水原被告と大谷翔平。父が語った「翔平の素性」

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 ドジャース・大谷翔平(30)の元専属通訳・水原一平が、口座から約26億円を不正送金したとして、銀行詐欺罪などの罪で禁錮4年9か月、賠償金約26億円の支払いを言い渡された。前代未聞のスキャンダルはなぜ起きたのか。水原一平被告の父親・水原英政は昨年10月、事件の詳細について語っていた。ノンフィクションライターの水谷竹秀氏がレポートする。(文中敬称略)【全3回の第3回。第1回から読む

【写真】長髪、小太りに変わり果てた水原一平被告の近影。大谷と住んでいたニューポートビーチの豪邸

息子が通った“ディーラー学校”の実態

 水原は通訳になる前、カジノのディーラー養成学校に通っていたことが、スキャンダル発覚時に大きく取り上げられた。英政は、この報道にも「悪意がある」と主張する。

「ディーラー学校に行ってたから、みんな、“ほらギャンブラーじゃないか”って(曲解している)。あれを(水原に)勧めたのは俺なんだよ。仕事に迷っていた時期に、ちょうど大阪にカジノができるって話があった。

 そういう記事を読んで、俺は一平に『(お前は)英語もできて日本語もできて、仕事をなんとかしようと思っているなら、ディーラーにでもなったら、日本でカジノができた時にいい位置に就けるんじゃないか』って。ベガスあたりで経験を積んだら、ある程度の位置には就けるじゃないですか」

 水原の「ギャンブル好き」の証左であるかのように報道された過去だが、息子の将来を心配した父が、現実的な職として提案したものだったのだ。

「別に無理やりじゃなく、多少の入学金を払って行かせたよね。そんな立派な学校じゃなくて、要は自分の空いた時間に行って勉強をして、そこからディーラーの仕事を斡旋してくれるような、そんな感じのところだった。

 でもまあ結局本人はそんなに乗り気じゃなかったし、俺も無理してとは思わなかった。ほかの仕事を見つけたから、それは途中で終わった。俺は別に、ギャンブルをしろっていう意味で勧めたわけじゃない」

 それでも責任を感じているのか、親としてのやり切れない思いが溢れていた。

「一平は仕事はちゃんとした。でも、いなくなって良かったって思っている人のほうが多い。ごまんといるよ。いなくなったから(ワールドシリーズを)優勝できた、(大谷は)ここまで来たっていう人はいっぱいいるよ」

 かつては大谷の隣でスポットライトを浴びる息子の姿を誇らしく感じていたが、今やその存在意義すらも否定するまで自己嫌悪に陥った父。少し沈黙があった後、英政が突然、こんな意味深な発言をした。

「多分、答えが出ないんじゃないかな。あなたの今の調べ方だったら。見ているところが(俺と)違うと思う。一平のことを調べても、あなたがわかっていることぐらいしか出てこない」

 そしてこう問いかけてきた。

「もっと翔平を調べたらいいんじゃない? 翔平の性格を。彼のことわかんないでしょ? 俺はもちろん知ってる。ただ、俺の口からは言えない。俺のことじゃないから」

 英政が帰宅する時間も迫っていた。

「色々と一平のことをメディアに書かれたけど、書かれたことは100%本当ではないっていうのは言っておく。違うことがいくつかあります。なんでこういうふうになったんだって。一平個人のあれだから、俺もこれ以上は喋れない。まあゆっくり考えて」

 そう言い残して英政は車にエンジンをかけ、走り去っていった。

 その後、何度か店を訪れたが、英政は無言で帰宅するだけになった。私に話したことを、水原に咎められたのかもしれない。

父も嘘をつかれたのか

 今年1月下旬、本人と英政を含む水原家のメンバーはそれぞれ、審理を続ける米連邦地裁に書簡を提出した。特に水原の主張には驚かされた。

 大谷の通訳としてだけでなく、身の回りの世話も含めて24時間体制で働き、過酷な労働環境に置かれていたと訴えたのだ。エンゼルスの球団から支給されている給与に加え、大谷から別途給与も受け取っていたが、大谷の近くに住むための高額な家賃の支払い、グリーンカードを取得していない妻が日米を行き来する渡航費などで出費がかさみ、ギリギリの生活を強いられていたとも打ち明けた。

 そうした経済的困窮によるストレスが、違法賭博への引き金になり、泥沼から抜け出せなくなったというのだ。

〈翔平のお金を使う以外に(胴元に)支払う方法が見つけられなかった。私は当時、恐ろしいほどの依存状態に陥っており、ギャンブルをやっている時だけ人生に希望を見出せた〉(水原の書簡より)

 この書簡を読んだ時、英政が私に言った次のような言葉とつながった。

「ウチらだって、(色々)あるからね。そのうち出るからそれまで待ったら?」

「一平は寝ないでやってたよ」

「翔平のことをもっと調べたら?」

 私が英政に接触した時点で、英政自身も水原に関する書簡を地裁に提出する予定だったのだろう。そして水原の主張も把握していた。だから私に言いたくても言い出せず、それとなく仄めかしてきたのではないか。

 だが、そんな精一杯の水原の主張も虚しく、検察からはことごとく論破された。明らかになったのは、水原が嘘を嘘で塗り固めていたという事実だけだ。

 英政も息子の主張を聞き、それを信じ、「言い分がある」と思い込んでいたようだが、実は英政も嘘をつかれていたのではないだろうか。

 水原に量刑が言い渡された2月6日夜、英政は居酒屋に出勤していなかった。果たして英政は、何を思っていただろうか。真面目で優しかった息子は今も、沈黙を貫いている。

(了。第1回から読む)

【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで):ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3月下旬から2か月弱、ウクライナに滞在していた。

※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号