ぼくたちは図書館でつながっている 複数の種類の図書館で働いて感じたこと
北海道大学附属図書館 西川
さまざまな図書館
あなたが思う「図書館」は、どんなところだろうか。
大人に手を引かれていった公共図書館?
読めば読むほどシールがもらえた学校の図書室?
レポートを書くために血眼で資料を探した大学図書館?
他にも、それぞれが思い浮かべる図書館があるだろう。
「図書館」と一言で言っても、さまざまであることにお気づきだろうか。公共図書館、学校図書館、大学図書館、専門図書館、そして国立図書館などなど。どの種類の図書館も、資料を収集・整理・保存し、提供することが大切な使命だ。しかし、ターゲット層やサービス内容により中身は多様で、それぞれに違ったやりがいと課題がある。
と、偉そうに書いてみたが、私は2020年に北海道大学附属図書館に入職した新米図書館員です。
まだまだ分からないこともたくさんで、毎日ヒーコラヒーコラ仕事しているのだが、北大にやって来る前に公共図書館と学校図書館に勤めた。
異なる種類の図書館で働くことを通して気付いたことがあったので、書いてみたいと思う。青臭いところも多いですが、どうか許してください。
「ぼくたちは図書館でつながっている」の謎
司書課程のある京都の大学で学んだ。卒業時、司書課程でお世話になった恩師のひとりに頂いたことばの中に、こんな一節があった。
「ぼくたちは図書館でつながっている。また会いましょう。」
当時は、図書館に就職が決まっている卒業生も多かったため、「これからは図書館業界で共にがんばろう!」というメッセージとして心強く受け取った。
しかし、実際に図書館の現場に身を置いてみると、「それだけではないのではないか。図書館でつながるって何だ?」と思い始めたのだった。
みんなの公共図書館
図書館にいて「つながり」のことを考えると、まず思うのが図書館間で資料を貸し借りするILL(Inter-Library-Loan)*1。そして、博物館・図書館・文書館のMLA連携*2だと思う。
大学卒業後、某県庁に「司書職」として入庁し、県立図書館に配属された。県立図書館は、赤ちゃんからご年配の方まで全県民がターゲットの、「みんなの図書館」である。
ILLを通して、県内の市町村立図書館、他県の公立図書館、また国立国会図書館など、図書館のつながりの重要性を実感した。
ひとつの図書館では限界があるが、連携することによって膨大な資料を提供できる。
しかし、それだけではない。当たり前だが、県立図書館は、「県の図書館」なのだ。私が感じたつながりは、「行政職の人たち」とのつながりだ。
「行政職」とは、県庁における職種のひとつで、行政事務全般を行う県行政のプロである。従事する職場がある程度決まっている司書職、土木職などの専門職と異なり、県庁のあらゆる課を渡りながらキャリアを積む。
県立図書館は、まごうことなく県の機関の一つであり、行政を行う各課とも深い関係がある。
生活で困っていることがあって行政機関に問い合わせる前に、図書館で情報収集する利用者は多い。図書館では、資料提供だけではなく、専門機関を紹介する「レフェラルサービス」として県庁各課を紹介した。逆に、各課から依頼されて調べものをすることもあった(「議会図書室」ではないが、行政の基礎資料づくりにも関わる)。
同期で入庁した行政職やその他専門職の仲間たちとのつながりは、その点でも貴重だ。
地域に関する情報を教えてくれたり、実際にその土地を一緒に見に行ったり、イベントやお祭りに参加したり……。交流の中で得た郷土の知識が、図書館サービスに活きることもたくさんあった。
高校図書室から大学図書館へ
公共図書館は、赤ちゃんからご年配の方までの全年齢対応図書館。一方で、学校図書館のメインターゲットは生徒たちだ。
県立図書館から高校図書室に異動になった後、しばらくは青春オーラにやられていたのだが、ハッとして生徒たちの観察をした。
生徒たちは、とても忙しかった。課題や部活、委員会、受験勉強など、なかなか本を読む時間がなさそうだ。どうしたものか。
高校の図書室でも、もちろん図書館同士のつながりを感じた。
県内高校でのILL、情報共有や研修、また公共図書館からの団体貸出(学校などの団体向けにたくさんの資料を長期間貸出する制度)。他図書館とのつながりで、読書を促すさまざまなヒントを得た。
しかし、ダイレクトに響いたのは先生とのつながりだ。
先生たちが授業で本を紹介すると、生徒たちは面白いぐらい食いついた。
先生たちと話す機会を見つけては、生徒たちの様子の情報共有だけでなく、「こんな本入りましたよ!」と資料のアップデート状況をPRしたり、授業で扱うテーマや内容を教えてもらい選書や展示をしたりした。先生たちが面白がってくれると、生徒たちも面白がってくれるのだった。
また、学校図書室は保健室と同じように生徒たちにとって少し特殊な場所なようだ。
図書館における調査支援業務で受けられないものとして「人生相談」があるが(鑑定や天気予報、診察などもダメ)、学校では、時にカウンター越しに悩みを打ち明けられることもあった。
そんな時には、じっくり話を聞く。それから、悩みの詳細を明かすことは決してしないが、専門分野の先生たちや養護教諭の先生から情報収集を行い、それぞれに寄りそう本を用意した。先生たちの豊富な経験と知識を借りることで、さまざまな観点から本を選ぶことができ、生徒たちも熱心に読んでくれたのだった。
桜咲く咲く、やがて卒業生たちを見送ると、彼らが進む大学の図書館はどんなところだろうなぁとぼんやり思うようになるのだが……。
県庁を退職し、北海道大学の図書館に入職した。
配属されたのは学術雑誌を取り扱う部署で、公共や学校の図書館ではまずないジャンルだ。電子ジャーナル業務の基礎的なことから始まり、研究界全体が直面しているジャーナル問題*3のことなど、今までに関わってこなかった分野の課題に触れ、これからも勉強の日々だ。
「ぼくたちは図書館でつながっている」再考
図書館はつながっている。同じ種類の図書館同士はもちろん、異なる種類の図書館もつながっている。
これは妄想だけれど……、県立図書館で絵本を読み聞かせしたあの赤ちゃんが、成長し学校に入学して学校図書室を使う。大学に行けば大学図書館を、また研究の道に進んで更に専門図書館を使うようになる。あるいは、大学に進まず働き出して、生活や仕事のヒントを市立図書館で得たり、また自分の子供と一緒にやってきたり……。それぞれの種類の図書館が、ひとりひとりの暮らしに、ライフステージや役割によってバトンタッチしながらずっと寄り添っていくのだと思う。
そして、公共図書館で行政職の人たちとの、学校図書館で先生とのつながりを強く感じたように、図書館の外の世界ともつながっている。
図書館は、あらゆる分野の人やものを巻き込んで、どんどん大きく成長していくのではなかろうか。「図書館は成長する有機体である」(ランガナタン「図書館学の五法則」のひとつ。図書館員の頭に刷り込まれている)ということばが、自分なりにしっくりきた。
恩師がくれた「ぼくたちは図書館でつながっている」ということば。
「これからは図書館業界で共にがんばろう!」という意味だけではなく、さまざまな進路に進む私たちへ、「これからの人生、図書館業界にいようがいまいが、僕たちは図書館を通してずっと一緒だ」というメッセージなのではないかと思った。
注)
*1 ILLについては、河野さんの「消された文字が語るもの」にも書かれています。
*2 MLA連携については、小林さんの「ブラっと水産学部図書館 ~函館キャンパスにおけるMLA連携~」にも書かれています。
*3 ジャーナル問題については、Maedaさんの「Publish and Perish : Time to rescue science」にも書かれています。