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「転職した方が上がる」エンジニア給与バブルの終焉と、雑すぎる一部人材紹介会社

エンジニアバブルの終焉についてお話したものが2023年5月28日。あれから半年が経ち明確に転職時の給与についても影響が現れ始めました。スカウト媒体や人材紹介の状況を踏まえつつお話していきます。企業、候補者、そしてその間にある人材事業の事情と思惑を整理していきます。

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伸び悩む給与提示

2022年以前であれば積極採用企業が複数集まることで競りのような現象が起き、現年収に対し1.25倍以上の提示が見られました。これは「社内で出世するより転職した方が年収が上がる」という言説に繋がって行きました。

現在では現年収据え置き、もしくは+50万円程度が相場になっています。給与が大きく上がる場合は現職の待遇が相場より悪く、そのまま入社すると自社の給与水準より低くなる場合や、新卒より低くなるためといった背景があります。現在の給与がエンジニアバブルに上手く乗って相場より多めに貰えている場合、ダウン提示されるケースすらあります。

図示すると下記のような状況です。2015-2022年11月までのエンジニアバブルに対して跳ねた分がごっそり鳴りを潜め、2014年比で微増のレベルに着地しています。

エンジニアの給与イメージ

提示年収の停滞

エンジニアバブル下ではVCからの調達で潤ったスタートアップが「(シニアプログラマークラスであれば)2500万円まで出します」と豪語していたりしたこともありました。当時はその無根拠さに警戒したりしていましたが、今はそのような浮ついた話はほぼ見かけません。

J字カーブの成長を目的にエンジニアを始めとした正社員の数を集めるスタートアップ採用は、数多くの企業が脱落しました。現在でも積極採用をしているスタートアップは数社しか心当たりがありませんが、市場的に買い手市場の傾向があるために選考ハードルは高いです。

スタートアップ以外では1000万円オーバーの求人はあるものの、期待値が異常に高く、内定も出なければ入社後活躍も困難なものになります。プロジェクトマネージャーもデリバリーも、エンジニアリングマネージャーもやって欲しいであるとか、コンサルをしながら営業もして欲しいといった求人になって行きます。そんな人は居ないため、採用支援の際は提示年収を下げてでも要件を分解するところから始めることばかりです。

PjM、PdMは引き続き募集は多いですが、それでも以前のような提示給与の派手さは少ないです。

薄利多売に振り切った罪深い人材紹介の登場

2022年までの人材ビジネスは非常に活況だったため、人材紹介フィー(1年目の想定年収に対するパーセンテージより算出)も、スカウト媒体利用料も高騰が続いていました。人材紹介フィーは下限が40%、企業側から期間限定で採用成功の期待を込めて50%、70%と上げる申し出をして行きました。コンサルなどでは100%、200%という話もありました。

2023年になると、35%で積極採用しているSIerやSESの企業と新規契約を求める人材紹介が確認されるようになりました。また、50%以上を企業から打診されても、求人要件が高過ぎて決まらないので喜ばない人材紹介も見られるようになりました。

先に紹介したようなJ字カーブを継続できている企業も数社しかないため、これらを志望する場合はよほど給与などを代理で交渉して欲しい時以外、そもそも選択肢が少ないので直接応募やリファラルで問題ないでしょう。

現在でも人材紹介フィーの初期値が60%や70%の人材紹介会社はありますが、神クラスの人材をバリバリ囲うか、採用ハードルの低いお金持ち企業を狙い続けるか、それほどのレベル感でもない人材を脚色するかのどれかしか売り上げに繋がらないため、あまり持続可能な戦略には思えません。遠くから見守ることにします。

過去では1000万円オーバーの人材を紹介し、50%の人材紹介フィー(500万円の売上)を得ることも容易でした。それが難しくなり、薄利多売に舵を取った会社が見られます。

看過できないのは候補者が「メガベンチャーに行きたい」と言ってもスルーしたり、「メガベンチャーへの架空の応募と架空の書類落ち」を演出した上で、提示年収400-500万円で40%の人材紹介フィーを払える大手SESに誘導する人材紹介会社が見られます(500万円の場合は200万円の売り上げ)。過去に比べると候補者一人当たりの売上が凹むため、昨年比で入社者を2.5倍以上回さねばならず、候補者にも即断即決を迫っていきます。

対象企業のATS(候補者管理システム)に記録も無いのですが、別経路から声が掛かってコミュニケーションを取って初めて分かることなのですが、「妙に選考途中辞退が多い」「やたらと内定持ちを主張しながら月内の決断を迫る」などは怪しいです。候補者のキャリアを売上としか見ておらず、実に罪深いです。このnoteを読んでいる層ではないと思いますが、滅んで頂きたい事業です。

エンジニア給与バブル終焉の今、気をつけたいこと

2015年以来、久し振りのエンジニア提示給与の冷え込みに対し、企業と候補者のそれぞれにおいて注意しなければならない点をまとめていきます。

企業: 別に採用しやすくなったわけではない

他社の提示年収が低いからと言って採用しやすいわけではありません。

未経験〜ジュニア層を年収400-500万円クラス、且つ低めの採用要件で短期選考で内定を出しつつも、尚且つそれでビジネスとして成立できるのであれば採用難易度は低めな傾向があります。

しかしそれ以上の年収帯では即戦力が著しく期待されるため各社選考ハードルが厳しく、なかなか内定が出ません。リファラルで対象者を狙って声をかけたほうがまだ採用可能性は高いです。

他社の提示金額が落ちる中、それなりのサイズの企業が逆張りで提示給与を上げてきているケースもあります。戦略としては買い手市場に立てるので優位性はありますが、これまで既存社員の年収を見直していないためにハレーションが発生し、退職の連続が懸念される企業も見られます。こうした企業は長らく社内での給与に対するバリューがシビアであったため、役員だけでなく給与情報を漏れ聞いた社員の嫉妬が凄まじいです。給与情報が漏れないようにリテラシを改善するだけでなく、社内の給与レンジを改善してから採用をするようにしましょう。

企業: 入社時期による社内の分断と嫉妬

よく耳にする社内問題として、既存社員よりも転職してきた人材の方が「何も自社に対して成果を出していないのに給与が高い」というものがあります。近年では物価高や優秀な人材の採用難により新卒初任給の見直しがなされており、既存社員より新卒社員の方が給与が高い現象も見られます。

こうした入社時期による給与差は嫉妬に繋がりやすいものです。ある会社では給与情報を閲覧できる立場にある人が転職者の高い給与を社内に漏らしてしまい、まとまって転職活動している事象が確認されました。

現在は提示給与が落ち着いているため、下記の二つの層に分断されていく可能性があると考えています。

  • 既存社員、エンジニアバブル後に入社した社員

  • エンジニアバブル期に入社した社員

後者の人達はそのバリューを巡って給与レンジが低めの人達に挟み込まれているため、やりにくくなっていく組織があると予想しています。転職のしにくさと相まって泥沼の人間模様になっていくケースもあるでしょう。

候補者: 数ヶ月前の転職体験記は全く役に立たない

転職をすることによって年収が上がるというのは人材紹介会社の広告では定番ですが、現在はそのようなことはほぼありません。同様に転職体験記も情報商材も急速に無価値になっています。企業別の給与情報も2022年以前のエンジニアバブル期に合意されたものなので、2023年以降の入社では下がっているケースが多々あります。

大きく転職市場が変化してしまっていることと、ITエンジニアにとっては7年ぶりの久しぶりの不況であるということに注意してください。

候補者: 退職してからの転職活動はリスクが高過ぎる

辞めてから転職活動をしてもそれなりの着地をしたのは2022年までです。転職をするのであれば退職する前に内定承諾まで行きましょう。

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