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【読書コラム】自炊パスタを成功させる秘訣は茹で方にあり! 市販のソースを使わなくても美味しくできるよ! 『ゆで論』奥田政行(著)

 自分でパスタを作るとあまり美味しくできないという話をよく聞く。原因はソースにあると思いがちだけど、どうやらそうではないらしい。というのも、YouTubeに有名レストランのシェフたちが調理する様子を投稿していて、それを見るとパスタの肝は麺の茹で方にあるとよくわかるから。

 茹で方というのも別にあれこれ工夫する必要はなくて、端的な話、茹で汁にどれだけ塩を入れるかだけがポイントらしい。

 レシピなどを読むと1リットルのお湯に1%の塩を入れてくださいなど書いてあるけど、これをちゃんと守っている人は少ない。家庭料理で秤を使っていちいち計測するのは面倒くさいもんね。

 ただ、これをちゃんとやってみると意外と量が多い。1リットルに対して1%って、ちょろっと振りかければいいような気がしてしまうが、要するに10gの塩だから、それなりにボリュームがある。加えて、大きな鍋スレスレまで水を入れると2リットル、3リットルになったりするので塩の量は20g、30gとどんどん増えていく。

 ちなみに食卓塩のひと振りは0.1gと言われている。お湯が1リットルの場合、単純計算で100回は振らないといけない。また、塩ひとつかみは1gと言われているので、これまた10つまみはする必要がある。つまり、普段の料理みたいな感覚で塩を入れていたら全然足りないのである。

 でも、そんなに塩を入れたら身体に悪いんじゃないの?  誰もがそこに不安を覚える。ただ、これに関してはイタリアだとパスタソースに塩を加えないので納得がいく。

 和食の場合、食材ひとつひとつに下味をつけ、合計の塩分で味付けをしていないご飯を食べる。フランスの場合、ソースの味で食材を食べる文化がある。この理屈をイタリアンに適応してしまうとパスタは美味しく作れない。

 ちなみに正しい塩の量がどれくらいなのか、参考までにCOCOCOチャンネルで紹介されているペペロンチーノの作り方を見ると、想像以上に山盛りなのでビックリする。(5:30〜)

 しかし、味をつけるためにはしょっぱい味噌汁ぐらいの塩分濃度にしなきゃいけないようで、それぐらい加えないといけないことが自分でやってみるとよくわかる。

 この茹で方を真似するだけで、ちゃんとした麺を使っていれば、基本的にパスタはまずくならない。極論、オリーブオイルをかけるだけの素パスタでもめちゃくちゃ美味しい。

 あとはベースとなる美味しさになにを足していくか考えるだけ。ニンニクを入れればペペロンチーノ。そこにトマトを入れたらアラビアータ。魚介系にするならアンチョビを溶かし、マリナーラにしてしまえばエビでもホタテでもなんでも受け入れてくれる。

 このとき、具は入れ過ぎないのが重要。なにせ麺にしか味付けをしていないので、おかずが増えると味がぼやけてしまう。わたしは肉か魚介を1種類、野菜を1〜2種類、ハーブを1種類で作ると決めている。そうすると食材の旨みを最高に楽しめる。

 最近、作って美味しかったのはエビとアボカドとジャガイモのジェノベーゼ風。ペペロンチーノをベースに牛乳とチーズを入れてクリーミーに仕上げた。

 こんな風にパスタの肝は茹で方にあると知ってからというもの、もっといい茹で方がないだろうかと探し続けてあるのだが、まさにその道を極めしシェフの本を見つけた。その名も『ゆで論』で、山形の伝説的名店アルケッチャーノの奥田政行シェフによる一冊だ。

 奥田シェフは理屈と感性に突き動かされるタイプの料理人というか、やっていることは理路整然としているのに、どうしてそんな発想をするに至ったのか、意味のわからない天才的な人物として知られている。

 そんな奥田シェフの代名詞が塩分濃度2.5%のお湯でパスタを茹でて、その後、塩の入っていないお湯でゆすぎ塩気を調整するという茹で方。

 こんな手間のかかることをなぜするのかと言えば、塩分濃度が高いお湯で茹でるとパスタの表面が締まり、ツルツルになる上、ハリと弾力が生まれるからなんだとか。つるっ、プリッ、ポン! な食感になるという。

 まあ、そんな風に言ってもよくわからないと思うので、これまた岡田シェフが動画で調理の様子を公開しているので、ぜひ見てほしい。諸々、ぶっ飛びまくっているから。

 ちなみにこの「ゆで論」、本当なのか? と話題になり、テレビ番組で検証してもらったこともあるらしい。結果はたしかにパスタの弾力は増していると科学的に証明されたとか。

 さらにはイタリアの有名パスタメーカー「バリラ」からも声がかかり、世界中の幹部が集まる国際カンファレンスで実演。たしかに食感が変わると開発室長に説明を求められたとか。

 どうして、こんな変わった茹で方を発見するに至ったのか。著書『ゆで論』の中で奥田シェフはこんな風に明かしている。

「ゆで論」が生まれた現場は、私がかつて働いていた小さな農家レストラン。家庭用のガスコンロしかない厨房で、「全てを1人でやらなくてはいけない」という追いつめられた状況の中でした。

奥田政行『ゆで論』2頁より

 なんでも、お客さんが次から次へとやってくるため、茹で汁を交換する余裕がなく、何度も麺を茹でているとお湯はドロドロになって沸騰しなくなる。塩を入れると沸点が上がると思っていたので、その場しのぎに塩を加えるとうまくいった。ただ、その分、しょっぱくなってしまうので塩の入ってないお湯でゆすぐことにしたら、なんか食感が他の店と違うよ! と人気になっていたとか。

 普通じゃないよね笑

 でも、この普通じゃなさが面白い。

 なお、麺の茹で方にこれだけこだわっている奥田シェフらしく、そのレシピ本である『ゆで論』には食材との向き合い方が理論的に記されていて勉強になる。例えば、噛む回数で味がどう変わるとか、麺とソースの混ぜ方で空気をいかに含ませるかで風味が変わるとか、微に入り細に入り研究し尽くしている。

 とはいえ、うちのコンロは2口しかないので、これを実践するのはなかなか大変。いつかもっと大きな家に引っ越して、3口置けるようになったらやってやるんだと心に誓っている。

 最近はネット上でたいていのレシピを知ることができるけど、たまにこうしてシェフが自分の頭の中でやっていることを言語化し、ビジュアル化してくれた本を読むとやはり本で読むのは違うなぁと気づかされる。個人的に料理は最後の芸術だと思っているので、こういう記録はとっても貴重。

 あー、こんな記事を聞いてたら、パスタが食べたくなってきた。お昼になにを作ろうかな。




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