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思いつきで作った段ボール製ベッドを自治体に売り込んだ

ふと思いついた「段ボールのベッド」を、自治体に売り込んだ。

なんのツテもなく始めたが、なんとか結果が出た。

■TVを観ていて、ふと思いつく

きっかけは、昨年(2014年)の夏、広島県で起こった土砂崩れのニュースをTVで観たことだった。小学校の体育館に避難したお年寄りが、インタビューされていた。お年寄りの背後には体育館の様子が映っていたが、床にゴザを敷いて寝ているようだった。

「こんなところで寝たら、体じゅうが痛くて大変だろうな」と思った。

東日本大震災のとき、いくつか避難所を見た。長期にわたって避難生活を送っている人たちは、体育館の床に段ボールや布団を何枚も重ねていた。そのことを思い出して、

「せめて段ボールのベッドでもあればいいのに……」とも考えた。

調べてみると、段ボール製の簡易ベッドを作っている会社が見つかった。

同じような発想から、東日本大震災の際には避難所に段ボールのベッドを寄贈していた。

ただ、この会社の製品は1つ1万円以上し、組み立てにガムテープが必要で、10分以上かかるというので、実用的ではないと感じた。

■段ボールの会社に連絡をとった

自分だったらどんなデザインにするだろうと、休みの日にゴロゴロしながら考えた。そのとき自分に課した条件は、次のようなものだった。

・価格が安い(安く作れる)

・すぐに組み立てられる

・組み立てにガムテープや接着剤が要らない

・段ボールをカットするための「型」を少なくする

避難している人たちに行きわたり、説明書がなくても組み立てられるものにしたかった。設計などしたことなどなかったが、とにかく考えるだけ考えてみた。

ためしに、お菓子の空き箱を切ったり折り曲げたりして小さな「段ボール製ベッド」を作ってみると、うまくいきそうな気がした。ただ、製品化にどれくらいの費用がかかるのかわからなかった。

そこで、段ボールの会社に「サンプルを作ってほしいものがあるんですが、話を聞いてもらえます?」とメールを送った。土曜日だったか日曜日だったか、とにかく休みの日に、営業の方がうちの近所まで来てくれた。何の実績もなく、思いつきで動いているだけの人間に、よく会ってくれたものだと思う。

■勢いで自治体に営業をかける

喫茶店で、簡単な絵と空き箱で作ったサンプルとを渡して、「こういうベッド、できますか?」と聞いた。段ボールの種類や厚さを変えて、2、3日使えるタイプと1ヶ月以上耐えられるタイプが作れると思うとのことだった。(日数は使用条件によっても変わる)。

見積もりを出してもらうと、15セット以上作れば、価格を1つ3000円前後にできることがわかった。強度の計算や、図面に起こす作業は、1万円くらいでやってくれた。「型」は天板と脚板が1ずつで済むようにデザインしたことが幸いしたのかもしれない。

とりあえずサンプルを3つ作ってもらうことにした。

段ボールベッドのサイズは、一般的なシングルベッドのサイズを参考にして出したものだったが、サンプルが届いてみると、イメージしていたものよりも大きかった。組み立てにも少し手間取った。製品版を作るときには、ひとまわり小さくしたほうがいいなと思った。ただ、わりとちゃんとできていて、充分使えるという実感があった。

さっそくこの段ボールベッドを使ってもらおうと考え、自治体に連絡をとりまくった。数打てば何とかなると思って動くうち、いろんなことがわかってきた。

・自治体は基本的にその土地の業者と契約する(これはまあ、当然だと思う)

・自治体に何かを売るには、まず入札のための登録が必要なところが多い

・(おそらく)自治体に営業をかけている会社は無数にある

だから、なんら前向きな返事はもらえなかった。

ならば「自治体に物を売る業者」に段ボールベッドを売れないかと考え、防災グッズを取り扱う業者に連絡をとった。こっちは、PL保険(生産物賠償責任保険)への加入が必要だったり、他社に卸す場合よりも安くしてくれと言われたり、ハードルが高かった。

やるなら「仕事」にするつもりでやらなければならないと思った。

クラウドファンディングでお金を集める方法も考えた。倉庫を借りて、段ボールベッドを保管しておく。災害が起こった際には、お金を出してくれた人たちの名義で、被災地に寄付するというものだ。だが、これも、いざ災害が発生したとき自分がそこまでできるか自信がなかった。自分を信用できなかったのだ。

以後、どうしようかなぁと思いつつも、日常の仕事に追われてしまった。自分では良いアイデアだと思っていても、買ってくれるわけではない。仕方ないなとあきらめかけていた。

■忘れたころに結果が出た

それから何日か経って、2015年になって間もないころ。

神奈川県のとある市(人口数10万)の「防災危機管理室」から連絡があった。段ボールベッドの件で、災害時応援協定を結びたいというのだ。この協定は、災害が発生したとき「できるだけすみやかに」現地に物資を運ぶというものだ。災害時の協定なので、自治体から離れた場所にある企業と契約することがあるという。

営業をかけるとき、防災意識が高そうな静岡県を中心に、愛知県、神奈川県の自治体に連絡していたことが功を奏したようだ。さっそくサンプルの段ボールベッドを送り、見てもらった。そのままトントン拍子で、契約の話になった。ふと思いついた製品が、市役所の人に認められたのだ。これはうれしかった。

ただこの契約は、災害が起こったとき物資を運んで始めてお金が発生するので、実績にはなるが、儲けにはならない。また、いざ段ボールベッドが必要になったとき、自分が仕事で手を離せない状況だったら、申しわけないと思った。

だったら、より多くの人に使ってもらいやすいようにしようと考えた。再び段ボール会社に連絡をとって、「御社と〇〇市とで契約を結んでもらえませんか?」と伝えた。営業の方は喜んでいた。同業他社とのつながりがあるので、段ボールベッドが大量に必要になった場合は、そちらに協力を要請できるという利点もある。

そういうわけで、数万円のお金を費やしてしまったが、何も考えずに動き出したわりには、それなりの結果が出たと言える。実際にやってみると、学べることが多かった。

・思いつきでも、行動に移すと結果が出ることがある

・100人に無視されても、1人くらいは話を聞いてくれる人がいる

・予算を使いきる関係上、自治体に営業するときは年度末を狙うといいかも

また何か思いついたら、動いてみよう。

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