プロ輩出の名門校に異変…名将築いた伝統が「足りない」 グラウンドに立ち抱いた違和感
FOOTBALL ZONE / 2024年12月14日 8時10分
■岡崎慎司ら輩出の滝川第二高、薄れつつあった伝統の精神
「怯まず、驕らず、溌剌と」
これは兵庫の名門・滝川第二高校サッカー部のスローガンである。これまで加地亮、岡崎慎司という2人のワールドカップ戦士を含む、数多くのJリーガーを世に輩出してきた。ヴィッセル神戸をJ1リーグ2連覇に導いた吉田孝行監督、今季までセレッソ大阪を指揮した小菊昭雄監督の母校でもある。
長く引き継がれているこのフレーズは滝川第二を強豪に仕立て上げた名将・黒田和生氏が名付けたもの。どんな相手に対して怯むことなく、決して驕ることもなく、そして元気よく溌剌と戦い抜く。黒田氏がずっと選手たちに投げかけてきた言葉だ。今年、その言葉を選手として、コーチとして長年大切にしてきた人物が新監督に就任した。
小森康宏監督は滝川第二時代、小菊監督と同級生で、1学年下に波戸康広(現・横浜Fマリノスアンバサダー)と吉田監督がいた。卒業後に大阪体育大を経て、1998年に母校のコーチに就任すると、10年間チームに携わった。就任1年目に加地、その後は岡崎や金崎夢生(ヴェルスパ大分)、清水圭介(セレッソ大阪)らとともに全国の舞台にも立った。2007年に姉妹校である県下有数の進学校である滝川高校で教鞭をとることになったが、前述したとおり、今年から人事異動で母校に監督として戻ってきた。
まさに滝川第二の歴史を、「怯まず、驕らず、溌剌と」の真の意味を理解している小森監督は、グラウンドに立った時にその精神が薄れつつあると感じていた。
「やはり滝二はうまいだけではなく、見ていて躍動感があるサッカーをしないといけない。特に溌剌さが足りないと感じたんです。凄い受け身な選手が多くて、自発的な溌剌さが欠けているような気がしました」
■きめ細かいマネジメントにより選手の意識も徐々に変化
スローガンとしては引き継がれているが、その本質をもう一度選手たちに植え付けるところからスタートさせないといけない感じた小森監督は、選手たちとコミュニケーションを取りながら、過去の伝統や言葉の意味などを伝えるようにした。もちろん、ただ「昔はこうだった」「こうあるべき」と講釈を垂れるだけになると、選手たちが耳を傾けないことは十分理解していた。
「滝二としてサッカーを通じた人間力の向上という精神がこのスローガンの裏にあるもの。黒田先生はずっと『人間性が育てば、いい選手としても育つ』とずっと口にしていましたし、何より先生はいつの時代も選手目線で会話をするんです。僕らOBが会いに行った時も必ず僕ら目線で会話をしてくれる。僕が先生をずっと尊敬しているのはサッカーの指導力だけではなく、教師として、人間として本当に偉大な人だったからです。人を惹きつけるような力と、いつまで経っても変わらない少年のような眼差し。それを僕も引き継いでいかないといけないからこそ、選手への伝え方は大切にしています」
今の選手ならどう受け止めるかを考えながら、言葉に情熱を込めて伝える。「怯まず、驕らず、溌剌と」の精神を持って伝えることを地道に続けた。その一方でこれまで亀谷誠前監督がやっていたことを否定するのではなく、いいところは引き継いでいくスタンスを持った。
「亀谷さんのいいところは毎日選手たちのコンディショニングのチェックをして、明確なゲームモデル、プレーモデルをもとに映像を見せて、イメージを共有する。それに基づいて練習でもゲームで起こることの再現性を意識してプログラムして、選手たちに成功体験を重ねさせていく指導はすごいなと思ったので、そこは引き継いでいます。そこにプラス、ゴール前でのバリエーションやシュートの意識など前への推進力の向上をエッセンスとして加えています」
きめ細かいマネジメントに対し、選手の意識も徐々に変わってきた。キャプテンのMF三宅蔵ノ助が「正直、『怯まず、驕らず、溌剌と』のスローガンをそこまで重要視していませんでした。でも、小森監督に意味を丁寧に伝えてもらって、僕も共感する部分が多くて、これはチームにきちんと取り入れないといけないと感じた」と口にしたように、選手たち自身がその言葉と自分たちを照らし合わせて物事を考えるようになった。
■選手権予選決勝で1人退場のアクシデントも「逞しくなった」
そして迎えた選手権兵庫県予選決勝のAIE国際との一戦で、このスローガンをチーム全体で示す試合を演じた。
開始11分に退場者を出すという予期せぬアクシデントに見舞われた。小森監督も即座にフォーメーションを伝えながら、発破をかける声を出そうと思ったが、「ピッチ内で『1人で、2〜3人分走るぞ!』という声も出ていたので、すごく逞しくなったなと感じた」ことで選手たちに委ねる覚悟を持った。
その言葉どおり、選手たちは全力で走り切った。ただ引いて守るだけではなく、カウンターでチャンスを作るなど、攻撃姿勢は持ち続けたまま、延長戦を含めて90分間を戦い抜いた。PK戦でも集中を切らすことなく、10人で3年ぶり22回目の選手権出場を掴み取った。
「決勝は10人になっても一切怯まなかったし、最後まで溌剌とプレーした。これはピッチ上の選手だけではなく、ベンチもスタンドの選手たちも一緒だった。彼らもこれで大きな自信を掴んだはず」
この勝利に小菊監督らOBたちも大喜びだったという。中には「チーム一丸、これが滝二」という声も多かったという。だが、目標は全国で勝つこと。小森監督はこう続ける。
「勝ったからこそ、自信は持つべきですが、驕ってはいけない。どんなに勝ち続けたとしても、どんなに地位が高くなっても驕ってはいけない。これが先生の教えです」
選手権に向けて「怯まず、驕らず、溌剌と」の精神をさらに胸に刻み、滝川第二は歴史と伝統と新たな時代を背負って大舞台に挑む。(FOOTBALL ZONE編集部)
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