J―クレジット利用のこれから、取引価格上昇も“温存”の動きのワケ
無効化量、低水準横ばい
温室効果ガス(GHG)排出量を削減した成果を取引する国の「J―クレジット制度」の取引価格が上昇している。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場では、再生可能エネルギー由来のJ―クレジットは直近で二酸化炭素(CO2)1トン当たり6600円と1年前の2倍以上に跳ね上がった。一方で、利用実績は増えていない。背景には自社の排出削減目標の達成が難しくなった場合に備えてクレジットを購入し、“温存”する動きがあるようだ。(編集委員・松木喬)

J―クレジット制度は、再生エネ発電の活用や省エネルギー設備への更新などで削減したGHG量を取引可能なクレジットとして国が認証する。クレジットを売った企業は設備投資額の一部を賄え、購入した企業は自社の排出削減量に加えることができる。
経済産業省は2023年10月、東証にJ―クレジットを取引するカーボン・クレジット市場を開設した。再生エネ由来のJ―クレジットは3000円台で取引が始まり、ジリジリと上昇して24年後半には6000円台に突入した。
設備投資による省エネ由来のJ―クレジットも、価格が上がっている。市場開設当初は1500円前後だったが、直近は3000円台後半に上昇した。市場を通さない相対取引が多いが、市場価格が目安になるため全般的にJ―クレジット価格が上がっているとみられる。
一方で、J―クレジットの利用は増えていない。排出削減に活用して効果を失った「無効化量」を見ると24年度は9月末までで34万トンとなっており、23年度実績の51万トンと同水準とみられる。過去最高だった17年度の99万トンを大きく下回る。
価格が上昇しているが、利用が増えていないのはなぜか。J―クレジット取引を仲介するカーボンフリーコンサルティング(横浜市中区)の中西武志代表は、「ガスや石油といったエネルギー会社がクレジットを購入している」と明かす。そのエネルギー会社がJ―クレジットを買っても活用せず、在庫にしている可能性がある。排出量が多い業種であるため、自社の努力だけでは削減目標達成が難しくなったタイミングで活用するためだ。
こうした“温存”は他業種に広がってもおかしくない。排出量取引制度の実施に向けた「GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法」改正案が今国会で成立すれば、26年度からCO2排出量が年10万トン以上の企業は制度への参加が義務付けられる。政府が設定する排出量の「枠」に収める手段としてJ―クレジットを使えるため、「まだまだ価格が上がる」(中西代表)と見ている。
J―クレジットを売る側の創出事業も増えている。23年度は例年の倍の130件の事業が登録。24年度も10月までに58件が登録されている。みずほリサーチ&テクノロジーズ(東京都千代田区)環境エネルギー政策チームの高浜慎太郎マネジャーは「かなりの件数であり、24年度も例年よりも多い」と話す。
とはいえ、日本のクレジット市場は小さい。東証が市場を開設した23年10月から25年1月末までの売買累計は74万トン、25億円。価格上昇によって魅力的な市場となれば、取引量も拡大するだろう。