複雑な生態系・生物多様性を理解するには、フレームワークを活用します。
非常に複雑なメカニズムが働いているので、どのような切り口で分析するのかを決定する手法・モデルが重要です。
特に「ニッチ」の概念を理解することが必要ですので、その知識についてまとめます。
ニッチ
ニッチ(niche)は、特定の種が利用できる環境条件・資源の幅・範囲などの環境要因のことで、適応した特有の生息場所 (生態的地位)のことです。
「隙間」という意味から派生し、経済用語では「大手が狙わない小さいマーケット」「ニッチ市場」、建築用語では「壁面の一部をくぼませて作り出したスペース」など、分野ごとで異なった概念になります。
ダーウィンが『種の起原』のなかで「自然の経済における位置」と表現した概念で、以下の研究者がそれぞれの書籍・研究で定義しています。
- Joseph Grinnell”The niche relationships of the California Thrasher”
- Charles Sutherland Elton”Animal Ecology”
- George Evelyn Hutchinson”A Preliminary List of the Writings of Rebecca West”
ニッチの例
ニッチが異なる例としてよく用いられるのは、「ワシとフクロウ」です。
虫や小動物を食べる鳥類というニッチは同じなのですが、ワシは昼行性・フクロウは夜行性と活動時間が違うのでうまく共存できています。
ニッチ曲線
ニッチ曲線は、横軸に環境条件・資源の特性値(餌・光量など)、縦軸にその条件での適応度の指標値(出産数・成長率など)を取ったグラフです。
適応度が最大になる条件から少し外れると徐々に適応度が下がるので、通常は釣鐘型の分布曲線になります。
基本ニッチ(fundamental niche)
「基本ニッチ(fundamental niche)」とは、競争関係がない条件で特定の種が利用できる環境条件・資源の幅・範囲のことです。
環境条件・資源を最大限活用することができるので、単純なヒストグラムの分布曲線になります。
ニッチ曲線の標準偏差をニッチ曲線の幅(w)と呼びます。
実現ニッチ(realized niche)
実現ニッチ(realized niche)は、競争関係によって基本ニッチから資源獲得特性が変化したニッチです。
要件ニッチ(requirement niche)とも呼ばれます。
利用する資源の重なり合い(ニッチ重複度:niche overlap)が大きいほど、競争は激しく共存が安定しません。
ニッチ曲線において、ニッチが重複しあった種のグループを「ギルド(guild)」と呼びます。
ニッチ重複度は、適応度が最高になるニッチ曲線の最高点の距離をdとすると、wとdの比で表現されます。
ニッチ分化(niche differentiation)
同じ環境条件・資源を共有して複数の種が共存できるためには、競争排他が起きない程度にニッチが異なる必要があります。
例えば食料源を共有していても、採食部位・採食時間などの違いによって共存可能です。
ニッチ曲線におけるニッチ重複度が小さくなるように、生物が適応していくことをニッチ分化(niche differentiation)と呼びます。
ニッチ分化が競争関係によってもたられたと考えるのが「競争排除則(ガウゼの法則)」、共存関係によってもたられたと考えるの「棲み分け理論・食いわけ理論」です。
「競争排除則(ガウゼの法則)」「棲み分け理論・食いわけ理論」について、下記記事でまとめていますのでご参照ください。
ニッチの撹乱
生態系が安定している場合、空いているニッチはほどんどなく、ニッチが変化することはありません。
しかし、外来生物の侵入・自然撹乱などのニッチ撹乱が起こると、新たなニッチを獲得するための競争が起こります。
あらたな進化が促される一面もありますが、特定のニッチに高度に適応している種はニッチ撹乱で絶滅する恐れがあり、食物連鎖で他の部分に波及効果が出ることも想定されます。
まとめ
生物の生態的地位「ニッチ」についてまとめました。
生態学についてより深く勉強するのに、おすすめの書籍をまとめていますのでご参照ください。