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”カーボンネガティブ”の可能性…大崎クールジェンが実証、革新的「石炭火力発電」の現在地

”カーボンネガティブ”の可能性…大崎クールジェンが実証、革新的「石炭火力発電」の現在地

施設の中核となる酸素吹き石炭ガス化炉(中央奥)について説明する菊池社長

大崎クールジェン(広島県大崎上島町、菊池哲夫社長)は、革新的な石炭火力発電の実証で50%のバイオマス混合に成功した。酸素吹き石炭ガス化炉で石炭とバイオマスを熱分解して可燃性ガスを作り、燃焼させてタービンを回して発電する。二酸化炭素(CO2)排出量を最大で10分の1に減らせる独自のCO2分離回収技術と組み合わせれば、将来CO2吸収量が排出量を上回る「カーボンネガティブ」を実現できる可能性がある。(梶原洵子)

大崎クールジェンは酸素吹き石炭ガス化複合発電の実証を行うJパワーと中国電力の折半出資会社だ。にわかには信じられない“石炭火力でカーボンネガティブ”の可能性が見えてきた理由は、既存の石炭火力と全く異なる発電方式にある。

まず酸素吹きの石炭ガス化炉で一酸化炭素(CO)と水素の高濃度な可燃性ガスを発生させ、これを燃焼してガスタービンを回し、排熱で高温の蒸気をつくり蒸気タービンを回して発電する。「ガス化炉以外は高効率な液化天然ガス(LNG)発電と同じだ」と、大崎クールジェンの菊池社長は説明する。

特徴的なのはCO2回収のタイミングだ。一般的に排ガスからのCO2回収が考えられているが、大崎クールジェンでは発電前のガスから回収する。可燃性ガスに水蒸気を反応させ、COをCO2と水素に変換。CO2を回収し、残りの水素を発電に回す。

バイオマスを加熱処理して炭素含有量を高めたブラックペレット

このやり方は「低コストでCO2を分離回収できる」(菊池社長)。石炭のガス化からCO2回収まで高圧条件で行うため、圧力をかけてCO2を液体に溶かし込む「物理吸収法」を使えるからだ。この方法では、次の工程で液体を減圧するだけで液体からCO2を分離できる。アミンとの化学結合を利用して常圧の排ガスからCO2を回収する「化学吸収法」よりも少ないエネルギーで済む。

なお、COをCO2に変換すると可燃性のCOは減るが、水素は増える。「ガス全体のカロリーは変わらず、発電量は減少しない」(同)という。

大崎クールジェンはこれまでの実証で、可燃性ガスの約20%を使い、ガス中の90%のCO2を回収できることを確認した。将来の設備で可燃性ガスの全量を変換してCO2を回収すれば、全体のCO2排出量を最大90%削減できる。このように大幅に排出量を削減すれば、石炭の一部をバイオマスに置き換えてカーボンネガティブを狙えるというわけだ。

バイオマス混合も最大限を追求した結果、炭素含有量の高い「ブラックペレット」の50%混合に成功した。ただし、商用設備でCO2の分離回収やバイオマス混合をどこまで行うかは、事業環境や関連技術の進展次第だ。

菊池社長は「2025年度は実際の発電を想定した実証を行う」とする。CO2回収以外にも、最新の石炭火力並みの経済性やガス火力並みの発電効率、素早い出力調整が可能だと分かってきた。石炭火力はCO2排出量が多いが、石炭は調達や貯蔵がしやすい。技術革新で可能性を広げる。

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日刊工業新聞 2025年3月13日

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