人事データを扱うムズかしさ
こんにちは! メルカリのHR部門でマネージャーをしている@_tweeeety_です。
はやいものでもう年末。年末といえばアドベントカレンダーということで、今回のnoteのテーマは「人事データを扱うムズかしさ」です。
また、このnoteはジンジニア アドベントカレンダー Advent Calendar 2024の19日目の記事です。
われわれはどんなHRチームか
ぼくが所属しているチームは「HR System & Data(通称HRSD)」です。他社でいうHRISに近い役割を担っています。主な特徴として、Workday(人事コアシステム)とWorkcloud(人事労務管理クラウドサービス)を管轄しているチームでもあります。そして、われわれのチームは大きく3つの役割をもっています。
人事プロセスの構築
入退社や異動、組織変更など、Workday/Workcloudを中心とした人事システム上でプロセスを構築します。また、評価情報の格納や給与改定時のマスタデータ更新といったプロセスも含まれます。
人事プロセスの運用
構築した人事プロセスをセントラルで運用します。たとえば、グループ各社間の異動・組織変更の情報を集約し、月次発令として処理しています。
人事のDXとデータ活用
人事データは、1.人事プロセスを構築し、2. 人事プロセスを運用するとデータが蓄積されます。蓄積されたデータを活用し、Data Driven HRやPeople Analyticsを推進します。さらに、人事業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)にも取り組んでいます。
1. このnoteを書いた背景
近年、「People Analytics」や「Data Driven HR」といった言葉が注目を集めています。人的資本開示に関連する取り組みも増えており、この領域はますますホットトピックになっています。
エンジニアとして分析基盤を構築していたことがある身としては、この領域に足を踏みいれる前は「人事データはそんなに件数もないしシンプルで簡単だろう」と思っていました。しかし、実際に触れてみると「何がわからんかわからん」状態になったり、1つ進むたびに壁があったりとその難しさに直面しました。
そこで、このnoteでは人事データを扱うムズかしさについて言語化してみたいと思います。人事データを扱うムズかしさは3つほどあると考えています。
今回のnoteでは「1. 人事業務と人事データを理解する難しさ」と「2. 人事データの生成プロセスを制御する難しさ」に焦点を当てます。
このnoteを通じて、人事データに触れて同じような悩みを抱える方が「何がわからんかわかった」状態になるお手伝いができたら嬉しいです!ただし、「どうすればいいか」までは書いていないので、その点はご容赦くださいませ。(今後、気が向いたりリクエストがあれば「3. 人事システムを扱う難しさ」も書きたいと思います)
2. 人事データとはどんなものか
「People Analytics」「Data Driven HR」というと、どんな人事データ活用イメージを思い描くでしょうか。書籍やウェブでも、以下のような事例が挙げられることが多いです。
しかし、これらを実現するには前提となる「基本的な人事データ」の整備が不可欠です。この基本的なデータが揃っていない場合、どれだけ高度な分析手法を持っていても実用性は乏しいでしょう。
人事データを活用する上で、まず直面するのがこの「基本的な人事データ」の整備に関する問題なのです。もう少し具体的にいうと「基本的な人事データが揃ってない」「基本的な人事データの所在が不明」「基本的な人事データがあり所在もわかったがデータへのアクセスが難しい」というようなことが挙げられます。
そのため、社内サーベイ/ウェアラブルデバイス施策を実施しようと思ったが、まず分母となる人事データが不足している、というようなことが起こりえます(特定の条件でカットした際の分母が出せない等)。また、適性検査を試してみても、「◯◯な人はこういう適性がある」の「◯◯」を特定するための基本情報が揃っていない、という問題に直面することもあります。
では、そもそも「基本的な人事データ」とはどんなモノなのでしょうか。今回はぼくがこれまで触れてきた「基本的な人事データ」を可視化してみました。
ひとえに人事データといってもわりといろいろなデータがあるものです。まずはこの「基本的な人事データ」への理解が必要となります。これらの情報は揃っているでしょうか。これらの情報の所在を把握しているでしょうか。これらの情報の所在がわかったとしてどのようにアクセスできるでしょうか。エンジニアリングでいうところの、要件定義書、データに関する設計書などはないことがほとんどです。
そのため人事データを扱う場合、当然ですが各人事業務への理解と、そこで使われる「基本的な人事データ」はどんなモノがあり、どこにあり、どうアクセスするか、これらを知る・調査することがまず最初の壁であり大きな一歩になります。
3. 人事データの活用のテーマとムズかしさ
3.1. 人事データの活用の主なテーマ
どんな人事データがあるのかなんとなくおわかりいただけたと思います。これらの人事データはどのように活用できるでしょうか。これまで人事データを扱ってきた経験から主に3つのテーマにわけられると考えています。
それぞれ簡単に説明します。
主な活用テーマ/ 1. サーベイ
エンゲージメントや組織課題を可視化するために、人事データを活用してサーベイを設計・実施します。サーベイ結果の活用には基本的な人事データとの連携が重要です。サーベイ設計の難しさや、分析と解釈の難しさがポイントです。
個人的には「やわらかいデータ」と呼んでいます。
主な活用テーマ/ 2. タレントマネジメント
社員のスキルや志向性、キャリア志向といった人事データを活用し、社内の機会とマッチングさせることで、社員の成長と組織のパフォーマンス向上を図ります。評価やグレードなどを扱うこともあります。個人情報に近いためデータの扱いや閲覧権限への注意が必要です。
主な活用テーマ/ 3 .要員管理/人員計画
人事データをもとに、要員やヘッドカウントの管理、異動・採用計画を立案します。事業の成長や組織の変化に応じた最適な要員配置を実現するために、データの正確性と一貫性が求められます。
個人的には定性情報ではなく、個々人によって揺れるものでもないので「かためのデータ」と呼んでいます。
3.2. 人事データの活用の主なテーマとムズかしさ
これら人事データの活用テーマごとにムズかしさが異なります。
それぞれのテーマごとに、「データを溜める仕事」 -> 「データを使う仕事」とシンプルにわけて考えてみます。これに合わせて、何がムズかしいのかを2つの軸に分解してみました。「データを溜めるとっつきやすさ」と「データを活用するとっつきやすさ」です。「データを溜めるとっつきやすさ」は、違う言い方をすれば、活用テーマの取り組みの開始のしやすさとも言えます。
主な活用テーマの1〜3について、どんな感じでムズかしいのかをそれぞれ少し補足します。
主な活用テーマ/ 「1. サーベイ」について
People Analyticsの事例としてよくとりあげられるのがこのテーマだと思います。エンゲージメントサーベイやパルスサーベイという言い方をするとイメージしやすいでしょうか。
このテーマは設問をつくってgoogle formなどで展開することから始められるので「データを溜めるとっつきやすさ」は非常に高いです。サーベイを適切な問いを立てて適切な運用をするというムズかしさはあれど、溜まったデータに対して「データを活用するとっつきやすさ」も高いと言えます。
主な活用テーマ/ 「2. タレントマネジメント」について
こちらもPeople Analyticsの事例としてよく取り上げられるテーマですが、「データを溜めるとっつきやすさ」は低いです。というのも、タレントデータといっても所属/年次/グレードのような比較的溜めやすいものもありますが、スキルやプロジェクト遍歴となるととたんに難易度があがります。スキルであれば、どこにどう持つのが良いか、在籍社員に一斉に入れてもらうのか、在籍社員がスキルをアップデートするモチベーションをどうつくるか、今後採用する人にはどのように入力してもらうか、などなど業務に落とし込むハードルも、落とし込んだ業務が遂行されるハードルも高いです。
主な活用テーマ/ 「3 .要員管理/人員計画」について
このテーマも以前からありますが、人的資本開示の流れがきていたり、スタートアップもより投資対効果をみるような時代になっていくであろうこれからはますますホットトピックになるテーマだと思います。
このテーマの特徴は、採用のATS、人事マスタ的なシステムや労務管理システムがすでにあれば「データを溜めるとっつきやすさ」という側面においてはそれを運用するだけなので比較的入りやすいと思われます。(それらシステムを導入するところからだと難易度は高い)しかし、「データを活用するとっつきやすさ」という側面においては急に難易度があがります。要員管理/人員計画は、未来の人数をカウントするテーマです。現在の人数に加減算する要素(採用数、退職数、異動数など)をトラックすることがそもそも大変だったりします。これに関しては次の章「4.2. 人事データ活用を進めるムズかしさ - 時間軸」にて触れています。
4. 人事データ活用を進めるムズかしさ
「基本的な人事データ」「人事データの活用テーマ」に触れましたが、最後に活用を進める上でムズかしいポイントにも触れておこうと思います。ポイントは2点、「分析工程」と「時間軸」です。
4.1. 人事データ活用を進めるムズかしさ - 分析工程
IT業界にいるので、アプリケーションでログ分析をする工程と人事データ分析をするまでの工程を比較してみましょう。イメージ的にはこんな感じ。
アプリケーションのログ分析では、秒間/分間で何万レコードとログが吐き出されるため、それを収集するテクニックやいわゆるビッグデータに溜める/加工するあたりのテクニックに難易度があります。また、何十億件/何テラバイトのようなデータを扱うため、集計や表示にも難易度があります。つまり、工程でいうと前半よりも後半のほうが難易度が高いイメージです。
人事データ分析はどうでしょうか。人事データ分析では、「ログを仕込む」というのは「人事データプロセスを組む」にあたります。たとえば、「入社プロセスを組む」「退社プロセスを組む」といった感じです。組まれた入社プロセスに応じて、リクルーターが手続きをし、入社者が手続きをし、HRBPが部門レポートラインへ組み込み、IT部門がアカウントを発行し....等々が行われることで晴れて人事マスタに「社員」としてレコードが誕生します。
人事データ分析において、何かしらデータを溜めるということは人事プロセスを組むことから始める必要があり、それを運用が回るようにすることでデータが蓄積されていく世界です。ぼくも足を踏み入れた当初はそうでしたが、これまでデータ分析を担当してきた人からすると、まったく別次元の仕事から手掛ける必要があるという点が躓くポイントだと思います。
4.2. 人事データ活用を進めるムズかしさ - 時間軸
次に時間軸です。テーマで触れた「2. タレントマネジメント」や「3 .要員管理/人員計画」は、未来の話しをすることが多いです。「2. タレントマネジメント」であれば、サクセッションプランニング = 未来の後継者育成ですし、「3 .要員管理/人員計画」はまんま半期後、1年後の計画を立てることにあります。
このときに、未来の数値を出すために必要な要素の扱いがムズかしいポイントです。どういうことかというと、「3 .要員管理/人員計画」のテーマを例に次の画像をみてください。
これは、とある部門での要員計画として「◯◯部門を上半期中にN人にしよう!あと何人採用が必要だろう?」という問いのために数値を出そうとする営みを表したものです。
現在人数に四則演算をするだけなのですが、これから入社予定の人はATSに格納されていたり、退職者は労務管理ツールに格納されていたり、異動や兼務ははたまた違うツールだったりとこれらをトラックするのは実は大変です。大変なのはデータを集めるためにシステムをまたぐというだけでなく、そもそも管轄チームが異なっているので許可をもらったり、管轄チームが違うということは権限も異なるので各システム上でどう権限管理をするかも検討しなければいけません。はじめて着手する場合は、どのデータを誰に見せてよいのかの議論から必要かもしれません。また、システムやツールがすでにあれば良いですが、ない場合はそれこそシステム導入、プロセス構築から行う必要があります。
ということで、人事データを扱うムズかしさをすこしは言語化できたのではないでしょうか。
おわりに
エンジニアから人事に異動して2,3年が経ちました。最初は簡単だろうと思っていたことがムズかしかったり、途中は自分が何がわからないかもわからんとなっていたり...と色々ありました。その過程でこれまで感じてきた人事データを扱う「ムズかしさ」を言語化してみました。
人事データを扱う難しさについて同じように悩む方々が「何がわからんかわかった」状態になるきっかけとなれれば幸いです。
また、今回は触れませんでしたが、「3. 人事システムを扱う難しさ」あたりも気がむいたら書こうと思いますし、これからも人事データについて発信していこうと思います。
では、よい年末を!Data Driven HRやっていき!