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ノア・スミス「日本・韓国・ポーランドはいますぐ核武装すべきだ」(2025年2月19日)
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(喫緊の内容を加えて再掲)
再掲の前置き
1994年,ウクライナは核兵器を放棄した.アメリカとロシアがウクライナの国境と主権を尊重するという約束との引き換えだった.
2022年に,ロシアはその合意をたがえて,不当にウクライナ国境に侵攻して領土の一部を要求した.2025年に,アメリカ大統領ドナルド・トランプはロシア首脳部と会談を行った.報道によれば,ウクライナが戦争を始めたと虚偽にもとづいて同国を非難し,ロシアによるウクライナ領土の征服を容認する「和平合意」を提案したという.
これを,北朝鮮の経験と対比してみよう.2006年に,北朝鮮は初の核兵器実験を行った.いま,同国は約50の核兵器を保有していると見られている.北朝鮮は貧困に喘ぎ,敵対的な大国たちと信用しがたい同盟国たちに囲まれているけれど,核兵器保有後は一度も深刻な戦争の脅威に直面したことがない.それどころか,最初の大統領任期中に,トランプは北朝鮮の指導者に譲歩して,友好関係を築こうとした.
この2つの物語の教訓は,痛みを覚えるほどに不愉快で明快だ [n.1].現代世界は,権威主義体制の指導者たちが率いる核武装した大国がより小さな国々をいたぶってやろうという衝動を覚える場所だ.もし,そういう小さな国々に核兵器がなかったら,そういうイジメっ子どもの足下に無防備なまま横たわることになる.でも,核兵器があれば,そうした小国をいたぶるのはずっと困難になる.だからといって,核武装していれば小国でも攻撃を受けないというわけじゃない――イスラエルはイランとその代理勢力に攻撃されている――けれど,核兵器があれば小国の安全保障は劇的に強まる.
この教訓がとりわけ喫緊のものになっている小さめの国が,少なくとも3つある.ヨーロッパでは,ポーランドがロシアに脅かされている.ちょうどツァーリ帝国時代やソ連時代と同じように,ロシアがポーランドを支配しようとしている.トランプは躍起になってロシアの歓心を買って友好関係を築こうとしていて,西欧の国々はまだその空隙を埋める意向を固めていない.もしもウクライナが失陥したら,次はポーランドがロシアの標的になる――そのときには,ロシアは新たに徴収したウクライナ人兵士たちを対ポーランド戦の捨て駒に使って火砲の餌食にするだろう.
一方,アジアでは日本と韓国がロシアをはるかに上回る強大なイジメっ子に向かい合っている.中国は,世界の製造業超大国だ.その工業能力はアメリカとそのアジア同盟国の合計をはるかに超えている.トランプのアメリカが中国による乗っ取りからアジアを防衛しようと決意したとしても,はたしてそんな能力があるのかは定かじゃない.Palmer Luckey が最近のインタビューで雄弁に指摘しているように,中国が台湾征服だけで満足しそうにはない印には事欠かない――中国は日本の沖縄島の領有権を主張する根拠を構築しつつあるし,朝鮮半島をまるごと中国の衛星国家に変えるために北朝鮮が韓国を占領するのを支援するかもしれない.
ポーランド・日本・韓国は,アメリカとの同盟による抑止力が衰えつつあるなかで,それに替わるなにかを必要としている.ちょうど1年前の今ごろ,ぼくはこう主張した――その「なにか」はこの3ヶ国それぞれの核武装だ.たいてい,自分の投稿を「再掲」するまで少なくとも2年は間をあけてるけれど,この話題はとても切迫していて,このメッセージが痛ましいまでに時宜を得てしまっているようだ.核拡散を快く思わない点ではみんなに引けを取らないつもりだけど,権威主義体制と大国による征服が幅をきかせるこのおそろしい新世界では,おそらくそれは避けられない.ヨーロッパとアジアが正当にも大事にしてきた安定と自由をできるかぎり維持するかたちで核武装するのが,いまの最善だ.
ともあれ,去年の記事を以下に再掲しよう.
今回の記事を書かないといけない必要に迫られているなんて,控えめに言ってもすごく不愉快だ.長い間,この話を書くのを先延ばししてきた.そして,いまこうして執筆にとりかかってる.なぜって,この話は事実で,誰かが言う必要があるからだ.それに,不愉快な地政学的現実についてみんなに警告するのは,ブロガーとしてのぼくの役割のひとつみたいなところがある.以前は,アメリカが中国との戦争の心構えも経済的な準備もできていない話をしたし,アメリカの防衛産業基盤の衰退の話もしたし,地域拒否戦略に対して世界貿易が脆弱だって話もした.ただ,今日語るのは,そういう話題のどれよりもゾッとする話だ――管理された核拡散が必要だって話をする.日本と韓国,そしてもしかするとポーランドも,独自の核抑止力を構築する必要がある.
ぼくが生まれてからこの方ずっと,ぼくの知る人たちの大半が「核拡散は悪いことだ」というのを信条にしていた.それはもっともなことだった.なぜって,核兵器は心底からおそろしい兵器だからだ.アメリカとソ連は第一次冷戦のあいだに幾度となく危機的な状況を経験した.もしもそのうちのどれかが核兵器の応酬に至っていたら,人間文明の大半は壊滅していただろう.核武装してにらみ合う二国間関係が増えれば増えるほど,そのうちのどれかが誤警報や偶発的な発射にいたる確率が高まる.この単純な計算だけでも,ぼくらは核拡散に震え上がって当然だ.
さらに,1990年から2010年のあいだに,核軍縮が進んで世界はずっと安全になった.アメリカとソ連/ロシアの核兵器保有数は,6万発以上から1万発未満へと大きく減少した:
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それに,いまも保有されている核兵器のうち実際に配備されているのは 4,000発を下回っている.大半は予備として保管されているか,すでに退役になっている.
「核軍縮戦略がそうやって成功してきたんだったら,いったいどうしてその戦略に背を向けて,もっと多くの国々が核武装するべきなんて勧めるの? そんなの,世界を滅ぼす狂気の沙汰でしかないじゃん.」
いや,それはちがう.理由はいくつかある.第一に,「かつてのアメリカやソ連がやったように即時に発射できる核兵器を何万発も保有する時代に世界の国々が戻るべきだ」なんて提案してるわけじゃない.そうじゃなくて,2ヶ国か3ヶ国が適度な核抑止力を構築するべきだと提案してるんだ.たとえばフランスやイギリスやインドが保有している程度の核抑止力をもとうと言ってるんだよ.第二に,アメリカの同盟体制に属さない国々は,過去半世紀にわたって核拡散を進めてきた.その戦略に直面しながらなにもしないでいるのは,核拡散の防止にならない.たんに,一方的な核拡散を許すだけだ.
第三に,ロシアがウクライナを侵略し,中国が台湾を侵略しようと脅かしている現状は,全体主義的な大国による新たな拡張主義のシグナルを発している.これを抑止するのに,通常兵器では難しい.第四に,国内の政治的分断によって,日本・韓国・ポーランドはかつてのようにアメリカの核の傘に頼れなくなっている.第五に,南アジアから得られる証拠から,適度な核抑止力は域内でも世界全体でも安定化要因として機能しうることがうかがえる.そして最後に,おそらく,核拡散に関する一方的なタブーを破ることで,実効性のある新たな世界規模の核不拡散体制の構築が進めやすくなる.
つまり,日本と韓国が核武装するのは「いいこと」ではなくって,おそらく,この残念な状況下でいちばんマシなろくでもない選択なんだ.
核拡散はすでに進んでいる
1960年代に立ちあげられた核不拡散体制で定義された最初の核兵器保有国は,アメリカ・ソ連・中国・イギリス・フランスの5ヶ国だった.この5ヶ国は国連の安全保障理事会の常任理事国でもあり,第二次世界大戦の勝利国だった.だから,公認された核保有国の当初のリストは,戦後世界秩序の延長として理にかなっていたわけだ.
この5ヶ国はおおむね核兵器を自国内にとどめようとつとめたけれど,例外もあった.中国がパキスタンの核武装に助力したのは公然の秘密だ.
1982年に,パキスタン軍の C-130 輸送機が中国西部のウルムチ市から極めて異例な貨物を搭載して離陸した:二発の原子爆弾を製造するのに十分な兵器クラスのウランだ.この件は,パキスタンの核兵器プログラムの父と言われるアブドゥル・カディール・カーンによる文章に記載があり,『ワシントンポスト』に提供されている.
5つのステンレス製容器に収められたウランの移送は,毛沢東とズルフィカール・アリ・ブットー首相によって承認された秘密裏の核取引の一部だった.カーンの記述によれば,この取引がついには核保有国による例外的かつ意図的な核拡散行為にまで至った(…)
カーンによれば,C-130で運ばれたウランには,中国がすでに実験済みだった単純な核兵器の設計図が付属していた.これによって,事実上の「自作キット」が提供され,パキスタンの核兵器開発は一気に加速した.また,この輸送は核拡散の連鎖の発端になった:アメリカの当局は,中国の設計情報をカーンがのちにイランに共有したのではないかと懸念している.2003年には,リビアがカーンの秘密ネットワークからその情報を入手したと認めた.
一方,フランスは,イスラエルの原子炉建設に助力して,核爆弾の材料生産を支援した.
ひとたび核兵器を保有すると,パキスタンは核拡散にあまり躊躇しなかった.パキスタンはイランを支援した.まだイランは核兵器を保有してこそいないけれど,その手前まで近づいている.また,パキスタンは北朝鮮の核武装を首尾よく支援した.
一方,北朝鮮の核武装を快く思ってこそいない中国も,「核兵器を放棄させるために北朝鮮に強い姿勢をとってくれ」というアメリカの懇願をはねつけている.アメリカによる制裁を受けながらも,中国からの援助で北朝鮮の経済と軍事は稼働している.そのおかげで,北朝鮮は核兵器と弾道ミサイル能力の構築を進めることができている.また,イランの核開発計画を抑制するための助力に中国は大して関心を示してこなかった.その一方では,中国はイランからの原油を大量に購入したり,アメリカによる制裁を受けているイラン経済の稼働を支えてきたりしている.
こんな具合に核拡散は進行している.その大半は,中国とその同盟国によってなされている.そのため,アメリカの同盟国は自前の核兵器をもたないままで核能力をもつ敵国に向き合う事態がますます広まっている.インドにはパキスタンと拮抗するだけの核兵器があるし,イスラエルもイランがいずれ核武装したときに拮抗するだけの核兵器を有している.ただ,アメリカの同盟国のなかで3つの重要な国が,いまとても危うい状況にある.それが,日本・韓国・ポーランドだ.
アメリカの核の傘はもはや当てにならない
核武装した中国・北朝鮮・ロシアの脅威との対峙を日本・韓国・ポーランドは数十年続けている.ただ,かつては,この3ヶ国は敵国から我が身を守るためにいつでもアメリカの核の傘を頼りにできた.アメリカの核の傘は,明示的にであれ暗黙にであれ同盟国との合意だ.「もしもどこかの国が同盟国に核兵器を使用したら,アメリカは,自ら核兵器を使用して報復する」とアメリカは約束している.それと引き換えに,同盟国は自前の核兵器を開発しないことに合意している.
1990年代,あるいは2000年代には,この取り決めでアメリカ側の約束は信用できた.ところが,ドナルド・トランプのもとで,核の傘がどれほど堅固なのか怪しくなってしまった.大統領任期中に,トランプは韓国と日本に対して「核兵器で保護してるんだからその見返りを払え」と要求した.そこには,「核の傘は条件付きだぞ」という含みがある.トランプは NATO に対して一貫して敵対姿勢を示していて,同盟から抜け出てもいいんだぞと脅している.最近では,大統領に返り咲いたら,アメリカ軍に十分な見返りを払わない同盟国はどこの国だろうとロシアに征服させてかまわんと言い放っている.
その一方で,アメリカ国内の政治情勢に目を向けると,「アメリカを再び偉大に」(MAGA) 勢力が台頭している――トランプに忠実だけどトランプに依存してはいない勢力だ.MAGA 勢力はロシアへの友好姿勢と NATO への敵対姿勢を大っぴらに見せている.マイク・ジョンソン下院議長はウクライナ支援を阻止した.その結果,戦争の勢いはロシア優位に傾いている.タッカー・カールソンなどを含む親ロシアのオンライン・メディアのエコシステムは,右派への影響力を高めている.
こんな状況下では,「攻撃されてもアメリカが核兵器でうちらの防衛に駆けつけてくれる」なんて同盟国は安心していられない.もしも民主党の大統領だったら,きっと核の傘はまだ機能しているだろうけど,いつでも民主党員が大統領になるわけじゃない.もしもトランプが2024年の秋に敗れたとしても,共和党員の誰かが2028年や2032年に当選しておかしくない.それに,共和党としては,ロシア支持や NATO 脱退をのぞんでいる MAGA 勢力に対して少なくともご機嫌取りはしないといけない.
つまり,アメリカ国内の政治的な分断にともなって,もはや信頼できる核の傘はなくなってしまっている.それでも日本や韓国やポーランドの支援に核兵器をもって駆けつけるかもしれないけれど,「かもしれない」に自国の存続を賭けるのは,とんでもなくリスクの高い戦略だ.
緩慢な帝国たちの進撃
こうしてアメリカが当てにならない存在に成り下がったのは,よりにもよって,日本・韓国・ポーランドがこのうえなく危険な時期だった.中国とロシアは,個人独裁的な全体主義指導者に率いられ,アメリカの弱体化と中国の製造業の優位に勢いづいている.
周知のとおり,ロシアはウクライナを侵略した.でも,かりにウクライナを呑み込んだとして,それでロシアが満足するなんて兆しは見当たらない.おそらく,その次の標的になるのはエストニアとモルドバだ.というのも,エストニアにはロシア系住民が大勢いて,モルドバにはロシアが支配する飛び地があるからだ.(エストニアは NATO に加盟しているけれど,いざ攻撃されたときにトランプが援助を拒否したら,NATO は同盟として機能しない.) でも,ロシアの真のエモノはポーランドだ.ロシアの見解では,ポーランドはスラヴ世界において古代から影響力をめぐって争ったもっとも危険なライバルということになっている.ロシア政府の代弁者たちは,ポーランドに対する脅しを定期的に発信している.
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[ウクライナの政治家アントン・ヘラシチェンコの投稿]ポーランドの農家のみなさんは,これを聞いておいた方がいいんじゃないかな.ロシアのプロパガンディスト,ソロビョフの言い草だ:「ポーランド人もこうなるのがお望みだろうか? 彼らはウクライナ人ではない.我々は,彼らを兄弟のようには扱わない.地上部隊を使わずに,一瞬であらゆる都市を壊滅させる.(…)」
全体として,旧ロシア帝国に属していたあらゆる土地に対してなんらかのロシア支配を復活させたいとプーチンが望んでいるのは,明白だ.それをやってのける能力がプーチンにあるかどうかは別問題だ.テクノロジーは防衛側の優位に変化してきている.ドローン・地雷・携帯型ミサイルは,いまや装甲車両部隊を容易に足止めできる.電撃戦でウクライナを奪取しようという当初の試みが失敗した理由は,そこにある.対ポーランド攻撃もそううまくはいかないだろう.
ただ,前進を続けるために,プーチンは必ずしも電撃的な勝利を必要としないかもしれない.プーチンは,ロシア経済をまるごとウクライナ戦争に向けて再編し,あらゆる人員を動員している.ロシアには安定した石油収入と中国の製造力による支援があって,そして東欧諸国に対する人口学的な優位もある.プーチンにしてみれば,とにかく何十年でも攻撃に次ぐ攻撃を続けられない理由はない.
Renard Foucart〔経済学者〕の考えでは,ロシアはウクライナ戦争にあまりに深くコミットしているため,ロシア経済は基本的にこの戦争の継続に依存するようになっているそうだ:
ロシア経済は崩壊していない.とはいえ,ずいぶん様変わりしている.いまや,長引くウクライナ戦争に全面的に注力している――これが経済成長を促進しているのが実態だ(…).簡略に言えば,対ウクライナ戦争こそがいまやロシアの経済成長の主動力になっている(…).長引く膠着状態こそが,ロシアが完全な経済崩壊を回避する唯一の解決法なのかもしれない.わずかな産業を戦争の取り組みに集中させ,何万人もの戦争の犠牲者で労働力不足問題をいっそう悪化させ,大量の頭脳流出も起こるなかで,ロシアは新たな方向を見出すために苦闘するだろう(…).ロシア体制には,戦争を終わらせてそういう経済の現状に対処するインセンティブがない.
こうした点を考えると,ロシアは新たな帝国をつくりだそうと試みているように思える――その「緩慢な帝国」にとって,永続的な戦争は,なんらかの目的のための手段ではなくて生きる術になる.かつての様々な帝国が望んだ迅速な電撃的征服はまったく実行しないかもしれないけれど,何十年もえんえんと容赦ない進撃を続けるだろう.
中国はまだ大規模な攻撃に着手してはいないけれど,ロシアに少し似た方向に向かいつつあるように思える.台湾を征服するぞという――いや失礼,「再統一」するぞという――脅威に加えて,インド・フィリピン・ブータンから少しずつゆっくりと領土を切り取ろうと試み続けている〔「サラミスライス戦術」〕.それに,中国は日本の沖縄本島の領有権を主張しはじめている――小さな離島じゃなく,日本の重要な県についての主張だ.
このように,習近平はプーチンほど無謀でも攻撃的でもないかもしれないけれど,明らかに,プーチンと同様にゆっくりと継続的な拡張政策を実行したがっているように見える.しかも,近隣の国々に対する中国の経済と人口の優位は,ロシアのそれよりもはるかに大きい.中国は「緩慢な帝国」戦略を10年や20年ではなく何十年にもわたって継続できる.
「緩慢な帝国」が進撃する途上に位置する国は,どうやって防衛すればいいだろう? 中国や中国からの供給を受けたロシアに対して製造力で太刀打ちはできない.中国やロシアが投入するのを超える人員を戦線に投入するのもムリだ.さて,どうしようか? 降伏しないのなら,選択肢は基本的に2つだ:
アメリカや西欧その他の外部の大国に自分を守ってもらうか
核兵器を開発するか
――この2つだ.
日本と韓国にとって,選択はとてもはっきりしている.アメリカは,中国から自分たちを保護できる唯一の外国で,MAGA 政治が台頭したことで(それにアメリカの防衛産業基盤の縮小もあって),アメリカはもはや当てにならない.日本・韓国にとって持続的な安全保障を確保できる唯一の現実的な方策が,核兵器だ.しかも,この話は北朝鮮を考慮に入れていない.ますます危険度を増している核能力をそなえたミサイル兵器庫を保有している上になにをしでかすかわからない北朝鮮を抑止する必要性を度外視しても,核武装が明らかな選択肢になる.
ポーランドの場合,この点はそこまで明快じゃない.ポーランドには,アメリカ以外にも保護者たりえる存在がいる.ドイツ・フランス・イギリスというヨーロッパの大国だ.ロシアが中国の助力を得たとしてもなお,理論上,こうした国々は人口でも製造力でもロシアを上回れる.それに,近隣には北朝鮮のような不安定要素がいない.
ポーランドにとって主に危ぶまれる事態は,次の3点だ――ドイツ・フランス・イギリスがアメリカみたいに政治的な麻痺状態に陥ってしまうこと,防衛産業基盤が衰退したままに留まること,プーチンに対してポーランド支援にやってこないこと.その製造力のおかげで単独でロシアに対抗できたとしても,核兵器のないポーランドはロシアの核の脅しに屈服させられるかもしれない.西欧がみすみすウクライナの崩壊を許したら,ほぼ確実に,核武装を真剣に検討するだろう.
以上のとおり,日本と韓国,そしておそらくポーランドも,隣にいる拡張主義帝国に対抗する戦略として核武装が明白な選択肢になる.もしもこの3ヶ国が核武装したら,かりにロシアや中国が当該地域でウクライナや台湾やその他の小国を飲み込んだとしても,習近平やプーチンが超えられない「確固たる境界線」が引かれる.日本・韓国・ポーランドに核兵器があれば,第二次冷戦の戦線が凍結される.そうなれば,第三次世界大戦への拡大を防ぐ可能性がある.
これまでに核兵器は南アジアで紛争を抑制してきた
もちろん,さっき述べたように,日本・韓国・ポーランドの核武装は,偶発的な発射などで第三次世界大戦の発端になってしまう恐れもある.もしも核兵器を保有したら,他でもなくこれら3ヶ国がもっと攻撃的になってしまうんじゃないかと心配する人たちもいるかもしれない.
日本と韓国の場合,ぼくはそんなに心配してない.どちらも平和を愛する非拡張主義の国で,近隣に戦争をふっかけることにまるっきり関心がない.それに,日本も韓国も中国に対して核兵器で対決して勝てはしないだろう.できるのは,なんらかの勝利を中国が収めるにせよ,すごく高い対価を支払わせることだけだ.だから,かりに日本や韓国が攻撃的になりたがっても,それはムリというものだ.
また,日本と韓国は非常に有能な公務員と良好に機能している国家機関で知られている.偶発的な発射の可能性はゼロではないけれど,おそらく,アメリカ・中国・ロシアなどの既存の核保有国よりその確率は小さい.この地球上で,日本と韓国ほど安全に核抑止力を保有し賢明に使用できる国は,ちょっと思い当たらない.ポーランドについては少しばかり自信は弱まる.ポーランドは共産主義と汚職の蔓延から脱却してまだ日が浅いし,そのテクノクラート・エリートが権力を握ってきた期間もはるかに短いからだ.
ただ,日本・韓国の核武装に関してぼくがそんなに心配してないのには,他にも理由がある.南アジアで核抑止力が戦争に関してよい影響を及ぼしてきたように思える,というのがその理由だ.インドとパキスタンは,これまでに4回の戦争を行っている(4回ともインドが勝った).その4回目の戦争は1999年のカルギル戦争だ.この戦争は,両国が核兵器を開発した直後に勃発した.でも,核の脅しこそいくらかなされたものの,核はパキスタンが最終的に撤退した理由の一部だった.最終的に,カルギル戦争での犠牲者はとても少なかった――おそらく,全体で2000人を超えない.
他方,2019年のインド・パキスタン間の対立が鎮静化した理由の一端には,核兵器に関する懸念があった.パキスタンのイムラン・カーン大統領のこんな発言は有名だ:「貴国が保有する核兵器と,我が国が保有する核兵器で,誤算が許されるでしょうか? もしもこれがエスカレートすれば,いったいどうなります?」 最終的に,両国は敵対行為から手を引いた.
この顛末は,とても心強い.日本や韓国に比べてインドとパキスタンはずっと貧しい国だし,最近まで戦争を繰り返してきた歴史もある.それでも,核兵器は宿敵どうしの戦争を抑制する要因として明らかに機能したわけだ.両国間に核戦争の可能性が残っているのは間違いないし,そのことに人々が怯えるのは正当だ.それでも,「かつて第一次冷戦で超大国どうしが戦争に突入するのを阻止したのと同じように,核抑止力が主要国どうしの通常戦争を停戦または予防できる」という希望の光を,南アジアはもたらしている.
核拡散はどこで止まる?
というわけで,日本・韓国が核武装すれば大きな紛争のリスクは低減されるとぼくは考えているけれど,その一方で,もう一つ検討すべき問題がある:「それはどこで止まるんだ?」 一国また一国と核拡散が起こるたびに,他の国々はこう考える.「うちも核武装してなにがわるい?」 もしも日本や韓国が核武装したら,インドネシア・ベトナム・マレーシアが核武装しない理由はどこにある? もしもポーランドが核武装したら,ハンガリー・アルメニア・アゼルバイジャンが核武装しない理由は? あらゆる国が核兵器を保有する世界では,ほぼ確実にいずれどこかで核兵器が使用されてしまう.その後は,核兵器の使用が常態化してもおかしくない.
これを防ぐために必要なのは,国際的に執行される核不拡散体制だ.いま,そんなものはない.中国とロシアはイラン・北朝鮮がアメリカの制裁下で繁栄するのを喜んで助けている.それによって,彼らの核計画の継続が可能になっている.いまあるのは,一方的な核不拡散体制だ.この体制では,中国・ロシアの同盟国が核武装する一方で,アメリカの同盟国は核武装しない.いわば,銃規制をしましょうというときに,自分は銃を手放して,敵も自分に倣ってくれるのを期待するようなものだ.
世界共通の核不拡散体制として機能しうるのは一つしかない.それは,中国・ロシア両国が心から賛同して執行に取り組む体制だ.中国・ロシアがそうするのは,この分断された世界で自分たちが対立する相手側に核拡散の脅威を認めたときにかぎられる.いま,中国・ロシアには核不拡散を執行するインセンティブがない.なぜって,アメリカの同盟国が一方的・自発的に核武装を控えると承知しているからだ.
日本・韓国が核武装すれば,この状況はたちまち変わる.その時点で,中国・ロシアはこう認識する――「民主国家も自分と同じルールで立ち回るつもりだ.向こうだけが制限されるルールではなくなった.」 そうなったら,中国・ロシアもいまのアメリカや西欧と同じく核拡散を心配しはじめる.
いま,日本と韓国が核兵器を保有していないのは,世界のパワーバランスにぽっかり空いた穴みたいなものだ.この穴は,中国・ロシアの拡張を促してしまう.「新たに核武装する国が現れることで根本的にいまよりも安全な世界にいたる」なんて逆説的な考えに思えるかもしれない.でも,この場合には,残る他の選択肢の方が明らかに劣っているとぼくは思う.
原註
[n.1] 北朝鮮とちがって核武装していないイランは,イスラエルとアメリカによる攻撃を定期的に受けている.核保有国のパキスタンの主権は不可侵と見なされている.それに,「イスラエルに死を」なんてスローガンが人気になっているにもかかわらず,他の中東諸国はイスラエルに対して大規模な戦争を仕掛けようなんて真剣に考えていない.なぜなら,イスラエルには核兵器があるからだ.
[Noah Smith, "Japan, South Korea, and Poland need nuclear weapons immediately (repost)," Noahpinion, Feb 19, 2025; translated by optical_frog]