半導体製造装置メーカーのディスコが主催するプログラミングコンテスト「DISCO Equipment Coding Contest(以下、DECC)2025」が、2025年3月に開催される。半導体製造工程において、シリコンウェーハを切断するダイシングや研削して薄化するグラインディングに用いる精密加工装置を手がけるディスコ。このコンテストの最大の特徴は、同社が得意とする「装置」を使用したプログラミングコンテストであることだ。参加者は、与えられたお題に対して戦略を練り、それを実現するためのプログラムを装置に実装して、得点を競い合う。

今回、このユニークなコンテストの魅力を探るべく、運営の中心メンバーにインタビューを実施した。グラインダ(研削加工機)の開発プロジェクトリーダーを務めるY氏、ダイサ(切断装置)の電気設計を手がけるK氏、そしてグラインダの制御ソフト設計を担当するI氏の3名に話を聞いた。

物理現象と向き合う、唯一無二のコンテスト

(写真)Y氏

株式会社ディスコ
技術開発本部 ダイサー技術部 Y氏

「一般的なプログラミングコンテストは、PC画面の中だけで完結するものが多いのですが、DECCは装置を使ったコンテストです。装置は私たちが用意して、参加者の方々にはそれを動かすためのプログラムを作っていただき、得点を競っていただくという形式です」と、Y氏はDECCの趣旨を説明する。

プログラムを実装した装置を参加者の目の前で動かし、その制御の正確さで順位を競う——それがDECCの醍醐味だ。「実物の動き」が答え合わせとなるため、画面の中だけでは味わうことができない一体感が会場には生まれる。この独特の緊張感と高揚感が、DECCならではの特徴となっている。

過去の課題には、「容器に水を入れて運ぶ」というものがあった。一見シンプルに見えるこの課題だが、実際には深い考察が必要となる。
「急いで動かすと中身の水がこぼれてしまいます。かといって、少量の水を運んでも高得点は望めません。いかに多くの水をこぼさずに運べるかが勝負のカギです」(Y氏)

また、別の回では、「球を転がして狙った穴に入れる」といった課題も実施された。スマートボールのような上から見下ろすかたちの大きな盤面に、複数の得点穴が設けられている。参加者は自作のプログラムで装置を制御し、効率よく狙った穴に球を入れていく。物理的な制約と向き合いながら、最適な解を導き出していくことが求められる。

「当初は、盤面の穴や供給回収用の溝や管などに球が詰まることを危惧していましたが、試行錯誤を重ねた結果、うまく実現できました。球が転がる様子を見ながら、参加者が自分のプログラムを微調整していく。そんな姿が印象的でしたね」と、Y氏は当時を振り返る。

ソフトウェアで価値を生み出す時代へ

このように物理現象と向き合うDECCの特徴には、半導体製造装置メーカーならではの思いが込められている。前回の記事で、同社 代表執行役社長 関家氏の発言にもあったが、「これからはハードウェアが同じでも、ソフトウェアで性能を引き出していく時代です」とY氏も語る。

実際にディスコの製品開発の現場でも、ソフトウェアの重要性は増している。たとえば、通常は直線しか切れないダイサーで、プログラムの工夫だけで円形に切り出すことに成功した例や、切断したラインを洗浄する際、回転する基板の動きに合わせてノズルの位置を計算し、必要な箇所だけを効率的に洗浄するプログラムを開発した例もあるという。
「数十年来変わらない機構に、ソフトウェアで新しい価値を付加できました。ハードウェアに手を加えずに、ソフトウェアだけで新しい価値を生み出せるんです」(Y氏)

社内横断的なチームが手掛ける、手作りのコンテスト

(写真)K氏

株式会社ディスコ
技術開発本部 ダイサー技術部 K氏

DECCの特徴の1つが、企画運営の内製化だ。その中心となっているのが、ディスコ社内のラジコン部に所属するメンバーたち。「普段はまったく異なる部署で働いているメンバーが集まって運営しています」と、K氏は話す。

オンラインで行われる予選問題の作成は、また別の社内部活動に所属するメンバー6-7名が担当。本戦で使用する装置の開発や問題の作成には、ラジコン部のメンバー約10名が関わる。Y氏によると、部署も役職も関係なく、純粋にものづくりを楽しむ仲間が集まっているのだという。

「私は普段、装置の制御ソフトを設計する仕事をしていますが、コンテストの運営側として関わることで、普段とは違ったかたちでチャレンジができます」と語るのは、I氏。参加者の反応を見るのが楽しみだという。
「実際に参加者が問題を解いて、『おもしろかった』と反応をしている様子を見ると、やりがいを感じます」(I氏)

コミュニティ形成の場としても機能

DECCは、参加者同士の交流の場としても機能している。「以前は200人規模で開催していた時期があり、その際は参加者同士で活発な交流が生まれていました」とY氏は話す。プログラミングコミュニティで名前は知っているけれど、実際には会ったことがないという人同士が、オフ会のようなかたちでコンテストを通して初めて出会うケースもあったという。これも実際に装置を使うDECCならではの出来事だろう。

コロナ禍においても、可能な限り対面での開催にこだわってきた。「他のコンテストが軒並みオンライン開催に移行するなか、本コンテストは装置を使用する特性上、対面開催を継続しました」とK氏。「参加者からは『唯一のオンサイトイベントとして、ありがたかった』という声もいただきました」と説明する。

コンテストをきっかけにディスコへの入社を決めた参加者もいる。
「コンテストで活躍した参加者のなかには、その後入社して製品開発に携わっている者もいます。たとえば、先ほど話したウェーハの円形切断の発想を実現したのも、実は元参加者なんです」(Y氏)

「IT企業だけでなく、ものづくりの現場でもソフトウェアエンジニアの活躍の場は広がっています。このコンテストが、新しいキャリアの可能性を考えるきっかけになればと思います」とK氏は語る。

ハードウェアとソフトウェアが融合したものづくりのおもしろさを感じてほしい

(写真)I氏

株式会社ディスコ
技術開発本部 CNNソフトグループ I氏

2025年3月の開催に向けて、これまでとは異なる新しい装置の開発が進められている。例年通り、「課題は当日までのお楽しみ」(Y氏)だという。この4年間はコロナ禍により、もともと200名で実施していた規模を30名にまで縮小していたが、今回は拡大して開催する考えだ。

参加対象は年齢・性別を問わず、誰でもエントリー可能。本戦には予選通過者が選出されるが、そのうち、大学院・大学・短大・専門学校・高専の卒業見込者向けの枠が確保されている。また、成績優秀者には賞金も用意されている。

「プログラミングの経験はあるけれど、ものづくりはあまり経験がないという方にも、ぜひチャレンジしていただきたい」とI氏。「1-2mもある大きな装置を、自分のプログラムで思い通りに動かせる。そんな経験ができるのは、このコンテストならではだと思います」と呼びかける。

また、K氏は「コンテストを通じて、ものづくりのおもしろさを知っていただければ。そして、その経験が参加者の皆さんのキャリアの選択肢を広げるきっかけになればと思っています。私たちとしても、コンテストの運営や装置設計のノウハウが溜まってきています。昨年よりもパワーアップした姿をぜひお見せしたいですね」と期待を込める。

ハードウェアとソフトウェアの融合。物理現象との対話。そして何より、ものづくりの楽しさ——。DECCには、半導体製造装置メーカーならではの魅力が詰まっている。是非、参加を検討してみてはいかがだろうか。

  • 集合写真

「DISCO Equipment Coding Contest 2025」詳細はこちらから

関連リンク

[PR]提供:ディスコ