【BiSH】Episode65 アイナ・ジ・エンド「やりきったり生ききったりすることが今のBiSHにできること」
2018年3月発売のメジャー3rdシングル『PAiNT it BLACK』がオリコン・ウィークリーチャート1位を獲得、日本レコード大賞新人賞を受賞し、幕張メッセ9・10・11ホールにて1.7万人を動員した単独ワンマン公演〈BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”〉を成功させた"楽器を持たないパンクバンド”BiSH。2019年7月3日、メジャー3rdアルバム『CARROTS and STiCKS』をリリースするBiSHに10周目となる個別インタヴューを敢行。第2回は、アイナ・ジ・エンドの声をお届けする。
BiSH、待望のメジャー3rdアルバムをハイレゾ配信
INTERVIEW : アイナ・ジ・エンド
ニュー・アルバム『CARROTS and STiCKS』が発売された。白と黒、明と暗、恐怖と安心、戦争と平和…… そんな対比とそれらが共存しているからこその世界でもある無常を描ききった本作は、 BiSHという音楽家達の(とても挑戦的な)アート作品であり、どメジャーになってもアート作品を創るBiSHを我々はさらに信頼してしまうのだ。そしてその信頼は、新たなる期待へと変わる……。
これらの曲は、どんなダンスとなるのか? ライヴではどんな表現になるのか? PVは? そういえば、本作から大きく変わった歌詞のテイストも気になるところ……。
インタヴューでは、そんな疑問を手助けするものになれば幸いだ。さぁ、BiSHの新しい扉が開かれた! 我々は大きな期待を持ちつつ振り落とされないようにしながら、BiSH船についていくしかないんだ!
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 外林健太
本質に近づけるような気がして
──最近のBiSHはどんな状況ですか?
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ) : 個々のイメージが強くなってきましたね。それぞれが自分の生きる術を得てきたというか、自分の魅せ方を着々と形にしていってる感じ。
──それはグループにとってはいいことですか?
アイナ : もしかしたらいつかは個人の活動の方が忙しくなる時期も来るかもしれないけど、BiSHがないと個々の活動もできないっていうのはメンバーみんなどこかで分かってるはずだから、そんなに心配もなくて。中途半端に終わらせないで、やりきったり生ききったりすることが今のBiSHにできることかなと思います。
──僕は幕張のライヴが本当にすごかったと思っていて、その後のライヴを観てもどうしても幕張と比較しちゃうんです。アイナは現在のBiSHのパフォーマンスをどう捉えていますか?
アイナ : 幕張は映像の山田(健人)さんが入ってくれたり、みんなで作った一体感みたいな魔法がかかったライヴでしたよね。今はそこから皮が剥け始めてる感覚があって、私個人としては幕張より今のほうがいいライヴをしてるっていう思いがあります。例えば、リンリンの表現力の高さには日々ハッとさせられてるんですけど、リンリンを振り付けのメインに据えた「FREEZE DRY THE PASTS」はそれの極みで、どこをとっても絵になるんです。一人ひとりの技術面も成長してきて、自分の表現力を形にしていてかっこいいと思う瞬間も多い。私も頑張らないとなって思います。
──アイナはどんなところを頑張りたいですか。
アイナ : 私は幕張のときもこれ以上ないくらい歌を頑張ったつもりではいて、昔より今のほうが歌ってて楽しいんです。最近は妹と深夜によくスタジオに入っていて。夜中の12時から朝の5時まで、汗だくになるまでずっと踊ってます。妹はめっちゃダンスが上手くて、私が歌って、妹が瞬発的に振りを作って踊ったりして、それがめちゃくちゃ楽しいんです。
──朝まで!
アイナ : 大勢のお客さんの前でのライヴだと、気づいてないうちに緊張してたり、プレッシャーを感じたまま歌ってたり踊ってたりするんです。リハーサルでもスタッフさんからのダメ出しとかも受けるし、心のどこかで観られてる意識がずっとあって。それを完全に遮断して本気で歌ったり踊ったりできるから、本質に近づけるような気がしていい時間なんですよね。
自分の暗い部分と向き合わないとできなかったこと
──『CARROTS and STiCKS』はどんなアルバムになりましたか。
アイナ : 幅広い作品ですね。二面性ってここまで表現できるんだと思いました。ディストーションがかかった状態で歌うのは初めてで、歪みを体感しながら歌うのは難しかったです。ハシヤスメやアユニは声が綺麗なのでよかったと思うんですけど、私は元々ディストーションがかかってるみたいな声って言われたんで、「かけたらもっとガサガサでヤバいやん!」って思いながら歌ってました(笑)。逆に「CARROTS」の方はナチュラルに歌ったり。
──二面性を表現することで見えてきたことってありますか?
アイナ : 素直になれました。私、昔から本を読むのがめっちゃ好きなんですよ。でもアホだから、私が本を読んでるとか言っても説得力がないだろうと思って言ってこなかったんですけど。
──いや、別にいいじゃないですか(笑)。
アイナ : ふふふ(笑)。太宰治が昔から好きで、例えば幕張メッセや横浜アリーナでライヴをした夜、家でカップ麺とか食べてて寂しいなって思ったとき太宰治を読んだりして。「斜陽」で自己陶酔と自己破壊を繰り返してる太宰さんを想ってちょっと癒されてたところがあって、そういう自分の暗いところってあんまり人に言ったことがなかったんですけど、「STiCKS」があるから「CARROTS」が引き立つってことは、もう少し暗い部分も噛みしめながら生きてていいのかなって思うようになりました。
──アイナの「STiCKS」的な部分はどんなところに表現されていますか。
アイナ : 「FREEZE DRY THE PASTS」は私からのメッセージがあって。自分が人前に立って何かを伝えられる立場になって、お客さんに対して「生きろ!」っていうのはちょっと違うなと感じていたんです。私自身そのメッセージで救われたこともあるんですけど、「生きろ」って狂気的というか、殴られてる感じもあって。じゃあなんだろうってずっと模索していたんですけど、「よかったら死なないでほしいな」ってことだなって。「FREEZE DRY THE PASTS」の表現を通して、「死ぬのはちょっとだけ怖いことかもしれないね」ってゾっとしてもらえればと思って作りました。そうやって自分の中で答えが見つかったのも、自分の暗い部分と向き合わないとできなかったことだと思います。
──アイナ作詞の「CAN YOU??」はどんなテーマの曲ですか。
アイナ : 自分に携わってくれる人たちに宛てて書きました。まっすぐ上手く生きていくものが人間だと思わなくて、機嫌が悪い日に睨んだり、強くあたってしまったりするけど、そういうことから発展していく空気の悪さとかを乗り越えたときに、きっと本当の友達になってるんだろうなって思って。
内臓が破裂しそうになってちょっと後悔してます(笑)
──今作はアルバムを通して歌詞の印象が変わりましたよね。哀愁というか、ちょっとした諦めと「それでもやるぞ」っていうのが共存しているというか。
アイナ : 今回、渡辺さんが弱い部分を見せてくれている気がしていて。「優しいPAiN」の歌詞を見た瞬間に、渡辺さんがここまで弱いところを見せてくれたなら、私もその倍ぐらい見せないと歌詞が伝わらないなって思ったんですよね。
──それは振り付けにも影響しましたか?
アイナ : そうですね。「優しいPAiN」は「スパーク」に似ていると思ったので、振り付けも「スパーク」を踊れなくなっていく、っていうものにしています。「スパーク」はBiSHで初めて出させていただいた曲で、まだユカコ(ラブデラックス)がいたときの唯一の曲だし、アユニが入ってきて初めて歌った曲でもあって。ずっと歌い続けてきた曲が歌えなくなってマイクを置こうとするんですけど、マイクが愛おしくて置けないっていう展開にしてみました。
──シングル曲の「PAiNT it BLACK」や「stereo future」がアルバム本編に入らなかった(※ボーナス・ディスクとして収録)ことについてはどう思っていますか。
アイナ : 曲がめちゃくちゃあるので「厳選するの大変だったね」みたいな気持ちです(笑)。
──振りを考える人からしたら新曲が多いと大変じゃないですか?
アイナ : 曲が出来たらあとは必死に考えるだけですね。「遂に死」の振りは、最初に人の上に人が乗っかるんですけど、結構重いし痛いんですよ。身長的にいったら一番下がハシヤスメ、次にアユニ、私が3番目なんですけど、メンバーに自分の下になってと言ったら怒られるかなと思って自分を一番下にして。ツアー20公演以上あって、内臓が破裂しそうになってちょっと後悔してます(笑)。
──誰も文句言わないと思うけど(笑)。
アイナ : 「はぁ?」とか言われたら怖いなと思って(笑)。「遂に死」の振り付けではいろんなカップルの形を提示していて。どれだけ非難されても愛し合ってるカップルがモモコとリンリン。ちょっと非難されたときに怯んでしまって2人の関係がギクシャクしてきたっていうのがアユニとアイナ。非難されすぎて薬中になって病んで頭おかしくなってるのがハシヤスメとチッチ。男女のペア・ダンスみたいにして、曲中ずっと2人組で動いてるんです。「遂に死」はライヴ中にファンの人が振り付けを真似してめっちゃ楽しそうにお化けのポーズしてるんですけど、全然曲とリンクしてなくて、その空気がめっちゃ面白くて可愛くてテンションが上がります。
自信を持って良いと言えるPV
──振り付けはもう全部できました?
アイナ : できてないです。焦る〜!「O・S」はリンリンが漫画の「シャーマンキング」を読んで、もし自分がシャーマンキングだったらって気持ちで書いたらしくて。それがめちゃくちゃ面白くて、振り付けするために今リンリンにシャーマンキングを借りて読んでるんですよ。最初「O・S」の振り付けは私の友達のダンサーにお願いしようってメンバーに提案したんです。そしたらリンリンに「アイナ象に振り付けて欲しい。この曲はアイナ象に振り付けてもらった方がもっと好きになれると思ったから。でも忙しいのも分かるから、振付師に頼んでもいいけど、出来ればやってほしい」って言われて。そんなんやるしかなくなるやん! と思って(笑)。
──シャーマンキングを読むところから始めないといけなくなったんだ(笑)。
アイナ : リンリンに寄り添おうと思って。重いのに持ってきてくれて読んでます。
──全巻?
アイナ : 全32巻。しかもリンリン、シャーマンキングの話をするときちょっと楽しそうなんですよ。可愛い。もう読むしかないです(笑)。一人ひとつはメインの振りを作りたいと思っていて。チッチは「FiNALLY」で先陣きって風を切ってるみたいなイメージで作って、リンリンは「FREEZE DRY THE PASTS」、モモコは「まだ途中」、ハシヤスメは……まだで(笑)。
──そういえば今回はハシヤスメの歌詞がないのが不思議だなと思いました。
アイナ : そういう時期なんですかね。でも今〈LiFE is COMEDY TOUR〉でハシヤスメメインでやってるから充分ですよ(笑)。
──フィーチャーされまくってますもんね。
アイナ : ハシヤスメはやっぱりすごいですよ。昔だったら煽りとかも人に任せちゃう節があったんですけど、最近やりたいって言ってくれるし、インタヴューで「最近の目標は人任せにしないこと」って言っててすごいなって。いろんなプレッシャーと戦ってるんだと思ったし、ハシヤスメはすごい成長してると思います。
──アルバムで印象深い曲はありますか。
アイナ : アルバムのリード曲になってる「DiSTANCE」は、レコーディング前にひとりで仮歌を録ったんですけど、そのときに松隈さんが「女の子でこういう歌を歌ってる人いないよ、また売れる曲書いちゃったね」って冗談交じりで言ってて。曲もかっこいいし説得力があって、心からワクワクしました。BiSHの顔になるような曲だなって。PVを撮ってくれた大喜多(正毅)監督のこともすごく信頼していて、とことんBiSHと向き合って、全部を受け止めた上で今のBiSHは何を描けばいいかを考えてくれる。自信を持って良いと言えるPVも見てほしいですね。
前回の記事はこちら
LIVE INFORMATION
THAT is YOUTH!!!!FES curated by CENT CHiHiRO CHiTTiii
2019年7月16日(火)@Zepp Tokyo
時間 : Open 17:30 / Start 18:30
出演 : BiSH / eastern youth / GEZAN / リーガルリリー
チケット料金 :
1Fスタンディング 5,000円(税込)
2F指定席 6,000円(税込)
※18歳未満キャッシュバックあり(身分証提示で¥3,000キャッシュバック)
w.pia.jp/t/tiyf
And yet BiSH moves.
2019年9月23日(月・祝)@大阪城ホール
時間 : Open 17:00 / Start 18:00
チケット料金 :
S席 : 15,000円(税込)
A席 : 7,000円(税込)
B席 : 3,500円(税込)
一般発売日 8月17日(土)AM10:00~
LiFE is COMEDY TOUR
2019年7月2日(火)@東京 Zepp Tokyo ※SOLDOUT!!
2019年7月3日(水)@東京 Zepp Tokyo ※SOLDOUT!!
チケット一般発売中:https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=355687
PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。