酒どころ・灘五郷のひとつ西宮郷で清酒「白鹿」ブランドを展開する辰馬本家酒造(兵庫県西宮市)が運営する「酒ミュージアム(白鹿記念酒造博物館)」では、特別展示「伝統的酒造りの近現代」が開催されている。2025年3月3日まで。
麹(こうじ)菌を使って二段階発酵で作る日本酒や焼酎、泡盛、本みりんなどの「伝統的酒造り」が2024年12月5日(日本時間)、ユネスコ無形文化遺産に登録された。
「無形文化遺産」は伝統的な工芸技術などを保護する制度で、日本からは能楽や歌舞伎、和食などが登録されている。
今回の登録で国内の無形文化遺産は23件目。
「伝統的酒造り」は、日本の恵まれた気候風土によって育まれた麹(こうじ)菌を使う独特の技術。
日本人は1000年以上前から、蒸した米の上にこうじ菌を育て、こうじ菌の働きを使って酒を造る知識と技を発展させてきた。のちに、その醸造技術が蒸留技術と出会い本格焼酎・泡盛が生まれ、本格焼酎と麹が出会い、本みりんが生まれた。
特に日本酒は、日本各地の気候などの中で杜氏や蔵人が築いた手作業の技術が脈々と引き継がれている。
全国各地の杜氏集団の中で、丹波・南部・越後は「三大杜氏」と呼ばれる。その中でも技術が高く中心的な存在だったのが丹波杜氏。灘五郷の酒造りは丹波杜氏が支えてきた。
丹波杜氏に関する様々な資料や伝統的酒造りの工程写真などだけでなく、酒造りを一変させた醸造の資料などを展示している。
■学芸員が語る「飛躍的な醸造技術の変容」
明治以降、さらに酒造技術は発展、変化を遂げる。「山廃酛(やまはいもと)」「速醸酛(そくじょうもと)」の出現。
白鹿記念酒造博物館の大浦和也学芸員によると、「山廃酛」は、生酛造りで2日目に行う、米と水と麹を櫂(かい)ですりつぶす“山卸作業”を、腐造率の高さから取り止めた経緯があるという。山卸を廃止で「山廃」。
また「速醸酛」は、人工的につくられた乳酸を直接添加して酒母を育成する方法。
乳酸を添加して、酒母を酸性に保ち、雑菌や微生物の増殖を防ぐ。その結果、安定した環境で酵母を増やすことができ、効率的な酒造りが可能になる。
現在造られている日本酒の約90%が、速醸で造られたと言われている。
灘五郷を擁する兵庫県は清酒の生産量日本一を誇る酒どころ。今回の登録をきっかけに、海外輸出や国内消費の拡大に期待が寄せられている。
■麹〜国菌と言われるだけのことはある
辰馬本家酒造の辰馬健仁会長(酒ミュージアム理事長)はラジオ関西の取材に対し、「麹がないことには酒造りは始まらない。大陸から日本に伝わった麹の文化が、何百年もかけて、創意工夫で麹と食文化を育ててきた。麹を使った食品の充実度をみるに、『国菌』と言われるだけのことはある。
こうした技術を引き継ぐ側と引き継がれる側があって伝承が成り立つ。酒造りの技術が認められ、日本文化を世界に知らしめる絶好の機会だ」と語った。
同社は現在32カ国に商品を輸出中で「海外シェアは今後も拡大する可能性が高く、ビッグニュースとして国内でも改めて日本酒の良さを知るきっかけになれば」としている。
<酒資料室展示 伝統的酒造りの近現代>
■期間
2024年12月4日(水)〜2025年1月13日(月・祝)
2025年1月25日(土)〜3月3日(月)
■開館時間
10:00〜17:00(入館は 16:30 まで)
■休館日
火曜日
※年末年始休館 12月30日(月)〜1月3日(金)
※1月15日(水)〜24日(金)は同時開催展の展示替えのため観覧不可。2月11日(火)臨時開館、2月12日(水)振替休館
ユネスコ登録を祝い記念入場券セット(1000円)を販売。20歳以上の購入者は先着順で記念の木升、酒ミュージアム(酒造館)のペーパークラフトを進呈(数量限定)。