2号機燃料デブリ試験的取り出し中断。原因不明のまま、最大10万倍高い線量空間で手袋5枚をつけてカメラ交換(予定)
8月22日に始まった福島第一原発2号機の燃料デブリの取り出しを巡るドタバタ。原子炉格納容器に入った4台のカメラのうち先端2台が、まだ何も始まっていないのに、9月17日に映らなくなり、2度目の作業中断となった。
今日は、その後、10月7日の東電会見で分かった話。
電源をオン・オフにしても問題解消とならず
現在、カメラ4台は、エンクロージャー内に引き戻した状態だ。高線量の格納容器に続く隔離弁は閉めてある。
10月7日発表によれば、映らなくなった先端のカメラ2台を、本来は3g以内のデブリを取り出すためにあるハッチ(50cm四方)を使って、予備カメラ2台と交換する予定だ。
なぜなら、10月3日朝までに数日をかけて電源をオンにしたりオフにした(放射線が高いと電荷がたまってカメラが不具合を起こすという推定原因を解消しようとした)が、結局、解消されなかったからだ。(この結果をもってしても、東電はカメラが壊れたという断定はしていない。)
結局、カメラを交換する「検証」
そこで今度は、三菱重工の神戸工場にある模型を、1Fに近い日本原子力研究開発機構の楢葉町遠隔技術開発センターに運び、カメラ交換ができるかどうかを検証するという。
2台のうちカメラ①は、ケーブルごと引き出せるので、ハッチの外で交換。カメラ②はアームに固定されているので、ハッチの外に引き出せない。上図のように手をハッチから差し入れて交換する。今つながっているケーブルを切断し、新しいコネクターを取り付ける時にハンダ付けを行う。
カメラ交換で問題は解消されるのか?
記者にカメラ交換作業のリスクは?と聞かれて「現時点では答えられない」という回答があったが、私を含め複数記者と東電の質疑で浮かんだ課題はいくつもある。
狭いハッチ内のカメラ交換は本当に可能か。
作業可能と分かれば訓練をして、2号機での交換に臨むというが、検証し、作業手順を決める人→交換作業の訓練を受けてリアルに作業をする人全員の連携(線量限度内での細切れの作業)はうまくいくか。(1度目の中断は、パイプの開梱と運搬の訓練はしていなかった上に、コミュニケーション不足で、しかも養生を剥がして番号を確認しなかったという初歩的ミスの連続で起きた。)
カメラ交換作業は、ハッチの外にハウス(閉鎖空間)を作って、エンクロージャー内に持ち込まれている可能性がある放射性物質(テレスコは格納容器に入り、先端治具はデブリに触れた)が拡散しないようにするというが、では、ハウス内は作業できる線量に収まるのか(まだハッチは開けておらず、エンクロージャー内の線量計は「3g以内のデブリ」測定用だとして測っていない)。
カメラ交換ができたとして、カメラが映らない原因は分からないままなので(先端治具のどこにも線量計も温度計も室温計も付けていないし、今回もつけないので)、同じ分からない原因で、また映らなくなる可能性がある。
計算上、カメラ①②の累積被ばく線量は1万3300Gy(グレイ)(9月22日現在)、カメラ③④が5000グレイ(9月25日現在)だという。カメラ性能としては耐放射線量は4万9000グレイ。この計算結果をもとに放射線のせいだという原因推定すらしていないが、カメラに線量計がついていないので、計算が合っているかどうかの答え合わせはできていない。
高線量下で重装備で作業
ちなみにハウス(高さ2m)が設置される周辺の線量は、場所によって1.5〜4mSv/hだという。私たちの生活空間はせいぜい0.04μSv/h程度。1mSv(ミリシーベルト)は 1000μSv(マイクロシーベルト)だから、最大で10万倍高い空間でカメラ交換作業を行う。重装備で大変な作業になる。
しかも、ハウス内の方が高くなることが想定してハウスを整備するのだ。
カメラ交換は計5枚の手袋
しかも、カメラ交換のために行うケーブル接続は綿手袋の上にゴム手袋を3重に重ねて、ハンダ付で熱を帯びるので革手袋もする。
孫請・曾孫請の作業員を手袋のように使い捨てるようなことにしないで欲しいと改めて思う。
東電広報によるお詫びと訂正
10月7日の東電会見で発表資料の説明ののち、広報司会から、口頭で訂正とお詫びがあった。9月17日の会見で、9月14日テレスコ装置でデブリに「接触したと説明したが、動作確認の一環で掴んでいた」と訂正したのだ。
(実際には9月14日に「接触した」と説明。9月24日の会見では、どれをピックアップするか「目星をつけた」(広報小林氏)とポロリとこぼした。一方で「グリッパーは開いた状態なので燃料デブリをつかんでいることはまずない」という回答すらあった(既報)。しかし、動画の公開を要求されて(同既報)、10月3日に初公開した動画では、先端治具(グリッパ)がデブリを掴んでいた。会見中に「説明が違う。厳重に抗議する」と発言した記者もいた。会見後、私も「訂正とお詫びはしっかりやって」と言って帰った。)
さて、ここから先は、忙しい方は読み飛ばしてください。
取材者として書き残しておかなければと思っている「疑い」なので。
「情報共有不足」か「隠蔽」か?「前者」だと回答されても残る疑い
訂正してくれたのは良いが、間違った説明の原因は、「情報共有ができていなかったのか、都合の悪いことを隠していたのか」と尋ねておくことにした。どちらも東電が抱え続けている闇だからだ。広報司会が「前者です」と回答した。
モヤモヤした。「燃料デブリをつかんでいることはまずない」と発言した小林氏が会見者だったので、本人に聞いた。
Q:10月3日の会見で公開された動画は2分30秒だったが、これは共有されていなかったのか。小林さんは見ていなかったということか?
広報小林氏:動画は私も皆さんと同じ10月3日に初めて見た。
動画はどこまで撮れているのか
それでもまだモヤモヤしたので、次のように会見中に聞いて「確認する」という答えを得たので、会見後に念を押した。
Q:公開された動画の長さは2分30秒で、1分45秒目でデブリを掴み、2:30秒で動画は切れている。45秒、掴んでいたことになるが、この映像はどこまで撮れているのか?
疑り深い私の疑い
モヤモヤして疑っているのは、目星をつけているうちにカメラが映らなくなった可能性はないだろうか、それが隠蔽されている可能性はないのかということ(念を押すが、これはあくまで疑り深い私の疑い以上のものではない。9月14日にデブリを掴んでいたという情報(動画)を隠す必要はないのに、なぜ10月3日まで、記者にさまざま質問されることがわかっている東電広報にまで共有していなかったのかという疑問から来る疑いだ)。
というのは、三菱重工が孫請、曾孫請会社と行った押し込みパイプ組立て作業は7月27日と28日で行うことを予定し、28日に「作業完了」と報告したが、実際には29日までかかっていた(既報)ことを、下請け任せの東電は、知らなかったからだ。後になって「その日の作業は完了」という意味だったのを、組立て作業が完了したものと誤解したなどと言い繕ったが、コミュニケーション不足と隠蔽は常に「グレイゾーン」に置かれたままでいる。
もううんざりなのだ。公開できるところは、はっきり公開すべきなのだ。
この原発事故は、東電幹部が「リスク情報」に基づく対策をやるまいとごまかすことから起きた。情報隠蔽(出すべき情報を流通させないこと)とごまかしは東電が抱える闇だ。その深刻さを東電社員も、下請企業も自覚しなければ、同じようなことは何度でも起きる。起きては困るのだ。
【タイトル写真】
2024年10月7日東電会見場にて筆者撮影