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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
地位向上編
25/304

23話 炎の巨人

 ぎりぎり書きあがった…。

 サボるの得意ですが、会議中は流石に無理でした…。

 唐突に、静寂が訪れた。

 仮面の表面にヒビが入り、そこから妖気が漂い出している。

 おもむろに、シズが立ち上がり、詠唱を開始した。


「召喚魔法!?」


 エレンが、驚きの声を上げる。


「おいおい、マジかよ? どのランクの召喚だ?」

「・・・、ええと、魔法陣の規模からの予想だけど、"B+"以上の魔物!」

「旦那方、悠長な事言ってないで、止めないと!!!」


 流石、熟練の冒険者。

 遣り取りを一瞬で終わらせ、散開する。


「大地よ! 彼女を束縛せよ! 泥手マッドハンド

「うぉおおおーーーりゃ!!! 重追突ノックダウン


 エレンが足止めを行い、そこにカバルが体当たり技を仕掛ける。

 ギドは対処要員として、すぐに動けるように警戒を行っている様子。

 ふむ。

 Bランクだが、コンビネーションは一流なのか。無駄が無い動きである。

 しかし、


「はぁあーーー! 爆!」


 シズが、指をクィ! っと下から上へと指し示す。

 それだけで、シズを中心とした小規模爆発が起こった。

 俺のテントは、粉々である。

 テントの事はいい。それよりも、その一撃で、3人が怪我をしたりしていないだろうか?

 小規模な爆風が起きたが、俺には影響なし。なので、3人の様子を伺う。


 泥手マッドハンドによる足止めを確認し、重追突ノックダウンを仕掛けたカバルが、まともに爆発の影響を受けて吹き飛ばされていた。

 警戒していたギドが、危険を察知しエレンを突き飛ばし、二人は難を逃れている様子。


「おい、大丈夫か?」


 声をかけると、


「あっしらは、大丈夫でさ!」

「ちょっとぅ、身体中が痛いんですけどぅ! 危険手当上乗せして貰わなきゃ!」


 と、二人から返事があり、


「おお痛てー・・・・・・。お前ら・・・、リーダーの心配をしろよ!」


 不満を言いながら、カバルが立ち上がって来た。実に頑丈な男である。


「シズさんって、魔法使えるとは思ってたけど、召喚まで・・・」

「てか、何を呼び出しているんだ?」

「いやいや、そんな話じゃねーでしょ。あっしの知る限り、召喚中に魔法を無詠唱で発動なんて、聞いたこと・・・」


 ギドが、そう言いかけ、動きを止めた。そして、


「え・・・、まさか・・・・・・。爆炎の支配者・・・?」


 何やら、思い至った様子。

 シズは、詠唱を続けている。全身が赤く発光し、軽く身体が浮かび上がっている。

 仮面が際立ち、ローブから溢れ出た黒髪が、フワフワと漂っていた。

 何が目的なのか? 突然様子がおかしくなったように感じるけど・・・。


「リグルド! 皆を避難させろ! この付近へ近寄せるな!」

「しかし・・・」

「命令だ! 避難を終えたら、ランガを呼んで来い!」

「はは! 承りました!」


 速やかに行動を開始するリグルド。

 だが、俺の見立てでは、ゴブリン達では話にならない。無駄死にさせるつもりはないのだ。

 しかし、ランガを呼び寄せたのは、シズと戦わせる為ではない。

 理由は簡単。

 この冒険者達が、自作自演でこちらの隙を覗っている可能性を考えて、である。

 そもそも、皆殺しにする気ならば、ペラペラ喋ったのも頷ける。(単なるバカという線も有り得るけれど…)

 自作自演だった場合、シズが劣勢になった時、後ろから不意打ちして来るという可能性があった。

 それを防ぐ目的で、ランガを呼び寄せる。


「おい、ギド! 爆炎のなんたらって、なんだ?」


 その質問にギドが答えるより早く、


「それって、50年くらい前に活躍したっていう、英雄よね?」


 エレンが問う。

 有名なのか? 俺がそう考えた時、


 シズの顔から、仮面が落ちた。


 吹き上がる炎。

 それは、シズを飲み込み、そこに炎の巨人が出現する。

 召喚術式"炎の巨人イフリート"! それは、万物を飲み込む、炎の支配者。


《ユニークスキル『変質者』を発動します 》


 世界の声が響く。

 そして、シズの身体と、炎の巨人イフリートが一つに融合する。


「げぇ!!! イフリートっておま、Aランクオーバーの上位精霊じゃねーか!!!」

「うわぁ…、初めて見た! てぃうかぁ〜、あんなの、どうやっても勝てないんですけどぉ〜!!!」

「間違いないでやす…。あれが、爆炎の支配者でやす!」


 ふぅーーーーー! ドン!!!


 衝撃と熱が襲い来る。

 3人は、魔法障壁マジックバリアで凌ごうとしたようだが、一撃で吹き飛ばされている。

 死んではいないようだが、無事ではあるまい。

 意識はあるようだが、動く事は出来ないだろう。

 あれは、自作自演じゃないな。本気でやられてる。

 って事は、どうやら意図的にここを潰すつもりで来たという線は消えた訳だ。

 しかし、かなりの威力である。

 溜め無しの魔力開放で、炎巨人シズを中心として、直径30mの円状に熱風が吹き荒れたのだ。

 コイツは、俺が戦わなければ全滅するだろう。

 しかし、不思議な事がある。

 この状況なのに、俺に恐怖はないのだ。魔物になった影響なのか?

 まあ、最初にヴェルドラや黒蛇にビビッてたのが、良い経験になったのかもしれない。

 

「おい。お前の目的は何だ?」

「ふぅーーー!」


 カッ!


 衝撃!

 先の爆発ではなく、此方へ向けて熱波を放射して来た。しかし、その射線上からはすでに回避済みだ。

 俺の知覚速度は、音速すらも捕らえる事が可能なのだから!

 思えば、町が出来てなくて良かった。こんな時だが、心からそう思った。

 木を切り倒して、現在は広場である。もし、森の中だったら、今頃火事になって大変だっただろう。

 しかし、調子に乗りやがって!


 ビシュン!!!


 腹部を狙い、"水刃"を放った。

 その攻撃は、炎巨人シズに届く直前で、蒸発する。炎の渦が、炎巨人シズを取り巻き、守っているのだ。

 むむ…。どうやら、"水刃"は通用しない感じ。

 全力で水、ぶっ掛けてやろうか? そう考えたが、水蒸気爆発なぞ起きたらシャレにならん。

 最後の手段にしよう。

 その時、ランガ達が到着した。


「お呼びですか? 我が主よ!」


 取り敢えず、ランガに3人の回収を命令する。

 そして、


「いいか、安全な場所に退避してろ! あれは俺が倒す!」


 その命令に反論しかけたが、


「仰せのままに、御武運を!」


 そう言葉を残し、3人を咥えて去って行った。

 これで心置きなく戦える。


 

 吹き荒れる炎。

 俺の感知能力は、熱の分布を正確に把握する、

 炎巨人シズが炎の巨人の分身体を複数作成し、同時に攻撃を放ってきても、炎の温度の高さから危険度を予測するのは簡単だ。

 俺に対し、有効な攻撃を当てる事は出来ていない。

 しかし同時に、俺の攻撃も有効なものが無い。

 あの炎がやっかいなのだ。

 地面がマグマ状になっている…、ものすごい高温だろう。

 そもそも、『麻痺吐息』や『毒霧吐息』等は、試す為に10m以内に近寄る必要がある。

 あの高温の中、お邪魔しま〜す! と寄っていく訳にはいかない。

 コンガリスライムに、クラスチェンジしたくは無いのだ。

 どうしたものか…

 決定的にダメージの通りそうな攻撃手段がない。

 こんな事なら、もっと捕食しておけば良かった…。

 そんな事を考えていたからだろうか、足元に巨大な魔方陣が描かれる!


 ヤバイ!


 そう直感した時、すでに俺は囚われていた。

 広範囲型捕獲結界。炎巨人シズの特殊能力か…?

 魔法の詠唱もなく、一瞬で描かれた魔法陣。


 直径100mの範囲内を、自らの身体をガス化し、超高熱の炎で満たす。

 炎系の最上位範囲攻撃! 


炎化爆獄陣フレアサークル


 男とも女とも、老人とも若者とも判断のつき難い声が響いた。

 これは…逃げ場なし! だ。


 俺は、死を覚悟する。

 ああ…、油断したつもりはないが、もっと遣り様はあった気がする。

 格好つけずに、皆でかかれば良かった…。

 黒狼に擬態して、速度で翻弄し、火傷覚悟で噛み付くのもアリだった…。

 様子見なんて、バカな事せず、『黒稲妻』でもぶち込めば良かったのだ…。

 etc…。

 しっかし、いくら知覚速度1000倍とはいえ、ダメージがなかなか来ないな…。

 まあ、痛み無く死ねるのは良い事だろうけど…。

 てか、遅すぎない?

 焦らしプレイ?

 おかしい…。

 俺の知覚では、既に炎に巻き込まれている。

 うーん…。


《…解。熱変動耐性exの効果により、炎攻撃は自動的に無効化に成功しています 》


 なんか、熱変動耐性exあるの忘れてただろ! 的なニュアンスを感じた。

 そんな事でいちいち返答させんじぇねーよ! このボンクラ!

 そう、そんな罵倒を「…」に感じた。

 きっと、俺の気のせいだろう。

 俺に忠実で、自意識のない『大賢者』が、まさか…ね。

 ははは。きっと気のせいだ。問題ない!


 さて、と。

 おいおい、炎無効に成功だって?

 何? もしかして、これって、楽勝モードなんじゃね?

 全て、計画通りだったんじゃね?

 やられた! と見せかけてからの逆転。セオリー頂きました!


 そういう事で、さっさと戦いを終わらせるか。


「今、何かしたのか?」


 俺はコッソリと、『粘鋼糸』を炎巨人シズに絡ませる。

 最早、ヤツは終わった。

 俺の作る『粘鋼糸』は、粘糸,鋼糸の両方の性質を併せ持つ、日頃の研究の成果の一つだ。

 さらに、俺の耐性が反映される。つまり、炎で焼き切れる事はないのだ。

 王手だ。


「ば、バカな!」


 初めて、声に動揺の気配が漂った。


 俺もお前の事を舐めていたが、お前も俺を舐めすぎだ。

 許すよ、お互い様だし。

 だから、俺を恨むのもお前の自由だ!


「次は、俺の番だろ?」


 クッ! 慌てて、逃げ出そうとする炎巨人シズ

 そう来ると思ったよ。

 当然ながら、俺の張った『粘鋼糸』により、逃れる事など不可能だ。

 俺は、ゆっくりと歩み寄る。

 コイツに、トドメを刺す為に。

 コイツ…恐らく、シズさんに取り付いて操っているのだろう、炎の巨人イフリートに!

 

 慌てる事は無い。

 俺は、ジタバタと逃げる事も出来ず、炎で俺に何か仕掛けている哀れな獲物に歩み寄る。

 そして、


《ユニークスキル『捕食者』を使用しますか?YES/NO 》


 答えは当然、YES! だ。


 眩い光が辺りを包み…、唐突に消える。

 後に残されたのは、俺と、一人の老婆だった。

 

 


 炎攻撃を捕食すればいいんじゃね? と思われた方、正解です!

 ただし、継続的な炎攻撃では、どちらにせよジリ貧だった可能性はあります。

 喰いきれるか、焼ききれるか! の勝負になっていました。

 主人公はまだ気付いていません。気付きかけてはいますけど!

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