「アクリル樹脂」撤退・生産削減相次ぐ、大手化学が構造改革に乗り出した背景事情
大手化学メーカーがアクリル樹脂原料「MMAモノマー」やアクリル樹脂「PMMA」の構造改革に乗り出している。各社はグローバルでの事業環境の変化を捉え、事業撤退や生産能力の削減を通じて体制の最適化を図る。一方、中長期的には強みを生かした取り組みで差別化を狙う。ケミカルリサイクル(CR)などの環境対応技術を訴求し、付加価値向上につなげる。(山岸渉)
MMAは自動車のランプカバーや塗料、建材などに使われるアクリル樹脂の原料。アクリル樹脂は透明性や耐候性、加工性に優れており、さらにリサイクル性も高い。日常生活の中でも身近な樹脂の一つだ。
だが最近、化学各社はMMAの生産終了や能力削減といった構造改革を打ち出している。三菱ケミカルグループは、三菱ケミカルの広島事業所(広島県大竹市)でACH法のMMAモノマーやアクリロニトリル(AN)関連製品の生産終了を決めた。住友化学はシンガポールでMMAモノマーとPMMAの生産能力を大幅に削減した。旭化成も、タイにおけるANとMMA事業の撤退を決めた。
背景には国内外の需要減少に加え、中国を中心とした増産などによる供給過多で需給環境の悪化が続いていることがある。実際、住友化学ではシンガポールの生産設備で稼働率の低下が課題になっていたようだ。採算を改善する必要性が高まる中、各社が注力しているのが強みを生かした差別化の取り組みだ。
特に三菱ケミカルグループにとって、MMAモノマーは世界でトップシェアを誇るコア事業でもある。筑本学社長は「当社は世界で唯一の三つの生産技術を持ち、最も二酸化炭素(CO2)排出量の少ない技術を持つ唯一のメーカーだ」と力を込める。
例えばMMAモノマーの生産法の中で、ACH法は製造工程中に硫酸が発生するため設備の腐食が進み、設備維持のコストがかかるなどの課題があった。そこで同社はC4法に加え、環境負荷の低いアルファ法へのシフトによる競争力強化を進めていく。
一方、住友化学は戦略策定とグローバル展開を一元的に担う「MMA事業部」を2022年4月に設置した。シンガポールでの生産最適化を図りつつ、技術面の強みを生かしたアクリル樹脂の特殊品・高付加価値品分野に注力する方針を掲げる。
アクリル樹脂のCR技術ライセンスを米ルーマス・テクノロジーに供与し、協業する取り組みはその一例だ。ルーマスのエンジニアリング対応力などを活用し、幅広い顧客の開拓につなげる。今後、MMA関連のソリューションの提供を推進していく考え。
化学各社は新たな価値の創出を通じ、持続可能なMMA関連事業の形を見いだす構えだ。
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