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飢えが人間を狂わす、それが戦争。支配されることを苦痛に思わない若者へ、98歳元新聞記者が伝えたいこと

フリーランス記者
思いを語る平岡敬さん(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)

 広島の地元紙、中国新聞で長く記者として取材を続け、その後1990年代に広島市長を2期務めた平岡敬さん(98)が、広島の記者たちや反核運動に取り組む市民たちからの要望を受け、元新聞記者、そして戦争体験者としての思いを語った。先の総選挙の投開票日の直後に行われた催し。「もう先が長くないから最後に聞いておこうか、というような思いが皆さんの中にあるんじゃないか」と苦笑いしつつ、平岡さんは約2時間にわたって言葉を紡いだ。概要でお伝えする。

ひらおか・たかし 1927年、大阪市生まれ。大阪、朝鮮半島、広島で育ち、京城(現在のソウル)帝国大学在学中に終戦を迎える。52年、中国新聞社に入社。編集委員、編集局長などを経て、中国放送(RCC)社長に。91年から2期8年、広島市長を務めた。著書に「偏見と差別」(未来社)、「無援の海峡―ヒロシマの声、被爆朝鮮人の声」(影書房)、「希望のヒロシマ」(岩波新書)など。

 (総選挙の)結果は大変びっくりしましたね。高市さんが勝ったというよりはむしろ、リベラルと言うか中道改革連合が一人負けした。得票数を見たら、自民党の投票数も、公明・立憲民主の票数も前回からそんなに変わっていない。ただ、今の選挙制度の中であれだけの大敗をしたんです。

2026年2月8日投開票の衆議院選挙で中道改革連合が惨敗した。俯いた表情の野田佳彦(左)と斉藤鉄夫(右)の寮共同代表
2026年2月8日投開票の衆議院選挙で中道改革連合が惨敗した。俯いた表情の野田佳彦(左)と斉藤鉄夫(右)の寮共同代表写真:つのだよしお/アフロ

 なぜこうなったかを考えなければいけない。私なりに考えたのは、長い保守政権の、いわゆる国民教育と言うか「洗脳」がようやく行き届いてきたのではないか。戦後ずっと、日本の保守政治は教育に手を突っ込んできた。私は、平和への道を開くのも、あるいは戦争への道を辿るのも、教育とマスコミだと思っています。

支配されることを苦痛に思わない人たち

 まず保守勢力は教育に手を突っ込んできた。君が代問題、それから、修正主義の歴史観によって教科書を変えていこうという。それが顕著に目立ってきたのが、安倍政権の前の時代ですけど、「侵略」を「進出」と書き換えるとか細かい指導を教科書検定でやってきた。それによって、若い人たちの歴史観を変えていこうと。それがようやく実ってきたんじゃないか。

 民主主義国であろうと、専制主義国であろうと、支配する側と支配される側がある。格差社会が広がって、若い人たち、実は支配される側が、支配されることを苦痛に思わなくなった。それは教育のせいだという気がします。その結果、支配されることをなんとも思わず、むしろ強い人を求める。それで、高市さんの威勢のいい言葉に惹かれていったんじゃないだろうか。

 高市さんが自民党総裁になったとき、取材で何を期待しますかと聞かれました。私は「期待はしない、むしろ不安が先に立つ」と言った。一つは外交問題、中国の問題です。もう一つはメディアに対する抑圧・弾圧というか脅迫が強まるだろうと。もう一つは、弱い人に対する心配りがないので、おそらく弱者が切り捨てられる政治が起こるんじゃないかと。その三つを言ったんですね。

2025年10月4日、自民党総裁選で新総裁に選出された高市早苗氏。女性初の自民党総裁で、その後の首班指名で女性初の総理大臣となった
2025年10月4日、自民党総裁選で新総裁に選出された高市早苗氏。女性初の自民党総裁で、その後の首班指名で女性初の総理大臣となった写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 最初の一つはすぐに当たりましたね。取り消せばなんともなかったんですが、取り消さなかった。右翼の支持を繋ぎ止めたいばかりに、台湾有事を言い続けた。高市さんの言う外交は、ただアメリカに追随していく。3月にはトランプと会うでしょうから、そこで大きな荷物を背負わされることになると思います。それは軍事費の増大ですね。おそらく高市さんが考えているのは軍事国家を作ろうということだと思いますよ。

トマホークに核を積むために

 なぜ中国の人とこんなに仲が悪くなったか。1972年の日中共同宣言で言ったのは三つあって、一つは中国大陸の唯一合法政府は中華人民共和国であるということ。裏を返せば、台湾の問題は内政問題だということです。それから、2番目は日本に対する賠償請求権を放棄した。みなさんあんまりそれを知らないんですね。賠償請求をされたら日本は大変困った状態になったが、中国は請求権を放棄している。3つ目は、これからの問題は平和的に解決していきましょうということ。戦争はしませんということを宣言でやった。

2025年11月18日、東京都港区の中国大使館前で警備にあたる警察官。台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁後、日中間には緊張が走った
2025年11月18日、東京都港区の中国大使館前で警備にあたる警察官。台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁後、日中間には緊張が走った写真:ロイター/アフロ

 それが確定したのが日中平和条約ですけど、とにかくそれが共同宣言の精神ですから、私たちは、賠償は求めないということを思い出さなきゃいけない。本来は仲の悪くなる要素はない。それを悪くして言ったのは安倍政権ですし、アメリカはとにかくなんとかして中国を抑えたい。そのためには日本を使おうということだったんでしょう。

 安倍さんは辞めてからですけど、台湾有事を言い立てて兵器を買い、軍事力を高めた。与那国島に基地を作り、それから毎年、宮古島、石垣島と南西諸島の基地化が進んでいるわけですが、基地へ配備するのはトマホークです。トマホークは核が積める。これを南西諸島に配備するということは、攻撃することをある程度予想している。

 2022年に岸田政権が安保三文書を改定しました。そこでは、中国を敵視する、と。つまり敵基地攻撃という概念を持ち出し、専守防衛からいわゆる戦争をできる国に道を開いたのは岸田さんだと思う。そのことについて、広島は非常に鈍感だった。広島選出の政治家がああ言うことをやったときに、広島は怒らなかった。そして2023年のG7広島サミットで「広島ビジョン」が出されて、日本が核抑止力を認めるということになった。

G7広島サミットが行われた期間、G7首脳らの警備のため、広島の平和記念公園の外周は封鎖された(2016年5月22日、広島市中区、宮崎園子撮影)
G7広島サミットが行われた期間、G7首脳らの警備のため、広島の平和記念公園の外周は封鎖された(2016年5月22日、広島市中区、宮崎園子撮影)

 つまり、核武装を念頭に置いて、「広島ビジョン」ができた。トマホークを買う交渉は安倍さんの時代からアメリカとやってたんですけど、買っても核を積めなければ意味がないですから、核を積むためには、日本が核武装するきっかけを作らなければいけない。それが、G7広島サミットにおける核抑止力の容認だった。それによって拍車がかかって、沖縄の基地化が進んだとみている。

あっという間にムードが作られた

 それを受け継いでやっている高市さんが勝った意味は、強権によって抵抗することを忘れるというか、支配されることに慣れきった若年層の動向が大きかった。高市推しと言うか、いわゆる人気投票ですね。私を選ぶのかどうなのかと提起した。そのとき、中道側からは野田さんが出た。

 野田さんの顔じゃとても勝てない。顔で言うのはおかしいという正論もありますけど、選挙というのはムードを作っていかなきゃいけない。高市さんはムードを生み出すことによって今までと違う自民党を出してきた。反対する側は、それに対抗する清新な顔を出すべきだった。

 政治に関心ない人は、パッと見て高市さんを選ぶでしょう。若い人は特にそうだと思います。おじさんの顔を見たら嫌だなあというのは年寄りの私がいうのもおかしいですが、野田さんを見て、総理になってもらおうと思う人はいないと思います。民主党時代に失敗していますから。若い人にはその印象は残っていないと思いますけれども、やっぱり女性であるということ。そして新しい顔であるということ。政策とかは関係ない。見た目で野党側は敗北したと思わざるを得ません。これは選挙戦術の問題で、いくら正論を言っても選挙戦術のまずさが表れた選挙だった。

衆議院選挙の投開票日、当選が伝えられた候補者の名前に花をつける自民党の高市早苗総裁。2026年2月8日、東京・自民党本部
衆議院選挙の投開票日、当選が伝えられた候補者の名前に花をつける自民党の高市早苗総裁。2026年2月8日、東京・自民党本部写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 そこを利用したのが高市さんで、短期間にあっという間に自分たちのムードを作った。ムードを作った方が勝つというのは、今までどの選挙を見ても、小泉さんもそうでした。

 高市政権で心配なことはたくさんあります。一番怖いのはスパイ防止法です。スパイ防止法というのは、安全保障に関わる情報を漏らしたりすると、そのことについて国家の牽制が入ってくる。安全保障に関わる情報ってなんでも因縁つけられるわけですね。例えば今みたいに中国寄りの発言をしたら、あれは中国の回し者ではないか、敵ではないか、スパイ防止法に引っかかる、となる。これが成立するとマスコミは引かざるを得ない。なんでもかんでも敵に利する情報となるから批判ができなくなる。そういう意味ではスパイ防止法は絶対に防がないといけない。戦前の治安維持法とよく似ています。国民の声を押さえつけ、そして軍事国家を完成させようと。最終的には憲法改正ということでしょうけど、そんなことをしなくてもスパイ防止法ができれば完全に政府の思うままになります。

思いを語る平岡敬さん(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)
思いを語る平岡敬さん(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)

首相動静に連日新聞放送のトップが

 これから一体どうすればいいか。今の政権を止める役割を果たすのはマスコミ、特に新聞だろうと思います。放送は、高市さんが総務大臣時代に電波止めるぞと脅しましたよね。それで今でも放送関係者はびびっていると思います。ですが、新聞も実はびびっている。びびっているというのは消費税の問題です。軽減税率ですね。国民の前で説明できないんですよ。なんで自分たちは特権を持ってるのか。

 安倍政権のとき、(新聞紙面の)「首相動静」を見たら、毎日のように新聞放送のトップが総理と飯を食っている。こういうことはかつてはなかった。あんなに毎日首相動静に出てくると思わなかった。マスコミは完全に丸め込まれた。その最たるものが軽減税率だと思います。新聞だけは特別扱いされた。そういう弱みがいまだにずっとある。私は抵抗できるのは新聞だけだと思っていますけど、新聞自体もそういう弱みを握られている。

 戦前、抵抗をした記者、新聞社もあったんですが、最終的には国の言いなりにならざるを得なかった。紙の統制もありますし、経営者側も、森(恭三)さんという朝日新聞の人の回想録を読みますと、従業員の生活を守るためには政府の言うことを聞かざるを得なかったという弁解をしています。そういう弁解を戦後もずっと繰り返してきた。まだ大丈夫だろう、まだ大丈夫だろうと一歩ずつやってきて、今日のような状況が生まれてきた。

「戦争反対」というより「ママ戦争止めてくるわ」

 ここで頑張らきゃいけない。国会が歯止めが効かないなら、もうマスコミしかない。SNSは金によっていくらでも動きますから、結局どれだけマスコミがブレーキをかけられるか、その覚悟は(記者)一人ひとりに問われると思います。経営者じゃないからそんな気楽なことを、と思われるかもしれないですが、みんなその時代時代に悩んで、抵抗してきている。そして、その中で言い訳をしながらずるずると下がってきている。しかしもう下がれません。戦争をしたくなくても戦争が起こる可能性がある。

X(旧ツイッター)で話題になった「ママ、戦争止めてくるわ」の投稿。780万以上のインプレッションがある
X(旧ツイッター)で話題になった「ママ、戦争止めてくるわ」の投稿。780万以上のインプレッションがある

 SNSで広がった、「ママ戦争止めてくるわ」というあのフレーズがすごく共感を呼んでいるという、こういう感覚を我々(マスコミ)が取り戻さないといけない。「戦争反対」というより「ママ戦争止めてくるわ」と。いくら正論を言っても、難しいことを言ったら受け付けられない。とにかくもっと分かりやすい言葉で反対をいうことが、これから期待されるんじゃないかと思います。

 要するに、支配される側と支配する側の構図の中で、支配されることを苦痛と思わない人間がたくさん生まれているが、そうじゃなくて、支配されることがいやなんだという人間を増やしていかないといけない。

 この選挙で思ったのは、たとえば高市さんがNHKの日曜討論をすっぽかした。これについて、徹底的に批判しないといけなかったが批判していない。通り一遍に事実は報道していますが、選挙という大事なときにその人の思想、政策、考え方を聞くのに大事な討論会をすっぽかしたのは大変なこと。言論を軽視している。それを徹底的に批判しなきゃいけない。それをしなかったですね。こういうところがずるずると今日のような事態を招いた。それだけに、これから新聞の使命というのは大変重くなってくると思います。

日本は戦争ができない国なんだ

 やっぱり広島はね、長崎も沖縄もそうですけど、ひどい目に遭ったわけです。そのことを伝えていく、言い続けるしかない。私はアメリカの原爆投下責任を追及すべきだと言っているんですが、要するに、こういうひどい目にあったんですよ、という。戦争というのはドンパチだけじゃなくて、餓えです。日本は戦争ができない国だということをみなさん知らないといけない。

京城帝大時代の平岡敬さん。朝鮮半島で終戦を迎えた(後列中央、本人提供)
京城帝大時代の平岡敬さん。朝鮮半島で終戦を迎えた(後列中央、本人提供)

 この間のコメで大騒動になりましたね。日本は食糧が自給できない。カロリーベースで38か39パーセント。カロリーベースですから、実態ではもっと自給できない。そういう国です。それからエネルギーがない。石油は全部他から入れなければならない。さらに原発が50数基、海岸に並んでいる。こんな国が戦争ができるわけがない。してはならない。そのことをもっとリアルに国民に言うべきだと思いますね。そういうことを抜きにして勇ましいことを言うだけで、自分たちの足元を見なきゃいけない。

 自分たちの足元を見るというのは、大変つらいことですよ。日本というのは、今、一人当たりGDPは韓国にも抜かれているし、30何番目ですかね。そういう実態を知らないといけない。なぜそうなったか。それはこれだけ続いた自民党政治です。そしてこんな国になっちゃった。その責任を問わずに、ただ高市を持ち上げているだけでは回復しない。

 歴史を学ぶことが大事です。日本はどうして間違ったのか、なぜ中国とあんなに仲が悪くなっているのか、歴史を振り返ってもういっぺん勉強しないといけない。日本は十五年戦争というか太平洋戦争というか、要するに満州事変からずっと中国と戦ってきている。そして日本人はアメリカとイギリスには負けたけれども、中国には負けたと思ってない。ほとんどの人が。中国と戦争したということすら意識の外にある。

 実はイギリスとアメリカとの戦争に至ったのも、実は中国と戦争をした行き詰まりからなので、最初の中国への侵略というか満州国を作ったという、そこが間違っていた。そこを誰も止めなかった。もちろんマスコミも国民もみんな囃した。

 今、そういう状況になりかねない。高市さんを囃す。すると、高市さんますます強いことを言わざるを得ない。言えばいうほど、支持率が上がる。そういう状況がある。そこをきちんと嗜める、本来は、野党がやるべきですが、野党が今はもうあれだけの焼け野原になっちゃったからそれは言えない。そうするとやっぱりマスコミしかないと思いますね。マスコミが市民の声を作っていくしかないと思います。

兵隊同士が殺し合って人肉を食べた、それが戦争

 歴史を学んで、戦争体験と戦争の記憶を引き継ぐ試みを広げていかなきゃいけない。それが、広島・長崎であり、沖縄。だけど、戦争体験というのは日本人がみんなやっているわけです。その最たるものが、飢えです。食べるものがなくなった。そのときに人間がどれだけ理性を失って変なことをするか、そういう飢えの感覚を伝えていかないといけない。

朝鮮半島で終戦を迎えた平岡敬さん。原爆投下の翌月、ふるさと広島に戻ると焼け野原が広がっていた(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)
朝鮮半島で終戦を迎えた平岡敬さん。原爆投下の翌月、ふるさと広島に戻ると焼け野原が広がっていた(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)

 私が飢えで思い出すのは、ニューギニアやフィリピンで、飢えた兵隊同士が殺し合って、その肉を食ったという事実があるわけですね。人肉を食う、そんな悲惨なことまでやっている。やはりこれが戦争の残酷さなんです。飢えが人間を狂わす。今は飽食で、若い人たちはわからないと思いますけど、人間が人間の理性を失ってしまう、政府の言うことをなんでもやってしまう。そして人殺しをなんとも思わない。世界中そういうことが行われている。

 やっぱり教育でしょうね。教育をきちっと、人間の尊厳とか大切さと言うことを教えていかなきゃいけないけど、それが損なわれつつあるのが今の日本じゃないですか。人間の尊厳というのは憲法できちっと保障されているけど、その憲法すら蔑ろにしていこうという勢力がある。それに対して、私たちは立ち向かっていかなければならない。

「今だけ、自分だけ、金だけ」の時代に

 (マスコミの)現場の人はしんどいと思いますよ。どうすればいいか。一つは孤立を恐れずという。一人でやるんだと。自分一人で覚悟を決めるしかないと思いますね。それじゃなかったら辞めるしかない。結局新聞記者っていうのは、筆を折るか、言う通りに書くか、あるいは仕事を辞めるか、それしかない。そういう悩みは私にもあった。自分の思いと違うことをやらなきゃいけないことがある。その時にやっぱり自分に言い聞かせているわけですね。それを励ましてくれるのが、本当は怒りなんです。何に対して怒るか。

中国新聞記者時代の平岡敬さん(本人提供)
中国新聞記者時代の平岡敬さん(本人提供)

 私は国家に対してものすごく怒りを持っています。戦後の引き揚げ体験がありますから。国というものは庶民を見捨てる。その見捨てられたんだという思いがあって、それに対する怒りはある。青臭い言い方かもわかりませんけれども、理不尽なことに対しての怒りがマスコミには一番必要だと思うんですね。弱い人がいじめられている。それを今はその弱い人の方に責任があるんだという。自己責任。そうじゃなくて社会全体でそういう人たちを救っていく。

 年を取ると怒りの表現も変わってくる。自分の書いた文章を見たらわかりますよ。若い時の文章はすごく感情的でばーっと怒りをぶつけている。今ごろは書く文章はやおい(柔らかい)。自分の感受性が鈍ったというか変わってきたんでしょう。私はとにかく理不尽なこと、理が通らないことに対しては、素直に怒っていくというとが一番大事じゃないかなという気がします。

 失われた30年に格差社会ができる中で「今だけ、自分だけ、金だけ」という人が増えた。この人たちは支配されることが苦痛と思わない。戦争中と一緒。みんなが、非国民だ非国民だ、と言ったら従わざるを得なくなるから、みんな体制を見てそちらになびく。地道にそれは間違いですよと言い続けるしかない。

怒りや不安を可視化するのがマスコミ

 中道が敗れた原因の一つは、さっき言ったイメージの問題もあるけれども、やっぱり変節したことですね。間違いでしたね。たしかに日米同盟でアメリカに抱きしめられていますけども、その中で、基地に対して反対だと言い続けなきゃダメですよね。これは広島の問題でもある。言い続けていく。忘れちゃダメなんだと。マスコミは、そういう言い続けることをバックアップしていく。それが政治的なリーダーに結びつくかどうかはこれからの課題でしょうから、そういう思いを東京に、あるいはアメリカに届けてくれるリーダーを選んで行くという啓発活動を地道にやっていくしかないと思いますよね。怒りや不安を掘り起こし、顕在化・可視化していくことが、(マスコミの)役目だろうと思います。

 昔から言ってる人間が言ったって、「またおんなじこと言ってるわ」となるが、若い人たちがそういう声を上げていく。しかも分かりやすい、子どもにもわかるような言葉をどうやって発見していくか。これは大事だという気がします。

2025年10月28日、高市早苗首相は来日したトランプ米大統領とともに横須賀基地を視察した
2025年10月28日、高市早苗首相は来日したトランプ米大統領とともに横須賀基地を視察した写真:ロイター/アフロ

 まあ、日本はアメリカにとにかく抱きしめられているわけだからね。その中にはマスコミも入っているわけです。その戦後ずっとマスコミ支配はやってたでしょう。対米独立しかないんですよ。本当は。難しいことだけど、精神的にもきちっとアメリから離れていかなきゃいけない。アメリカに頼っていればこれでいいんだというのが、あの戦後の日本の政治、あるいは官僚の考え方でしたが、それは間違いなんだということ。自分たちの頭で考える、そしてアメリカ一辺倒から脱していく。それには中国と仲良くすることによって、両天秤でやっていくしかない。勇ましいことを言ったってとてもできるわけがない。

 それぞれの持ち場で頑張るしかない。平和っていうのはそんなに難しいことではなくて、今の穏やかな生活をさらに良くしていく。そのためには声を上げるしかない。声を上げる場所がだんだんなくなっているけど、声を上げていく広場を作っていくしかない。本当を言えばマスコミの役割ですが、投書欄を見ればわかるでしょう。いわゆる偏向とされる投書は絶対に載らない。残念ながら。だけど本当を言えば政治的な意見がもっと載らなきゃいけない。でもそれをやると政治的に偏向していると言われることを恐われる。

客観・中立なんてなくていいのでは

 マスコミは、とにかく客観的で中立であるべきだとが刷り込まれてきた。だけどもう今そんなことなくていいんじゃないですか。まあ読売が自民党をやるなら、朝日は本来なら野党的な報道をしなきゃいけない。そういった党派性がむしろメディアに求められてるんじゃないですか。アメリカの新聞なんか全部党派性ありますよね。そうすると自分の好きな新聞を取れるわけですから。新聞はこれからどんどん減っていく。だからこそ、熱烈な支持者のために、そういうものを作っていく方がいいんじゃないかなという気がする。

 私の偏見かもわからんけど、今のSNSの情報はオールドメディアからの受け売りが多い。SNSだったら個人的なあの繋がりができたような気がする。それが若い人の心を掴むのかなという気がする。新聞も読まないテレビに見ない人が社会に繋がっていくにはSNSしかない。安いですから。新聞が高いですからね。NHKは金取られる。

 私たちがこうやって生きて、社会活動をやってるのは、どういう社会を作りたいか。これをはっきり提示していかないといけない。高市さんは軍事国家を作りたいというんでしょう。おそらく。口には出してませんけど、やってることはまさしくそうなので。そうじゃなくて、私たちはこんな社会を作りたいんだということを、メディアを通じてもそうだけど、個人個人がもっと言うべきだと思う。

平岡敬さん(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)
平岡敬さん(2026年2月15日、広島市中区、宮崎園子撮影)

その先にどんな社会を目指すのか

 私たち一般の庶民の願っていることっていうのはなんでもないんですよ。安心して暮らせる、そういう社会を作るんだということを具体的にもっと出してく。軍事国家に対峙するような社会を、我々(マスコミ)は提示していなきゃいけない。それが唯一の対抗軸だろうと思いますよ。高市さんに投票した人が全部軍事国家に賛成しているかというとそうじゃないと思いますね。ムードで高市政権を支えてるだけなんで。おそらく格差に悩んだりしている若い人が多いですから、その人たちが本当に安心して希望に満ちて暮らせるような社会。

 高市さんが言っているのは、「強くて豊かな日本を作ります」ばかりで具体的に何もない。私たちはもっと具体的にこういう社会作りたいんだということを提示していく必要ある。それが高市政治に対する対抗軸です。

 これは前から言ってるんですが、広島は核兵器反対を言ってるけれど、その先にどういう社会を作るかということをまず持ってないと。核兵器廃絶は何のためにやるんだろう。みんなが搾取のない幸せな生活を送れる社会を作るということが最終目標にあるわけですからね。その手段として核兵器をなくしていこうと。そういう理想的な社会像を分かりやすい言葉で提示していくことが、これからの仕事になるんじゃないかという気がします。

フリーランス記者

銀行員2年、全国紙記者19年を経て、2021年からフリーランスの取材者・執筆者。広島在住。生まれは広島。育ちは香港、アメリカ、東京など。地方都市での子育てを楽しみながら日々暮らしています。「人生再設計第一世代」。

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