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家族は寄り添うべきと言うけれど、ザリガニはシバき合いしとるやないか(FMシアター『春山家サミット』放送によせて)

「どんな題材でもいいので、ラジオドラマを書いてみませんか?」

突然、メールが届いた。脚本なんて書いたこともない。書ける気もしない。なんかの間違いやろかと聞き直したら、

「大切なのはセリフです。岸田さんが書くセリフには、ニヤッとしたあと、ハッとさせられました。書けますよ!」

あら、そうかしらん。嬉しいわん。

わたしのはエッセイなので、ニヤッ&ハッ砲を撃ったのはわたしではなく、そばにいた家族や知人の手柄のような気もするけど、

恩は書いて返しましょう。


そういうわけで、生まれて初めて、お芝居の脚本を書かせていただくことになりました。

NHKのディレクターと会ってみれば、彼とは同年代だった。おしゃべりしてたら、なんとなく家族の話になって、

「親孝行で家族を旅行に連れていこうとして、終わってみれば、もう二度と行かねえ!ってなることありません?」

よく聞くわ、それ。
他人の家族のそういう修羅場、嫌いじゃない。

社会人になり、実家をほっぽってバリバリ働いて、ふと落ち着いた時に親孝行をしたくなる。めっちゃわかる。ほんで、ええ気分で旅行を楽しんでると、なんか思い描いてた通りにいかない。

「あっ……そうだった、うちの家族ってこういうのだった……」

旅先でケンカ寸前になって、やっと思い出すみたいな。

あるわ、それ。
あったわ、それ。

うちの場合は、ばあちゃんだった。

25歳になり、やっとひとりで自由に使えるお金ができたわたしは、ばあちゃん孝行をしようと思い立った。行き先は温泉だ。趣味もなく、めったに外出しないばあちゃんに計画を伝えると「へえ!」と喜んでくれた。

喜んでくれたように、見えた。

そして、出発の前日。

「はあ? 行かへんで、あたしは」

団らんを裂く、衝撃の一言!

冗談かと思った。

「いやいや、温泉やで?」

「ンなもん、行きとうないわ」

「何十年ぶりかの家族旅行やで?」

「いらん、いらん。疲れるだけや」

もしくは、遠慮かと思った。

「直前でキャンセルしたらお金もかかるし、おいでよ」

「家におった方が楽しいわ」

ばあちゃんは、ケタケタ笑った。本気だった。そして、何事もなかったかのように、掃除機をかけ出した。

そんなことってあるの?


えっ……ふつうのばあちゃんって、孫から孝行されたら、ふつうは嬉しいんやないの。ふつうに温泉連れてったら、ふつうに喜んでくれるんやないの。

いつの間にか、わたしの隣に母が鎮座していた。

「昔から、ああやねん」

遠い目で笑っていた。これはいつか幼い母も歩いた道なのかもしれない。旅行は、ばあちゃん抜きで行った。

それはそれで、ええ思い出にはなったけど……。


もしかして、みんなも、そういうことがあるんかも。

「うちって普通やないんかな?」

からの、

「なんで、普通になれへんの?」

からの、

「いやいや、これがうちの普通や!」

諦めの境地にたどり着いたのもつかの間、また“普通”の理想に揺さぶられ、振り出しにギュインと戻ることが。

世の中には、普通の家族像が、あふれている。


フライドチキンのファミリーパックは、家族で仲良くわけあうことが当然のように売られてる。ファミリー割、ファミリープラン、ファミリー葬、いっぱいあるなあ。

そんな理想のファミリー、見たことないのに。

そういうのに苦しんでる人がいるのかもしれない。もしかすると、愛という言葉が頻繁に出てくる、わたしの家族の物語にすら、苦しんでる人がいるのかもしれない。

なんで苦しむんだろう?

多分それは家族が初めてだから。母になるのも、父になるのも、子どもになるのも、人生で初めてだから。

初めてだから、わかんなくて、おびえて、周りと比べてしまうんや。



そんな時、渋谷の町をうつむいて歩く、社会人の女の子の姿が浮かんだ。彼女は町をにらみつけながらブツブツつぶやいていた。

「家族、家族、家族……。普通の家族はいつでもそばにいて、助け合うらしい。ほんまかいな。うちが学校で飼うてたザリガニは、そんなことなかった。狭い水槽に二匹入れたら、卵産んだあとも、死ぬまでシバき合いしとったやないか!」

町にあふれるファミリーという言葉に、全身で毒づいていた。かと言って、彼女は、家族と縁を切ることもできない。

だって、別に悪い人たちってワケじゃないかんね!

ただ、メンドくさいだけで。とっても、メンドくさいだけで。人前に出すのが恥ずかしいだけで。婚約者にも紹介できないだけで。

「うちの家族って、こんなんやからイヤやねん」

って友だちに伝えても、

「えっ?そんなの全然ええやん!もっとひどい家族おるやん!」

ビタイチ、共感してもらえないだけで。

結婚を機に“普通”の家族を目指して、記念すべき旅行を計画したら、みるみる崩壊していった。


崩壊と諦念と再生の物語。

……を、明るく、楽しく、おもしろく!

そんな、脚本を書きました!

主役の春山笑麻役の円井わんさんと

「春山家サミット」といいます。

ウマが合わなさすぎて、のらりくらりとバラバラに暮らすのが当たり前になってしまった、春山家の話です。

セリフが、くっそ多いです。

ずっと、やかましいです。


それをね、めっちゃええ感じに心地よく仕上げてくれたのが、スタッフの天才的な手腕なんですが、その記録はまた後で……。

最初から最後まで、旅行に奮闘する主人公・笑麻ちゃんの成長を書いてみて、気づいたのは、

家族は変えられない

ってことでした。どんなにがんばっても。人は変えられない。自分が変わるしかない。そして家族の意味を、変えるしかないんやね。

「家族を幸せにするには、家族とか一旦放っておいて、アンタが幸せになるんだよ」って、最後の方は笑麻ちゃんを励ましたくて、書いてました。

ラジオドラマを聞き終わったあとは、みなさんの家族旅行の話を、聞かせてください。

NHK FMシアター「春山家サミット」
11月30日(土)PM10:00〜10:50 ※NHKラジオアプリ「らじる★らじる」等で聞き逃し配信あり

よろしくお願いします!ドキドキ!


ドラマ現場の見学記も書いたよ!


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岸田奈美|NamiKishida
週末にグループホームから帰ってくる弟や、ばあちゃんと美味しいものを食べます。中華料理が好きです。