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美少女イラストフォビアみたいなのってある気がする

ラディカルフェミニズムについての解説を書こうと思っていたのだけれど、色々話が入ってきて、完全に予定が倒れていた。もうちょっと軽い話も書いていこう…… ということで、今回はとくに結論のない話です。

こちらの記事の元ツイが流れて来て、まぁちょっと気になったわけです。

## 気になったこと1:ハヤカワはコミックイラスト表紙そんなに多くない(既出)

まず思ったのは、いや、ハヤカワってそんなに美少女表紙ばっかりじゃないよね??ということで、noteを拝読すると、この点についてはたくさん突っ込みがあったっぽい。

「最近のハヤカワといえばコミティア系のイラストレーターさん」的な、ヨシツギ先生とか片山若子氏とか、「絵本っぽいキャラクターイラスト」ラインってイメージがあったんですが、それも相当オタク視点に寄った印象だったようで、2020年の新刊はこんな感じ。20冊に一冊くらいで、思った以上に少ないです。復刊ものとネットで話題の(若干サブカルっぽい)作品にコミックイラストの表紙が来る印象がありますが、それでもハヤカワ文庫は思った以上に少なめ。

『2010~20年に出た早川創元SFアンソロジー55冊のうち、女子(に見えるキャラ)がメインの表紙は多く見積もり13冊(23.6%)くらい』

調べて記事化されている方がいてはりました(7.04追記)

## 気になったこと2:これは百合では??

「馬鹿の一つ覚えみたいに」女の子の表紙ばかり。「女性主人公や百合SFだったら分かるが」「編集者も好きでやっているのか、売れるからしぶしぶやっているのか気になる。」

「女性主人公や百合SFだったら分かるが」

この下りで挙げられた6点のうち、「ツイスターサイクロンランナウェイ」と「最後にして最初のアイドル」は明確に百合SFですね。前者は小川一水氏の百合SF、後者はラブライブSF合同から星雲賞へという異色の経歴が話題になった作品です(とても良いので読んで)。「ゲームSF傑作選」の表紙も女の子のカップリングを意識しているように見える。上記noteの筆者さん的に百合はオーケー判定らしいですが、男性ユーザーを意識してるのは「ニルヤの島」に留まるのではと思われます(追記:未確認だったのですが、「なめらかな世界と、その敵」も百合SFでした……)

で、問題のツイで引用されていた以下のツイですが、
これも百合/BL推しでは??

このふたつ、どっちもカップリング絵です。右と左が対応関係になってるのがわかると思います。中性っぽいキャラクターを2体、という手法。しかも、2010年代傑作選のほうは(これは『ハーモニー』の表紙イラストの方?)キャラクターデザインを中性に寄せている印象です。個人的には、両方とも男の子だよ、と言われても「そうか…」となります。

百合ならいいのか? っていうと色々いいたいことが発生するひとはいると思し、売りたい作品にとりあえず百合を刺していく風潮はどうなのかというご意見もあると思うのですが、本件に関しては「百合SFだったらわかるが」←「いや、百合ですよね??」という。ハヤカワが百合を推すのはMW文庫のニアホモ枠(※1)みたいなもんやて、と思っていたのですが、売れ線的にも思った以上に席巻されているっぽいので、まぁ推していきますよねといった感。百合SFでリアリスティックな女性の絵をお出しされても(悪くはないけれど)ちょっと困る。

後から確認したのですが、編集者さんからのコメントがありました。

ここであえて百合SFの流れに乗らずに、男女どちらともとれるようにしたことが、ジェンダーに基づく規範からの自由を求める10年代後半のモードを表している

百合というわけでもなく、演出意図としては「中性(or性別指定なし)」が正解のようです。「日本のアニメ文化の影響を受けつつそれを進化させた中国系SFソシャゲの絵作り」という表現は面白いですね。こういうの自分も好き(アークナイツにハマったのはそのへんもある)

## 気になったこと3:女性がみんなイケメン好きで男性がみんな美少女好きなわけじゃないと思う

筆者さんは「女性ユーザーを意識したプロモーションを」と書かれていますが、ハヤカワは割と意識しているように思われます。

男性は耽美めの男2人をやや敬遠する、女性はセクシャルな要素の誇張が多いとやや敬遠する(少女自体はOK)、といった仮説を持っています。で、男性ユーザーをターゲットにする場合は女の子のピン表紙、女性向けの場合は男女カップルか男男カップルが鉄板、といった印象です。

しかし、男2人並べておけば女性の新規読者が取れるかというと、商業BL消費者の層が限られるのを考えるとあまり望めないと思うのですね。女性のオタクの人はキャラクターに厳しい(逆に内容がよければ男男表紙でなくてよい)。かつ、女性の美少女絵が好きで男密度高いのそこまで好きじゃない層ってそんなに少なくないと思われる。つまり、男女比1:1くらいの集団をふわっと狙いたい場合、男2人のカップルを前面に出す表紙はあまり合理的でない。つまりこう。

- 男性は耽美めの男2人をやや敬遠する、女性はセクシャルな要素の誇張が多いイラストを敬遠しがち(女性自体はOK、百合もOK)
- 少女主体の表紙は男女のオタク層を広く狙える。
- 女性ユーザーを意識する場合、細身の少女+男性か少女+少女を狙うのが鉄板(BL嗜好層は話題になればイラストがなくてもついてくるので)

つまり、「ややオタク」くらいの層向けのプロモーションだと、中性的な少年少女(少女多め)、女性顧客を意識した上で、更に「少女」成分が上がるみたいな現象が起こりうる。

その上でゴリゴリ耽美路線に新調された「人形つかい」みたいなケースもあるので、別にええんちゃうのと思います。好みか好みじゃないか、目につくかつかないか、でしかないわけだし。

## 総括

上記記事を読んで思ったのは、「ハヤカワ文庫程度の量・内容」でも「女の子の表紙が多すぎる」という感覚を持つ人がいるのだな、ということです。ここまで書いた通り、「美少女絵の表紙は偶々目立っていただけ」で、ハヤカワのコミックイラスト表紙はどちらかといえば極めて少ない、かつ、最近の売れ線である(上記noteの筆者さん的にも例外らしい)百合SF作品や、そちらが好きな層向けのプロモーションが多く含まれています。さらに、例に上がったイラストは、全体的にセクシャルな「どぎつさ」をかなり抑えている。「キャラ絵がついてくることで買ってくれる、男性の新規消費者」狙い、という指摘はあてはまらないような気がします。

筆者さんは別に「フォビア」といった感覚は持っていないだろうと推測するのですけれども、諸々踏まえると「キャラ絵がついてくることで買ってくれる、男性の新規消費者向けにプロモーションしているから、美少女のイラストを使っているのだろう」という結論ありきで物事を見てる感じは否めないんですよね。女性かなと思いましたが、これは男性でもあるのかなと思う。女の子の絵を使ってるからこれはオタク男性向けだ、軽薄だ、みたいな。

作者さんは「自分のような意見には一定の支持があるだろう」という感覚っぽいですけれど、確かにそういう風潮はあるような気がする……しかし、もっとライトなレーベルならともかく、ハヤカワにそれ言うのはねえべ、みたいな個人的な印象論でした。いや、分析内容については、自分なりに本読んでて「こうなんだろうな」って思ってるだけで、特に確固たる根拠があるわけではないのですが。

ハヤカワはコミティア系の作家さんを起用して、線の細い少年少女絵で……という、個人的にはいちばん好きなバランス感覚なので、このまま行ってほしいんですよね。女性作家が少ないのは(出てきた際の持ち上げられ方などみても)たんに少ないからだろうしなあ。

ところで、神がYoutubeに百合シチュエーションASMRを上げたときに「ヤンデレ 百合」の検索流入と共に女性視聴者率が15%くらい上がって「まじで」となったことは忘れません。もうちょっと頑張ります。。
いや、何が言いたいのかというと、美少女イラストって男性だけのものじゃないよね、ってことだったりするのですけれど。

(※1) BLではないが男性2人がいちゃいちゃしている系統の作品を指す俗語

女性性、というよりはネオテニーって感じがある。
アメリカのメディア基準だと珍しいのかもしれないですけれど、これはそういうもんだ、という風に認識しております。

追記)『萌え絵』だと話が狭まるとのご指摘を受けたので、タイトルを「美少女イラストフォビア」に訂正しました。

さらに追記)

お返事いただいてた。書きたかったことは書いてしまったので、自分の中に更に続けるべき内容はないのですが、丁寧に応答いただき感謝です。竹書房の編集さんの記事がノーチェックだったのですが、表紙のマーケティングについて具体的な思考過程を書いていただいていて、とても面白かったです。



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ヤヤネヒロコ
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