怖くない、パワハラしない、価値観古くない。令和に活躍してほしいアップデート芸人10選
なぜ途中で離脱してしまうのか?
お笑い芸人のポッドキャストが好きで、移動中などによく聴いています。さすがにトークのプロだけあって、あるていど名の知られた芸人のポッドキャストはだいたいおもしろい。さっそくお気に入りに登録するのですが、気がつくと聴かなくなっている場合があります。ある芸人のポッドキャストは何年も聴き続けているのに、別の芸人は途中で止めてしまう。この差はいったい何なのだろうか? 私は長らく不思議に思っていました。当初は同じように「おもしろい」と感じていたはずのに、何かしらの理由で、一部の芸人のポッドキャストは聴かなくなってしまうのです。聴き手の私が気づいていないだけで、おそらく何かが決定的に違っている。ちなみにこれは、女性芸人の場合にはあまり起こらない現象で、男性でのみ発生するものでした。
そこで私は、途中で止めることなくずっと聴き続けているポッドキャストや、長らく見続けているYouTubeを挙げてみて、どんな特徴があるのだろうと考えました。その特徴がわかれば、長く付き合っていける芸人の傾向がわかり、同時に、途中で止めてしまう理由はなぜかについてのヒントが得られるかもしれないと思ったのです。こうした視点から、私が好きなコンテンツの特徴について調べてみると、しだいに傾向が明確になってきました。私が長い期間に渡ってポッドキャストやYouTubeを楽しんでいる芸人には、以下のような特徴があることがわかったのです(列挙していったら偶然10個になりましたが、別に数字としてキリのいい10個の条件を考えようと思ってむりやりひねり出したものではないです)。
長く応援できる芸人10の条件
女性蔑視、女性嫌悪がない
芸人界隈のホモソーシャルな関係性から距離を置いている
先輩後輩(芸歴)、人気度、レギュラー番組の数などの権力勾配から生じるパワハラ的なふるまいをしない
口調や話す内容に攻撃性がなく、怖さを感じない(「乱暴さ」をおもしろいものとして多用しない)
つねに機嫌がよく、優しい
男らしさをむやみに強調しない
自分の存在が、相手に無言の圧力を与えてしまう可能性を念頭に置いている(特に40代以降)
下品になりすぎない。一定の節度がある
アダルトビデオ、風俗、女性との性関係などを笑いや武勇伝にしない
コンプライアンスの必要性、時代的な要請の意味を理解している
10の条件を満たしている芸人は誰か?
上記の10点は、おもしろさに関する基準ではないのですが、条件を満たしていない芸人のトークを聴いていると、たとえおもしろいとしても、ちょっとずつ体力が削られていくというか、精神的につらい。聴いていて怖くなるし、やがて聴くのがしんどくなってきます。もちろん下品な笑いがおもしろい芸人もいるのですが、聴き終えたあとに、聴き手である私のエネルギーが減ってしまっており、しだいに「また聴こう」という気持ちが弱まり、無意識のうちに遠ざかってしまう気がします(たとえばですが、ベテラン芸人が後輩に対して「10分だけタメ口OK」といった企画をするのは、自分は先輩であるという権力の構図や、ホモソーシャル的な上下関係を感じさせて怖いので、結果的に笑いが起こったとしても苦手です)。逆に、10の条件を満たしていると、気分よく接することができるので、私の場合は長く聴き続けられるコンテンツになります。今週分のポッドキャストが聴けるようになった、と通知が来たときに、気軽に再生ボタンを押すことができるのです。世間一般では、瞬間的に再生数を伸ばすことができるのは、より攻撃的だったり、刺激の強い内容であるような気がしますが、それはある種のドーピングに近い気がします。こうした内容のポッドキャストは、「また怖いことを言っていたらどうしよう」と無意識に心配してしまうため、再生ボタンを押すのが億劫になり、長期的には損しているようにも思えます。
さて、こうした観点から、私が長く付き合っていけると感じている芸人を挙げてみたいと思います。私は彼らをおもしろいと思っていますが、私はおもしろさよりも、怖くなさ、優しさ、安心して聴けることを重視するタイプなので、「おもしろい芸人ランキング」とはまた別になります。まずは妙なことを言わない芸人、怖くない芸人、私のメンタルを削らない芸人が、私にとってはいい芸人なのです。なお、年齢を併記しているのは、世代ごとに価値観が異なり、ベテランほど古い発想に縛られる傾向があるためで、参照としてつけました。上の世代になるほど、上記の10条件を満たすのが難しくなってくるかと思います。なにしろ昭和は乱暴な時代だったのです。また選考基準として、ラジオやポッドキャスト、YouTubeなど、素の部分が出るようなしゃべりのメディアを持っていて、発信している芸人が主です。私がチェックできていないだけで、他にもいらっしゃるとは思うので、あくまで私の観測範囲内からの選出になります。
1位 ヤーレンズ 出井隼之介(37歳)
いま、私基準でもっともちゃんとしている芸人が、ヤーレンズの出井さんです。現代的なジェンダー観、寛容さやデリカシー、男性中心的なお笑い界に対する問題意識、フェミニズムとの親和性、すべての点において圧倒的ナンバーワン。彼の敬愛する先輩が女性芸人のDr.ハインリッヒで、「もしハインリッヒさんが見たら何と言うか」を脳内シミュレーションしながら活動しているという心がけもすばらしいと感じます。ハインリッヒの幸さん曰く、「芸人の世界は男社会だから、という言葉を発したのは出井が初めて」だそうで、こうした姿勢には勇気づけられますね。彼の連載「可否伝」は実にすばらしいので、ぜひ読んでみてください。ヤーレンズはおしゃべりも最高に楽しいのですが、なにより「安心して聴ける」よさがあります。もし出井さんの考え方が芸人のあいだでデフォルトになれば、お笑いの世界は大きく変わるのではないでしょうか。
2位 トンツカタン 森本晋太郎(34歳)
一般的には、ツッコミのワードセンスが光る芸人ですが、森本さんはつねに相手を配慮して優しく接する姿勢があります。彼はツッコミを、ある種の社交術やコミュニケーション手段としてとらえているところがあり、ダ・ヴィンチwebの連載「ツッコミのお作法」を読むと、ツッコミは相手との関係性やタイミングなど繊細な条件のもとに成り立つ、という視点が見えてきます。いつも品があり、どのような場面でもおもいやりが感じられるのがいいところ。彼のYouTubeは、どんな相手がきても、気分よく迎え入れて明るくツッコみ、楽しめる内容になっています。きちんとデリカシーを持って接した方が笑いも増える、という好循環があり、「ケンカ対決」のような企画でも、相手を立てながら上手に負けるのが森本さんのよさではないでしょうか。私は彼の上品さが好きです。女性芸人の友人が多い、というところからも、彼の人柄やまっとうなジェンダー観が垣間見える気がします。
3位 ハライチ 澤部佑(38歳)
澤部さんは性格的な温厚さ、明るさでなごませる部分が非常に秀でています。とにかく当たりが柔らかい。ツッコミつつも優しくフォローする態度からは、もともとの性格が柔和なんだろうなと推測できます。ちょっとしたエピソードトークなどでも、人を見る視点や、できごとのとらえ方に愛情があるのが実にいい。こうして書いていると、芸人をほめる形容詞ではないような気がするのですが、彼の穏やかさや温厚さから笑いが生まれているのは事実です。ほんの少し話すだけでも、彼のおおらかさが伝わってきます。ジェンダー観については、正直なところ出井さんや森本さんと較べるとやや後退するのですが(持ちネタである「個室ビデオ」の話題はそろそろ封印した方がいいのでは)、彼の温厚さがそれを充分にカバーしています。長期的に見れば、澤部さんのような芸人は幅広く支持を得られるのだと思います。
4位 真空ジェシカ 川北茂澄(35歳)
意外なチョイスかもしれませんが、川北さんに関していえば、とにかく「余計なことを言わない」点が徹底しています。いっけん、コントロール不能なくらいに我が道を進む彼ですが(真空ジェシカのラジオを聴き始めた当初、あまりにも「もちろん」ばかり言うので少し怖くなりました)、芸人特有の下品な話や攻撃的な内容、ホモソーシャル的な悪習については口にしないことに気づきました。おそらく、自分自身のなかで「その手の話題はやらない」と決めているのでしょう。こうした制御の感覚が頼もしい。下品な話題が嫌いなわけではないのでしょうが、いい下品さと悪い下品さをシビアに選別している印象です。ガクさん(33歳)も同じように語り口が柔らかく、デリカシーのある男性ですが、ふたりを比較すると、川北さんの方がよりガードが固いというか、発言がおかしな方向へ行かない気がします。こうしたことを、ご本人がどのていど意識しているのかがわからないのですが、結果的に彼らのラジオは安心して聴ける内容になっているのが嬉しいですね。
5位 令和ロマン 高比良くるま(30歳)、松井ケムリ(31歳)
若い世代の令和ロマンに関していえば、少し上の世代(出井さん、森本さん)であれば意識して抑えている、悪しき男性性やホモソーシャルな部分の制御が、あらかじめデフォルトで備わっている感じがします。抑制をあまり意識しなくても、ごく普通に寛容で優しい態度が実践できている印象があるのです。新世代だなあと嬉しくなってしまいますね。彼らのポッドキャストやYouTubeに接していて、嫌な気持ちになったことがありませんし、デリカシーがあり、考え方もきちんとしていると思います。また高比良さんは、おそらく大半のネタの原案を出しているのでしょうが、自分が作っているとは言わず、コンビふたりで一緒に書いていると話しているのがよかった(私は、ネタを作っている側が、作っていない側を低く見たり、「何もしていない」と蔑んだりするのが苦手です)。くわえて、松井さんの天性の機嫌のよさはすばらしく、こんなにいつもご機嫌な人っているんだなと感動してしまいました。令和ロマンはふたりともいいと思ったので、両方の名前を挙げました。
6位 チョコレートプラネット 松尾駿(42歳)、長田庄平(44歳)
チョコレートプラネットはふたりとも40代で、とても売れているため、場合によってはもっとマッチョで権力をふりかざす芸人になっていてもおかしくないのですが、彼らはつねに陽気で楽しい。怖いところがまるでありません。私は、1980年を境界線として、旧来的な価値観を引きずっている世代かどうかがわかれるという仮説を立てています。そのためチョコプラは、年齢的にも上の世代のホモソーシャル社会の影響を受けてもおかしくないのですが、そこをうまい具合に避けながらお笑いをしているという印象です。よく行くサウナでテレビを見ると、毎回必ず彼らが出ているので、このサウナのテレビはチョコプラが出てる番組しか映らないのだろうかと心配になりましたが、そこまでの人気の秘訣に「怖くなさ」があるのではと感じています。コントもおもしろいですが、YouTubeで、遊んだゲームの感想を楽しそうに話している様子が好きです。ふたりとも怖くないし、語り口が柔和なので、チョコプラもまたふたり揃ってお名前を挙げました。
7位 麒麟 川島明(45歳)
いまや大御所MCとなった川島さんですが、ラジオ番組「川島明のねごと」を聴くと、後輩芸人に対してとにかく優しい性格が見えてきます。こんなに共演者をフォローして、立ててくれる先輩はいないのではないでしょうか。ラジオ番組で後輩と一緒にコーナーをしても、どうにか彼らが出したアイデアにおもしろい要素を見つけようと言葉を足したり、ツッコんだり、ほめたりと、愛情を持って接しているのが感じられます。こんなにフォローしてくれたら後輩は嬉しいだろうな、と感心してしまうのです。川島さんの場合、本人が望んでいないとしても、すでに人気番組MCというかなり大きな権力を持っているので、ふるまいが難しい。後輩からすればかなりの圧が生じるのですが、ラジオを聴くと、愛を持って若手を後押しするという役割を楽しんでいるのが感じられて、成功した芸人(権力を持ってしまった側の立場)のふるまいとしては理想的であるように感じました。
8位 カベポスター 永見大吾(34歳)、浜田順平(37歳)
トークがかわいらしい芸人ナンバーワン。聴いていてほっこりするラジオ「カベポスターのMBSヤングタウン」は、カベポスターのふたりが日々のエピソードを穏やかにトークする番組です。永見さんの笑い声がかわいい。浜田さんのツッコミがソフトで楽しい。周囲の女性芸人に好かれている印象があるおふたりですが、この物腰の柔らかさには私もファンになってしまいました。まわりの芸人や日々のあれこれを観察する目が基本的に優しいので、聴いていても安心感があります。ラジオ番組のメール読みなども、ずっと機嫌よく笑いながら進めているのが好印象で、長く聴き続けられるラジオはこれだ、という納得感があります。芸人界隈は競争が激しいので、どうしても「血気盛んな芸人の辛辣トーク」になりがちな気がするのですが、どうすればこのように穏やかなメンタルのまま活動し、M-1決勝へ行けるほどの結果が出せるのかと、感心してしまうカベポスターでした。
9位 ラランド ニシダ(30歳)
かなり迷ったのですが、9位にニシダさんを入れました。ニシダさんに関していうと、トークや企画の題材としてかなり品のない話題を選ぶことも多く、プライベートの行動についても品行方正でないといったイメージがあります。ここまで選んできた芸人とは芸風が異なりますが、なぜか彼が関連するYouTubeやポッドキャストは途中で止めずに、続けて見聞きできています。なぜだろうかと今回あらためて考えてみました。思うにニシダさんは、下品さを独特のオブラートに包むセンスがあるというか、どんなに不適切な内容を話しても、聴き手を嫌な気持ちにさせないポイントに落とし込めるテクニックがあると思うのです。また、サーヤさんをはじめ女性と話す際に、相手からひどいことを言われるというお決まりのパターンがあるのですが、その際の相手からの悪口の受け方がうまく、上手なからかわれ方、負け方を演出できるところがいいと感じました。マッチョな男性だとこれができない。総じて、私の求める「怖くない」という条件をクリアできているのがニシダさんのいいところではないでしょうか。正直、ニシダさんのすべてを支持できているわけではないのですが(申し訳ないです)、令和のいま、どのように下品さを提示するかという点から彼を選びました。
10位 春とヒコーキ ぐんぴぃ(34歳)
ぐんぴぃさんに関しては、期待票として入れました。彼は女性嫌悪がないのがとにかくすばらしい。それに尽きます。性経験のない彼が、同じようにぱっとしない友だちとシェアハウスをしたり、YouTubeをしたりすると、どうしてもミソジニー的な思想が生まれてしまいそうな気がするのですが、そうした悪い傾向が出てこないのが実に稀有だと思うのです。ぐんぴぃさんには、女性を尊敬しつつ話を聞くことができる美点があります。男性同士が仲良く関係性を持ちながら、女性蔑視のような有害さを避けつつ、ポジティブに暮らしているという姿に可能性を感じているのです。下ネタの扱いがもう少しセンシティブになればよりよいのですが、おそらくぐんぴぃさんは正直そこまで下ネタに興味がないのではという印象もあります。やはり、女性蔑視は何も生みません。彼は新しい男性の姿としてロールモデルになるのではと期待して選出しました。
まとめ
選評にまで目を通していただきありがとうございました。今回のランキングを表にしたものはこちらです。
私のオススメ芸人10選も発表できましたし、私の考える理想の芸人像がそれなりに伝わったのではないかと思います。この10選にいるような芸人が増えれば、もっと楽しくお笑いが見れるような気がします。なお、藤井隆さん(52歳)は言うまでもなく唯一無二のレジェンドですので殿堂入り、これらの芸人さんの頂点にいる方として敬意を表して、この記事を終わりとします。ありがとうございました。
【私の本読んでください】