5月3日から5日にかけ、コンピュータプログラムによる将棋の強さを競う「第23回 世界コンピュータ将棋選手権」が開催された。
コンピュータ、将棋、と聞けば「第2回 将棋電王戦」を思い出す方も多いはず。将棋のプロ棋士とコンピュータによる5対5の団体戦が行われ、その結果はコンピュータ側が3勝1敗1分で勝ち越し。この結末はさまざまなメディアで取り上げられ、大きな話題になった。
プロ棋士にも勝つほどの恐ろしい強さになったプログラムが集まり、世界一の座を争うのがこの選手権である。人間同士の対局とは一味違った魅力を持つコンピュータ将棋、その最高峰の戦いの模様をお伝えしよう。
知のF1! 超スピードの世界
コンピュータ将棋は強い! と言われているが、そもそもコンピュータ将棋とはどんなものなのか。まずはイメージをつかむために、たとえ話で輪郭を描いてみたい。
コンピュータ将棋は、将棋の手を決める思考部分(ソフトウェア)と、プログラムを動かすマシン(ハードウェア)に分かれるが、これを車にたとえてみよう。すると将棋は「ゴールが設定されたコース」というところ。ここに2つの車が走る。相手よりも早くゴールに着けば勝ちとすると、当然車(ハードウェア)は速く走れるほうがよい。ところが将棋というコースはとても広大かつ複雑なので、やみくもに動いたのではゴールにたどり着く可能性は低い。効率よくゴールを目指すためには、優秀なドライバー(ソフトウェア)が必要である。
つまり、コンピュータ将棋の強さを競うということは、車の性能を上げ、より優秀なドライバーを育てることにほかならない(――これは実はちょっと乱暴な比喩なのだが、おおよそのイメージということで、細かいところには目をつぶっていただければと思う)。さて、現在のトップクラスのコンピュータ将棋はどれくらいの速さ(で手を読む)かだが、だいたい、1秒間に300万局面以上といったところだ。これはあなたの想像通り、とても速い。車は車でもF1マシンである。
では、電王戦で話題になった「GPS将棋」はどうか。この「車」、とても速いそうだ。今回の選手権ではなんと1秒間に3億局面を超えることもあるという。……たぶん空を飛んだりする車なのだろう。
科学技術の進歩によってコンピュータの性能はどんどん上がっている。手を読む速さは、ケタがいくつか落ちたところで人間にはとうてい追いつかない(もっとも、人間は「不要な手は読まない」というコンピュータとは異なるアプローチをしているので、単純に優劣がつくわけではない。実際にコンピュータが軽く人間を凌駕しているのかといえばそんなことは全然なく、読める先は数十手で「いい勝負」というのが実情だ)。
この「数の暴力」で将棋を指すとどうなるか。人間の感覚では切り捨ててしまうような手が飛び出し、型破りなパフォーマンスが現れる。さらに選手権の一局にかかる時間は最長50分と短く(プロ同士の対局は朝から晩まで続くことはザラにある)、ぐっと密度が高くなる。そこから生まれる迫力、スピード感は、まさに F1レースと言えるものになっているのだ。
そしていよいよ「世界コンピュータ将棋選手権」の当日を迎える。……続きを読む