終わりよければなんとやら
第1回SQEXノベル大賞、一次選考突破で最終に残れたみたいなので、感謝の短編番外編投下です。
ありがとうございます! 受賞できたら嬉しいな(*^^*)
こんにちは、フォコンです。
ただいまジルベール様の執務室に呼び出されております。
そんなかんじの前提でどうぞ!
本日は実に快晴。ジリジリと照りつけるお日様が憎らしいくらい暑い日。俺は曲がりなりにも密偵なので猛暑でもない限り汗ひとつかかない程度の訓練は受けているが、目の前のジルベール様は見るからに暑そうだった。
そのせいで今日はいつもより派手に着崩している。有体に言えば留まっているボタンが少ないのだ。ぶっちゃけ目のやり場に困る。男相手に何言ってんだと言われそうですけど、皇子の後ろに姫様の顔がチラつくんですよね。怖すぎる。
しかもそれだけじゃなくて――。
「フォコン、先程からずっと跪いて地面を見つめているが、俺相手にそこまで畏まらなくていいだろう? 何をしているんだ?」
「あはは、いやぁ、……すみません」
さすがにずっと目を合わせないのは失礼かと顔を上げたら、ジルベール様は服の襟を掴んでぱたぱたと扇いでいた。やめて。皇子それだめ。すごく居た堪れない。
もう黙っているのは不可能。俺は意を決して立ち上がりジルベール様に耳打ちする。あんまり着崩さない方が良いですよ、と。
しかし皇子は怪訝そうに眉を寄せただけだった。
「なぜだ。俺がどんな格好をしようとキミには関係がないはずだが?」
「えー、大変言いにくいのですが、……虫刺され? って言えばいいんですかね。いや、違う事は分かってるんですよ。ええ。はい。でもまぁ、便宜上」
「虫刺さ……」
ジルベール様は俺の言いたい事を一瞬で理解したらしく、慌てて首元を押さえると、いそいそとボタンを一番上まで留めた。そしてぶっ倒れるんじゃないかってくらい赤い顔で俯きかげんに「……ちゅ、忠告、感謝、する……」と呟いた。
これは姫様も過保護になるわ。うん、納得だ。庇護欲が刺激される。
よし、見なかった事にしよう。俺、全部忘れましたよ、姫様――と、後宮内でのんびりしているはずの姫様に言い訳をしておく。
「で、今日は何のために呼ばれたんです? 俺」
「あ、ああ、……実は、レティにはいつも助けてもらっているから、なにかプレゼントを渡したいんだ。だが、どういったものを渡せば喜んでくれるかさっぱりわからない。そこでオルレシアン家の密偵だったキミなら何か知っているかもと呼んだわけなんだが」
俺は姫様の顔を頭に思い浮かべた。
ベル・プペーと呼ばれ今まで様々なものを贈られてきた姫様だが、物欲はてんでなく、すべて寄付という形で孤児院などの施設にダイレクトパスされていた気がする。となると彼女の好きなものから割り出すのが一般的だけど。
姫様の好きなものはジルベール様一択。そこから派生してジルベール様が作った料理、ジルベール様と一緒の時間なども大好きだ。
「多分、姫様ならその辺にある花でも喜んで飾りますよ。城の壁近くに生えてるやつとか」
「もはや雑草では?」
確かにそうなんだけど、姫様の場合「ジルベール様に頂いた」という事実が大事なので、たとえ雑草でもどんな美しい花より大切にしそうな気がする。その辺に落ちてる石ころでも宝石より愛おしい石なのだ。たぶん。旦那様バフが強すぎる。
「んー、後はジルベール様自体にラッピングして俺をプレゼント!くらいしか思い浮かばないですねぇ。あっはっは!」
「自己肯定感の塊すぎる。どんな強者だ」
ジルベール様は諦めたようにため息をついたが、ふと考えを巡らせるように顎に手を置いた。
「……まぁ、何事もチャレンジか」
「は?」
今、聞いてはならない言葉を聞いた気がする。
「あの、ジルベール様待って! 今のは冗談で……」
「問題ないぞ、フォコン。これは俺が考えるプレゼントの中でも最弱」
「いや最強ですよ!?」
「今後、第二第三のプレゼントを用意する」
「これ以上のものって何があるんですかね!?」
そうと決まればリボンの色を考えねば、と妄言を吐きながら部屋を出ていくジルベール様。やだもう俺の話ちゃんと聞いて!
「俺、止めましたからね……」
出ていく直前に礼を告げられたが少しも嬉しくなかった。願わくはこの計画の立案者として俺の名前が出ないことを切に、切に願っている。
ちなみに後日、やっぱり俺は姫様に呼び出された。
だが思っていたのとはちょっと違った。
「フォコン。私は今、お前を叱ればいいのか褒めればいいのか非常に悩んでいる」
「俺、褒められたいです!! めっちゃ! 褒められ! たいです!!」
力いっぱいアピールしたら頭を撫でてもらえた。
これぞ終わりよければすべてよし、ってやつですかね!