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「地元の若い女性の流出が止まらない」と嘆く前に地方が考えないといけない視点

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

東京一極集中が全部悪い?

少子化問題の原因として、「東京への女性人口一極集中」をあげる人がいる。

確かに、都道府県別の転入超過をみれば、コロナ禍の特殊な時期を除けば、東京への転入超過が顕著である。しかも、都道府県間の人口移動のほとんどは20代の若者で占められており、つまりは、日本の少子化は「東京が20代の独身女性を全国から集めておきながら、未婚化で東京の出生率は全国最下位だからだ」と結論づけたがる。東京の特定の区を「ブラックホール自治体」などと名付けたりする団体もある。

しかし、冷静にデータを紐解けば、別に東京だけに女性の人口が集中しているわけではない。正しく言えば、20代の女性は(男性もだが)都市部に集中的に移動するのである。

総務省の人口推計統計より2000年以降の女性(日本人のみ)の転入超過数の推移を、東京都とその他の政令指定都市合計(東京23区除く)とで比較したものが以下のグラフである。

東京都も転入超過が多いが、他の政令都市全体もほぼ東京都と同じくらいの転入超過で推移している。日本全国津々浦々から東京だけに女性が移動しているわけではなく、地方においてはその地方の近場の大都市(九州なら福岡市、東北なら仙台市)へ移動しているのだ。

なぜ、大都市へ移動するかといえば、20代に限れば、ほぼ仕事のためである。逆に言えば、流出が多い自治体というのは「魅力的な仕事がないから」である。

東京流出を防げばいいのか?

とはいえ、地方の自治体にとってはこうした毎年のように若者が流出することは深刻な問題だろう。ただでさえ、出生数が減っている中で、20代女性がいなくなることは婚姻数の低下に影響する。

しかし、だからといって、「地元の若者が出て行ってしまうような東京や大都市が問題なのだ」と責任を転嫁したところで何も解決しない。

大都市に出て行く若者を地元に縛り付けたいのだろうか。江戸時代の箱根の関所のように「出女」の取り締まりでもしたいのだろうか。

そもそも、若者全員が大都市に流出してしまうわけではない。出生地である故郷にずっと居続ける「地元愛のある若者」も少なくない

社人研の2023年「人口移動調査」によれば、都道府県によってバラツキはあるものの3割から5割程度の人は「生まれてからすっと出生地で過ごしている」のである。

また、一度地元から出て行ったきり、二度と戻ってこない「地元を捨てた層」もいる反面、いずれ出生地に戻ってくる「Uターン層」もいる。

個別に見れば、特に九州の佐賀、長崎、鹿児島、中国地方の島根、山口あたりが、地元から出て行く割合も高く、出て行ったきり戻ってこない割合も高い。同じく、東北の岩手、秋田、福島も出て行ったきりの割合が多い。

その反対に、富山、石川、福井などの北陸三県、静岡、沖縄などは、出て行ったきりの割合よりもUターンしてくる割合の方が高い。

出て行ったきりの割合が高いところ

これら、出生地に居続ける割合とUターンしてきた割合の合計が、最終的には地元に残る割合となる。

それだけを抽出してグラフにしたものが以下である。ある意味で「生まれ故郷として愛されている地元」割合でもある。

1位は愛知県、2位は沖縄県、以下、静岡、北海道と続く。

北海道と愛知は、出生地に居続ける割合も高いが、エリア内で見れば、札幌と名古屋という大都市への転出はあるのだろう。沖縄は、一旦県外転出はするもののUターン率が全国1位である。

反対に、長崎、佐賀、鹿児島、岩手、福島、島根は45%以上が出生地を見捨てて、出て行ったきりになってしまっている。

検討すべきは「流出防止ではない」

課題に対する対策の視点は「どうしたら地元から若者の人口流出を防げるか」ということだけに集中しがちだが、東京などの大都会に憧れて出て行く若者は、何をしたって「出て行きたい」のだから、気持ちよく送ってあげればいいのである。間違っても「東京なんかに出て行ってもロクなことにならない」などとネガティブな情報を植え付けて、若者を地元に縛り付けようなどと考えてはいけない。

一旦出て行っても戻ってきたいという場所ならいいのだ。

そのために注力すべきは、「それでも地元に残る若者に対して地元は何ができるか」をまず整理することではないか。

写真:アフロ

東京や大都会との比較ばかりして「あいつら、ずるい」という考え方ではなく、ずっと居続けてくれる人とUターンしてくれる人合わせて6割というのをまずひとつの目標ラインと定めて、地元ならではの「できること」を考えてもらいたいものである。

また「どうしたら新しく移住してくれる人が増やせるか」などを検討している場合もあるかと思うが、それは金銭的インセンティブを付ければいいというものではなく、それもまた「地元に生まれ、地元に居続ける人たちがどれだけしあわせそうか」にかかっているのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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