その66・針と毒針
▼その66・針と毒針
「転生したってことはココの世界の記憶と知識もあるんでしょう?」
「まあ、そりゃ……15、6年ぐらいだけど」
「じゅーぶん!」
「?」
「それだけあれば脱出出来る、ばんじゃーい!」
「ばんざーい!」
「ばじゃーい!」
「じゃーい!」
(※万歳三唱する猫耳少女たち)
「あーと……話が見えないんだけど」
「あ、ごめんごめん。えーとね、船のエンジン自体は自動修復能力で修復できたの」
「へー」
「でも、地図とコンパスがないのよ。この世界がどこの、どの番号の並行世界で、あたしたちが本来いる並行世界からどれくらい離れてるかが判らない」
「でもそれだったらこれまでここに来た人たちから……」
「んーそこがめんどーなところでね、やってみたけど駄目だったのよ」
「なんで?」
「この世界は全部魔法、しかもアカシックレコードに蓄積された膨大な記憶と知識に基づく、という意味で完全にあたしたちと似て非なる文明文化システムなワケ。判りやすく言うとOSが違うの」
「どっちがApple? どっちがWindows?」
「そりゃアタシたちがApple」
「……やな宇宙人だなあ」
「まあ、だからこの世界がどこでどういう場所なのかさーっぱりわからないの。んで、そこであなたが来てくれたワケよー」
「???」
「つまり機械文明のことも理解してて、魔法世界のことにも通じてて、勇者ってことはどちらにも知識も意識もアクセス出来る存在!」
「はー」
「つまり、あなたの頭の中身をちょいとうちのシステムに吸い出せば、あたしたちの記憶野記録と照らし合わせて三角測量が出来る!」
「並行世界って平面で広がってるの?」
「概念的にはそっちが判りやすいから。多次元及び三次元ムルコンシャス時空連続体測量法、っていってもわからないでしょ?」
「……全然」
「というわけで」
(※猫耳少女後ろを向いてごそごそし、振り返ると鋭い針がついたコードを取り出す)
「な、なにそれ?」
「これで脳幹からずこーんと情報を吸い出すのよけけけ」
「え?(冷や汗)」
(※気がつくと左右からがっしり猫耳少女たちに固められているA)
「ま、まって、ちょっとまって、それ痛いよね? 絶対痛いよね?」
「ウウンダイジョブダイジョブ、イタクナイヨー」
(※猫耳少女ちっちっと人差し指を左右に振りながら唇をすぼめて言う)
「イタクナイヨー(唱和)」
「いや痛い、絶対に痛い! なにその20センチぐらいの長さの針!」
「ソウミエルダケダヨー」
「ダヨー」
「死ぬ、絶対死ぬ、そんなん頭に刺されたら死ぬぅ!」
「ダイジョーブダヨー」
「ダイジョーブダヨー」
「ネコトワカイセヨー」
「ネコトワカイセヨー」
「たすけてー! ヘクトパスカル! B! Fさん……おかーさーん! たすけてー! 猫耳宇宙人にロボトミーされるー!」
「フフフフフフ」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ(合唱)」
「ぎゃーナビさん、なんとかしてええええええええ!」
(※プス、っとAの脳天に刺さる針)
(※場面転換)
(※真っ暗な広大な部屋のなか、次々と下から照らす形で人の顔が並ぶ。合計五つ。四つは向かい合い、一つが奥に位置する)
(※スポットライト。部屋の片隅に、スーツ姿の女性秘書、冷徹な顔立ち、演説台のようなものの前に居る)
「これより本年度大三千個百四十六回定例会議を始めます。異議は?」
「同意」「同意」「同意」「同意」「同意」
「異議無しと認め、開始します……では異世界作戦室長Y崎課長よりご報告を」
「はい」
(※Y崎課長、スポットライトの中に)
「現在、今期侵略……いえ、今期戦略作戦は開始後2万870時間23分30秒を経過、段階はCにあり、通常の作戦進行速度的には平均、前回より24時間33分40秒の遅れとなっております」
「遅い。我が国の経済がこれによって立ち後れる」
「お言葉ですが45号専務AI。現在におきまして、我が国の復興効率は年々20%の増強となっております。現状維持に甘んじるつもりはございませんが、前年度より今年度はさらに2%の増収増強となることは明白であります」
「口答えするなY崎課長」
「私は少なくとも生身の部分のある人間です。あなたたちに頭ごなしに命令されても従う義務はない」
「44号専務AI、今のY崎課長の意見を肯定する」
「43号専務AI、今のY崎課長の意見を肯定する」
「42号専務AI、今のY崎課長の意見を肯定する」
「41号専務AI、今のY崎課長の意見を肯定する」
「40号専務AI、今のY崎課長の意見を肯定する」
「01型社長AI、役員会議の意見として『今期計画は順調に推移しつつある』と結論する」
「会議を続けます」
「さて、現状困った問題が起きているので役員の皆様にはお答えいただきたい」
「報告せよ」
「この世界の住人にAという人物がいます。最優先危険人物として処置したく、特別予算を要求いたします」
「対象人物は何者であるか?」
「はい」
(※Y崎課長、手元のリモコンを操作、全員共有情報スクリーンにAの姿)
「この少年です。恐らく……第45次計画のさい、我々に立ちふさがったのと同じ存在」
「まさか」
(※Y崎課長、眼鏡が光る)
「はい、彼は恐らく、転生勇者、だと思われます」