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量産見送り・合従連衡も視野に…「パワー半導体」に急ブレーキの背景事情

量産見送り・合従連衡も視野に…「パワー半導体」に急ブレーキの背景事情

ルネサスエレクトロニクスの甲府工場

日本のパワー半導体メーカーに急ブレーキがかかっている。2023年は各社がシリコンや炭化ケイ素(SiC)のパワー半導体で増産投資を決めたものの、一転して24年は量産見送りなどが相次いだ。理由は電気自動車(EV)の成長鈍化に加え、中国勢の成長にある。EVで出遅れた国内自動車メーカーを主要顧客にする日本の半導体メーカーには逆風が吹く。(小林健人)

「量産時期は慎重に見極める必要があると考え、後ろ倒ししていく」。ルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長は24年10月に開いた同年7―9月期の決算会見でパワー半導体の量産開始の先送りを表明した。ルネサスは当初25年から甲府工場(山梨県甲斐市)でシリコン、高崎工場(群馬県高崎市)でSiCのパワー半導体量産を始める計画だったが、これを見直した。現在、甲府工場は稼働しているが「試作品の生産だ」(関係者)。

25年3月期に12年ぶりの最終赤字を見込むロームはSiCパワー半導体で28年3月期までの7年間に5100億円の投資を計画していたが、4700億―4800億円に引き下げる。このほか、25年11月から熊本県で新工場を稼働させる三菱電機や、24年12月から青森県の新工場を稼働させた富士電機もフル稼働には時間がかかりそうだ。

背景にはEVの最大市場である中国の変化が大きい。別の関係者は「ルネサスの狙いは中国市場の開拓だった。(中国での)商談の遅れが今回の決定に響いているのだろう」と分析する。中国のEV市場はプレーヤーが多かったが、淘汰(とうた)が進み、有力メーカーは比亜迪(BYD)などに絞られつつある。特にBYDは多くの部品を内製化していることで知られ、日系サプライヤーには参入が難しい。

また、中国の半導体メーカーも力をつけてきている。半導体の国産化を進める中国政府は中国EVメーカーに自国製半導体の搭載を促しているという。さらに、中国パワー半導体大手のヤンヂョウ・ヤンジエ・エレクトロニック・テクノロジーは中国での拡販のほか、日本法人を設立して日系顧客の開拓を急ぐ。日本法人のエマ・リュウ社長は「自動車向けの採用検討が進む」と明かす。

こうなると議論に上るのが合従連衡だ。経済産業省は「原則、事業規模2000億円以上」という補助金交付条件をつけ、複数社の連携を促してきた。この補助金を受け、東芝とローム、デンソーと富士電機の2陣営が生産面での連携を決めた。ただ、経産省が一層の効率化をもくろむのであれば、業界再編は不可欠だろう。メーカー同士が話を始めているとされるが、合意には乗り越えるべき課題は多い。パワー半導体は電力変換の単機能ゆえ、用途に合わせたパッケージ設計などが求められる。製造だけでなく、設計まで統合する心理的ハードルは大きい。

一方、独インフィニオン・テクノロジーズなどは大型投資を決めた。中国勢も着実に力をつける。日本勢の足踏みが続けば、先を行く欧米勢を追いかけながら中国勢の猛追を振り払うという難しい戦いを強いられる。


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日刊工業新聞 2025年02月04日

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