「ペロブスカイト太陽電池」、活発化する実証実験から見えてきた実力の片鱗
次世代型太陽電池の本命として期待される「ペロブスカイト太陽電池」の特性が、全国各地で行われている実証実験を通して少しずつ見えてきた。薄くて軽いため設置が容易だったり、弱い光でも発電できたりする強みなどが明らかになっている。ペロブスカイト太陽電池は、先行する積水化学工業が量産ラインの整備を決めたほか、パナソニックホールディングス(HD)やアイシンが事業化の目標時期を前倒しして研究開発を進めており、2030年に向けて市場が立ち上がる見通し。同電池を利用して脱炭素化を推進しようとする企業や、自社のビジネスに生かそうとする企業は実証実験の状況などを踏まえ、その検討を加速させている。
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軽く設置しやすい/低照度・高温時に優位性
NTTデータがデータセンター(DC)を構える高層ビル「NTT品川TWINSビル データ棟」(東京都港区)。その外壁南面の低層階部分に、積水化学が開発した縦1m・横1mのフィルム型ペロブスカイト太陽電池が設置されていく。2024年3月中旬のことだ。1枚当たりの施工時間は1時間に満たず、1日で21枚を設置した。同社ソリューション事業本部クラウド&データセンタ事業部データセンタ統括部の小林弘樹課長代理はその作業を見て「簡単に設置できるものだな」と感じたという。
ペロブスカイト太陽電池は、フィルムを基板に発電層を形成して生産できる。それにより、現在主流のシリコン太陽電池と比べて10分の1以下の軽さを実現する。その軽さはこれまで難しかった耐荷重の小さい屋根や壁面などへの太陽電池の設置を可能にする。さらに運搬や設置が容易になり施工時間が短縮できるため、利用コストの低下につながるとも期待される。NTTデータはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現する手段として、自社のDCの壁面などにペロブスカイト太陽電池を設置していく方針。同社が進める実証実験の現場ではペロブスカイト太陽電池の軽さによる優位性が垣間見えている。
別の実証実験では、発電性能の特性も見え始めた。シリコンに比べて、弱い光(低照度)でも発電できる特性だ。YKK APは24年7-10月、秋葉原駅前広場(東京都千代田区)にガラス型ペロブスカイト太陽電池やシリコン太陽電池を搭載したトレーラーハウスを設置し、それらの発電性能を検証した。その中で天気が「晴れ」から「くもり」や「雨」に変わり、日射量が減った際の発電量の変化を比較した。その結果、シリコンに比べてペロブスカイトは減少幅が小さかったという。

YKK APは太陽電池メーカーなどと連携し、内窓として既存ビルに設置できる建材一体型太陽電池(BIPV)などについて26年度に製品化する目標を掲げている。同社の中谷卓也新規事業開拓部長は実証実験の結果について「あくまで3カ月という限られた期間のデータ」と前置きした上で「ペロブスカイト太陽電池はBIPVとして使う素材として悪くない感触がある」と実感を語る。
アイシンが本社地区の建物外壁にペロブスカイト太陽電池と軽量化したシリコン太陽電池を設置して進めている実証実験では、高温時の優位性が明らかになっている。太陽電池の変換効率は一般に電池温度が25℃の時をベースに計測されるが、晴れた日の日射が多い日中の電池温度は60-80℃程度に上昇する。そして、シリコン太陽電池は電池温度が上がるほど変換効率は下がる。一方、アイシンが研究開発するペロブスカイト太陽電池は25℃より高い温度で変換効率のピークを迎える。その後、温度の上昇に伴って変換効率は下がるものの減少幅は小さいため、60-80℃における発電量はシリコン太陽電池に比べて多くなるという。

同社先進開発部の中島淳二主席技術員は「(高温時における優位性は、)電極に使う材料などの特性も一定程度影響するが、一般にペロブスカイト太陽電池の特性と推測される」と説明する。その上で、「(低照度時における発電性能の優位性を含めると)同じ定格出力の設備を設置した場合、年間の発電量はペロブスカイト太陽電池がシリコン太陽電池の1.1-1.2倍になるのではないか」(中島主席技術員)と見通す。
周辺システムも要検証
一方、実証実験はまだ始まったばかりで、明らかになった特性はその一端に過ぎない。ペロブスカイト太陽電池の弱点として知られる寿命の短さは実環境における長期での検証が求められるし、ペロブスカイト太陽電池は毒性のある鉛を含む課題があり、その影響や対策も検証されるべきだろう。
周辺技術にも検証すべき項目がある。ペロブスカイト太陽電池の利用コストを下げるための最適な設置方法はその一つだ。前出のNTTデータによる実証実験ではアンカーボルトで設置する方法や、金属製のフレームで四方を固定する方法など、すでに3つの方法で安全性やコストなどを検証している。今後は外部企業とも連携して、さらに多様なパターンを検証してより良い方法を模索する。同社データセンタ統括部の園田岳志課長は「(利用コストを下げる上で)設置方法は重要。我々の命題として進めたい」と意気込む。
ペロブスカイト太陽電池の性能を最大限に引き出すシステムの確立も必要になる。実は、アイシンの実証実験では低照度時における有意差を示すデータはまだ得られていない。出力が小さいときの電力をうまく引き出せていないためで、出力を制御するコントローラー(最大電力点追従制御/MPPT)についてペロブスカイト太陽電池に最適化した制御方法が確立していないからだという。「今後実証を積み重ねて、制御方法を調整していく」(アイシンの中島主席技術員)方針だ。
補助率2分の1に引き上げ
社会実装に向けて着実に歩みを進めるペロブスカイト太陽電池だが、その推進は国策の様相を呈している。経済産業省は24年11月にペロブスカイト太陽電池の普及推進策「次世代型太陽電池戦略」を策定しており、国内企業による事業化を強力に後押しする構えだ。積水化学は2030年代に年1ギガワット規模を生産する体制の整備に約3100億円を投資する計画で、経産省はその2分の1程度を補助する。大企業の設備投資に対する補助事業の補助率は3分の1以内が基本とされる中で、異例の対応だ。
経産省はペロブスカイト太陽電池や洋上風力の完成品や部材に関わる生産設備の投資に対する補助事業(GXサプライチェーン構築支援事業)において、「国内に生産する製品の生産設備が存在しない」「完成品または完成品を構成する主たる部品」―など3つの条件を満たす場合に、補助率を3分の1以内から2分の1以内(中小企業などの場合は2分の1以内から3分の2以内)に引き上げる条項を設けて公募し、積水化学の事業計画を採択した。具体的な審査内容こそ明かさないが、「いち早く生産することで海外市場を獲得できる可能性がある製品として(補助率を引き上げて)後押しすべきと判断した」(経産省GXグループGX投資促進課)という。
「GXサプライチェーン構築支援事業」補助率引き上げ条件(第二回公募要領より)
① 国内のいずれにも当該製品の商用目的の生産設備が存在しない
② 完成品又は完成品を構成する主たる部品である
③ 市場投入の時期や量、性能等において国際競争力を十分に有する
経産省はこのほか、ペロブスカイト太陽電池の市場創出に向けて設置費の補助や再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT・FIP)おける優遇なども検討する。特に、市場の立ち上がり期は製品の性能が発展途上だし、価格は割高になると想定される。その中でも、PSCの利用を検討する企業は「投資した分は回収したい」(NTTデータデータセンタ統括部の佐藤光宏課長)のが本音だ。メーカーの研究開発の進展による性能の向上に期待しつつ、「(行政に)設置に対する補助金は用意してもらいたい」(同)と訴える。
ペロブスカイト太陽電池の実用化をめぐる動きは加速している。積水化学が25年度に事業化するほか、パナソニックHDは24年7月に当初28年としていた事業化の目標時期を26年に改めた。アイシンも1月に従来の30年以降から28年度中に前倒しする方針を示した。ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて実証実験を通した特性の把握や市場創出のための支援制度の検討は佳境を迎える。(葭本隆太)
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