孤高のアーティストの共演
鈴木慶一のマネージメントから連絡があり、ムーンライダーズがフィーチャリングに選んだ相手は、なんと歌姫小島麻由美とのこと! 同じ日本のポップ・シーンで活躍しながらも、孤高の存在であり続けたムーンライダーズと小島麻由美のコラボレーションは、 両方のファンからすると、たまらなくわくわくするものだ。出来上がってきた『ゲゲゲの女房のうた』は、映画のエンディング・テーマのタイトル・ソングだけでなく、カヴァー「日曜はダメよ」とムーンライダーズの「くれない埠頭 2010」にも小島麻由美が参加し、彼女の幽玄な美しさが注入されていた。 長く歴史を刻んだアーティストが、ちゃんと相手の持ち味を尊重し合うアレンジには、さすがの一言。早速、鼻息荒く2人が待っているバウンディに向かった。コラボレーションすることになったきっかけや長く音楽を続ける秘訣等、色々聞いてみようと思う。
インタビュー 、文 : 飯田仁一郎
ムーンライダーズ feat. 小島麻由美 / ゲゲゲの女房のうた
映画版『ゲゲゲの女房』(2010年11月公開予定/監督:鈴木卓爾/出演 : 吹石一恵、宮藤官九郎)のエンディング・テーマとしてムーンライダーズ feat.小島麻由美が参加、小島麻由美のヴォーカリストとしての可能性に惚れ込んだムーンライダーズ側からのオファーで実現した奇跡のコラボレーション作品。
1. ゲゲゲの女房のうた (A Ge Ge Version)
2. 日曜はダメよ
3. くれない埠頭 2010
異色のコラボレーション! 高音質で配信開始。
『ゲゲゲの女房のうた』mp3ヴァージョンはこちら
「これだけややこしい事だらけのものをずっとやるってことは好きだからだよね」
——お二人が、コラボレーションすることになったきっかけは?
鈴木慶一(以下 鈴木) : 元々は監督から「ゲゲゲの女房」に出演の依頼をいただき、そしたら音楽もやっていただけないかと言われたんですよ。その時点で一ヶ月ほどで仕上げないとなというスピード感だった(笑)。で、エンディングの曲も作ろうとなって、歌ものがいいだろうと。そしたら監督が私と女性とのデュエットにしたいってアイデアを持っていて、それじゃ私と、誰がいいんだろうと考えた時に、たまたま小島さんの名前が出たんですよ。俺も、小島さんのアルバムを聴いたばかりというのもあって閃いた。
小島麻由美(以下 小島) : ありがとうございます。
鈴木 : 「ゲゲゲの女房」のうたを作るってなったけど、「ゲゲゲの鬼太郎」は偉大な曲で、誰でも知ってるよね。それに立ち向かってもしょうがないと思ってて。で、小島さんを思い浮かべたら、彼女の声は昭和の香りがするから、ぴったり合うかなって思った。そこから始まったんですよね。
小島 : そうだったんですね。
ーー小島さんには、どのようにオファーがあったのでしょうか?
小島 : 「ゲゲゲの女房」の映画化にあたって、ムーンライダーズと一緒にやってみないかって話が来たんですよね。それで是非やらして下さいって言って。
ーーその時、小島さんはムーンライダーズの存在をご存知でしたか?
小島 : ミュージック・マガジンの表紙を飾っていたりしたので、大御所の方っていうイメージがありましたね。
ーーん? ムーンライダーズは聞いた事ありました?
小島 : そうですね。申し訳ないです(笑)。
ーー(笑) それでも、臆する事無くやりますって言ったのでしょうか?
小島 : そうですね。今回は、プロデュースをされる立場だったので、やってみたかったんですよね。人にプロデュースされることって経験がなかったので。
ーー慶一さんからは、歌うにあたってどんな要望がありましたか?
小島 : 要望というか、慶一さんは扱い方が上手です! 私褒められると伸びるんですけど... 流石でしたね(笑)。
ーーこんな風に歌って欲しいっていう話は、事前にありましたか?
小島 : ほとんどなかったですね。
鈴木 : いつも通りって話しました。3、4回テイクを繰り返していると、これだねっていうのが出て来るんですよね。「皆が求めているのはこれだ! 」って。それは本来、小島さんが歌っているものだし、それでいいと思うんですよね。
ーー「ゲゲゲの女房のうた」は、作る前からイメージがありましたか。
鈴木 : まずは映画のエンディングとして成立させなきゃ、という事だよね。二回レコーディングしているんだけど、小島さんの歌については、最初の数回で方向性が見えて来たんですよね。「これだ! 」って完成型がね。デュエットなんでほぼ歌の割合も半分ずつだし。 あとは、その受け答えの感じが上手くいけばいいなと思ってましたね。小島さんのうたの語尾が特徴だと思うんですけど、そこが欲しくてね。やってるとそれがどんどんと出て来て、自由にやってるともっと出て来るんですよ。で、そのまま行けぇーって(笑)。
ーー小島さんは、ムーンライダーズの楽曲に参加されてどうでしたか?
小島 : 全然違いますね。まず私で大丈夫かなって思っていましたね。映画の主題歌やCMの曲とかって、お話が来てもなかなか決まる事なくて。だから「私で決まればいいなぁ」って思ってた。録った時も、その時は良かったのかどうかが分からなくて、首をかしげて帰ったんですよ。で、ライヴに呼ばれて「あっ! 良かったんだ。」って気づくんですよ(笑)。
ーー夢の島のライヴが初公開?
小島 : あれが初公開。 すごい楽しかったんですよ! お客さんがどう思ってるかは分からなかったんですけど、あれだけの人の前でやらせてもらったのは良かったな。
ーー出来上がりは聞きましたか?
小島 : 聞きました! マスタリングに行ったので... 凄いですよね。音がわかる人って。私には同じ曲を何回も聞いてるようにしか思えなくて(笑)。でも大きなスピーカーで聞くと、全然違うなって思いましたね。音圧が太くてかっこ良かった。
ーーマスタリングには、時間をかけたのでしょうか?
鈴木 : マスタリングっていつも知ってる場所でやるのが普通なんだけど、今回は移転したとこに初めて行ったんでちょっと時間がかかりましたね。部屋の感じとか場所とかスピーカーによってまったく違ってくるんですよね。
ーームーンライダーズと一緒にやった事は、小島さんにとって勉強にもなったんじゃないですか?
小島 : とても楽しかったです。自分の現場しか知らなかったから、こういう風にやるんだっていう発見がありましたね。レコーディングの合間に皆でビートルズの曲を弾いてるのを見て「あーバンドなんだな」って思いましたね。
ーー2曲目「日曜はダメよ」は、いつ頃録音されたんですか?
鈴木 : 「ゲゲゲの女房のうた」と同じ日ですね。2日間で3曲作って、歌を入れたんでね。かつてフジテレビに「WOOD」って番組があって、ミュージシャンが皆アンプラグドでやるんですよ。で、ムーンライダーズはその番組で「日曜はダメよ」をやったんですよ。で小島さんと曲を選ぶ時に、「ゲゲゲの女房」のイメージとは反対の、明るい地中海っぽいものもいいんじゃないって話になって、この曲を選んだんですよね。レコーディングの当日にアレンジはどんどん変わっていきましたけどね(笑)。
ーー小島さんは「日曜はダメよ」を聞いたのは初めてでしたか?
小島 : そうなんですけど、凄く歌い易かったです。レコーディングのミーティングで初めて聞いて歌詞も渡されたんですけど、レコーディングよりも先にライヴでやりましたね(笑)。 3曲なんですけど、1曲は「マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン」をやったんですよ。
ーーおー。名曲! それは収録しなかったんですか?
鈴木 : それも考えられましたけど、「日曜はダメよ」はほとんど小島さんに歌ってもらって、「くれない埠頭」ではコーラスを数カ所入れてもらおうと、3曲のバランスを考えて。小島さんもこの曲をやりたいって言ってたしね。
ーー小島さんは、なぜ「くれない埠頭」をやりたいと思ったのですか?
小島 : オリジナルを聞くより先にライヴで聞いたんですけど、ドローンがずっと続いてて、トラッドっぽくて良いなって。この曲にはライヴでは参加しなかったんですけど、横で聞いてて面白い曲だなぁと思って。そのあとでオリジナルを聞いてビックリしましたね。こんなに違うんだなって(笑)。
鈴木 : 通常はオリジナルのような演奏なんだけど、今我々がやりたいと思ってるサウンドは、こういうサウンドなんですよ。長尺というか誰が何をやってるか分からないような。エレキ・ギターらしい音は俺が出しているんだけど、ライヴの時に(白井)良明が座りながらサンプラーのループで音を出しているんですよ。レコーディングの時も、別のブースにいるんで分からないんだけど、色んな音が聞こえて来るんだよね(笑)。
ーームーンライダーズが、今そういうサウンドに傾倒していったのは何故ですか?
鈴木 : 手法が面白かった。サンプラーとルーパーを使うっていう事がね。で、結果的にトラッド的な曲が出来たんだよ。最初は私が夢中になった。最新のバンドとか見に行くと、ほとんどがしゃがんでるんですよね。toeとか。そういう人達を見て、やっぱりしゃがまなきゃ駄目だよって思って(笑)。っていってたら良明が機材を買い出して、二人で座るようになったんですよ。隣の武川(雅寛)に「ギターを弾いてるのに、お前らなんでしゃんがんでんの」って言われたりしながらね。バイオリンは分かるけど、ギターは誰が弾いてるのかわからない。この抽象性が面白いんだよね。
ーーループやサンプラーの機材は何を使っているのでしょう?
鈴木 : BOSSのループ・ステーションとSP-404とVE-20かな。良明はBOSSのSlicer SL-20とか買ってたけど、何に使ってるんですかね? 足下見てないから分からないや。
ーーその辺りの機材に興味を持ち出したのいつ頃ですか?
鈴木 : 二年前ぐらいですかね。凄いなって思ったのは、ファナ・モリーナを見た時ですかね。ビルボードだったんですけど、横の席だと足下が見えるんですよね。ループ・ステーション二台使ってて、演奏が凄くてね。それだけで作っていく音楽って凄いなって思って。踏む練習ばっかりしてましたよ(笑)。その後ディアハンターとかも見るとループとディレイによって凄い面白くなってるんだよね。
「好きだからですし、歌いたいから」
ーー慶一さんのソロ作は?
鈴木 : 来年ですね。もう毎日作ってますよ! これだけホーム・スタジオに籠ってるのもないんじゃないかって位やってるね。曽我部(恵一)君に1日1曲送ってやるって意地にもなってますね(笑)。
小島 : 慶一さんは、勤勉ですよね? ライヴもよく見に行ってますしね。
鈴木 : そうですね。動き回ってます。
小島 : 私も見に行こうかな(一同笑)。
ーーお二人は長く音楽活動されていますが、秘訣はありますか?
小島 : なんでしょう? 目の前にある事を全うすることですかね。好きな事だから。
ーー小島さんは、デビューしてから、止まってないですもんね。
小島 : 作品は多くないですけどね。ん? 普通か。普通って何だぁ(笑)?
鈴木 : 小島麻由美を最初に見たのはリキッドルームだけど、少人数編成でしたよね。でもバンド編成でも出来るし、フット・ワークが軽いよね。
小島 : ムーンライダーズは人数多いですもんね。
鈴木 : 人数が多いのは、やめた方がいいよ。集めるの大変だし。
ーーでも解散しない秘訣ってあるんですか?
鈴木 : ライバル心があれば! メンバー同士の嫉妬心とかライバル心とかがあればね。あんないいプレイされたとか、いい曲作られたとか思っていれば続くと思う。俺たちは1人が曲書いてるわけじゃないし、皆書いてるんでね。ライバル心と愛情があれば。
小島 : ほんと仲いいんですよ。
鈴木 : そうでもないよ(笑)。全然普段会わないんだから。飲みに行くのもめったにないしね。昔そういうのがあり過ぎちゃったんでね。あんまり懐には入らないようにしているね(笑)。音楽の土俵の上で会うようにしてる。たまに会ってもオヤジになったなぁ位の話しかしてないですよ。それと昔話。
ーーもうひとつ! 何の為に音楽を作っていますか?
小島 : 好きだからですし、歌いたいからですね。歌う事自体が凄い好きなので、声がどういう曲に合うかとかを考えて、いつも作っていますね。もう作る時は書くぞって書くんです。
鈴木 : 私は鼻歌からですかね。鼻歌が出来たらすぐレコーダーに録るかな。
ーーモチベーションは下がらないですか?
鈴木 : そういう時は寝ると回復する(笑)。でもこれだけややこしい事だらけのものをずっとやるってことは好きだからだよね。新しい機材を使い倒すとか。メンバーは仲良く見えるけどたまにしか合わないし、集めるのも大変なのにやり続けるのは、やっぱり音楽に対する愛情ですよ。
ムーンライダーズ プロフィール
1976年に鈴木慶一とムーンライダース名義のアルバム『火の玉ボーイ』デビュー。翌1977年にムーンライダーズとして初のアルバム『MOONRIDERS』を発表し、以降コンスタントにリリースを重ねる。1986年から約5年間にわたり活動を休止したが、1991年にアルバム『最後の晩餐』で活動を再開。常に新しい音楽性を追求するサウンドは、音楽界のみならず。幅広い分野で、数多くのアーティストに影響を与えている。最新アルバムは2009年9月リリースの『Tokyo 7』。
小島麻由美 プロフィール
東京都中野区出身。シンガー・ソングライター。
1995年シングル『結婚相談所』で突然デビュー。同年発表のアルバム『セシルのブルース』はジャズ、ジンタ、歌謡曲などの影響と少女的感性が結びついた"古くて新しい"音楽として注目を集める。以来、作品毎に意匠を変化させながらも"スウィングする日本語の唄"を軸に、圧倒的な個性と作品性でジャパニーズ・ガール・ポップの新境地を拓いてきた。今年リリースした4年ぶりのアルバム『ブルーロンド』が各方面から絶賛されている。