「H3」5号機打ち上げ成功、日本版GPS確立が加速する
30年代「みちびき」11機体制
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した大型基幹ロケット「H3」5号機の打ち上げに成功した。政府の準天頂衛星「みちびき」6号を搭載し、打ち上げから約30分後に目的の軌道に投入された。みちびきは日本版全地球測位システム(GPS)衛星であり、地球上の位置と時刻を正確に捉えられる。みちびき6号を加えて5機体制となる中、2025年度中に7機体制、30年代には11機体制にしてサービス向上を目指す。(飯田真美子)
H3打ち上げ後の記者会見で、三菱重工の五十嵐巖(いわお)防衛・宇宙セグメント宇宙事業部長は「みちびきの関係者には苦労や心配をかけた。信頼し続けてくれたことに感謝している」と語った。みちびきは当初の予定では23年に7機体制を構築するはずだった。だがH3の開発の遅れや打ち上げ失敗などの影響で計画が後ろ倒しになっていた。みちびき6号の打ち上げ成功を弾みに、7機体制の構築を急ぐ。
みちびきは現状4機体制で運用しており、他国の衛星測位システムを補完してサービスを提供している。7機体制になると国産のみちびきだけで持続測位できるようになる。今回打ち上げたみちびき6号は地球からの高度3万6000キロメートルの静止軌道に投入され、日本から見て西側の地域のサービスが強化される。25年夏ごろには本格運用に移る見込み。

みちびき6号と25年に打ち上げ予定の同5号と7号には、JAXAが開発した高精度測位システムの実証用アンテナを搭載。スマートフォンのような一般的な受信機での測位精度は、4機体制では5―10メートルの誤差だが、高精度測位システムが組み込まれた7機体制だとわずか誤差1メートルに抑えられる。内閣府みちびき担当の三上建治室長は「誤差数センチメートルの高精度な測位システムを生かしたサービスを提供する」と強調。25年度には新たに緊急・災害時の情報発信や安否確認サービスを始める。
ただ7機体制を確立しても衛星が故障した場合などは対処が難しいのが現状で、そうした状況に対応できるように冗長性の確保が重要だ。そのため30年代にも11機体制を構築すべく開発を進める。
みちびきを運んだH3は、25年度には新しい形態での打ち上げに挑戦する。一つは補助ロケットがなくメーンエンジン3基のみ搭載した「3―0形態」試験機で、大型基幹ロケットで補助ロケットがない形態を打ち上げるのは日本初。大型衛星より重量の軽い小型衛星の輸送などに適しており、打ち上げに成功すればH3の活用の幅が広がり輸送費の低コスト化も見込める。
もう一つは補助ロケット4基とメーンエンジン2基からなる「2―4形態」もH3で初めて打ち上げる。従来機で実績がある形態だが、これまでより打ち上げ能力が向上し、より重い衛星の輸送にも対応できる。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「H3ロケット5号機は準備から打ち上げまでスムーズに対応できた。こうした技術を新形態にも生かしたい」と意気込みを語った。