1人は昼間っから酒飲んで愚痴ってるから気をつけな」
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうだが、いい人だった。おれは扉を開けて食堂に入る。するとそこに客は5人だけで、彼らが例のパーティーだとすぐ分かった。5人は全員10代後半だと思われる。
「すみません、皆さんがシクムの桟橋というパーティーの方々ですか?」
俺が声をかけると彼らの目が俺の方に向く。
「ん? 君は?」
「申し遅れました、リョウマ・タケバヤシです。従魔術師であり、冒険者をさせて頂いてます」
「ハン! テメェみたいなガキが冒険者だって?」
「やめろセイン。すまない、こいつ今機嫌が悪くてね……」
「事情は知っています。希少なスライムをテイマーギルドに持ち込んだが、買い取って貰えなかったそうですね」
「ああ、それで……」
「ああん!!? なんだテメェ! 喧嘩売ってんのか!?」
セインと呼ばれていた男が立ち上がり、俺の方に歩いてくる前にパーテイーメンバーに止められる。
「喧嘩を売っている訳ではありません」
「なんだ? じゃあ馬鹿にしてやがるのか!? こんなガキにまで……クソッ!! ああそうだよ! 俺たちゃ馬鹿だ! 希少な魔獣を売りゃ大金が入ると思ってここまで来て、結局買い取ってもらえずに大損だ!! だが何でテメェに馬鹿にされなきゃなんねぇんだ!!」
セインはそう叫んでからその場で泣き崩れた。完全に酔っ払いだな、被害妄想が激しいし。
「セイン」
「落ち着けって」
「僕、セインを部屋に連れて行くよ。こんな状態じゃ話にならないから」
「俺も行こう」
セインという男は名前の分からない2人に部屋に運ばれていった。
「改めて、僕たちはシクムの桟橋、僕はリーダーのシンだ」
「俺はカイだ。さっきはセインがすまなかったな」
「いえ、問題ありません」
「そう言ってくれると助かる。それで、君は僕たちに何か用があったんだろう?」
そうだ、それが重要だ! 酔っぱらいが居ようがどうでもいい!
「はい。先程言った、売れなかったスライムを僕に買い取らせて欲しいのです」
「あのスライムをか?」
「買い取ってくれるならありがたいが、なんでだ? テイマーギルドにいた連中には陰口を叩かれてたぜ?」
「僕はスライムを集めているんです。そして、スライムの研究をしています。そのために希少なスライムがいるのなら是非とも手に入れたいんです」
「珍しいな。だが、カイが言ったとおり買い取って貰えるならありがたい」
「売って頂けるんですね? お幾らでしょう?」
「そうだな……君が決めてくれないか? テイマーギルドでは無価値と言われたからな、値段を付けにくい」
「お前が払っても良いって値段でも損は無いな。このままだったら明日にでも始末するつもりだったし」
「そうですか、ではそのスライムを見せて頂けますか? 僕の飼っているスライムならば安く、飼っていないスライムならば高く買い取ります」
「それでいい」
「今持ってきてやるから待ってろ」
そう言ってカイさんが席を立ち、3分で石の箱を持ってきた。
「この中にスライムが居る。気をつけて見てみろ」
「失礼します」
俺は注意しながら蓋を開け、中のスライムを見た。
そのスライムは赤黒い体を持ち、普通のスライムよりドロドロと液体に近い体をしていた。それを確認し蓋を閉める。
「どうだ?」
「僕の飼っていないスライムでした。高額で買い取らせて頂きます……失礼ですが、ここまで来るのに幾ら使いましたか?」
「5人で5,000スート位だ。出費は出来るだけ抑えたんだが、これ以上は抑えられなくてな」
それを聞いて、アイテムボックスから小金貨を2枚出す。
「それでは帰りも含めた旅費で10,000。スライムの対価として同額の10,000スートを支払います」
その言葉に慌て出す2人。
「マジか!? 合計2万だぞ」
「スライム1匹に小金貨2枚……そんなに払っていいのか?」
「問題ありません、新しいスライムを手に入れられるのは皆さんのお陰ですから」
新しいスライムに小金貨2枚なら惜しくはない!
「そ、そうか……こちらに文句はない。おまえもないな?」
「あるはずねぇだろ」
「では、これを」
代金を、シンさんがおそるおそる出した手に乗せる。
「確かに」
「ではこのスライムは頂いていきます。ありがとうございました」
「礼を言うのはこっちのほうだぜ」
「これで当面の金の心配は無くなった、セインも落ち着くだろう」
なんとなくあの男の気持ちもわからんでもないな……金が無いと無性に不安になる時もある。俺もそんな頃があった。
そういえばもうすぐ大きく稼げる依頼が出るんだったっけ?
「お金を稼ぎたいなら、しばらくこの街に留まるのも良いと思いますよ? 何でも毎年この季節は街から近い沼にとある魔物が大量発生するらしいんですが、聞いた話だとその魔物が薬の材料として高く売れるそうです。沼の悪臭さえ我慢すれば実入りは大きい仕事だと聞きました」
「本当か?」
「はい、ギルドで確認してみて下さい。発生時期は詳しく分かりませんが、近々起こるそうです」
「助かるぜ!」
「良い情報をありがとう。何か礼は出来ないか?」
礼なんかいらないんだが……そうだ、せっかくだし宣伝してみるか。
「だったら今度ウチの店にお客として来て下さい、僕は副業で洗濯代行業をやってるんです。副業という規模じゃなくなってしまいましたが」
「洗濯代行?」
「はい。店で売っている袋1つに入る量の服なら、何枚でも中銅貨1枚で洗濯します。さらに冒険者の方には中銅貨1枚と小銅貨5枚で鎧や装備の洗浄サービスもありますよ」
「そんな店があるのか」
「分かった。安いし、行ってみる」
「ありがとうございます、場所は街の東にある住宅街の手前です。冒険者の方も大勢いらっしゃいますし、道に迷ったら人に聞けばすぐ分かると思いますよ」
「必ず行こう」
「よろしくお願いします」
それから俺は速やかに鉱山へ向かった。
周りに気を使わなくていいし、スライム研究には一番適している。
鉱山についたら、まず防水布の加工を始める。どうせここに居るならやっておかなきゃ損なので、今日は50反。他にすべき事、できる事を終わらせてから、ようやく契約に入る。
石の箱の蓋をそっと開け、中のスライムを見据えて従魔契約の魔法を唱える。
液状の体が一瞬にして激しく波立ち、徐々に凪ぐ。やっぱり契約成功!
魔物鑑定をしてみると
ブラッディースライム
スキル 吸血Lv4 消臭Lv3 病気耐性Lv3 毒耐性Lv1 擬死Lv10 消化Lv2 吸収Lv4 分裂Lv1
ブラッディースライムか。吸血ってスキル持ってるし、食事は絶対に血だな。消臭と病気耐性、それにレベル低いけど毒耐性のスキルも持ってる。それに何この擬死ってスキル、死んだふり? ……まぁスキルは後々調べても良い。
問題は餌だ、餌が血となるとどうするか……
「適当な獣か魔獣を狩ってくるか」
スライム達には遠くに行かなければ好きにしていて良いと指示を出し、ブラッディースライムを連れて狩りに行く。
すると数十匹のスライム達は訓練用の棒や槍を持ち出して自主的に訓練を始めていた。
護身用に置いといただけなのに、えらい熱心な奴らが居るな……何匹かが固まって一糸乱れず俺が教えた棒術と槍術と体術の基本動作を反復練習してるし、2匹1組で組手や試合をしてる奴らもだんだん動きが良くなってきてる。
いい事だけど、これは一般的な行動じゃないんだよな……
疑問に思いながら獲物を探し回ると角のあるウサギ、ホーンラビットを見つけた。
アイテムボックスから出した弓と矢でサクッと仕留め、ブラッディースライムに食べていいと言うと、ぬるりと血が流れていくようにホーンラビットに近づき、傷口から出る血を吸い始めた。
傷口から血を吸うのか。地球にも蚊とか蚤とか血液を飲む生物はいるけど……そういえば血を飲む鳥もいたな、そんな感じだろうか……!?
ブラッディースライムの行動を観察しつつ生態を予想していると、なんと普通のスライムより液体に近い体からさらに粘りがなくなり、ホーンラビットの体内に消えた。
「傷口から中に入ったのか?」
これは予想外だった。
ブラッディースライムの体は他種のスライムより粘付きが無く、ドロドロではなくサラサラの液体になれるようだ。そうやって生物の血管内に入り込み体中の血を吸いつくすみたいだ。
「これは……今までのスライムとはまた毛色が違うな、こんなスライムも居るのか」
俺がブラッディースライムの行動に驚いていると、ホーンラビットの体からブラッディースライムが出てきた。……体の色が赤黒いので、血が吹き出てくるみたいでちょっと不気味だな。
ブラッディースライムが完全に出たのを確認し、ホーンラビットの死体を鑑定する。
状態はどうだ?
ホーンラビットの死体
角、肉、皮を剥ぎ取る事が出来る。
首に矢を受け一撃で仕留められているため、角や皮に傷が少なく高品質。
仕留められた後、速やかかつ完全に血抜きが行われたため臭みが激減した、肉は最高品質。
角と皮は分かるが肉は血抜き? ブラッディースライムの吸血行為だろうけど、病気とか無いよな?
もう一度鑑定して調べてみると病気などは無く、安全のようだ。
「冒険者や狩人には凄く便利なんじゃないか?」
鉱山に戻ってホーンラビットを解体し、肉を焼いて食べてみると本当に臭みがなくて美味しい。臭みに関しては消臭のスキルも関わってるのかもしれない。初見で便利な能力持ち、これは良い買い物だった。
しかし意図的にブラッディースライムに進化させるには血が必要になるだろう。
「実験のためにはどうやっても血が大量に……ここらの獣や魔獣を大量に狩りまわる訳にもいかんしなぁ……」
スライムを総動員すればそれなりに集められると思うが、生態系が乱れるかもしれないし他の冒険者達の仕事を取ってしまう。
「そうだ! ジークさんに話してみよう」
地球では動物の血液を食材にする料理もあるが、この世界では食材にならない。
なぜなら血液にはその生物の魔力が含まれていて、血を飲むと人間はその魔力を体内に取り込んでしまい、魔力酔いと呼ばれる魔力の過剰症にかかってしまうからだ。
これは魔力欠乏症と同じく特に治療する必要はないが、できるだけ避けるべきとされている。
ジークさんは肉屋の店主。冒険者が持ち込んだ肉を買い取ったりすると言っていた。もし店で血抜きをしていたら、抜いた血を貰えるかもしれない。
街に戻ったら行ってみよう。
それから廃坑に戻る際にスライムの捕獲を忘れていた事を思い出し、探し回って坑道内で3匹のスライム捕獲。つつがなく契約に成功。
まだ布は乾いていなかったので、そのまま実験に入ることにした。