Azumiのソロ作を配信開始
昨年はWyolicaの7年ぶりとなるフル・アルバム『Castle of wind』をリリースしたAzumiが、今度は意外にも初となるソロ・アルバムを完成させた。しかもその内容はピアノによるジャズ・アレンジを施したカバー曲が中心。主に19世紀後半から20世紀初頭のスタンダード・ナンバーに彼女が詞を乗せて歌ったこのアルバムをいささか唐突に感じた人もいるかもしれないが、実際のところは彼女のルーツにある音楽的趣向性が本作にはこれまでにないほど強く反映されているようだ。同時に彼女自身のパーソナリティがWyolicaの諸作以上にはっきりと表れた作品でもある。ともあれここは構えず、彼女の歌声が小粋なピアノと合わせて楽しめるアルバムとしてじっくりと堪能したい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
Azumi / ぴあのとあずみ
【参加アーティスト】
丈青(SOIL&"PIMP"SESSIONS)、ナカムラヒロシ(i-dep)、野崎良太(Jazztronik)、45 a.k.a SWING-O(origami PRODUCTIONS)、松本圭司、安田寿之、YOYO(SOFFet)
【Track List】
1. LIFE is MUSIC 〜I Got Rhythm〜 / 2. Night Rainbow 〜Gymnopedies〜 / 3. Love Theme From Spartacus / 4. 流れ星 〜威風堂々〜 / 5. To Sing, To Live 〜Interlude〜 / 6. あなたとじゃなくてもよかった 〜Melting Pot〜 / 7. あなたに言えないナイショのお話 〜It Could Happen To You〜 / 8. Marchand de Sable 〜亡き王女のためのパヴァーヌ〜 / 9. いつかまたあえる / 10. Sesame Street Theme
Azumi INTERVIEW
——ジャズ・アルバムというアイデアはいつ頃からあったものなんですか。
Azumi(以下、A) : たしか昨年末くらいですね。でもジャズ・アルバムを出したいっていう気持ちはずっとあったんです。インスト曲に歌詞を載せるという手法はランバート、ヘンドリックス&ロスのジョン・ヘンドリックスがオスカー・ピーターソンの楽曲に詞を乗せて歌っているものがあって、それがヒントになっています。「いわゆる名曲と言われるものに私が日本語の歌詞を乗せてジャズとして歌ったらどうなるだろう」と思ったところから、どんどんイメージを広げていきました。選曲に関してはプロデューサーの方々と話し合いながら決めていきました。みんな私の歌をよく理解してくれている昔からの仲間でもあるんです。
——これまでもAzumiさんのヴォーカルからは、たとえばアクセントの付け方などにブラック・ミュージックへのアプローチを感じられる部分があったのですが、実際はどうなのでしょう。
A : リズムに感じられたのでしょうか? 私が最初にのめり込んだ音楽は70年代のソウルや90年代のアシッド・ジャズで、そこからブラック・ミュージックに夢中になっていったんです。でも私の声質や歌の資質は黒人女性とはまったく違うので、自分なりのやり方で表現しようと思って、ここまでずっとやってきたんです。でも私の根底にあるのは確かにブラック・ミュージックですね。そこを指摘して下さる方はあまりいらっしゃらないのですごく嬉しいです。
——Wyolicaの楽曲がso-toさんのギターを基軸にしているのに対して、今回のアルバムはタイトルの通り、ピアノが全編で鳴っているのが聴きどころだと思いました。
A : すごくシンプルなトラックで、且つピアノをメインにしたら、それだけでWyolicaとは違ったものになると思って。あと、私はピアノとベースとドラムが大好きなんですよ。なんならドラムとベースだけでもいいくらい(笑)。やっぱりリズムなんですよね。確実にそこはブラック・ミュージックからの影響だと思います。そういう16分で刻む音楽ばかり聴いていたから、私のリズムのとり方も自然とそうなってるんですよね。
——これは歌い手に限らず、演奏家としての技術が身についていくうちに自ずとジャズにアプローチしていく方はいますけど、Azumiさんの場合もそれは当てはまるのでしょうか。
A : 私はその反対かな。私が一番ジャズに夢中だったのは20歳前後の頃だったんですけど、その時はすごく小難しい顔をして聴いてましたからね。ソロの一音も聴き逃さないみたいな(笑)。
——いわゆるマニアックな楽しみ方をしていたんですね。
A : そうですね。そういう聴き方をしていたせいで、その頃の私ってすごく偏屈な音楽の楽しみ方をしていたと思うんです。「打ち込みモノとかラップなんて聴けない! 生音だけ! 」みたいな感じだった(笑)。でもそれからジャズ以外にも素晴らしい音楽とたくさん出会って、どんどんいろんなものを聴くようになって。それに、例えばオルタナティヴでもヒップ・ホップでもクラブ・ミュージックでも、それぞれのアプローチにジャズの匂いがするものもあったし。そこで、なぜ今回ジャズ・アルバムにしたかというと、やっぱりジャズっていうと難しいイメージが強すぎて、若い女の子とかにとっての敷居が高いんじゃないかと思って。でもジャズってもともとは酒場でみんなが踊っていたところが発祥ですし、そもそもはクラブ・ミュージックと同じなんですよね。すごくクールでヒップなダンス・ミュージックだったはずなんです。だから私はジャズを聴いたことのないような人も楽しんでもらえるようなものが作れたらと思って。そこで私の声と詞はそのとっかかりになると思ったんです。聴いてもらえるシチュエーションはなんでもよくて、夜にひとりでゆったりしたい時でもいいし、みんなで集まっている時でも、お店で流してもらってもいい。とにかく楽しい気分になってもらえたらいいなと思って。ジャズ・ヴォーカルをやりたかったというわけではないんです。実際に聴いてもらえればまったくそういう歌い方とは違いますよね。
——今回のアルバムでは既存の楽曲にAzumiさんが書いた歌詞を乗せて歌っていますが、これは原曲を正しく理解した上で忠実に書こうとしたものですか。それとも楽曲をAzumiさんの世界観に近づけようとしたのでしょうか。
A : 両方かな。もともと歌詞があるものに関しては、そこからなるべく外れないように気を使ったものもあるし、まったく真逆のものもあるし。まず曲をどう活かすかを考えるのが第一で、その次に私の歌をどう活かすかという感じでした。
——それぞれ原曲名とは別にオリジナルのタイトルが付けられていますが、例えば冒頭の「I Got Rhythm」に「LIFE is MUSIC」と名付けたのはどんなところからきているのですか。
A : このアルバムの制作途中には震災もあったし、本当にいろんなことがあったんですよね。そんな中で、とにかく私は幸せになれる音楽がいいなと思っていて。そこでアルバムの1曲目では今の私が一番言いたいことを歌おうと決めたんです。この曲はアルバム制作の後半に上がってきた曲なんですけど、YoYoくん(SOFFet)からアレンジが送られてきた段階で、すぐに「これは1曲目だ」と思って。1曲目で「あなたのピアノは最高」「世界は音楽でひとつ」と歌って、様々なピアニストのピアノ・アルバムが始まるというところが、この『ぴあのとあずみ』というアルバムの全てを表しているんです。
——そう考えると、『ぴあのとあずみ』というタイトルは象徴的ですね。つまりピアノはAzumiさんと並ぶ本作の主役なんだということですよね。
A : 私はヴォーカルは言葉を使って感情を表現できる唯一の楽器だと思っているので、あくまでもサウンドの一部として考えているんです。だから、目指しているようなシンガーってあんまりいないんですよね。だけど唯一好きなジャズ・シンガーはエラ・フィッツジェラルドです。エラって想像を超えるほどの悲しいことを経験していたり、色々なバック・グラウンドがある方ですが、歌に暗さがなくて、すごく天真爛漫。しかもその声が演奏の中でサウンドとして成立しているんです。私はああいうヴォーカル・スタイルが好きですね。「私の歌を聴いて! 」みたいな押し付ける歌唱法だと演奏との相乗効果があまり得られないので、そういうところは大切にして歌っています。
音楽への欲求が強くなってきている
——ヴォーカリストとしてのエゴイスティックな部分は排除したいということですか。
A : そうですね。小さい頃にエレクトーンをやっていたので、実はそこからサウンド重視な考え方が始まっていたのかもしれないですね。ビートもリズムもコードもメロディーもおかずも(笑)。1人で奏でる楽器ですから。ただ、私には楽器を演奏する才能あはまったくなくて(笑)。エレクトーンも途中からそんなに面白くなくなっちゃったし。そこで中学からボイトレに通い始めたんです。小さい頃はむしろ歌が大嫌いだったんですけど、小学校6年生の時に、先生から「いい声してるね」と言ってもらえたのがきっかけになって。「歌ってもいいのかな」っていう気持ちが芽生えてきたところで、ちょうど回りがバンド・ブームだったから、そこから始まった感じですね。私、その頃に歌の基礎をみっちりやってたおかげで、声帯を壊したことが今までないんですよ。結節やポリープができたことは一度もないんです。15歳くらいの頃から、ずっと年上のソウル・バンドのコーラスに加わったり、ジャズ・コーラスのグループに参加させてもらいながらものすごく勉強してきたので。実はけっこう叩きあげなんですよ(笑)。
——プロ意識も早い時期から芽生えていたと。
A : 初めてバンドでステージに立った時、「プロになりたい! 」って強く思いましたが、いわゆる「デビューしたい」という気持ちとも別でした。当時もいろんなお誘いはあったんですけど、それよりも私はただ自分の音楽を追求したいっていう気持ちしかなくて。そう思っていたら、今現在ここにいる。「自分の音楽を追究する」という想いがあったから、デビューは通過点だったんですね。(デビューは)通過点ですね。もっと先を見ていたし、終わらない追求ですから。もちろん今もそう。
——つまり、Azumiさんは年齢とキャリアを重ねていくこともひとつの通過点と考えているということでしょうか。それまで出ていた声がでなくなる時期って、歌い手には必ずやってきますよね。
A : そうならないためのトレーニングはしています。昔より声は出ますしね(笑)。ただ、年齢に合った歌というのも間違いなくあると思う。実は今回も「ちょっと乙女すぎたかな? 」って思いながら歌ったものはあって(笑)。でもそれも含めて私にしか出来ないことだと思っています。
——さきほど、制作途中で震災が起こったとおっしゃっていましたが、あの震災はAzumiさんの活動にどんな影響を与えたのでしょうか。
A : しばらく歌えなくなりましたね。歌おうとしても声は震えるし、テンポも定まらなくて。地震直後と直前で録ったものでは、歌がまったく違うんですよ。歌詞もまったく書けなくなって。でもそこでなんとか書いたのが「Night Rainbow 〜Gymnopedies〜」なんです。あの曲を書いたことでようやくざわめいた気持ちが少し落ち着いてきて、そこからは一気に進めていけたんですけど、震災後の1ヶ月間は本当になにもできなかった。でも、自分が今やれることをやるしかないと思った時に、私に創れるものは聴いていて楽しい音楽、それだけで十分じゃないかと思って。このアルバムで私は「ひとりじゃないよ」とか「大丈夫だよ」みたいなことは歌ってないんです。Wyolicaでそういう歌詞を書いたことはあったけど、今はそうじゃないと思って。それにこの1年くらいは、10代の頃にあった音楽への欲求がまた強くなってきている感じがあるんです。というのも、去年Wyolicaのフル・アルバムを7年ぶりに出して、そこですべて出し切ってゼロになったんですよね。デビューからの12年、私はWyolicaのことだけを考えて音楽をやってきたので、またここからなにかインプットしていかないといけないと思ってたんです。そうしたら10代の頃みたいな「音楽をやりたい」っていう気持ちが強くなってきて。それが嬉しいんですよね。今はすごく楽しい時期ですよ。本当はもっと早くこういう気持ちに戻ればよかったんですけど、特にメジャーでやっていた頃は常に追われていたから。Wyolicaのイメージが出来上がっていく中で、どうやって自分を表現するかも考えたし。だから、今回の歌詞ってすごく自由に書いたものなんですよね。正直少し不安だったんです。私、歌詞に関してはとても自信がなかったので。
——それはなぜ?
A : Wyolicaは歌詞を書くのが私だけじゃないし、その方は言葉の紡ぎ方が素晴らしいんですよね。一方の私が詞を書き始めたのは東京に来てからで、最初はまったく書けなかったし、個性もないし、自分はだめだなと思うことが多かった。実はすごくコンプレックスがあるんです。
——このアルバムを出したことでそのコンプレックスをいくらか克服できたところはありますか。
A : うーん。わからない(笑)。でも、ようやく自分をわかり始めたのかもしれない。今回書いたものって、Wyolicaとはまったく違うから。「いつかまたあえる」はちょっとWyolicaっぽい感じもあるかもしれないけど。
——この曲は詞だけでなく、作曲もAzumiさんが手がけていますね。
A : 今回のアルバムは、もちろんたくさんの人に聴いてほしいんですけど、なによりも私はこれまでずっとWyolicaを聴いてくれたみんなに届けたいという気持ちがやっぱり強くて。そこでWyolicaを特別に思ってくれている人達になにか新しい音楽を提供するとするなら、それは私が創った曲を聴いてもらうのもいいんじゃないかなと思ってたんです。そこでポッと浮かんだ歌詞とメロディをiphoneに録ってみました。実は私、これまでただの一度も曲を作ったことがなかったんですよね(笑)。だから人に聴かせるのがホンットーにいやで。だからスタッフに聴いてもらう時は言い訳ばかりしてましたね(笑)。でも、この曲だけじゃなくて、今回のアルバムは全編を通して完全に私を丸裸にした感じがあるんです。
LIVE INFORMATION
『ぴあのとあずみ』リリース・ライヴ
2011年11月10日(木)@渋谷JZ Brat
1st open 17:30 / start 19:30
2nd open 21:00 / start 22:00
前売 3,500 / 当日 4,000(入替制)
Members : Azumi(vo/Wyolica) / 松本圭司(p) / 笹井BJ克彦(b) / 天倉正敬(ds)
Wyolicaのライヴ音源シリーズをHQD音源で配信中!
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PROFILE
Azumi
Wyolicaのボーカル&リリック担当として1999年大沢伸一プロデュースでデビュー。優しく透明感のあるヴォーカルと、穏やかで切ない歌詞・メロディーを核に、振れ幅のある、かつオリジナリティー溢れるアイデンティティーを披露。2005年にはソロ・デビュー、初舞台を経験。DragonAsh、スネオヘアー、FLOW、SOFFetを始め様々なアーティストのフィーチャリング・ボーカルや、リーバイスなどのファッション・ブランド、ファッション誌のモデルとして起用されている。2011年、ソロ活動再開、DJ活動開始。9月7日には親交の深いピアニスト、キーボーディストを招き、JazzyでPOPなAzumiワールドを凝縮した1stソロ・アルバム『ぴあのとあずみ』をリリースする。