休眠預金活用事業の5億円の出資事業選定に係る不審点と「もうダメだこの事業」という話
2024年12月21日
(12/22、12/24に微修正)
まず休眠預金活用事業についてざっと説明しておくと、一定期間使われていない銀行預金を休眠預金活用法という法律に基づいてNPO等の「なんかいいことしてる団体」に使わせてあげようという事業です。
内閣府所管の事業で、事業運営はJANPIAという組織に委託されています。
JANPIAが適宜募集を行って、助成事業を企画する「公金を配る団体」を選定し、「公金を配る団体」が「公金をもらう団体」を選定して公金を支出するという仕組みになっています。
出どころが国民の私有財産なので、これを使用するということについて、非常に厳格な規律を求められています。表面上は。
2019年に数十億から始まって今や100億円の予算規模で運用されています。休眠預金は年間1500億円くらい発生しているので、今後さらに予算規模は拡大していく見込みです。
私は一応専門家の端くれでして、多少の縁があって休眠預金活用事業にも触れたことがあり、その時に「不正と利権の温床じゃん」と震撼したことを覚えています。
問題だよなあと思いながらも、自分ではどうすることもできませんから、忘れたりたまに思い出したりしてるうちに、2022年11月頃からいわゆるColabo問題が起こりました。
Colaboも休眠預金を原資とした助成を受けており、その構図が大問題であったことから、Colaboはじめその他の問題点もまとめて公表したところ、大きな反響がありました。
色々な方の活躍により国会でも採り上げられることになった結果、その翌年度の2023年度から制度が一定程度是正されることになったのは、明るいニュースでした。
また休眠預金活用事業を統括するJANPIAという機関では内部的にも「今のままではまずいぞ」という雰囲気になったそうで、あからさまな利益誘導的な助成は控えられるようになったと聞き及んでいます。
2024年にはようやくJANPIAが不正案件の存在を一部認めて公表にいたるなど、今後の自浄作用の発揮を期待させるような状況でありました。
相変わらず問題ある案件は数多く存在していたものの、その辺りの前向きな動きを慮って問題提起を控えていましたが、2024年11月になって「ちょっとどうなの」という案件が発生したので、記事にしようと思った次第です。
1、前置き
休眠預金関係の記事を書くのは久しぶりなので、初見の方も多かろうと思います。
これまでの経緯をよくご存じでない方に向けて、休眠預金活用事業の問題がよくわかる事例を3つほど整理していますので、よければご覧ください。
2、本題の前置き
さて、続いて本題の前置きです。
① 深尾氏という人物について
最近になって発生した、問題と思われる「公金を配る団体」の選定について詳しく述べるためには、この人物を避けては通れません。
以下、wiki。
特筆すべきは2019年より、休眠預金活用事業を統括するJANPIAの「お金を配る団体」を決める審査会議の審査委員長に就任していることです。
2022年度までは確実にその職にあり、2023年度分の審査委員を決める理事会資料では退任した委員として名前が挙がっていないので、おそらく留任しています。
2024年度については理事会資料が未公開のためわかりません。
② プラスソーシャルグループについて
この深尾氏が創業した会社グループです。
「沿革」によるとグループを構成するのは2社で、プラスソーシャルインベストメント(以下、PI社)ととPLUS SOCIAL(以下、PS社)という会社の様子。
2020年12月28日に深尾氏はPI社の代表を退任しているものの、
少なくとも2022年10月頃まではグループ代表として活動しておられた様子が見受けられます。
謄本は後掲しますが、グループもう一社のPS社は創業から現在にいたるまで深尾氏が代表取締役を務めており、取締役にはPI社の代表取締役の名前があります。深尾氏は今もなおグループ経営者の一員であると認識して差し支えないでしょう。
③ PI社が「公金を配る団体」に選定された経緯の問題
深尾氏がらみの問題と思われる助成は多数ありますが、このPI社の事例が一番わかりやすいです。
PI社は深尾氏が代表を退いた2020年12月の直後の2021年1月に休眠預金活用事業の「公金を配る団体」に公募し、2021年2月に深尾氏が委員長を務める審査会議で「公金を配る団体」に採択されています。
上記は2020年度の事業ですが、2021年度も「公金を配る団体」に採択されています。
PI社が採択された審査会議の議長は深尾氏自身でした。
深尾氏は審査直前に代表を退任しているとはいえ、まだ当該グループの代表を名乗って活動しており、PI社の関連であるPS社の代表ですので、自分で自分が率いるグループの会社を「公金を配る団体」に選んだ格好です。
ルールで禁止されている典型的な利益相反行為そのものに見えますが、特に問題視はされていません。
加えて、2020年12月時点で辞任しているとはいえ、審査委員長に就任した2019年当時、深尾氏は「資金分配団体となり得る」PI社や後述する他の団体の代表や役員でしたから、利益相反を防ぐための「資金分配団体となり得る団体の役員等は審査委員に選ばない」という明文化されたルールも公然と破られています。
この辺りの問題について、浜田議員に質問主意書も出してもらいましたが、内閣府からは「これだけじゃあ何とも言えないよ」みたいな返答しかいただけませんでした。
休眠預金活用事業の所管は内閣府であり、JANPIAに事業を委託しているような恰好になっています。当事者としてその姿勢はどうなんでしょうね。
④ 「利益相反の申し出」に見る異常
JANPIAによる「公金を配る団体」の公募には、審査委員と親しい団体が申請するようなこともあり得ます。
そういう自身に近い団体の審査の際、審査委員は「利益相反の申し出」を行って審査から外れないといけないというルールがあります。
しかし深尾氏は「利益相反の申し出」を行わず、審査委員長として審査に加わっているように見えます。
具体的には、2020年度事業のPI社に関する審査において、「利益相反の申し出」の記載がありません。いや、お前、先々月までPI社の社長だったよね?
翌2021年度にPI社が申請した別の事業の審査では「利益相反の申し出」をしていたようにも見えますが、、、
これにはからくりがあって、実は後日になってから
改ざん修正されています。修正前の、2022年8月当時に掲載されていたPDFはこちら。
「利益相反の申し出」が当時は存在していなかったことがわかります。
「公金を配る団体」の審査における重要事象を後になって
改ざん修正したように見えますが、どうなんですかね。私が深尾氏関連の記事を発表したのは2023年1月(質問主意書が出たのは2023年4月)、当該修正が行われたのはJANPIAの注記によると2023年2月です。
指摘を切っ掛けにJANPIAの審査の適正性を調べられると困ると思っての対応でしょうか?
理事会の下部組織に過ぎない審査会議委員長が独断でできることではないですから、JANPIAが組織として行った
改ざん修正なのでしょう。君たち、公金を扱ってるって自覚ある?
⑤ その他、「お金を配る団体」を選定する審査会議委員長である深尾氏自らが、自身が関わる(関わっていた)団体を「公金を配る団体」に多数採択していた件
深尾氏が審査委員長就任時点で関わる(関わっていた)団体が「公金を配る団体」に採択された事例は上述のPI社の例だけではありません。
もちろん団体によって「関わり方」には濃淡があるものの、深尾氏が過去に役員に就いていた団体の採択回数が数十に及ぶと書けば、その異常性は伝わるでしょうか。
2022年末頃までの助成だけですが、詳しくは以下にまとめています。
これが問題視されない理由が私にはわかりません。
以下、深尾氏が関わる(関わっていた)団体による助成事業を仮に「深尾案件」と呼びます。
⑥ 2024年に発表された「深尾案件」の不正事例
さて、上述の数十の「公金を配る団体」による助成事業のうち、正式に「不正」として認定された事業があります。
それは「深尾案件」の中でも、特に深尾氏との関りが深い京都地域創造基金(以下、京都基金)という団体による助成事業です。
京都基金は深尾氏が創業し、2018年までは代表を務めていた団体です。
2023年8月までは京都基金、PI社、PS社の3社は同じ住所でしたし、今もなお深尾氏が代表を務めるPS社と京都基金は同じ住所で経営していること等を踏まえると、かなり深尾氏との距離は近そうです。
さて、その京都基金は、代表理事が役員を務める別団体に資金を助成しようとしたことが問題になりました。(私が通報しました)
Colaboの事例とまったく同じ構図なのですが、「役員兼職禁止」のルールが明文化された後の行為だったので、京都基金は助成取り消しに加えて、当面は休眠預金活用事業に関われなくなりました。
京都基金自身のプレスリリースでは「ルールの認識が甘かった」みたいなことを書いています。
問題はそもそも利益相反になる『右手で左手にカネを渡す』ような助成を行おうとする姿勢だと思いますが、ちゃんとわかっているのでしょうか。
「ルールがあるから破ったらあかん」のではなく、「あかんことだからルールになった」のですが。
このような言い訳の仕方からも、団体や経営者の体質が透けて見えるような気がします。
⑦ 2023年に発表された深尾氏が代表を務めていた団体による助成金詐取事件
続いて、2023年10月になって、虚偽会計による不正が公表されました。
公表したのは、数多くの非営利団体へ助成をしている日本財団です。
深尾氏が当時代表を務めていた一般社団法人全国コミュニティ財団協会(以下、CFJ)が2016年度~2018年度に得た助成金に問題があったので、返金させるとの内容でした。(※日本財団の助成事業で、休眠預金とは関係ないです)
簡単に説明すると、CFJは事業費の2割の自己負担を求められる助成事業に応募しましたが、その自己負担相当部分について架空の支出をでっち上げることで、実質的に100%の事業費の助成を得ていたようです。
一般的に助成金の多くは一部の自己負担を求めますが、その目的の一つはコスト意識のない野放図な事業規模の拡大を防ぐためです。
つまり助成金の自己負担部分は、助成事業を身の丈の範囲で、コスト意識を持たせて履行させるためのリミッターなのですが、それを不正で取っ払って、もらえるだけお金をもらったようですね。
深尾氏への役員報酬を、助成事業の人件費として支出したように見せかけたこと等、3パターンの手法で経費の自己負担を逃れるために架空の支出を創り出したとのこと。
日本財団からの指摘を受けた当初、CFJはこの処理の正当性を主張していましたが、人件費を一例として挙げると、同社が定款で役員は無報酬と定義していたことや、社会保険料の納付等の人件費に伴う支出が存在していなかったこと等が不正認定の決め手となったようです。
当然ながら故意の不正で、悪質です。返還にいたったのは3か年の助成金総額160百万円中の35百万円ですが、そもそも助成を受けた当時、事業費2割負担という条件を履行できる体制が構築されていなかったのであれば、助成を受けたこと自体が不適切ですから、「160百万円を詐取した」とも評せます。
CFJは地域の公益財団を束ねる指導的な立場であったため、会員団体や業界からは、深尾氏をはじめとした当時の経営陣や、不正を中々認めなかった現経営陣に対するかなり強い反発がありました。
興味がある方は「一般社団法人全国コミュニティ財団協会 不適切」で検索してみてください。
ちなみにCFJは深尾氏が創業し、代表を務めていた、典型的な「深尾案件」の一つでもあり、休眠預金活用事業の「公金を配る団体」に4回採択されています。
「どないなっとんねん」ということで有志の会が結成されていたりします。
一応、以下アーカイブ。
有志の会の糾弾文書では休眠預金活用事業にも触れているので、かいつまんで紹介します。(名文なので、全文に目を通すのがお勧めです)
一応、以下、アーカイブ。スマホじゃ見れないかも。
休眠預金活用事業以外への言及も含めると、要は「反省して自粛せーや」というメッセージを打ち出しています。
これに対してCFJも第三者委員会を開いて再発防止策を打ち出したり、助成金の返金を行ったりと、お決まりのぬるい対応をしていますが、本稿には関係しないので割愛します。
業界で中心的な役割を担っていた方々が不正を行った。あるいは不正の指摘を受けた後もそれをなかなか認めず、役員として適正な対応を取らなかったという事件です。
問題ある対応を行った方々の大半が休眠預金活用事業の「公金を配る」団体の責任ある立場であったという事実は示唆に富んでいます。
3、最近「公金を配る団体」が決定した案件の是非
① JANPIAが選んだ出資形式で公金を配る団体
さて、長くなりましたがいよいよ本題。
実は休眠預金活用事業は2024年度から大きな変化がありました。それは「公金を配る団体」が助成ではなく出資として、「公金をもらう団体」への支援ができるようになった点です。
資金分配団体として公金を配るだけでも業界内で偉そうにできるのに、出資であれば永続的に影響力を行使できますから、さらに偉そうに振る舞えますね。
2024年11月、この出資を行う資金分配団体の一つとして選ばれたのが、深尾氏が創業し、2020年末まで代表を務めていたPI社(上述のプラスソーシャルインベストメント)です。
その金額、なんと5億円。
② 深尾氏の存在を踏まえた審査の考え方
上述の通り、深尾氏はCFJが不正を行った当時の代表者ですから、過去はいざ知らず、今となっては公金を取り扱わせるにあたり、警戒心を持つべき人物であることに異論はないと思います。
PI社自体と深尾氏の関わりですが、深尾氏が2020年末にPI社の代表者を退任したことや、2023年8月には深尾氏が代表を務めるPS社がPI社と同住所から移転したこと(※)も踏まえると、深尾氏のPI社に対する影響力は減退しているようにも見えます。
しかし先述の通り、PI社(代表・野池氏)自らがHPの「グループ沿革」でグループ企業としてPS社(代表・深尾氏、取締役・野池氏)を位置付けていたり、実際に両団体で役員が兼任されている状況等も踏まえると、深尾氏はPS社の代表者として、PI社も含めた「プラスソーシャルグループ」内で一定の影響力を保持しているように見えます。
また上述の通り、PI社とグループを形成するPS社の住所には近々で不正を行った、あるいは不正がばれた2社(京都基金とCFJ )が同居している点も、審査する側からすると怖いポイントです。
さらに言葉を加えると、当時の不正には関わっていないとはいえ、不正発覚後に真摯な対応を行わなかったと「有志の会」から批判されているCFJの現理事の可児氏は、2022年9月までPI社の監査役に就いていました。(日本財団から不正会計の指摘があったのは2022年6月)
また、この可児氏は不正な助成を行った京都基金の現専務理事・事務局長でもあります。
PI社には、ガバナンスに問題があると事実ベースで判断できる、複数の人物の影響があるわけですが、助成金の支出以上に責任が重い出資という事業を任せるに足る団体なのでしょうか?
(可児氏の影響は過去形かもしれませんが)事業が誠実に履行されるかも心配だし、今は大丈夫でも、過去のとんでもない不正が出てきてこれからの事業がダメになったりしない?
上記は単なる「疑い」や「心配」ですから、私はこれを根拠に、PI社やプラスソーシャルグループを非営利活動の業界から排斥しろ等と主張しているわけではありません。
仮に彼らが助成金等を受ける立場であれば、必要な審査を行って、実施体制に問題がなければ出してあげればいいでしょう。
しかし、管理を「される側」と「する側」では立場がまったく異なります。
彼らが5億円もの巨額の公金を、出資という永続的に影響をもたらす形式で支出し、支出先を管理・監督・指導する立場であることを踏まえると、ガバナンス面について、より慎重な見方をするべきだというのは、審査においてスタンダードな考え方です。
彼らと距離が近い団体で不正事例が相次いでいる以上、数年程度は重要な事業は任せないというのが無難な結論だと思いますが、、、
(念のために言っておきますが、私は大小さまざまな案件の審査を、通算すると多分1兆円以上は行ってきましたし、行政機関に対して審査の研修なんかもしています)
③ 明らかにして欲しいこと
上記の審査の考え方に照らすと、ガバナンス面に不安のあるPI社をJANPIA初の試みである、公金を原資に5億円もの出資を行う団体に選定することはリスキーです。
また、深尾氏が仮に2024年度になって審査委員を退任しているとしても、近々までJANPIAの中心的な業務を担っていたことを踏まえると、利益相反の問題も生じます。
上記のような色々な心配があるPI社が選定されたことについて、審査以外の力学が働いたのではないかと邪推する人も多いと聞いています。
深尾氏が少なくとも2023年度まで就いていたであろう、審査委員長という立場は、独自に私益を追求することが可能なポジションではありません。(2024年度の状況は理事会資料が公開されていないので不明)
審査は審査委員会後のJANPIAの理事会で確定するため、決定権がないからです。
しかし「JANPIA関係の権力者が影響力を持つ団体を、審査会議の場で優先採択して、理事会に上程する等の便宜を図る見返りとして、自身の関連団体もまた優先的に採択することを許されていたのではないか?」等という想像が成立する余地はあります。
利益相反の問題が大いにある「深尾案件」が多数採択されている理由や、存在していなかった「利益相反の申し出」が後日急に創造されるなど、深尾氏周りでは不可解なことが多いのは上述の通りです。
今回の出資事業を担う団体にPI社が選定されたことも、何らかの裏事情によるものではないか?と考えることが突飛な発想だとは思えません。
休眠預金活用事業が制度の趣旨にそぐわない利権になっていないか、心配です。
4、まとめ
冒頭でも述べましたが、Colabo騒動を発端にして、休眠預金活用事業に関わる方々のマインドはかなり健全化されたと聞いていました。
しかしながら、2024年11月になって、出資事業を差配する事業者にPI社が選ばれたのを見て、考えを改めました。
あんだけ周りで不祥事起きてたのにねえ。
JANPIAに自浄作用はなく、外部の力による抜本的な改革や、休眠預金活用事業自体の廃止が必要だと思うので、会計検査院さんに頑張って欲しいところです。
ご検討ください。
以上