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日本の出版業界で多分近いうちに起こる小さいけれどもとんでもなく大きな変化について

インプットが足りていません。なので考えることがどうしても雑になります。

それはさておき、日々のあまりに地味すぎる仕事の中で「あー、これは変化、来るなー。パラダイムがシフトしちゃうなー」みたいなことを勝手に思うことがあります。見る限り各種論考においても触れられてはいないようなので、早いもの勝ちを狙って今のうちにとりあえず簡単に書いておこうと思います。

その前に、これから書く話はあくまで小出版社のわずかな予算の中で広告とか販促とかをなんとかかんとかやりくりしている中での視点に過ぎません。なので、大きな話に見えて実は小さな話です。とはいえ、考え方の底の部分が変わるという意味では大きな話です。そして、こういう主語が大きめの話を書く時は私自身の身の回りの仕事のどうこうは忘れて、というか身のほどをわきまえずに書くしかありません。なので、今回の件で「おまえのところのモノは置かねえから」みたいなのはご勘弁ください。よろしくお願いいたします。

ということで、始めます。

アマゾン広告は伸びているそうです。そりゃそうだよな、お店でレジ横に置いてもらうようなもんですから。過去の販促に慣れている方のほうが有り難みを理解できるのではないかと思います。逆にレジ前の平積みとか過去にも未来にも縁ないからと思っている方には理解しにくいかもしれません。効果は間違いなくあると思います。ただ、やりようというのはあって、ただ広告を出しただけだと効果は期待できません。それはどんな広告でも一緒です。わりとどうでもいいようなことがツボだったりします。そういう話、一昨年から昨年にかけて現役バリバリの若い方のお話を聞く機会をいただけたのは有り難かったです。勢いがあるところは違いますね。大変勉強になりました。

先日、「出版物のネット経由での販売とリアル店舗での販売比率はすでに逆転してる」という論調をネットで目撃しましたが電子書籍込みのお話でしたね。電子は相変わらずほとんどコミックだからなあ。コミック出してない出版社ではさすがに半分以上オンライン販売ってことはまだなかなかないと思いますよ。

まだ、と但し書きをつけたということは、そのうち有り得るかも、ということでもあります。そのうちどころか「そろそろ」というところもありそうです。

で、ネット経由での販売が半分を超えると気になり始めるのが費用対効果というやつです。

ネット経由での販売は返品が少ないのが特徴です(もちろん出版社やジャンルによって異なりますが)。現状ではほぼゼロに近いと考えていいんじゃないかなあ。それに対してリアル経由での販売は返品が前提です(これももちろん色々あり)。

ここでざっくりリアルでの返品率を33.3%と考えます。その場合、100を売るには150納品して50返品、つまりモノは200動くことになります。同じくネットで100売る場合のモノの動きは100です。同じだけ売ろうとした時に返品前提だとモノを動かすために倍ぐらいの費用が発生するということになります。

返品の運賃は書店が持つんだよ、というご意見はあるかと思います。確かにそういうパターンはあります。ですが、その場合は掛率を下げていることも多い。掛率を下げるということは実質的にメーカー側が負担しているということになります。

リアル経由がほとんどだった時代には行って返っての物流コストは必要経費です。ある程度の分量を店頭で展開した結果としての返品は許容範囲ですよね。もちろん、そこも各社によって考え方や受け止め方に違いはあります。委託で配本しているにも関わらず返品絶対に許さないマンは気分の安定の為にも買切でやったほうがいいと思うよ。

それはともかく、ネットとリアルが半々ぐらいになってくると相対的にネットの流通費用とリアルの流通費用が気になってくるところも増えてくるんじゃないかなあ。というか、気になりませんか? オレだけかなあ。

これはあくまで書籍を書店メインで売っている出版社の視点ではあります。書籍のみでも図書館の比率が高いとまた違う見方もあるでしょう。ネットとは直取引で掛けも違うという社も意見は異なるかもしれません。雑誌社はまた全然違うはず。そしてコミックを電子で売っている大手は根本的に別物でしょう。

しかし、共通する点はあります。それは「リアルでの流通費用は案外かかる」という点です。昔から言っていますが、返品入庫も改装も再出荷までの在庫費用もただではありません。モノは作るのも動かすのも再度出荷するのも金がかかるのです。だから返品が少ないほど利益が出しやすくなるのです。

返品の話はさておき、改めてネットとリアルの流通費用の話です。リアルの比率がほとんどだった時は「必要経費」と割り切れたのに、比率が下がってくると気になり始めます。売上が半々ぐらいになってくると「あれ、こっちで費用かかりすぎてない?」と思い始めても不思議はありません。そうなった時に出版社はどう考えるのが正解なのでしょうか。さらに言えば流通だけでなく販促費用はどうでしょう。当たり前だったはずの書店営業のコストを見直さなくても大丈夫なんでしょうか。

書店によっては「マージンミックス」を前提に出版物の扱いの縮小を考えているところもあるようです。現実的な考え方だと思います。逆に出版社は「コストコンシャス」を前提にリアルでの流通に慎重になる可能性もあります。というか、既に大手はそういう方向で考え始めてませんか?

そして、これは、長いこと雰囲気で関係性を維持してきた「業界三者」という在り方の変化につながります。自分は老人なのでこれは途轍もなく大きな変化だと認識しています。変わっちゃうんだな、この業界。もう変わっちゃってたのかも、この業界。

何度目かの「もちろん」として、小書店小出版社があるじゃないか的なご意見はあると思います。そりゃそうだ。でも、それってなんだか牧歌的で胃腸の強さと声のでかさでなんとかなった「あの頃」とはまったくの別物だし、そもそも小さくやるための方法論の帰着としての「小商い」的な方向性だと思うんですよね。それはそれで不滅だと思います。けど、違うんですよ、かつてとは。

とか、年末からずっとそんなことを考えています。


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