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メディアはN国の取り上げ方をよく考えて

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
参議院に初登院するN国代表、立花孝志・参議院議員(写真:Motoo Naka/アフロ)

 「NHKから国民を守る党(N国)」代表の立花孝志参院議員が、TOKYO MXの「5時に夢中!」でのマツコ・デラックス氏の「これから何をしてくれるか判断しないと。今のままじゃね、ただ気持ち悪い人たち」等の発言に激怒し、同番組が生放送された都内のスタジオに突撃した件が話題になっている。

 報道によれば、スタジオのガラス越しに放送中に抗議の”演説”をぶったほか、放送終了後も1時間ほどマツコ氏を待ち伏せた。支援者ら約100人もその場に集まり、警察官が警備に当たった。

TOKYO MX のホームページより
TOKYO MX のホームページより

マツコ氏を選んだN国の戦略

 結局、マツコ氏は現れず、立花氏は「局側から説明や謝罪があるまでは、来週以降も毎週月曜日の午後5時にスタジオへ行く」「NHKをぶっ壊す。マツコ・デラックスをぶっ壊す」と言い放って去ったが、党としてもMX側に立花氏を出演させるよう要求している、という。

 参議院選挙で議席を獲得したN国について、批判的なコメントは他にもあった。だが、路上から直接スタジオに抗議するという「絵になるパフォーマンス」を展開できる場を選び、マツコ氏という著名で発信力のあるタレントをターゲットに定めたのは、ことさら賑々しい言動を展開しては、「目立ちたいからです!売名です!」と行ってはばからない立花氏のメディア戦略だろう。

批判と擁護

 こうした立花氏の言動に対して、こんな批判の声が挙がっている。

「働いている場所までチームのスタッフを連れて行き、目の前で街宣活動するのは国会議員という権力者としてはやりすぎ」(松井一郎大阪市長)

「権力者が国民の言論を封じる、これを『言論弾圧』という」(漫画家の小林よしのり氏)

 一方で、立花氏を擁護する声もある。

「よくぞ言ってくれた!(中略)大体、発言力のあるタレントさんが、絶対に反論できない弱い立場の人達を叩きまくる、現在の地上波の弱い者いじめの加速には、心からうんざり」(田中紀子「ギャンブル依存症問題を考える会」代表)

「公党の党首ですので、番組で発言させればよいのでは」(紀藤正樹弁護士)

 日頃「水に落ちた犬」を叩きまくったり、マイナー政党を無視しがちなテレビへの嫌悪感を抱く人は少なくなく、こうした擁護論が出ることも、立花氏にとっては計算のうちだろう。

巨大な既得権者に挑む構図

 NHKという巨大メディアに挑むドン・キホーテを演じることで一定の票を得た立花氏の手法は、既得権益者・エリート層を「ぶっ壊し」たり引きずり下ろしたりする「下克上」を訴えて人々の関心や支持を集めるポピュリズムそのものと言える。TOKYO MXは地方局だが、それでも東京のテレビ局であり、各局で冠番組を持つマツコ氏を含めて既得権益者と位置づけて、ミニ政党であるN国が挑む、という構図を作り出した。

 しかし、今回の出来事は、これ一件を単体の出来事として扱うのではなく、これまでの同党や立花氏の言動と併せて考える必要があるのではないか。

気に入らない発言は力尽くで封じるN国の素顔

 N国は、今月4日に投開票が行われた千葉県柏市議選挙に候補者を擁立。その選挙戦で立花氏が街頭演説をしている最中に飛んだ批判的なヤジに対する執拗な対応からは、一般市民に対して牙をむく彼らの素の姿が見てとれる。

 「嘘つき!」と一言叫んだ男性を、立花氏はマイクを持って追いかけ、「選挙妨害だ」などと詰め寄り、支援者らが取り囲んで口々に怒鳴りつけた。「参議院議員の立花孝志です」と肩書きをつけて警察に通報して警官を呼び、支援者が撮影しながら、どこまでも男性を追いかけ、タクシーを止めて乗り込もうとすると、それを妨害し、「私人逮捕」と称して身体を拘束し、罵声を浴びせた。道路を塞いでのこうした振る舞いに、通りがかりの女性が見かねて抗議をすると、N国の候補者や支援者は彼女に対しても怒鳴り、追い返した。

 しかも、一連の映像を「柏市議会議員選挙中に選挙妨害があり妨害者が逃亡を企てたので現行犯逮捕して柏警察に引き渡しました」というタイトルで、一般人である男性の顔にモザイクをかけることもなく、そのままYouTubeにアップした。

N国のYouTubeから、男性がタクシーに乗り込もうとするのを妨害するN国候補者
N国のYouTubeから、男性がタクシーに乗り込もうとするのを妨害するN国候補者

 ちなみに、この程度のヤジが犯罪に当たらないことは言うまでもない。

 このように、N国が気に入らない発言や質問をした人を力尽くで排除したり、「私人逮捕」と称して大立ち回りを演じたりすることは、この時だけではない。昨年6月の松戸市長選では、ごく当たり前の質問をした市民メディア関係者を追い回し、腕をつかんで転倒させ、けがをさせたりもしている。

 被害者は、フリーランスライターの畠山理仁氏に「N国は揉め事を起こして人気を取る。私を訴えようとして住所を教えた人に10万円の懸賞金をかけた。私は『えじき』にされた気がします」と語っている。

 けれども、大きなメディアはこうしたN国の”真の姿”を、まず報じない。

 これまで、「独自の戦い」をする「無頼系独立候補」を地道に取材してきた畠山氏は言う。

「(大メディアは)今まで諸派の人たちの取材をして来なかったので、まさかこういう(乱暴な)ことをする人たちが(国政選挙に)当選してくるとは思っていなくて、どう対処したらいいか分からないのではないか」

 都合の悪い言動は力尽くで排除する。それを見せつけ、「ここに関わると面倒なことになる」という印象を与え、黙らせる。これがN国の手法で、今回の対マツコ氏の言動も、その一環と見るべきではないか。

N国のメディア戦略

 参院選後、立花氏とN国は賑々しく振る舞い続け、メディアアテンションを引き続けている。北方領土の元島民の「ビザなし交流」に同行し、泥酔しての言動が問題となって日本維新の会を除名となり、国会で糾弾決議を受けた丸山穂高衆議院議員が入党。参議院では、渡辺喜美参院議員(無所属)と会派を組み、さらには秘書へのパワハラで捜査を受けている石崎徹衆院議員(自民)に声を掛け、NHKに乗り込んで受信料支払い拒否を通告する……。

 立花氏らは、記者会見を開いては、こうした話題をメディアに提供する。NHK訪問の時には、同局玄関前に民放各社のテレビクルーが集結するなど、50人以上の報道陣が陣取っていたというから、事前にメディアに知らせておいたのだろう。

 こうして、自ら情報を作って人々の関心を引きつけるのが、N国のメディア戦略なのだろうし、今回のマツコ氏を相手にした言動も、そのひとつだろう。

NHKが困っている状況を楽しむ

 立花氏のパフォーマンスは、ある種の”怖い物見たさ”を誘い、格好のネタになるらしい。それに、日本民間放送連盟(民放連)の反対にも関わらず、5月の放送法改正で、NHKのインターネット同時配信が可能になったという事情もある。民放各局の現場には、番組制作にふんだんな予算を投じることができるNHKへの日頃の羨望ややっかみもある。

 そんなこんなで、民放やスポーツ紙などは、N国の国政登場によりNHKが困っている状況を、半ば面白がって(あるいは、内心「いい気味」だと思って)見ているのではないか。そして、”N国コメディーショー”を、やはり面白がって、またはNHKにお灸を据えるいい機会だととらえて眺めている人々がいる。

 問題となった番組で、マツコ氏はこうも語っている。

「結局、こうやって(自分たちがN国のパフォーマンスを)楽しんで見ちゃってる側面もあって、こうやって騒いでる時点で、彼らの思うツボなのではないか」

 そうしているうちに、異論を力尽くで封じ込める彼らの本質は置き去りにされたまま、「N国、面白いんじゃない」「受信料払わなくていいなら、それはいいよね」といった、同党のふるまいに許容的な雰囲気が社会の中に広がりを見せているのではないか。例の柏市議選でも、N国候補が3003票を獲得し、定数36の中で14番目の得票数で当選した。

 先の畠山氏は、次のように指摘する。

「常識からかけ離れた言動で炎上すれば注目が集まる。敵は作るが、それ以上に味方もできる。反NHKの団体があることが周知されれば、一定の票が入る、ということを彼らは、たくさんの地方選挙に出て体験的に学んだ。なので、文句を言われてもへっちゃら。炎上した方がおいしい、と思っている。そのうえ、参議院で議席を得て力を持ったことで、批判したメディアを取材拒否するなど、新たな動きも出て来た」

メディアは取り上げ方を考えて

 確かに、NHKにはネット配信に伴う受信料の問題や番組の内容などについて、いろんな意見があり、議論すべきことも多い。けれども、こうした雰囲気や荒っぽく雑な物言いで、公共放送を「ぶっ壊す」ことに抵抗感が薄れていくとしたら危うい。

 そればかりか、今回のマツコ氏とTOKYO MXに対する対応を見ていてもよく分かるように、国会議員という立場と資金力を得たことで、メディアに対しても、気に入らないものには圧力をかけ、「触らぬ神に……」とばかりに批判をしにくい雰囲気が広がるのもよくない。

 メディアは、N国の取り上げ方をよくよく考えてもらいたい。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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