佐世保から全国へ
【予告】40歳から飛躍。ジャパネット髙田明の目標を持たない人生
2015/12/5
各界にパラダイムシフトを起こしてきたイノベーターたちは、どのような人生を送ってきたのか? 甲高い声と大きなアクションで視聴者を引きつけ、テレビショッピング番組でさまざまな商品を紹介するジャパネットたかた創業者の髙田明氏。家業のカメラ屋からスタートし、長崎県佐世保市で独立。「目標を持たない」生き方で年商1500億円(2014年度)の企業を築き上げた。成功の秘訣とユニークな半生を追う。全15話を毎日連続で公開。
テクニックでは伝わらない
テレビショッピングの放送が回を重ねるにしたがって、私の語り口が注目されるようになりました。
佐世保弁や甲高い声がユニークなようですね。
僕の一人語りのスタイルはどうやってできたかと言いますと、まったくの自己流です。
テクニックでは伝わりません。言葉だけでは伝わりません。やっぱり心なのです。
商品について説明する内容にしても、私は機能やスペックではなく──。
先を見ない
僕はあまり先を見て生きていません。昔から、目標を持たないし、こういう人に絶対になりたいというのもない。これを実現するために、このルートで行かないとダメだ、という考え方はしないのです。
それが経営者としては珍しいのか、「目標を持たない経営戦略」と雑誌でタイトルをつけられたほどです。
あまり先のことを考えてもわからないし、今を生きるのが一番いいと思っています。
ホテルの宴会場で写真を撮る
僕の兄、弟、妹は全員、写真の専門学校に行っています。ちょうど白黒写真からカラー写真になる頃で、「カラーの現像所をつくろう」と父が言いました。
ホテルの宴会場で宿泊客のスナップ写真を撮り、それを夜中に現像して、翌朝、ホテルに展示して宿泊客に販売する。そういうビジネスを始めていたのです。
僕は平戸に帰ってその仕事を手伝い、1週間ほどスナップ写真を撮っていたら、面白くてハマりました。
観光客のスナップ写真をホテルで撮るという仕事を25歳から始めて、40歳まで続けることになります──。
全国の消費動向を蓄積
夜中に現像し、翌朝6時にはホテルの朝食会場に展示しました。そうすると、みなさん、よく買ってくださるからです。
そのときに学んだことで面白かったのは、どういう団体さんに買っていただけるかです。
職種によって、よく買ってくださる方、なかなか厳しい方など違いがありました。地区による傾向もあります。
全国の方の消費動向、職業や年齢による傾向が、十数年の間に全部自分の中にインプットされました。知らず知らずのうちに蓄積されていって、今のビジネスに役立っていますね──。
カメラの次はビデオカメラ
1986年に分離独立し、株式会社たかたを設立します。
もともとカメラの販売もしていましたが、ビデオカメラが市場に出てきて、次はビデオカメラを売ろうと考えました。
ちょうどソニーの8ミリビデオカメラ「ハンディカム」が発売された頃です。
撮ったテープをテレビにつなげば、すぐに見られる。これはすごいなと驚いて、ソニーさんに駆け込んで、うちで商品を扱わせてほしいと頼みました。
すると、「実績がないのでソニーショップにはできないが、まずは特約店から」ということでソニー商品の取り扱いが始まりました。
うちはカメラ屋で、お客様と接していたので、どの家に子どもがいるといった情報を知っていますから、「ハンディカム」の訪問販売をどんどんしました。
買っていただくまでは、犬に吠えられても、ドアを開けてもらえなくても、3回、4回と訪問する。
数カ月で19万8000円の「ハンディカム」が100台売れて、九州のソニー取り扱い店で2番目の売り上げになりました──。
ラジオショッピングに挑戦
店を改装したとき、テレビでコマーシャルを流そうと考えたのですが、お金がなかったので、ラジオでコマーシャルを流しました。
1990年には、地元長崎のラジオ局NBC長崎放送さんで、ラジオショッピングに挑戦し、5分しゃべっただけで、1万9800円のコンパクトカメラが50台売れました。
長崎県内でできるのであれば、全国でもできるのでは? と思った。ラジオでの戦いの始まりです。
年に2回のラジオショッピング番組が、月1回に、月1回が週1回に、週1回が週2回に……と放送枠が増えていって、北海道から沖縄まで全国のラジオ局のネットワークができていきました。
気づくと、ラジオショッピングの年間売り上げが60億円になっていました──。
テレビショッピングを開始
次はテレビのほうでやってみようか。それで1994年にテレビショッピングを始めます。
しかし、キー局は全然振り向いてもらえません。
ラジオショッピングでの実績をアピールしても、「佐世保の会社です」と言ったら、また「え?」という感じです。
自社スタジオをつくる
番組の制作は当初、東京や福岡、長崎の制作会社に依頼し、外注していました。
放送回数が年間10回から100回、200回と増えていくにつれて、制作コストが負担になっていきます。
収録のために東京や福岡、長崎の制作会社に行くのも時間がかかります。
何より収録から放送までに1カ月以上かかってしまうのが、最大の課題でした。
たとえば、パソコンなんて3カ月に1回新しい商品に変わっていきますから、番組を外注していたらスピードが遅すぎます。
そこで、自社スタジオをつくって、自分たちで番組を制作しようと決めました。
「技術者なんていないし、カメラマンも一人前になるのに10年かかるのに、スタジオだけつくっても人は鍛えられない」と反対する人もいました。
でも、僕はどうにかなるだろうと思って、さっさとスタジオをつくり始めました。
つくりながら人をどうするかを考えるのです──。
なぜ「ジャパネット」なのか
社名を「ジャパネットたかた」に統一しました。「ジャパネット」をつけた経緯をお話しましょう。
ラジオで言いやすい社名にしようとプロの方に頼みました。
候補を50個ぐらい持ってこられたのですが、全部気に入らなくて、「髙田さん、どんな名前がいいんですか」と聞かれて、「いやあ、全国ネットにしたいから、極端なことを言えば、『全国ネット』という名前でもいいんですよ。ちょっとカッコ悪いですけど」と言ったら──。
次に、社名を歌で覚えてもらおうとプロの方に頼みました。
さらに、踊りもつくろうという話になり、CGの専門家の方に踊りの振り付けをつくってもらいました。
ロゴマークをつくって、社名を考えて、歌をつくって、踊りをつけて……。
あとからマーケティングの本を読んだら、やっぱりロゴや社名、歌ってすごく大事な要素なんですね──。
顧客情報流出事件の芽
2004年3月9日、51万人分の顧客情報が流出する事件が起きました。
ジャパネットたかたの元社員2人によるものでした。
販売自粛は同年4月24日まで50日間、続けました。
その間の機会損失は約150億円になります。当時の年間売り上げの2割です。
それでも、当社の過ちを認めてお客様にお詫びするという選択以外、考えられませんでした。
社業を停止した期間に、これまでずっと増収増益だった会社のどこに事件の芽が潜んでいたのか、振り返りました──。
2013年は「覚悟の年」
2013年1月に「今年、過去最高益を達成しなかったら、私は社長を辞めます」と宣言しました。
2010年にジャパネットたかたは過去最高の年間売上高を記録し、テレビ関連(テレビ、テレビ台、レコーダーなど)の売り上げが6割を占めていました。
これは、家電エコポイント制度の終了が2011年3月、地上デジタルテレビ放送への移行が2011年7月に控えていたため。いわば、利益を先取りしたわけです。
その反動で、2011年、2012年と連続して売り上げが減少し、2年間で3割以上、経常利益は5割近くも落ちたのです。
原因は、やはりテレビです──。
社長を辞める
社員のこうした奮闘によって、2013年は過去最高益を達成しました。売上高1423億円、経常利益154億円。続いて2014年は、売上高1538億円、経常利益は174億円。ジャパネットたかたは復活しました。
2014年1月、あらためて「2年以内に社長を辞める」と宣言し、2015年1月15日付で社長を辞めたのです。
私の父親が91歳で亡くなった翌日でした──。
現在、ジャパネットたかたは長男の旭人が社長を務めています。
今後、何をやるかは全然決めていません。今しか考えませんから。
これからは、ひょっとしたら──。
連載「イノベーターズ・ライフ」をお楽しみに。本日、第1話を公開します(有料)。
【第1話】髙田明の原点。写真好きの父、『三丁目の夕日』の世界
*目次
【第1話】髙田明の原点。写真好きの父、『三丁目の夕日』の世界
【第2話】髙田明、芝居と歌に夢中の少年時代。「役者になりたかった」
【第3話】髙田明、英語漬けの大学生活。外国人と話すために大阪万博に通う
【第4話】髙田明、英語を使える会社に就職。「今を生きることに集中」
【第5話】髙田明、故郷でカメラ屋を手伝う。40歳まで観光客の写真を撮る
【第6話】髙田明、フィルムを集める。大手との価格競争に2つの武器で戦う
【第7話】髙田明、独立。ラジオショッピングに挑戦して売り上げ60億円
【第8話】髙田明、次はテレビショッピングに挑戦。自社スタジオをつくる
【第9話】髙田明はなぜ甲高い声なのか。「伝えるために一番大切なこと」
【第10話】「商品をただ紹介するのは面白くない」髙田明のミッションとは
【第11話】髙田明が明かす社名「ジャパネット」の意味、歌と踊りの秘密
【第12話】元社員による顧客情報流出事件。髙田明の決断、事件の原因分析
【第13話】髙田明の信念「ジャパネットは物流とコールセンターも自前主義」
【第14話】髙田明の宣言「過去最高益を達成しなかったら、社長を辞めます」
【最終話】ジャパネット復活、社長辞任と長男への期待、髙田明の「初心」
(撮影:諸石 信)