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【練習内容公開】イラストを100日練習しました

はじめに

イラストの練習を始めてトータル100日を突破しました.一旦立ち止まって初日のイラストと今のイラストを比べてみると,見違えるほど上達できたかなと思っています.
そこで今回はこの記事で,私が100日でどんな練習を行い,どんな変化を遂げていったかを振り返ってみようと思います.

(追記: 60日目と70日目のイラストの削除について。着物や扇子などの模様は、自分の手元や実家にある実物の写真・インターネットの写真などを複数参考にして、いずれのデザインとも同一にならないよう描写しました。しかし、公開後に工芸品の著作権について学び、翻案の線引きが難しいと感じたため念のため画像を削除しました。ご容赦ください。)

この記事の位置づけ

「イラストを上達させたい」と思っている人が世の中にたくさんいるのに対し,どんな練習を実践して上達できたかを体系的にまとめたコンテンツはあまり多くありません.

理由はさまざまだと思いますが,特筆すべき要因としてイラストという世界の果てのなさが挙げられると思います.
たとえ昨日より上手なイラストを描けるようになっても,同時にそれまで想像もできなかった「さらに上手なイラスト」への解像度が上がるため一向に上手なイラストを描けている気がしない,あるいは永遠に「さらに上手な世界」を追いかけているような気分になるのです.
そんな気分を抱えたまま練習方法を開示するのは正直とても精神的なハードルが高いです.

しかし一方で,「どんな風に練習をすればいいか分からない」というのは特に初心者にとってはよくある切実な悩みだと思います.スタート前のあれこれで足踏みして結局スタートに至れず断念するというのも,きっとよくある話のはずです.

ですので,イラストの上達を目指す方々が練習計画を立てるとき,この記事がモデルケースの一つとして機能できたらいいなと思いました.

ただのイチ初学者の体験談に過ぎないため,正直なところ一般性や再現性は保証できませんが,この100日は綿密な計画と試行錯誤をくり返した大変な道のりだったので,私の体験が誰かにとっての参考・励みになればとても嬉しいです.


私の練習のきっかけ

私は普段,大学院生として研究をしています.研究で得られた成果は論文誌や学会などで発表するのが定石ですが,1年前,研究内容の説明のために簡単なイラストを用意する必要が出てきました.

手短に済ませたかったので手持ちのiPadで使えるお絵描きアプリを探していたとき,半年間無料のCLIP STUDIO PAINT(以下クリスタ)というアプリを見つけ,インストールしました.

そうして約半年後,私はインストールしたクリスタの無料期間の存在をすっかり忘れており,不覚にも7800円のサブスク料金が口座から引き落とされてしまいました.この過ちをなんとしても闇に葬りたかった私は,どうにかしてこのソフトを活用しようと考えていました.

また,私は普段ラボに籠りっきりですので,総務省サイトの市町村一覧表でランダムに選んだまったく知らない自治体の情景を勝手に想像しながら架空の人間に旅をさせるのが大好きで,こういった頭の中の情景をイラストで表現できたら絶対に楽しいだろうなと思っていました.

これらの事象が融合し,気づけばイラストを練習したいという思いが本格的に固まっていました.当時は生活がほぼワンパターン化していたので,何か新しい努力を始めて,成長を実感できた瞬間特有のアドレナリンでキメたいという気持ちもありました.

こうして「デジタルイラストの練習をしよう.やるからにはしっかり計画を立てて圧倒的成長をしよう」と決めたのが2020年7月の話です.あまり立派な目標を据えると確実に挫折するので,とりあえず誕生日を迎える11月下旬までは続けようと決めました.


練習時間の確保

イラストを練習するにあたって,練習時間をどう作るか悩んでいる人は多いと思います.私にとっても時間の確保は真っ先に解決すべきミッションであり,数回挫折した課題でもありました.

ではどうやって時間を見つけたのか.結論から言うと,「21時から22時はイラストを練習する時間だとあらかじめ決めておいた」です.

なんだかものすごく当たり前の話に聞こえますね.ここで一旦,挫折して練習に至れなかったときの私の様子を以下に書いてみます.

昼間,今日は帰ったら絵を描こうと決めます.帰宅後,ご飯を食べて家事を終わらせたらYoutubeを開いて実況動画を眺めます.そういえばソシャゲのイベント進めてないな.イベントを進めてアプリを閉じます.気づけば22時になっていました.時間が時間だしシャワーを浴びるか.シャワーを浴びて椅子に戻ります.そういえば今日は絵を描こうと思ってたな.うーん,でも今はそんな気分じゃないや.ここでTwitterを開いて入り浸ります.ふと時刻を見ると23時過ぎです.今から絵を描き始めても微妙だしなあ.まとまった時間ができた日にやろう.土日ならきっと確実なはずだ.本を読んで布団に入ります.あ~今日もまったく生産的なことをせずに1日を終えてしまった.まあ今日は日中頑張って疲れてたし仕方ない.何か新しいことを始めるというのはエネルギーがいるし,ダラダラする時間も精神安定のために必要なはずだ.明日は何かできたらいいな.

こうして何もしないまま時間だけが過ぎていきました.

この生活を繰り返す限り,一生イラストの練習を開始できないことは明白でした.そこで,実行に移せない原因をいくつか洗い出してみたところ,2つの問題点が導かれました.

① まとまった時間が取れたら自分は立派な"何か"を生産できると信じていた
② 気分さえ乗れば新しいことにもチャレンジできるはずだと思い,気分が乗る日を待っていた

①の解決法が,最初に書いた「21時から22時はイラストを練習する時間だとあらかじめ決めておいた」です.私の場合,精神的にはともかく物理的には帰宅後に時間の余裕があったので,まとまった時間ができる日を待つのではなく,ほぼ強制的に設定することにしました.

(ちなみに1時間という程よい時間に設定したのは効果絶大で,これがたとえば3時間など立派な時間を目指していたら絶対に挫折していたと思います.)

②についてですが,これは①の解決法によって自然と解消されました.よく勉強の文脈なんかで「やる気というのは始める前に起こるものではなく,始めた後に起こるもの」という言説が出てくると思いますが,完全にそれです.21時から半強制的に絵の練習を始めることで気分は自然と乗ってきて,結果的に1時間以上没頭する日も多かったです.

私の場合,イラスト練習の習慣が身につくまで3週間ほどかかりました.無事に習慣化に至れたのは気分の波に頼らなかったことに加え,身内向けのTwitterアカウントで「イラストの練習をします」と宣言して練習内容を毎回上げていたことが大きいです.

友人たちには「応援してるよ!」と言ってもらえたり練習内容のツイートに毎回いいねしてもらえたり,気づけば自然と外堀を埋められていたのでとても感謝しています.


目標と練習内容の設計

「魅力的なイラスト」とは何か,というのは,とても答えが難しい問題です.なぜなら「魅力」というのは主観的なもので,正解がないからです.
(試しに絵が上手な友人に「自分が魅力的と思える絵ってどうやったら描けるんだろう?」と聞いたところ,「自分のセンスを見出し,磨いていくことが必要.結局は泥臭く経験を積み重ねるしかないかな」という答えが返ってきました.)

一方で,「デッサン的に正しいイラスト」というのは,たくさんの指南本が出ているように,「正解」なるものが存在します.

つまり,「魅力的なイラスト」を描けるようになるには少なくとも年単位の時間をかけて模索を続ける必要があると予想されますが,「デッサン的に正しいイラスト」に関しては勉強したもの勝ちなのだろうと感じました.
だとすれば,後者については私が今までの勉強で培ってきた「学んだ理屈をすぐ応用する」というメタスキルが有利に働き,すぐに効果が出るのではないかという観測が生まれました.

こうして練習の方向性をあらかじめ固めたのち,追加でいくつかのルールを定めました.

① 練習は10日ごとに区切り,同じキャラクターを練習する
② 時間をかければもっとうまく描けるかもという考えを捨て,完成させることに重きを置く
③ 書籍を元に勉強し,誰かが上げたネットの情報はなるべく見ない

①はただの個人的なものなのでさておき,②については以下の記事を参考にして取り入れています.

③については不思議に感じる方も多いと思います.確かにネット上には,本来なら専門の大学に通わなければ得られなかったであろうノウハウが当たり前のようにたくさん存在しています.これを利用しないのはなんだか損に感じられるかもしれません.

しかし,ネットというのは誰でも簡単に有益な情報にアクセスできる反面,間違った情報もたくさん存在します.そしてネットでは厄介なことに,明らかに間違っている情報が手放しに評価されていることが往々にしてあります.

初学者の私には,そういった玉石混交から有用な情報だけを選び出せる自信がありませんでした.さらに,間違った情報を身につけてしまったとき,その間違いに気づいて軌道修正するまで膨大な時間がかかることは想像に難くありません.

そのため,最初のうちはネットから有用な情報を拾い上げて組み立てることに時間を費やすより,一定以上の信頼性がある書籍で体系的に勉強する方が,自分にとって効果的だろうと判断しました.

この頃はちょうど国から10万円が給付され始めていたこともあり,私はさっそく本を数冊買って練習を開始することにしました.


さて,これから具体的な練習内容を記しますが,あくまでイチ個人の体験記であり,再現性や一般性は保証できないことをご理解ください(大事なことなので2回言いました).


1日目~10日目

まずは1日目,物は試し.さっそく自分の傾向を把握するためにも紙に描いてみたのがこんな感じ.

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描いてみて気づいたのは,「自分は想像100%で人間を描いているな」ということでした.想像といっても私は人体については中学校の理科レベルの知識しかなかったため貧弱なイメージに頼るほかなく,まずは美術解剖学を勉強して人体の構造を理解すべきだと思い至りました.

美術解剖学の勉強に使ったのはソッカの美術解剖学ノートという本です.

この本は人体の構造だけでなく,それぞれのパーツの描き方まで分かりやすく丁寧に説明されていて,最初に使う本としてもすごくよかったです.

練習内容としては,本の説明を読みながら要所をノートに描き写して理解していく,というやり方でした.(写真は6日目あたりのページです.)

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約650pと大変ボリュームがある本だったこともあり,10日でやっと一周することができました.

本の帯ではプロの方が「この本を使えば2日で画力3倍になる自信がある」とコメントされていますが,初期値が低めの私は一気に画力10倍くらいになりました.

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めきめき上達できたことが後のモチベーションにも繋がったので,この本への感謝は計り知れません.

もちろん練習を始めたばかりなので,勉強した内容を十分発揮できるほど腕が追いついていませんでしたが,それでも人体の構造を知っていて描くのと知らないで描くのでは大違いでした.


11日目~20日目

10日目までは練習を重ねるごとに画力がぐんぐん上昇していくのを感じ,とても楽しかったのですが,12日目あたりから突然今までのように描けなくなる感覚に陥りました.

描いても描いても上手になっている気がしない,それどころか前より下手になっている気さえする.そんな状態が数日続き,しだいに「これが私の才能の限界なのかな.あっけなかったなぁ」と鬱屈な気分が芽生えてきました.

しかし,色々調べてみると,これは心理学の「マスタリー曲線」におけるプラトー現象だということが分かりました.

マスタリー曲線については以下のサイトが分かりやすく説明していたので,イラストの練習には関係ない記事ですがぜひご一読ください.

マスタリー曲線.001-1118x538

図もリンク先より引用しました

この現象を知ってからは,「今苦しんでいるこの停滞感は決して画力が頭打ちになっているわけではなく,むしろ一気に伸びる前の準備段階なのだ」と信じてひたすら手を動かし続けました.いつプラトーが終わるか分からなかったので,この時期は本当につらかったです.

また,こういった苦しい時期にモチベーションを維持するには新しいことを取り入れるのが効果的と聞いたので,ノートだけでなくついにクリスタでも本格的にイラストを描き始めるようになりました.

私には今までもこのプラトー現象というものに陥っては数々のことを放り投げてきた過去があります.過去には乗り越えられず今回ついに乗り越えられた,そこには「プラトー現象というものを認識していたかどうか」という決定的な分かれ道があったと思います.この一連の流れは検索能力の大切さを改めて感じられる出来事でした.

こうして苦しみながらも練習を続け,20日目にはクリスタで一つの作品を描きました.それがこちらです.

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今見ると全然まだまだなのですが,練習を始める前に比べると円滑に描けるようになった実感があったので,とても嬉しかったのを覚えています.


21日目~30日目

20日目のイラストを描いた時点ではあまりクリスタを使いこなせている自信がなかったので,一刻でも早くソフトを使いこなせるように公式サイトの使い方講座で少しずつ勉強していました.

同時に,この頃から色塗りの練習も始めることにしました.このときばかりはネット上の講座を解禁し,メイキング動画メイキングGIFをいくつか眺めていました.

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これは早速チャレンジしたカラーイラストです(塗り方は色んな動画の見様見真似です).塗りはともかく,丁寧に描いてるつもりの線画の汚さが非常に気になり,色塗りの前に線をどうにかせねばと感じました.

そうして色々と調べているうちにクリスタの公式サイトでベクターレイヤーというものを知り,これを使えば線画が綺麗に描けることを知りました.

このベクターレイヤーなるものは使い慣れるまでにかなり時間を費やし,何度も試行錯誤しましたが,繰り返し使っていくうちに終盤はベクターレイヤーを使う前と比べてかなり綺麗な線画を描けるようになりました.

さらに塗りについても,子どもの頃に使っていたクレヨンや色鉛筆とは違い,クリスタではカラーサークルから無限のように色が選べるという特性に着目しました.

物体の「色」というのは光源の種類と,物体が固有に持つスペクトル反射率に依存するということは高校物理で学んでいました.それを意識しながら,色鉛筆で塗るときにありがちな「肌の色は薄橙色」というように固有色を選ばないように注意しました.
(以下の図は70日目にpixivで上げたものです.)

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(これは乗算やオーバーレイなどを駆使すればいいということに後から気づくのですが,その辺りの話は71日目~80日目をご参照ください.)

こうして30日目に完成したイラストがこちらです.

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粗いところや不自然なところも多々ありますが,個人的にはとても大好きな作品です.

また,クリスタに慣れることに苦心する一方で,毎回紙のノートで直立全身や手などのイラストを練習しており,30日目にしてついにノート1冊分を埋めきりました.
白紙60枚のノートなので,1ヵ月で120ページ分描いたことになります.こんなにたくさんの量を描いたことは人生で初めてだったので,このときの達成感は今でも忘れられません.


31日目~40日目

イラストの練習というのは紛うことなき個人戦ですが,この時期は一人で描き続けることに対して少し精神的なつらさを感じていました.

ところで,私は理工系の大学院生ということもあり,研究室にはゲーム会社に就職予定だったり,趣味で3DCGのモデリングをやっていたり,同人誌を描いたりしている人がいます.
そこで,研究室のslackで「イラスト練習会をしようと思うので参加したい人は連絡ください」と人員を募り,オンラインで練習会を開催しました.

練習会ではまず,自分が今まで学んだことを自分なりにまとめて,プレゼン形式で共有しました.このプレゼンは今までの勉強のいい復習になりました.
さらにプレゼンの後は,50分で絵を描いてその後みんなに公開するというハッカソン的なことを実施しました.そこで私は,描いたイラストを公開するときに不自然に思う点を忌憚なく指摘してもらうよう個人的に依頼しました.

そこで描いたイラストは以下の通りです.(ちなみにこの時点でもまだアナログの方が慣れていたので,ノートに描いた下書きをiPadに取り込んでクリスタで描いていました.)

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客観的な意見をもらえたり自分でも見返したりしたおかげで自分のヘンな癖をいくつか修正できたのでとてもよかったです.

アドバイスを積極的に受け付けているという話をすると,たまに「ドMなの?」と言われるのですが,実のところそういうわけではなく,私にはアドバイスを受けるときには指摘された内容と,それに対して自分が得た感情をまったくの別物として考える習慣があるだけです.

私のようなポンコツ大学院生だと一度や二度は研究でボコられて凹むことがあるのですが,そのときに「これは自分の研究の粗さを指摘されているのであって,決して私自身を否定されているわけではない」ということを暗黙的に学びます.イラストに対する指摘の捉え方もきっと同じことです.

ということで,他人からアドバイスを受けて自分の悪いクセをいくつか修正したのち,40日記念で描いたイラストがこちらになります.

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デッサン的にはまだまだところどころ狂いがあるのですが,全体的に見ると30日目より上達できたかなと感じました.


41日目~50日目

ノートでの基礎練習を繰り返すにあたって,この辺りはかなり画力の伸びを感じる時期でした.そこで,今まで大きな障壁を感じていた背景つきの一枚イラストを描くことを決心しました.

先述の通り私は知らない市町村の情景を勝手に想像しながら架空の人間に旅をさせるのが大好きで,イラストが上手になったらその頭の中の情景を描いてみたいと考えていました.
まだ胸を張ってイラストが上手になったとは言えないものの,パターン化してきた練習にちょっと飽きてきたのも事実だったので,いっそここで描きたいイラストにチャレンジしてみてもいいのではないかと思ったのです.

背景にチャレンジするにあたって,二点透視とアイレベルの基本的なことを事前にしっかり勉強しました.

また,人体は前述の「ソッカの美術解剖学ノート」に載っている絵を所々マネしながら骨格からしっかり描いていきました.(念のため補足するといわゆるトレースではないことと,出版社さんには公開の許可を頂いています.)

このときは研究室も夏休み期間だったので,ひたすら家に篭り,文字通り寝食忘れてイラストを描いていました.こうして完成したのが以下の作品です.

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とても苦労しましたが,やっぱり自分が描きたい題材を描くとものすごく楽しかったです!

しかし一方で,「何かが違う…もっと何か全体の雰囲気が…」という言語化できない違和感がありました.それを自分のミジンコみたいな力量で見出すのは不可能でしたし,自分のイラストの改善点を自力で見つけ続けるのにも能力的な限界を感じていたため,思い切ってプロの方に添削をしていただくことにしました.

利用したのはsessaというイラスト添削サービスです.このサービスは,添削を受け付けている先生方が料金相場を提示するシステムになっているので,個人的にコンタクトを取るよりも遥かに依頼の敷居が低くてオススメです.

添削は,背景グラフィッカ・イラストレーターとして大学で非常勤講師もなさっている吉田誠治先生にお願いしました.この方はyoutubeでもリアルタイムの添削を公開されているので,ぜひご覧になってください.

添削結果とコメントは以下の通りでした。

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添削のご依頼ありがとうございます! 第一印象としては、とにかくとても上手で、あまり大きな不満点はないように思います。ただご本人が未完成と感じられているようなので、特に画面づくりを中心に修正してみました。(中略)
修正点については、特に人物とヒマワリのシルエットが第一印象で見えるようにしています。僕は絵の印象というのは最初の0.5秒で決まると考えています。twitterのタイムラインで知らない人の絵を見たときなど、興味がないとすぐスクロールしてしまうと思いますが、まさにそれです。そこで興味を持ってもらえるように、分かりやすい画作りを心がけましょう。
人物やヒマワリの細かい書き込みについても、基本的には問題ないのですが、たとえばヒマワリについてはもう少し彩度の高いポイントを作ることでより見栄えのする絵になるかなと思います。そんな感じで「見せたいところは少し強調する」「ちょっとだけ嘘をつく」ということができると、絵としての魅力が上がると思います。
以上、参考にしていただけたら嬉しいです!

まず,冒頭で褒めていただいたのは効果てきめんでした.プロの方に上手と言っていただけたことで今までの練習で積み重なっていた不安が一気に解消され,大きな自信になったのは言うまでもありません.

さらに,修正内容も具体的に教えていただき,書かれている文章すべてが今まで考えたことすらなかったものだったので,とてつもなく参考になりました.これがプロの力!

添削を依頼するからには基本的に自分のイラストの欠点を指摘してもらうことになるのですが,そんな中でも吉田先生のコメントからは「添削を通してますますイラストを楽しんでほしい」という思いが伝わってきて,実際も添削後はイラストを描くのがますます楽しくなりました.

また,この辺りから,実験的にTwitterアカウントを作って描いたイラストを公開するようにしました.身内以外に作品を見せるのは恐ろしいことだと思っていたので,それをどうにかして克服したいという意図がありました.

Twitterは目的が目的だったので,よくある「#絵描きとつながりたい」的なタグはつけず,創作活動をしている知り合いだけフォローしてひたすらオリジナル作品を上げていました(私はSNS上でコミュ障を極めていたため知り合い以外の人をフォローすることができませんでした).

さらに,この辺りから描いた作品のメイキングpixivに上げるようになりました.これは自分がどうイラストを描いているかを言語化する作業であると同時に,作品を見直して改善点を見つける時間としても活用していました.


51日目~60日目

この頃から本業(研究)が佳境に差し掛かり,イラストを毎日練習するのが難しくなりました.
とはいえ,もうイラストの練習は努めず行えるに至っていたので,長い目で見た結論として,「雨が降っても槍が降っても毎日練習する」のではなく「休んでもいいので無理なく継続させる」よう目的をシフトさせました.

さて,前章で紹介したsessaというサイトですが,このサイトはなんと他の人が依頼した添削結果が無料で公開されています.「これ無料でいいのか!?」とびっくりしつつ,アニメの原画担当さんなどの添削の様子を眺めてはプロの視点を学んでいました.(このサイトは今も本当にお世話になっているので,お布施も兼ねてまた添削を依頼したいです.)

この頃にはもう直立全身イラストを描くこともすっかり小慣れてきたのですが,肝心の顔と線画がおそろかになっていたので何度も何度も練習しました.色んなブラシを試しましたが,正直Gペンくらいしか使いこなせませんでした….

さらに,この頃はフェルメールという中世の画家の技法を勉強していました.イラストの勉強を始めてから見かけた彼の絵はとてつもなくすごいものに感じられ,「なぜ今までこのすごさに気づかなかったんだろう」と雷を撃たれたような衝撃でした.これぞ勉強の本髄ですな.
純粋に技法だけを解説した本から福岡伸一先生が書いた紀行文まで幅広く,論文執筆の休憩中に読み漁っていました.

そんなこんなを繰り返して60日目に描き上げたのが以下のイラストです.複数人を同じ画面に収められるようになったのは個人的にすごい進歩でした.また,この辺りから作品を完成させる体力が確実に身につき始めているのを感じました.

(deleted)


61日目~70日目

この時期から私は質感表現を意識し始めるようになりました.それは3DCGの技術からヒントを得てのことです.

ある日,研究室の同期がCGWORLDというコンピュータグラフィックスの雑誌を読んでおり,面白そうだったので私もなんとなく読んでみました.

その雑誌では3Dモデリング技術の解説などが書かれており,一見2次元のイラストとはあまり関係ない特集ばかりでしたが,とあるページから物理ベースレンダリングという概念が紹介されていてCGの数学的なバックグラウンドに興味を持ちました.

物理ベースレンダリングの説明は長くなるので省きますが,そもそもCGというのが「3次元の立体モデルを2次元のディスプレイ上で表示するものだ」ということをレンダリングを通して認識できたのは大きかったです.
なぜなら,それは「頭の中で思い描く3次元のシーンを2次元の画像で表現する」イラストと似ており,両者は通じ合うところがあると気づけたからです.

そこで,CGで使われている概念や技術は,頭の中の情景をイラストにコンバートするにおいても有用なのではないかと思い,CG Magicという本を読んでCGの学術的な面について一通り学びました.

CG Magicは学術書なのでむやみにオススメはできないものの,とてもいい本でした.特に「モノの形」「光源の種類」「モノの表面の反射特性」など,私たちが目にするシーンをいくつかの物理的な要素に分解するというCG特有の考え方は,個人的にとても役に立つものでした.(デジタルイラストでもレイヤー分けを利用すれば同様に表現できるためです.)

また,同時並行でCGWORLDのバックナンバーを読むうちに,3DCGを元に線画を起こす方法があり,漫画やアニメでもよく活用されているということを知りました.

こういった知見を活かして描いたイラストがこちらです.

(deleted)

このイラストでいう扇子は形は配布されていた3Dモデル,質感は実家から送ってもらった実物の写真を複数枚参考にして描いたものです.(複数枚の写真から質感を推定する,というのはCGの手法に由来しています.)

このイラストを通して「クリスタにはさまざまな種類のブラシが揃っていて,ボタン一つで簡単に描き味を変えられる.目的によってブラシを使い分けよう」と,思い至ることができました.

pixivに投稿したこのイラストのメイキングは,初めてブクマ1000を突破してランキング入りするなど,自分の上達を認識できる思い出の作品となりました.


71日目~80日目

前述のルールで決めた通り,ネットの講座は見ないようにしていたのですが,この日はなんとなくpixivで自分作品の関連作品として出てくるメイキングを3つほど拝見しました.

そこで分かったのは,みんな「スクリーン」とか「オーバーレイ」とかレイヤーの描画モードを色々利用して描いている,ということでした.これは以前見た動画やGIFでのメイキングでは知り得ない要素だったこともあり,とても新鮮な気持ちでした.
とりわけ加工という段階では色んな描画モードを駆使することでイラストの雰囲気が魔法のように変わっており,とてもびっくりしたのを覚えています.

一方,私はイラストの9割9分を通常レイヤーで描いており,残りは乗算などをブラックボックス的になんとなく使っていました.これはまずいぞ,と焦ったのは言うまでもありません.

さっそく自分でも色々と試してみましたが,描画モードを変えても何が起こっているのか直感的にはさっぱり理解できず,途方に暮れていました.

直感で理解できなければ理屈で理解しよう,ということでゆるゆると調べていると,この質問サイトの記事により「どうもadobeのphotoshopの描画モードはだいたい計算処理の内容が分かっているらしい」ということが判明しました.

そこで,この質問サイトの回答のソースとして貼られていたリンクからphotoshopの描画モードのプログラムを読み解いて,それぞれの描画モードが数学的にどんな処理をしているのかを理解しました.

プログラムの検証ではphotoshopの無料体験版を使っていたのですが,photoshopとクリスタを比較したところ,各描画モードは恐らく同一の数式だろうと分かったので,photoshopでの理解をそのままクリスタにも流用しました.

そうして加工にチャレンジしてみたのが下のイラストになります.

画像10

今まで四苦八苦しながら色を選んでいたのに比べると,この加工時間は10分もせずに済んだので,「描画モードすごい.これを知らなかった今までの自分をなかったことにしたい」と思いました.

このときの勉強ノートはpixivに公開しているのでぜひどうぞ! 海外の方から英語verを作ってほしいとのリクエストもありましたので,そちらは近々slideshareに公開する予定です.


81日目~90日目

日数でいうと3ヶ月分です.ここでついに全身のイラストに挑戦してみたいと思い至りました.直立の全身は練習するたび必ずノートに描いていたのですが,そうではなく,ポーズがついた全身のイラストにステップアップしたかったのです.

胸より下を描いたイラストといえば50日目のイラストが挙げられますが,あのときはソッカの美術解剖学ノートのイラストを参考にしてポーズを組み立てていました.練習で描いている直立全身のイラストも同書に載っている描き方に従って描いていました.

今回はそうではなく,骨格の段階から自分でイチから描いてみようと決意し,多数のボツ案を出しながらも全身のポーズを作り上げていきました.

画像18

こうして描いたのがこのイラストです! と言いたいところですが,明らかに制作途中のイラストにしか見えませんね.実際のところ制作途中です.

これは完成間近にファイルを間違えて消してしまう凡ミスをやらかしてしまい,データを途中までしか復旧できなかったという悲しい事情があります.(背景すごく頑張ったのに;;) 

しばらく心が折れていましたが,近いうちにまた完成させたいと思います.ちなみに個人的には足の裏のふにふに感が気に入っています.


 91日目~100日目

ついに100日目.キリがいい数字なので,新しいことを勉強するというよりは,今までの練習の集大成として初日から学んだことを復習しながら1枚のイラストを描きました.

画像20

ただ,このイラストについてはいつか取り入れたいと思っていたことを実験的に組み込んでみました.
取り入れたかったことというのは重心のことで,人体は重心を意識することで,安定感があって自然なポーズを描くことができます.一方でこのイラストは,重心をあえて少し不自然に設定することで,まるで映画のワンシーンを切り取ったようなイラストが描けるのではないかと見込んで描いたものです.

このイラストの最大の進歩は,「なんだか自分のイラスト好きかも」と思えるようになったことです.そう思えるようになったのも,過去の自分が練習をしてくれたおかげです.まだまだ上達ポイントはたくさんありますが,100日目として考えると個人的には大満足なイラストになりました.


結論

練習でやったことを総括すると「何度も小さな課題を見つけてはたくさん勉強を重ね,たくさん描き,たくさん反省した」ということです.(こうして書いてみると,なんだかとても当たり前で身も蓋もない話に聞こえますね.)

100日間を思い返すと,効率が悪いところも多々ありました.オーバーレイとかまともに知ったの終盤でしたし.でも私は,成長の影には努力と時間の浪費があって当然と思います.

私の場合,練習が報われるのか不安で筆を投げたくなることも山ほどありましたが,そんなときは練習方法を見直しながら,ひたすら手を動かし続けることを意識していました.

個人的に私の練習でよかった点は,

・たくさん描いた
・たくさん本を読んでたくさん勉強した
・他の創作ジャンルの知識もメタ的に取り入れた
・描いた作品をネットに上げた
・他人に積極的にアドバイスを求めた
・作品や練習方法を何度も反省していた
・過去の自分としか巧拙の比較をしなかったので精神衛生によかった
・あまりにも忙しい時期は無理せず休んだ

あたりかな,と思っています.

反面,個人的に私の練習で悪かった点は,

・惰性で描いてしまうことがたまにあった
・伸び悩んだときに練習方法の見直しを先延ばしにしたことがあった
・他の絵描きさんとの交流や情報交換をしなかった
・他の人のイラストと(の違いを見つけて改善点を見つけるための)比較をしなかった
・作品の完成を優先しすぎるあまり勉強をおろそかにする日があった

あたりだと反省しています.

ともかく,この100日 (+練習を休んだ日) という期間はとても充実したものでした.なんといっても「一つのことに夢中になり,たくさん勉強して成長し,たくさん作品を生み出せた」という事実が自信になったのは間違いありません.


今後について

人体についてはたくさん勉強ができた反面,背景については基本的なことしか勉強できなかったので,今後は背景の勉強もしっかり進めていこうと思います.

将来は,自分が想像した架空の市町村を色んなオリジナルキャラクターに旅させるイラスト本を作ってみたいです.完全に自己満足物ではありますが,新しい夢ができてとてもわくわくしています.

ただ,修士論文も控えているのでこれから描くペースは落ちるかな,といった所感です.イラストの他に勉強したいこともいっぱいあるので,程々に頑張っていこうと思います.


最後に: 使った本のレビュー

100日間で使った本の中で特にオススメのものと,今後使う予定の本をPUして挙げておきます.読んだ本をすべてリストアップすると大変長くなるので,こういった方式を取らせていただいております.ご容赦ください.

a) 100日間で使った本の中で特にオススメのもの

図解・いきなり絵がうまくなる本 
最初に買って読んだ本です.作者さんは建築分野の方で,透視図法を分かりやすく説明しています.最初は正直タイトルの言葉に半信半疑だったのですが,読んでいくうちに紙の上(2次元上)で立体感(3次元感)を表現する技術がぐんと伸びたので,全然タイトル詐欺ではなかったです.この本で「才能がなくても絵は描ける」ということを知れて,精神的にも大きな支えになりました.
ソッカの美術解剖学ノート
記事で語ったので詳しくは割愛します(1日目〜10日目参照).とにかくこれを読んで練習すれば人体はなんとかなると思っています.税込み7,000円以上しますが,あの内容でこの値段は安いです.あと一生使うので実質タダです.
重心とねじれが分かる超実践人体ポーズ
漫画家の篠房六郎先生による人体ポーズの技法書(同人誌)です.イラストの上手な友人が貸してくれて,練習初日にソッカの美術解剖学ノートと並行して勉強しました.とても分かりやすくまとめられており,ポーズがついた人体を描くときのポイントを短時間で会得することができました.大変役に立つ本だったので,ぜひ自分用にも入手したかったのですが,現在通販や再販などはないようです.
現場で役立つ CLIP STUDIO PAINT PRO/EX 時短テクニック
クリスタのハウトゥー本です.クリスタを使い始めた頃に同期がラボに持ち込んでいて,ソフトの使い方をマスターしたい一心で読ませてもらいました.私のようなクリスタに慣れていない初心者に適した本だと思います.この本でクリスタに関するいろんなTipsを知ることができました.ただ,どちらかと言えば漫画を描いてる人向きのテイストだったので,いずれ漫画にチャレンジするときに改めてお世話になろうと思います.
カラー&ライト ~リアリズムのための色彩と光の描き方~
50日目のイラストを描いている最中に読みました.タイトルの通り,色彩や光を理論的に説明した本です.タイトルには「リアリズム」と書かれていますが,かなり幅が利く内容で,イラストにも役に立ちました.この本の知見おかげでカラーイラストの完成度が一気に上がったので本当に感謝しています.色や光についての解説はもちろん,いろんなシーンにおける表現ポイントまで分かりやすく解説されていてオススメです.
吉田誠治作品集&パース徹底テクニック
イラストを添削してくださった吉田誠治先生の本です(41日目〜50日目参照).タイトルの通り前半が作品集で,後半は講座になっています.講座では最初にパースを気にせず背景を描く方法が分かりやすく伝授されています.まずは背景を楽しく描きたいときの入門書として,そしてしだいにパースなど専門的なことを勉強したくなったときの講座として,長きにわたって役に立つオススメの本です.私はこれからもお世話になります.
CGWORLD
これも記事でおおよそは語ったので詳しくは割愛(61日目〜70日目参照).3DCGの特集がメインですが,技術についても制作の心構えについても意外とイラストに取り入れられることが多いです.映像制作現場の制作フローなども見れるので読んでいるだけでも楽しいです.


b) これから使う予定の本の中から特に気になってるもの(積読中)

やさしい人物画
DVDビデオ付き! アニメ私塾流 最速でなんでも描けるようになるキャラ作画の技術
「キャラの背景」描き方教室 CLIP STUDIO PAINTで描く! キャラの想いを物語る風景の技術

オススメの本や情報などあればぜひコメントで教えてください.それでは.


謝辞

この記事は完成させてしばらく放置していたのですが,えいじゅん氏には前向きな感想をいただくことで公開の背中を押していただきました.
また,本記事の作成にあたり,塩野谷恭輔さんには記事の感想に加えて日本語校正の面でもお世話になりました.

かねてからその筆才を尊敬していたので,公開前の確認を快く引き受けてくださり大変ありがたかったです.この場を借りて感謝を申し上げます.

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