ヒロセ電機は、さまざまな業界で活用される多種多様なコネクタ製品を開発・製造・販売する国内トップクラスのシェアを誇るコネクタメーカーだ。同社製品の高い性能と信頼を支えるのが設計開発におけるシミュレーションであり、同社では長年にわたりAnsysのシミュレーションソフトウェア「Ansys HFSS™」(以下、HFSS)を利用している。このたび、同社はシミュレーションのリソース環境としてサーバーを「AMD EPYC™ プロセッサ」(以下、AMD EPYC)搭載の「Dell PowerEdgeサーバー」にリプレイスした。

本記事ではヒロセ電機 技術本部 SB事業部 HPC技術部 解析課 シニアスーパーバイザー 谷口 紘之氏に、アンシス・ジャパン カスタマーエクセレンス テクニカルBU マネージャアプリケーションエンジニアリング 川田 三世氏、日本AMD コマーシャル営業本部 ソリューションアーキテクト 中村 正澄氏、デル・テクノロジーズ インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 AMDビジネス開発マネージャ 新地 俊一氏も加えて、今回の取り組みについて話を伺った。

  • 集合写真

高速伝送コネクタが複雑化するいま立ちふさがる、シミュレーションの課題

‐まずはヒロセ電機の事業について伺えますか。

谷口氏:
当社の製品開発は、刻一刻と時代が変化していくなかで、お客様企業のニーズに合ったコネクタをタイムリーに、かつ短いサイクルで提供することをモットーにしています。販売については、大半をお客様にダイレクトに販売する直販形式をとっており、お客様の生の声を営業が直接吸い上げ、それを短サイクルで新製品の設計・製造に反映するというのがポリシーです。

近年は、AI需要の高まりなどを背景にサーバーや通信機器などの用途で高速信号を一度に多く流せる高速伝送コネクタのニーズが高まっており、当社でも最大112Gbpsに対応する基板対基板コネクタ「IT14」シリーズなどをリリースしています。このIT14はAMD製GPUにも採用されています。

  • IT14を指す谷口氏

私自身は、高速伝送コネクタの開発において高速信号が確実に流れるかどうかのシミュレーションを行う業務に従事し、設計の上流工程で仕様を確定できるように社内の開発をサポートしています。

‐最近の設計開発における課題を教えてください。

谷口氏:
高速伝送コネクタは多くの信号を流す必要性から端子の形状が複雑化し、多芯構造でサイズが大型化しているうえ、部品点数も多くなっています。そのことから開発の難易度が上がり、より高度なシミュレーションが求められるようになりました。高度なシミュレーションには、コンピュータリソースもより高いものが要求されることに加えて、短サイクルの製品開発を実現するには開発スピードもアップしなければなりません。

当社では2008年頃から、シミュレーション精度の高さと操作性の良さを評価してAnsysのHFSSというシミュレーションソフトウェアを使っています。シミュレーションに関しては従来、解析課という専門部隊が設計者から依頼を受けて実施し、その結果を設計者にフィードバックしていました。しかしこれでは一つひとつの解析に時間を要し、設計に反映するスピードも遅くなってしまいます。そこで、5年ほど前から設計者自らシミュレーションに取り組む体制をスタートさせました。HFSSは解析の専門家ではない設計者でも扱えるので、開発スピードの向上に役立っています。

  • (写真)谷口氏

    ヒロセ電機株式会社 技術本部 SB事業部 HPC技術部 解析課 シニアスーパーバイザー
    谷口 紘之氏

川田氏:
HFSSは高品質なメッシュを生成でき、解析を行うユーザー様の習熟度によらず安定して高精度の結果を得られるため、多くの設計者に使っていただいています。お客様のニーズをヒアリングしてバージョンアップを行っており、例えば高い周波数特性が必要な高速伝送シミュレーションにおいて大規模で複雑化したモデルをより高速に解けるよう、プログラムを改善する技術開発にも常に取り組んでいます。

  • (写真)川田氏

    アンシス・ジャパン株式会社
    カスタマーエクセレンス テクニカルBU マネージャアプリケーションエンジニアリング
    川田 三世氏

谷口氏:
HFSSは現在年に2回アップデートされ、そのたびに解析速度や安定性が改善されていると実感しています。そのほか、端子形状の一部のみ変更した場合などのシミュレーションを効率的に行えるHFSSの最適化機能も、工数削減に役立っていますね。

コンピュータリソースの問題については、IT14のような高速伝送コネクタの解析案件が増えるにつれてシミュレーションに数時間、あるいは数日かかるようになってしまい、業務が回らない事態に陥りつつありました。CPUの性能が最新のシミュレーションに追いつかないだけでなく、旧サーバーはストレージがHDDであったため、そのI/O速度もボトルネックになっていたのです。

‐その状況から脱却するため、新規サーバーに更新したのですね。

谷口氏:
はい。旧サーバーは2014年に導入したものです。2024年で10年が経ち、同年5月には保守切れを迎えるということもあり、新しいサーバーへの刷新を決意しました。

解析の高速化に向けた潤沢なハードウェアリソースを求め、新サーバーを選定

‐新サーバーとしてAMD EPYCを搭載したPowerEdgeを選定された理由を教えてください。

谷口氏:
検討を始めたのは2023年下期です。選定にあたっては、AMD EPYC搭載機のほか、他社製CPU搭載機の提案も頂きました。性能や価格面を比較検討した結果、全体的なコストパフォーマンスでAMD EPYCを搭載したDell PowerEdgeが優れていたため、今回の採用に至りました。

中村氏:
デル・テクノロジーズと一緒に打ち合わせに参加し、AMD EPYCでHFSSを使用した際のテスト結果を提示して、概ねこの程度の精度が見込めるといったデータを共有させていただきましたね。

谷口氏:
AMD EPYCの採用は当社サーバーでは初めてでしたが、検討時点でAMD EPYCの他社採用事例がかなり多かったうえに、提示されたデータも頼もしい結果でしたので、安心して導入を決断できました。当社はとりわけ解析マシンでこれまでもデル製品の採用が多く、故障の少なさ、稼働率の高さは実感しており、その信頼性も決め手のひとつになりました。実際にサーバーをリプレイスしたのは2024年6月で、現在も安定して稼働しています。

中村氏:
今回採用となったDell PowerEdgeのCPUは世界1位(※2024年12月の取材日時点)のスパコンと同じアーキテクチャーであるAMD EPYCプロセッサを搭載しています。周波数が競合のCPUより高く処理速度が速いこと、そしてコア数が多く並列処理が得意であることも大きな特徴です。

  • AMD EPYCの説明図
  • (写真)中村氏

    日本AMD株式会社 コマーシャル営業本部 ソリューションアーキテクト
    中村 正澄氏

川田氏:
HFSSが多くのコアを使って解析できる仕様のため、コア数が多い点は間違いなくプラスに寄与します。HFSSは近年、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の潤沢なハードウェアリソースを活かした、より高速な解析の技術開発に力を入れています。今回、ヒロセ電機様のサーバーがAMD EPYCを搭載したDell PowerEdgeへと刷新されたことで、HFSSのポテンシャルが最大限発揮できるようになりました。

新地氏:
Dell PowerEdgeサーバーは、世界で最も供給量の多いサーバーです。故障率が低く安定してお使いいただける点、サポートが迅速である点などから、国内でも満足度の高いサーバーという評価を受けています。ラック型やタワー型サーバー、またWebサーバーからAI向けGPUサーバーまで目的に応じた幅広いラインナップを揃えていることに加えて、今回のように、弊社大手町の本社17階に併設したエグゼクティブ ブリーフィング&ソリューション センターにおいて、ヒロセ電機様、日本AMD様と議論の場をしっかり持ちアンシス・ジャパン様との事前検証をもとにお客様の課題解決に向けて提案させていただくところも強みです。今回は検証段階でHFSSの解析データを用いたパフォーマンス測定の結果を見て、CPU、台数、メモリなどのスペックを考え、提案しました。

  • (写真)新地氏

    デル・テクノロジーズ株式会社
    インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部AMDビジネス開発マネージャ
    新地 俊一氏

シミュレーション時間大幅削減とソフトウェアパフォーマンス最大化の効果

‐現時点で感じている効果を教えてください。

谷口氏:
最もメリットに感じているのが、旧サーバーと比べて解析時間が3割から5割短縮されているところです。また、従来は8台のマシンで運用していたため、OSアップデートなどのメンテナンスに多くの工数がかかっていたのですが、新サーバーでは1台あたり従来の4倍のコアを積んでいることからマシンを2台に抑えられ、管理工数が大幅に削減されました。これも非常に大きな効果です。

川田:
先ほども申したとおり、当社としては、多コア・多メモリを積んだHPC環境になったことで、そのリソースを活用してHFSSのパフォーマンスを最大限発揮できるようになります。さらなる処理速度改善や機能向上などの提案をできるようになったところが大きいですね。

中村氏:
高性能CPUによる処理時間の短縮・高速化はもちろんですが、谷口さんがおっしゃったサーバー台数減によるTCO(Total Cost of Ownership:設備投資の総額)削減、さらにはAMD製CPUが得意とする消費電力削減というメリットもご提供できたのではと考えています。

顧客ニーズの変化にキャッチアップできる設計開発環境を各社が支える

‐今後予定されていること、そしてその先の展望をお聞かせください。

谷口氏:
実は今回の新サーバー導入により、いま解析件数が増えています。旧サーバー環境では解析に時間がかかるため、設計者も遠慮しがちな部分があったのかと思われますが、パフォーマンスが格段に向上したことで潜在的な解析ニーズが反映され、件数増加につながっているようです。ですから、シミュレーションをさらに高速かつ効率的に行うための改善を進めていきたいですね。とはいえ単にサーバーを増設していくだけではイタチごっこになる可能性もあるので、似たコネクタのモデルを学習させたAIを活用し、1~2分といった短時間で解析結果が出るような環境の構築も検討していく予定です。

川田氏:
今後のHFSSにおいても、高速化という観点では、まさにそのAIの活用が重要なテーマです。その際に、これまでに得られたHFSSの解析結果はヒロセ電機様の貴重な資産になります。過去の解析結果をAIで活用し、1~2分のレベルで解析結果を出せるようなAnsys SimAI™といった製品もAnsysは提供していますし、AIソリューションは当社の注力分野の1つです。

また、ヒロセ電機様ではコネクタのモデルを顧客企業が設計段階でシミュレーションに使えるように、HFSS上から直接ダウンロードできる仕組みをすでにご活用いただいています。これは顧客企業のニーズに応える最新のお取り組みですが、当社としてもエンドユーザーをより意識し、ソフトウェアのさらなる改善に努めていきます。

  • HFSSの説明図

新地氏:
当社では、お客様が実際に使う生データを評価機で検証できる環境や、お客様と一緒になって製品選定と導入効果を議論する仕組みを用意しています。ヒロセ電機様の事例のように、お客様が納得する形で製品をご提供し、安心いただいて導入まで進め、導入後は実際に高いパフォーマンスを出せるような提案をこれからも続けていきます。

中村氏:
AMDは、常にエンドユースを意識し、エッジからスーパーコンピューターまで、最先端の技術とパフォーマンスを提供してきました。今回デル様、アンシス様を通じて、ヒロセ電機様のシミュレーション生産性向上に貢献できたことをとても嬉しく思います。今後、AIの利活用の更なる拡大を視野に、引き続き、性能がより進化し、消費電力の面でも優れたCPUやGPUの開発に力を入れてまいります。

‐最後に、今回の新サーバー導入で可能になった高速伝送シミュレーションを通じ、ヒロセ電機として顧客に提供していきたい価値を伺えますか。

谷口氏:
高速伝送へのニーズはこれからも急速に変化していくことでしょう。開発に時間がかかってしまうと変化に対応できません。そこで、高速伝送シミュレーションにより開発の上流工程での仕様フィックスをより確実なものにし、お客様の求めるタイミングに合わせて新製品を提供し、変化するニーズにキャッチアップしていく。それを実現していきたいと考えています。

  • 集合写真

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