全国56カ所に計41万本…個人や企業が寄付した木を植える「プレゼントツリー」が花開いた理由
苗送り、山に再び木々を
「お金を払って木を植える人がいるのか」。20年前、NPO法人の環境リレーションズ研究所(東京都千代田区)の鈴木敦子理事長は周囲から冷ややかな声を浴びせられた。個人や企業が寄付した木を植える「プレゼントツリー」を始めた時だ。
反対を押し切ってスタートしてから20周年を迎えた2025年1月、全国56カ所に累計41万本を植樹した。寄付した企業は515社。鈴木理事長は「ようやく花開いた」と声を弾ませるが、表情は硬い。道半ばだからだ。
鈴木理事長は1990年代初め、大学で環境問題に目覚め、恩師に頼んで自主的にゼミを始めた。工場の公害対策を住民に説明する「合意形成」が研究テーマだ。就職先で「合意形成」担当を希望したが、かなわずに転職。99年に独立し、行政の依頼を受けて住民の声を聞き、環境政策の報告書をまとめる調査の仕事を始めた。
その調査業務で、木を伐採しても植林しない「造林未済地」の問題に出合った。木材価格が安く、山の所有者に植林する意欲が薄れていた。苗を寄贈したら森林を再生できると仮説を立て、プレゼントツリーを着想した。しかし、植樹させてくれる森が見つからず、企業からは詐欺と疑われた。「絶対に何とかする」(鈴木理事長)と記者クラブで説明し、著名人を起用した広報も展開した。すると申し込みが殺到し、「1日に何百枚もファクスが来た」(同)と反響を懐かしむ。

だが、不景気になるたびに寄付が途絶え、協定を結んだ自治体との植林の約束を果たすために奔走した。今は災害対策で関心を持った企業の申し込みが増え、植林数が急速に伸びた。しかし「造林未済地は減っていない。ゼロにすることが目標」(同)と闘争心を燃やす。粒粒辛苦によって森の再生を成し遂げるまで、満足しない。
鈴木理事長は株式会社「環境ビジネスエージェンシー」(東京都千代田区)の社長でもある。公害を取り締まる法令情報を企業に提供するのが主な事業だ。195社が同社のサービスを利用する。公害は自主的にゼミを始めた学生時代の原点であり、行動力も当時と変わらない。
【略歴】すずき・あつこ 92年学習院大法卒。03年環境リレーションズ研究所、05年環境ビジネスエージェンシーを設立。上から見下ろす目線にならないように、顔写真は上を向いた表情にこだわる。