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ぼくには人気がない

ぼくには人気がない。ぼくは人から好かれない。
それには理由がある。

ぼくは、幼い頃から人に好かれなかったが、ぼく自身は、その状況が嫌だった。だから好かれたいと思っていた。でも好かれなかった。そのまま大人になった。
大人になると、周囲の状況がいろいろ見えるようになった。すると、いくつか分かったことがあった。
まず、人から好かれる――というのは、ぼくにとってそれほど重要な事柄ではなかったこと。それよりも、クリエイティビティを身につけることの方がだいじだった。
そしてクリエイティビティを身につける過程においては、人に好かれることはしばしば弊害になるのだった。

なぜかというと、クリエイティビティというのは、たいてい困難な状況を解決しようとするときに発揮される。だから、恵まれた状況では発生しづらい。
それゆえ、人から好かれている人には、クリエイティビティが育ちにくいということがあるのだ。
それが、ぼくには嫌だった。それだったら、むしろ人から嫌われた方がいいと思った。

もう一つ、人から好かれている人には特有の弱点があった。それは、人から嫌なことを言われにくい――ということだ。
例えば、間違えたことを言っても指摘されにくい。そうして、しばしば裸の王様になってしまうのである。

それも、ぼくには嫌だった。それなら、むしろ人に好かれない方がいいと思った。まだまだ成長し足りないと思っていたぼくは、人から間違いを指摘されるような人間になりたいと思った。
そのため、このときから性格はより露悪的になった。自分の弱点も進んでさらけ出すようになった。顔もどんどん仏頂面になっていった。そうして、他者が間違いを指摘しやすいような性格と外見に変わっていったのだ。

その結果、そうなった。嫌われるというのではないにしろ、好かれることがなくなった。人からバカにされ、舐めらるようなキャラクターになった。軽く扱われ、関心を抱かれない人間になった。
その後、『もしドラ』がヒットした。すると、多くの人がぼくの人気を当て込んで、さまざまな仕事を依頼してきた。例えば、この有料メルマガもその一つだ。
しかしながら、これまでの結果からはっきりしたのは、ぼくにはやっぱり人気がないということだった。特にメディアでは人気がなかった。
それゆえ、有料メルマガの会員は低い水準を推移し、先日募集した私塾では、20名の定員を満たすことができなかった。何か人気が必要な商売には、決定的に向いていないのだ。

それは、人気が必要のない商売と比べると一目瞭然だった。
例えば『もしドラ』は、ぼくが無名の新人という状態で出版し、ヒットした。つまり、そこには人気が必要なかった。
しかし、一度有名になり、人気の如何が問われる場面になると、とたんに苦しくなった。それ以降のぼくの人気を当て込んだビジネスは、先述の通り芳しい成果を残せなかった。

ところが昨年、『ヘヤカツ』という本を出したところ、大ヒットした。本は増刷を重ね、またメディアにも多数取りあげられた。
しかし皮肉なことに、この本にはぼくの名前を冠していない。その方がビジネスになるだろうと判断したからだが、結果はその通りになってしまった。

ぼくには、決定的に人気がない。だから、人気が必要なビジネスには全く向いてない。
そのため「岩崎夏海クリエイター塾」も、定員に満たなければ中止させていただく旨をあらかじめお伝えしていた。人が集まらなくては、そもそもする意味がないからだ。

ところが先日、数少ない参加者の方から「参加するためすでにスケジュールの調整などをしてるので、定員に満たなくとも開催してほしい」との要望をいただいた。
それは、もちろん大切なファンの方からのお声なのでできればお受けしたい。しかし一方では、そもそも人が集まらない不人気コンテンツを世に出すことは、単にぼくだけではなく、多くの人を不幸にするのではないかという懸念もある。

どうすればいいのか、ぼくは迷っている。
ぼくには人気がない。
それゆえ、いろんなことが立ち行かない。
ぼくは一体、どうすればいいのだろうか?
今、考え中である。

岩崎夏海クリエイター塾

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