メールマーケティングはどこへ向かう? 2024年の変化と来年の見通し
2024年も終わりに近づきました。今年、メールマーケティング界隈で話題になった出来事の振り返りと、それらが来年以降にどう影響するのかまとめましたのでご覧ください。
Googleガイドラインアップデート
2024年のメールマーケティング業界を振り返る上で、最も注目されたのはやはりGoogleによるガイドラインの更新です。この発表は2023年10月に行われ、メルマガを送信する多くの企業やマーケティング担当者にとって無視できない影響を与えました。
SPF、DKIM、DMARCへの対応は基本中の基本
Googleのガイドラインでは、まずSPF、DKIM、DMARCといった認証技術の実装が求められました。これらは送信に使用するドメインの正当性を保証するための仕組みであり、迷惑メール対策の基本と言えます。一度設定をしてしまえば配信システムの変更がない限り使い続けられるため、さっさと設定してしまいましょう。
List-Unsubscribeヘッダによる大混乱
しかし、問題となったのはList-Unsubscribeヘッダへの対応です。これは、受信者がメールを簡単に購読解除できる仕組みを提供するためのものです。Googleは、Gmailでのメール配信を許可する条件として、このヘッダの実装を求めました。特に日本では、多くのメール配信システムがこの機能に対応していなかったため、企業にとっては大規模なシステム改修が必要となりました。
一方で、海外製の主要なマーケティングツールは、アメリカのCAN-SPAM法に対応するため、もとよりこのList-Unsubscribeヘッダに対応していました。そのため、海外ではこのガイドライン変更が大きな騒ぎになることはありませんでした。この対照的な状況が、日本国内での混乱をより一層際立たせる結果となりました。
忙殺された2024年
私自身もこの問題に関連して、多くのメディアや企業から問い合わせを受けました。「どのように対応すればいいのか」「システムの改修はどうやればいいのか」「間に合わなければどうなってしまうのか」といった質問が後を絶たず、特に年初から春にかけては非常に忙しい時期を過ごしました。
しかし、驚くのは、年末になってもいまだに多くの企業が対応を完了していないという現実です。一部の企業では、この要件が自社にどのように適用されるのかを理解しておらず、手を付けていないケースすらあります。これは、企業のメールマーケティング活動が将来的に停止されるリスクをはらんでおり、非常に危険な状況と言えます。
Googleの対応期限が延長に
Google側の対応期限については段階的に延長が発表されています。当初の2024年2月という期限から、現在では「早くても2024年6月」という見通しにトーンダウンしています。しかし、この緩和が永遠に続くわけではありません。一度ルールが厳格に適用されれば、それを解除することは容易ではないと考えられます。
早急な対応が求められる
このような状況の中で、まだ対応を始めていない企業には、すぐに行動を起こすことを強くお勧めします。List-Unsubscribeヘッダの実装は、単なる技術的な要件ではなく、顧客体験を向上させるための重要な要素でもあります。受信者が簡単に購読解除できる仕組みを提供することで、スパム報告のリスクを低減し、ブランドへの信頼を高めることができます。まだ対応が終わっていない、何もやったらいいのか分からないという方はぜひ下記の記事をお読みいただき早急にご対応いただければと思います。
日経クロストレンド「期限は2月1日 メルマガ運用者は「Google新ガイドライン」対応急務」
Web担当者フォーラム「Gmailにメールが届かなくなる!? 5月中にやるべき対応策をマンガで教えてください!WACUL安藤健作さんに聞いてきた」
BIMI認証の一般化とDMARCポリシー
2023年10月にGoogleが発表したガイドライン更新は、DMARCポリシーの設定に大きな影響を与えました。GoogleはDMARCポリシーを「none(何もしない)」と設定することも許容するとしており、多くの企業がこれに基づいて対応を進めました。そして、DMARC設定の普及が進む中で、次のステップとしてBIMI認証への対応が求められるのではないかと予想しています。
BIMI認証とは?
BIMI認証とは、メールのなりすましを防ぎつつ、受信者に自社ブランドをより明確に伝える仕組みの一つです。この認証を導入すると、メール受信者が使用するメールクライアント(例:Gmail、Yahoo!メール、Apple Mailなど)に自社のロゴを表示できるようになります。BIMI認証はブランド認知度を向上させるだけでなく、信頼性の向上にも寄与します。
BIMI認証自体は以前からある仕組みなのですが、技術対応の難易度の高さやコストなどの問題で、いまいち普及しているとは言えませんでした。
BIMI認証を設定するためには、ロゴ画像やVMC・CMCと呼ばれる証明書とともに、DMARCポリシーにて「quarantine」もしくは「reject」を宣言する必要があります。
今回のGoogleガイドラインのアップデートによって多くの企業がDMARCポリシーを「none」で設定したことで、さらに一段階上のポリシーである「quarantine」もしくは「reject」を宣言する下地ができたのではないかと思います。そのため、今回を機に各メールサービスプロバイダーがBIMI認証の普及を推し進めるのではないかというのが私の予想です。
生成AIの登場
ChatGPT、Gemini、Copilotなど、各種の生成AIが登場し、現在のビジネスにおいては必要不可欠なツールとなっています。これは、メールマーケティングの世界においても例外ではありません。特にBtoBのメールコンテンツには、読者にノウハウや有益な情報を伝える「マーケティングメール」と、営業側面の強い「セールスメール(プロスペクトメール)」の2種類があります。これらの中でも、特にセールスメールの作成に生成AIの助けを借りている担当者は少なくありません。
過去データへの依存からの脱却
メールマーケティングの弱みの一つとして、マーケティングを行う企業は自社の過去データしか参照できないという課題があります。各社は自社が過去に送信したメールの成功パターンを組み合わせて配信しているのですが、実は外部のメルマガと見比べると大きくパフォーマンスが劣るなんてケースも山ほどあります。
しかし、今後生成AIがメールの配信ツール側に採用されるに従い、膨大な成功パターンが解析され、企業のメールマーケティングが自動化・最適化されることが期待されます。
自動化の未来性
生成AIがメール配信ツールに組み込まれるに伴い、自社の営業資料やブログコンテンツ、商談記録を基にしたコンテンツ作成の自動化が実現する日も近いと考えています。これは、企業が過去の経験に裏付けられた情報を統合し、最適なメールマーケティングが行われることを意味します。メルマガの担当者が毎回のネタ作りに煩わされることもなくなるかもしれません。
最大公約数から個別最適化へ
また、メールはこれまでバルク配信(一斉配信)が基本でした。バルク配信では「大多数の」読者がメールを読むであろうという時間帯への一斉配信でしたが、これも今後は、読者一人一人の生活パターンに合わせて個別最適化される可能性があります。
生成AIの進化はメールマーケティングの効果をさらに向上させる契機となることでしょう。
プロモーションタブの拡大
2024年6月に配信された「iOS18」より、Apple Mailにもタブ機能が導入されました。これはGmailのタブと同じように受信したメルマガが「Primary」「Transactions」「Updates」「Promotions」の4種類に分類される機能です。これを聞いて「自社のメルマガが見られなくなるのでは…」と落胆する担当者もいるかもしれません。
たしかに、自社のメルマガが「Promotions」タブに分類されることで、一部の読者の視界から消えてしまう可能性は否定できません。しかし、この問題を過剰に心配する必要はないと考えています。
実際に、Gmailのプロモーションタブが導入されてからかなり時間が経過しましたが、メール配信プラットフォームを提供するアメリカのMailgun社の調査によれば、タブ機能を有効にしているユーザーの79.7%が週に1回はプロモーションタブの中身を確認しているとのことです。しかも、51%のユーザーは毎日プロモーションタブを確認しています。
メールマーケティングの成功の解釈
また、そもそもメールは開封率ではなく、一定期間でのアプローチ率で成果を測る必要があります。
一定期間のアプローチを計測し、自社のメルマガを開封している人がどれだけいるのか真の姿を知ることで、リストの本当の価値を知ることができます。
また、メールマーケティングにおいて最も重要なのは「クリック」です。こういうと「開封の先にクリックがあるのでは?」と思われるかもしれませんが、それは間違っています。
クリックした読者は間違いなく開封をしていますが、開封した読者が必ずしもクリックしているわけではありません。何が言いたいかというと、開封数とクリック数は比例しないということです。これらが比例すると考えている企業では、開封数を最大化するために大げさな件名(タイトル)をつけるなどの誤った行動に出てしまいがちです。読者がタイトルにつられて開封したものの、中身(コンテンツ)が読者の期待していたものと大きく離反していた場合、読者はそのメルマガの購読を解除してしまいます。つまり、想定していた成果と真逆の減少が発生するのです。
「Promotions」タブが導入されることで、実際に開封率は低下すると予測されます。しかし、その読者はもとよりブランドとのエンゲージメントが低い人たちであり、自社の期待する行動を起こさない可能性が高いと考えています。
これは、たとえば実際に自社の商品やサービスに関心のある読者のみを制御し、真に有益なコミュニケーションに導くための機会であると言えます。これが「Promotions」タブの拡大が持つ真の価値です。
名前拡張戦略が流行る・・・かも
Oracle Digital Experience Agencyのメンバーが提唱した名前拡張戦略(Name Extension Strategies)は、メルマガの可能性を広げるかもしれません。
名前拡張戦略とはメールの差出人名にメッセージを追加して送信するテクニックです。例えば、普段の差出人名が「合同会社エスプーマ」ならば、「合同会社エスプーマ|セミナー開催中」のようにします。BtoCならば「ブランド名+セール中」「ブランド名+新商品入荷」などのようにすることで開封率の向上が見込めます。
差出人名は読者がメールを開封するかどうかを決定する最上位の評価基準です。読者は認識していない差出先から来たメールは開封しません。したがって、差出人名により「自分が認識している企業からのメール」であることを明確に示すことが重要です。これにメッセージを追加することで、読者の関心を引きつける可能性が大きくなります。
実際に同社ではこのテクニックにより開封率が1.3%向上したとのことです。
BtoBにおける名前拡張戦略
ちなみにBtoBにおいては「合同会社エスプーマ|安藤」のように、社名と担当者名を差出人名に記すテクニックは広く使われています。しかし、このテクニックを誤って使用している企業も多いのが実情です。
このテクニックが有効なのは、読者がその担当者を認知しているときに限るからです。例えば、私(安藤)がメルマガ読者の専属の営業担当であるのならば有効ですが、読者と接点がないマーケティング部門の担当者ならば、メルマガに名前を使用することに意味がありません。
BtoCにおける名前拡張戦略
BtoCの場合では、名前拡張戦略を採用している国内の企業はまだほとんどいませんが、実施することで一定数の成果が期待できるでしょう。
しかし、やりすぎはブランドの棄損に繋がる可能性もあり、注意が必要です。また、このテクニックが普及した暁には読者の関心も薄れ、効果も出にくくなるでしょう。
最後に
今年はメールマーケティングの世界でも様々なことがありました。今回挙げたトピックをいくつご存知でしたでしょうか?
弊社では、メールマーケティングに関する相談・講演から、BtoBマーケティングの支援やマーケターの育成などを行っております。なにかお困りのことがございましたらお気軽にお問い合わせくださいませ。