作家で日本を代表するカヌーイスト、野田知佑(のだ・ともすけ)さんが2022年3月27日に84歳で亡くなった。熊本県出身、早稲田大学第一文学部卒。アウトドアやカヌー関連の著作も多数あり、国内アウトドア界の草分け的存在だった。愛犬ガクとともにカヌーに乗り、インスタントラーメンのCMに出演したことも。
愛犬ガクと野田さん(鹿児島・川内川 1992年)

 国内外の川を愛し、30年ほど前に鹿児島でも約10年間暮らした。野田さんと一緒にユーコン川を下るなど親交のあった落語家・林家彦いち(鹿児島県出身)に、思い出や野田さんから学んだことを聞いた。
野田知佑さん(鹿児島・川内川 1992年)

(林家彦いち)
「野田さんも高齢だったこともあって、もう一回みんなで遊びに行こうとは言っていたんですけど、うーん、結局それが叶わぬままというところがちょっと・・・心残りですかね。」
落語家 林家彦いち
「ただ、野田さん自身は、好きなことを好きなようにやった人なので、笑っているんじゃないですかね。『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ』て、いつもこういう笑い方をしていたんですけど(笑)。アニメや落語の中にもなかなか登場しない、い~い笑い方だったので、今後は第三の人物として落語に登場させたいなと。『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ』て。八つぁん、熊さん、ご隠居さん、甚兵衛さん以外で、「野田さん」ていうのを入れたいなと。」


【林家 彦いち】1969年鹿児島生まれ。1989年初代木久蔵に入門、2002年真打。2003年に野田知佑さんや作家の夢枕獏さんらと一緒にカナダ・ユーコン川をカヌーで300キロ下る旅をした。他にシルクロード砂漠旅や、標高5,000メートルを超えるエベレストベースキャンプへの旅など、アウトドア落語家の異名を持つ。春風亭昇太、三遊亭白鳥、柳家喬太郎とSWA(創作話芸アソシエーション)を結成し活動中。

◆彦いちさんから見た野田さんは?

(彦いち)「大先輩ですし、アウトドアのレジェンドなので、ひとくくりに僕が言えた立場じゃないんですけど、僕が知る側面では、とにかく中高生時代から野田さんの文章を読んでいて。当時はアウトドアとか野営とかっていうのが、どうしてもボーイスカウト的なものとしてあったんですけど。そうじゃなくて外遊びを自由にしているとことがすごくワクワクしました。
 ある時ご一緒することがありまして。仲間の輪の中に入れて頂いたっていう感じですかね。で、『おい、彦さん、行くぞ。カナダに行くぞ』って。」


◆「カナダ先に行くけど、財布忘れたから持ってきて」

(彦いち)「野田さんから、『カナダに先に行くけど、財布を忘れたんで持ってきてくれ』っていう電話がかかってきて。忘れた財布を預かって持っていくんですけど、野田さんが住んでた徳島の図書館のカードとか入ってまして、『それも持ってきてくれ』って。そんなのユーコン川でどんな役に立つのか分からないですけど、言うことは絶対なので(笑)。レジェンドの言うことは絶対なので、図書館のカードが入った財布を持って、カナダに追いかけて行った記憶がありますね。いまだに謎ですね(笑)。
2003年ユーコン川 彦いちと野田さん

◆カナダ・ユーコン川300キロ、カヌーで下る

(彦いち)「僕なんか一歩踏み出すだけでドキドキしているんですけど、野田さんは自分のフィールドみたいな感じでのびのびと。カヌーで下った流域は、グリズリー(クマ)のいるところではあるんですけど、夜はクマのおそろしい話をたくさん聞かせて、人を脅かして安心して自分は寝るっていう。
 いつまでも…大きなアニキではあるんですけど、ちょっと上のアニキな感じもするし…なんて言うのかなあ…とにかく面白かったですね。クマの足跡を野田さんが自分でせっせせっせと作って、僕は作っているの知ってるんですけど、『でっかい足跡があるぞ』と言ってきたり。父親が子どもになにか教えているような、からかっているような様子もあって(笑)。
「でっかい足跡があるぞ」