Bright Yellow Bright Orange レーベル第三弾リリース
今世紀最大のエクスペリメンタル驚愕バンドsimと、the Beatlesの中期を再現するユニットthe Bootlesをご存知だろうか? どちらも、全くもって奇妙な切り口なのに、一般リスナーから音楽評論家まで、とにかく評価が高い。その2つのバンドを扇動するのが、現存するミュージシャンの中でも、ピカイチのセンスを持つ男、大島輝之。今回とりあげるのは、その大島が新たに始めた歌モノ(?)バンドの弧回(←コエと読みます)。早速1st album『纒ム』(←マトムと読みます)がリリースだ!
組んだのは、ROVOなどを擁するワンダーグラウンドの加藤Roger孝朗と、ROVO、DUB SQUADでの活動でも有名なエンジニア益子樹が立ち上げた新レーベル、Bright Yellow Bright Orange。バンド・メンバーには、波多野敦子(バイオリン、コーラス等)、千葉広樹(コントラバス、トランペット)に加え、本作では、ゲスト・ドラマーとして、山本達久を起用。彼らなりの解釈で演奏された、TODD RUNDGRENの「I SAW THE LIGHT」も収録。掲載したインタビューと、益子樹がこだわるHQD(24bit/48kHzのwav)マスタリングで、弧回の隅々までをご堪能ください。(注 ; 堪能しても、彼の頭の中を理解するのは、不可能であることを保証します)
インタビュー : 飯田仁一郎
文 : 熊切貴浩
実力派メンバーたちによる新しいPOPSがここに誕生
弧回 / 纒ム
1. Flying / 2. Sunshine Down On Me / 3. ユメであえたら / 4. Whats Going On? / 5. Its Over / 6. 如月の夜 / 7. Too Much Rain / 8. メタルマサカー / 9. 逆回転時計 / 10. 影 / 11. I Saw The Light / 12. 月光 / 13. いたずら
【販売形式】 HQD(24bit/48kHzのWAV)
【価格】 単曲 200円 / アルバム 1,800円
「Bright Yellow Bright Orange」アーカイブ
レーベル第一弾リリース
triola / Unstring,string
ジム・オルーク・バンド、石橋英子バンドのメンバーであり、mama!milkやOORUTAICHIなど、数多くの作品にヴァイオリニストとして参加し、広告や映像の音楽制作、ストリングス・アレンジメント等も手がける波多野敦子。2009年より、ヴィオラに手島絵里子を迎え、デュオとして始動した弦楽プロジェクト「triola」の1stアルバム。
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レーベル第二弾リリース
pair / Pair!
LLamaのフロント・マン、吉岡哲志と山田杏奈によるユニット、pair。勝井祐二(ROVO)、岡部洋一(ROVO)、鬼怒無月、徳澤青弦、田中祐二(ex-くるり)、POP鈴木(ex-さかな)、青木タイセイ、ヤマカミヒトミ等の超一流ミュージシャンをゲストに迎えて一流のポップスを展開。益子樹全面参加のもとに作られた、「Bright Yellow Bright Orange」の象徴と言える作品。
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もっと純粋で単純な「歌モノをやりたい」
——まず始めに、OTOTOYでも話題になったthe Bootlesに関してお尋ねしたいのですが、あの企画は大島(輝之)さんの呼びかけで実現したのでしょうか?
元のサイト(※ネット上で8曲の未発表を含むビートルズ幻のアルバム『RED』が2012年1月11日に発売という情報が駆け巡った)を見て「騙されたー」みたいなTweetをしたら、中村(公輔)君から次の日くらいに「これ本当に作っちゃいませんか? 」ってDMをもらって、面白そうだと思って一緒に作っちゃいました。一ヶ月くらいで作曲、アレンジとすべてやったので大変でしたけど(笑)。
——大島さんの音楽活動には、The Beatlesからの影響が大きいのでしょうか?
すべてがThe Beatlesからの影響というわけではないですけど、やはり好きですね。20歳になる前くらいに、6、70年代のロックとかを聴き始めて、その中で出会ったものの一つなんですけど、今でも聴きますしね。
——今回の弧回のような歌モノの作品も、やはりThe Beatlesの影響が強いのでしょうか?
「The Beatlesからも」って感じですね。元々そういったブリティッシュ・ロックが好きだったので、歌モノは何年も前からやりたいとは思っていたんです。
——The Beatles以外のブリティッシュ・ロックではどのようなものがお好きだったのでしょうか?
XTCやDavid Bowie、Led Zeppelinもよく聴いていましたね。20代前半はそういったものをずっと聴いていました。その後、プログレを聴くようになって、即興演奏やノイズにも広がっていって。ブリティッシュ・ロックの流れからKing Crimsonを聴いて、一時期はプログレにもハマっていたんです。
——即興音楽を聴くようになったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
King Crimsonも即興演奏をやっている部分があるじゃないですか? その真似事のようなことをやっていて。その頃に、大友良英さんだとか、日本でもそのようなことをやっている人たちがいることを知って、ノイズを聴き始めたのもそれがきっかけでした。そこからは長い間そういった音楽に傾倒していきましたね。simの活動もその頃から始まりました。
——今回、弧回として作品を発表するに至ったのは、どうしてなのでしょう?
ブリティッシュ・ロックのような自分の好きな系統の音楽を、実は一度もやったことがないんですよ。前々から、いいボーカリストがいたらやりたいとは思っていたんですけど、自分がいいなと思う人は、すでに有名になっていたり、一人で活動していたり、どこかのバンドに所属していたりしていたので。それだったら、もう自分で歌っちゃおうかって(笑)。
——なんとなく自然に歌モノのバンドをやりたいと思って始めたということでしょうか?
そうですね。Daniel Johnstonをここ3、4年の間に聴くようになったんですけど、こんな感じなら自分でも歌えるんじゃないかって(笑) 。 曲としてはよくできているんだけど、アレンジを凝らしているわけではないし、曲の断片を集めただけのようなものが多かったので、そういう感じで気軽にできるんだったらいいなって。
——その「気軽さ」が一つのキーワードだったのでしょうか?
「歌う」ということに関してはそうですね。「ボーカリスト」という感じでなくてもいいんだっていうのは大きかったと思います。
——simの場合は、カッチリしているところはものすごくカッチリしているじゃないですか。そこからの反動といった意味合いもあるのでしょうか?
それはないですね。もっと純粋で単純な「歌モノをやりたい」という気持ちからだと思います。
——歌モノに対しては、軽いものだとか、ラフなものであるというイメージがあったのでしょうか?
今までずっと楽器だけでやってきたじゃないですか? だからいざ歌うとなると、やっぱりこっぱずかしいわけですよ(笑) 。でもDaniel Johnstonを聴いていると、気持ち的には重くなく歌えるという感じになって。だから歌モノだから軽いというわけではないです。歌モノのほうが面白い部分も沢山ありますし。逆にsimみたいなインストよりも面白いことが沢山できると思っています。
——例えばどのようなところでしょうか?
歌があると、どんな演奏をしても曲として成り立つんですよ。歌と歌詞があると、どこかしらポップな部分が出てくると思っていて。逆に自由度が高いというか、面白いことも色々できると思いますね。
——自由度が高い?
例えば「メタルマサカー」という曲は、最初はPaul McCartneyの「Blackbird」のようなリフからサンバ調で始まって、途中で急にノイズっぽくなる曲ですけど、ポップだと思われる曲途中にそうしたノイズ部分を入れることで、今まで聴いた事がないような新鮮味が生まれるんですよ。ポップな曲の中にちょっとした仕掛けを入れてみると、意外とみんな驚くし、自分でも面白いと思うので、ちょくちょくやっていますね。
弧回は僕の好きなブリティッシュ・ロック的要素が強い
——「歌詞、コード進行、アンサンブル、ハーモニー等の拡張、及び解体を目標にしている」ともありますが、「解体」とは具体的にはどのような意味合いを持っているのでしょうか?
例えばsimは、リズムが崩れた感じというか、そういったリズム的アプローチで成り立っているバンドなんですけど、弧回のように歌があると、組み合わせの妙というか、脈絡のない部分が曲中に入ってきても統一感が出るんですよ。弧回はアコースティック・ユニットとして始めたので、ウッドベースとヴァイオリン、そしてドラムという組み合わせで、アコースティックという括りの中で「解体」に近いことをやってみたいですね。
——やはりポイントは、表に歌があることで、裏は自由に遊べるということなんでしょうか?
例えばXTCやDavid Bowieとかも、歌がなかったとしたら相当ヤバいだろっていう曲があると思うんですよね。その辺りにポップ的な面があるんじゃないかと思うんですよ。
——メンバーについてお聞きしたいのですが、大島さんが一緒にやりたいと思った波多野(敦子)さんの魅力を教えていただけますか。
彼女はもともとクラシック畑の人なんですけど、アドリブや即興演奏にも長けていて。所謂クラシック畑の人だと、譜面を書いてその通りに弾いてくださいとお願いする感じなんですが、彼女の場合は、コード進行を教えてこういう感じで弾いてくださいと頼めばすぐに弾いてくれるので。あと歌が上手いことも知っていたので、コーラスもやってもらいたいなと思って。
——千葉(広樹)さんは?
彼ももともとはクラシック畑の人なんですが、そこからジャズとかを始めて、今では即興演奏とかもやっている人で。そういう風に、一つのジャンルに囚われずに色々なことをやっている人に今回は声をかけていますね。
——ドラムは固定しないんですか?
ドラムは元々いたんですけど、やめてしまったんですよ。ドラムは僕が誘うとsimみたいなリズム的アプローチが強いものを想像しちゃうみたいなんですが、今回の弧回はそういったものではないので。
——曲はどのように作っていきますか?
曲によるんですけど、基本的に家でアコギを弾きながらですね。あとはコード進行から作る場合もあります。面白いコード進行を探して後からメロディーをつけることもあるし、メロディーが先に浮かんでコードをつける場合もありますね。
——大島さんが作った曲は譜面をメンバーに渡してスタジオで合わせる感じなんでしょうか?
頭の中では描いているんですけど、基本的にコード進行を書いた譜面しか渡さないです。それからスタジオでコード進行通りに弾いてもらって、こういう感じがいいと伝えて作っています。simの場合には、ドラムもハイハットの一音一音から全て譜面に起こしてやるんですが、弧回ではそのようなことはやらないですね。
——弧回がそのような作り方じゃない理由はあるのでしょうか?
リズム・アプローチが強いバンドではないので。そういった曲もそのうち作ると思うんですけど、今のところ必要じゃないので。もしかしたらアレンジから僕がカッチリ作る曲もできるかもしれないんですけど、弧回は本当に色々なやり方で曲を作れると思うので。
——お話を聞いていると、simが大島さんの思い描く世界を表現するものであるのに対して、弧回は他のバンド・メンバーの世界も表現するものなのではないかと感じたのですが。
うーん。弧回に関しても僕の世界を表現するものですね。譜面に細かく書かないだけで、このような感じでやってくれと、ほとんど僕が頼みながらやっていますし。譜面作業がないだけで、表現しているものは僕の世界観だと思いますね。
——大島さんが、今後他に表現してみたいことはありますか?
simのようなリズム的アプローチと弧回のような歌モノを合わせたものをやりたいと思っています。それをどこでやるかは今はちょっとわからないんですけど。弧回は僕の好きなブリティッシュ・ロック的要素が強いですが、そうではないものもやりたいと思っています。
今は水を得た魚のような状態ではあります(笑)
——では、今回のアルバムで表現したかったテーマは、何でしょうか?
今回は一貫したテーマというものがなかったので、アルバムのタイトルも「まとめ」という意味で『纏ム』にしたんです。弧回は本当に色々なことをやりたいバンドなので、曲毎にテーマが異なるんですよ。だからsimのような統一したイメージというものもないんです。
——レコーディングはどのように行いましたか?
レコーディングは、高尾山の方にある藤野町というところのスタジオを借りて二日間で行いました。
——録音からミックスまで二日間でやったんですか?
録音だけですね。ミックスは僕がデータをもらって何ヶ月かかけてやりました。4月頃に録音して、歌録りはその後にやって。最近ようやくできた感じですね。
——それではこの半年はミックスに多くの時間をかけられていたわけですね。ご自分でミックスをやられると、ゴールが見えなくなりませんか?
そうですね。でも、最近はミックスも自分でやるのが当たり前な感じがありますよね? 人に任せるのもいいんですけど、ミックスはもっと自分でやった方がいいと思うんですよね。
——それはどうしてですか?
やっぱり音色って音楽の要素の中でも大きな比重を占めていると思うんですよね。だから、例えばギターやドラムの音一つにしても、一日二日でエンジニアさんにこうしてくださいって頼むよりも、突き詰めるところまで詰めたほうがいいと思うんです。自分の100%までいかなかったとしても。
——完成に至るまでには、どれくらいの時間がかかりましたか?
ミックスは半年くらいちょくちょくやる感じでしたけど、最後の一ヶ月間は缶詰状態でしたね。マスタリング直前までやっていました。リヴァーヴを増やしたり減らしたり、他人からすると「何やってるの? 」ってことをやってましたね。ミックスを他の人に任せれば他のことも出来るんですけど、そこはやっぱり自分でやりたいので。
——弧回としての、次のヴィジョンを教えてください。
曲はもう5、6曲新しいのができてるんですけど、作りたい時に作る感じですね。別に「弧回の曲を作るぞ! 」って感じではないですね。
——simと弧回では曲が出てくるタイミングは違うのでしょうか?
そうですね。simの場合は「作るぞ! 」って感じですけど。弧回はそうではないですね。でもこういう歌モノは本当に前からやりたかったことなので、今は水を得た魚のような状態ではあります(笑) 。
——それではそう遠くない未来に2ndを出すこともあり得るということでしょうか?
そうですね。もし出させていただけるなら出したいと思っています。
ーー楽しみにしています。ありがとうございました。
RECOMMEND
the Bootles / RED
the Bootles(ザ・ブートルズ)。the Beatlesを中期を再現するユニット。2011年11月にネット上で話題になった「the Beatlesの未発表アルバム”RED”が発売する」と言う2ちゃんねる発信のデマに踊らされた3人が、リリースされないならば自分たちで作ってしまおうと結成された。アルバムの内容は偽サイトに記された通りの仕様で、当時の機材を使用して完全再現を目指している。
chori / 祝福のおわった夜に
京都は西陣生まれ、宇治川のほとり観月橋在住の詩人、chori。スポークン・ワーズ、ヒップ・ホップから伝統芸能まで貪欲に吸収しながら、従来の詩の朗読とは確たる一線を画することばの絵筆が、ギター、コントラバス、ドラムスのつくりだすキャンバスのうえで踊る。「唯一無二」「独特な世界観」などといった紋切り型の形容詞では語りきれない、革命的な表現を日夜発信しつづけ、満を持して全国デビュー・アルバムをリリース。
LLama / インデペンデンス
2003年京都で結成、現在も京都在住。幾度かのメンバー・チェンジをして、現在に至る。Vo.Gu.、ツイン・ドラム、ツイン・トランペット、コントラバス、エンジニアという変則的なメンバー構成の7人組。前作より、4年ぶりの2ndアルバム・マスタリングは益子樹(ROVO)。
PROFILE
孤回
大島輝之(vo,g)(sim)、波多野敦子(violin)(triola)、千葉広樹(w.bass)による弦楽ユニット。2011年1月結成。大島による歌、コード進行の探求を中心とし、幅広い意味でのポップスを演奏する。
Bright Yellow Bright Orange
七尾旅人を輩出し、ROVO、LLama、chori等の一筋縄ではいかないアーティストを擁するワンダーグラウンドが新しいクオリティ・ポップス・レーベル「Bright Yellow Bright Orange」を設立。スーパーカーの仕事で有名なエンジニア・プロデューサー益子樹が全作品のマスタリングを担当。コンセプトは、ロックではない、耳にココロに優しい、大人の鑑賞にも耐えうる、少しひねくれた新たなPOPS。腕の確かなベテラン・ミュージシャンの高品質な歌モノを、高音質の益子サウンドで春夏秋冬の年4枚送り出す予定。レーベル・ブランディングとして、時間や季節を問わない楽曲と、必ず名曲のカバーを収録というコンセプトでFMを主に展開。
Bright Yellow Bright Orange HP